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011 発見?新たな調味料

 翌朝、何時もの様に早起きをし、体力作りのためのランニングと素振り、型稽古を行う。野営時以外ではほぼ毎日の日課にしている。野営時はランニングが出来ない代わりに柔軟体操や筋トレなどをしていた。


 暫くするとシャルロットとリーゼロッテも鍛錬にやってくる。筋肉が付くほどしないが、体力作りは彼女たちも賛成の様でほぼ同じメニューを熟していた。


 半刻程してから、それぞれ自室に戻り身体を拭いて着替えてから朝食を食べに向かった。朝食は質素で黒パンに薄味の魚介スープ、サラダであった。他にも料理はあったが、これが一番安かったのでこれにしている。別に値段で決めたわけではなく、外の屋台で買い食いも考えて少なめのメニューを選んだのだ。


 午前中は、取り敢えず冒険者ギルドに行き何か依頼を受ける予定だ。午後からは、依頼内容によって異なるが、俺とシャルロットは昨日の調味料の話から少し何か自分たちで自作しようと思い図書館に調べに行く予定で、リーゼロッテはこの街の美味しいお店探しがしたいとの事で別行動になる。


 宿屋に荷物を置いていっても良いのだが、盗難にあう事もあるので、背負い(バックパック)と外套を魔法の袋に入れ、旅用の服装に着替え、装備を身に着ける。旅用の服と言ってもレオンハルトは、おしゃれな服を持っているわけではないので、いつも着まわしている服だが、女性陣はおしゃれな服を持っているので、其方ではない服装に着替えたと言う事だ。


 まあ、服自体が割と高いので、今の所古着かシャルロットが自ら作ってくれた服ぐらいしかない。お金に余裕があれば買いに行っても良いかもしれないと考えながら、二人を待つ。


 冒険者ギルドで(アイ)ランクで受けられる物を探し、街の近くに生えている薬草採取を選んだ。依頼書を受付に渡し、その時に冒険者カードも渡した。冒険者カードに依頼内容を転写させるようだ。物珍しく見ていたら、受付の女性にこれも古代聖遺物(アーティファクト)なのだと教えてもらった。出来る事は冒険者カードに書き込む事と読み取る事しかできないそうだ。この世界では非常にすごい技術だが、書き込む事と読み取る事しかできないのが、非常に残念な代物に感じる。パソコンの様な読み取る魔道具にスキャナーの様な書き込む魔道具、そのどちらも行うための冒険者カードを差し込む魔道具。


 本当に何だか勿体無い使い方だ。


 冒険者カードを受け取り、そのまま西の門へ向かう。門で冒険者カードを見せれば入場時に入場税がかからないので、気軽に街の外に出れる。


 四半刻程歩いたら、目的の薬草が生えた原っぱに出た。他にも初心者と思われる冒険者たちが数名グループを作り、同じく薬草採取や野草採取をしていた。他にもフェザーラビットを捕獲しようと追いかけまわしている者もいた。


 俺たちはその者たちの余り近くに寄らないように配慮し、薬草採取に勤しむ。一応、お互いの領域に入り奪い合いや喧嘩にならないようにするためだ。


 昨日貰った冊子の禁止事項にも書かれており、他の者が狙っていた獲物の横取りの禁止があった。


 暫く集めていたら、同じように薬草を集めていたグループに声を掛けられる。


「君たちも薬草採取の依頼かい?」


 同じ年ぐらいの少年だ。ただ、見た感じ冒険者と言うよりもほぼ丸腰の御遣いみたいな恰好をした少年たちだ。


「ええ。カミツレと言う薬草採取です。そちらも同じものですか?」


 少年たちに確認を取る。如何やら彼らは別の薬草採取に来ていたそうだ。俺たちが色々野草や薬草を採取しているのを見て、気になって声を掛けたそうだ。


 少し彼らと話をしたが、彼らも冒険者になってまだ十日ほどしかたっておらず、薬草や野草についてあまり知らない様子だった。リーダーらしき少年がティモ、後ろに隠れている少女がエルナ、少し頼りなさそうな少年アルミン、この中で一番しっかりしていそうな少女オティーリエの四人構成だ。


 ティモとオティーリエが、俺たちよりも一つ上の十一歳。エルナとアルミンが同じ十歳になるそうで、しかもティモとエルナは実の兄妹との事だ。


 更に先程フェザーラビットを追いかけまわしていた三人も知っているとの事で何故か名前を教えてくれた。元気な金髪少年カイ、同じく元気な赤髪の少年ライ、小柄だが三人の中で一番走っている少女テアと言うらしい。と言うかまだ追いかけている。


 俺たちも一応自己紹介をしておいた。


「僕より下なのに詳しんだね。しかも三人とも冒険者って感じがする装備もつけてるし、カッコいいな」


 寧ろ、街の外に出て革鎧とゴブリンが持っていそうな剣はどうかと思うと内心思ってしまったが、ひょっとしたら新人は大体こんな装備なのか?


 情報交換?と言うよりは此方が一方的に教えている方が多いが、それでも新人同士と言う事で仲良くなった。俺とシャルロットからすれば、子供の御守みたいな感じだろう。何せ精神年齢はアラフォーに差し掛かっているのだから。


 籠いっぱいに集めた頃、結局捕まえられずヘトヘトになった三人も此方に合流してきた。此方はティモに名前を聞いて知っているが、そんな事実彼らは知らない。お互いに自己紹介を行い。肩掛け鞄から革製の水筒を渡す。


「おおーありがとー。飲み物忘れてどうしようかと思っていたんだよ」


 カイと言う金髪少年は、阿保なのだろう。ライとテアと言う二人も同様だ。何の準備もせずに来る当たり危機感が足りないように思う。これなら孤児院の子供たちの方が何倍も優秀だ。


 ライが物珍しそうに刀を見ていた。


「ん?これか?刀って言う武器だ。交易都市イリードのお店で売っているぞ。ナルキーソでは見た事がないから分からないけど」


 恐らくまだそこまで普及していない。イリードで多少有名になったが、値段が高く。今まで剣を使っていた人間からすれば少し難しいらしい。けれど、美しい刀身に目を奪われた貴族たちが自慢するために買ったり飾り用に買ったりしているらしい。いずれ普及するだろうとは思う。


「それがあったら、あれも簡単に捕まえられるか?」


 ライが言いたいことは、フェザーラビットを捕まえるのに手持ちの剣や木の盾では捕まえられず、テアの持つショートスピアでも捕まえられない。刀があれば捕まえる事が出来るかと言う事なのだろう。答えは否。武器を変えたぐらいでは捕まえられない。仮に弓にしても結局まぐれ当たりでもしない限りは動いている的に当てる事は出来ない。そもそもまともに飛ぶかどうかも怪しい。


 取りあえず、単純に追いかけるだけでは捕まえられない事を教えておく。


 三人いるのだから一方向からではなく三方向から攻めるとか、罠を仕掛けるとかすればすぐに捕まえる事が出来ると教えておく。


 そこから昼近くまで何故か七人の指導をすることになった。全員を一人で見るには面倒だったので、狩りの知識と武器の使い方の指導に俺が、薬草や野草の見分け方や効能などをシャルロットが指導する形になった。リーゼロッテには、薬草や野草の採取と獣を適当に捕ってきてもらう事にした。


 狩り組は、ティモ、アルミン、カイ、ライの少年たちで、薬草組はオティーリエ、エルナ、テアの少女たちだ。


「まずは武器の使い方から教える。まずは・・・・」


 持ち方、振り方、姿勢などを教える。僅かな時間しかないので戦い方は自分たちで自己学習をしてもらうが、最低この位は覚えておいてほしい。その後に簡単な罠の張り方を教える。草同士を結んでひっかける単純な物や小さな落とし穴の作り方まで教えておいた。大きい落とし穴でも良かったが時間の問題と多用しすぎると他の者に迷惑になると考え、小さな段を作る程度の物にしておいた。これだけでも人や動物はバランスを崩しやすくなるのだ。


 それから、実際に罠を作りそこへフェザーラビットを追い込んでバランスが崩れた所で、持っていた剣を突き刺す。


 これを繰り返し合計七羽のフェザーラビットを捕まえた。


 これにはライとカイが大喜びしていた。最後に血抜きの方法も教えておいた。これをしなければ、肉が硬く臭くなり品質が落ちてしまうからだ。


 太陽が真上に来る頃に、俺たちはティモたち新人組と分かれ街に戻った。彼らは教えてもらった事をもう少し覚えるため、残るそうだ。


 街についてからは、冒険者ギルドへ薬草採取の報告をし、昼食を食べてからそれぞれ別行動をした。


 リーゼロッテが街で買い物をしている頃、俺とシャルロットが図書館で調べ事を始めた。


 まずは、食材などが載っている本、各地域の特産品、魔物の生態などを調べる事にしたが、結果本がありすぎてすべてを調べる事が出来ないと判断。手ごろな本をニ、三冊選んで読みふける。


 醤油や味噌と言った名前の特産品は見つからなかったが、大豆に似た植物がある事はわかった。しかも此処ナルキーソと王都アルデレートの中間地点にある森の一角に。時期的にまだ収穫できないと思うが一応場所だけは覚えておく。


「これってニンニクかな?本に書いてあった名前がガーリックパウダーって書いてあるんだけれど」 


 シャルロットの見つけた本を二人で眺める。名前とは裏腹に花の絵が描いてあり、説明文もあったので目を通す。


 そこには、商業都市オルキデオの北西にある山脈の崖に生える花で、その花の花粉がガーリックパウダーと言う調味料になるのだそうだ。花の名前もガーリックフラワーとついていたから、球根みたいなのがニンニクになりそうと思ったが、普通に根が生えているだけの様だ。


 花の方も特に何かになるわけではなく、本当に花粉しか役に立たないそうだ。まあ花粉がニンニクでまだ良かったのかもしれない。これが胡椒の類だったら、その花一帯はくしゃみが止まらないだろうと変な想像をしてしまった。


 まあ胡椒はすでに孤児院の時に見つけているから、被る可能性は少ないと思う。


 それにしてもオルキデオと言えば、ユリアーヌたちが拠点にしている名前の街だったはずだ。このあたりで売っていないのであれば、行ってみても良いかもしれない。


 取りあえず花粉と言う事は収穫期があるはず、本の続きを読んでみると、時期は少し前に終わった様だが、時期中にたくさん入荷をするようで、それを各地に卸されると書かれていた。


 であれば、この街にもひょっとしたらある可能性がわかり、此処に持ってきた本も一通り目を通し、目ぼしい物が見つけられなかったので市場へ行くことにした。


 ニンニクが手に入れば、手元にあるペパリと合わせれば、かなり良い調味料が手に入る。


 ぺパリは、孤児院の時代に見つけた調味料の元で、ペパリの実を砕けば中から胡椒が出てくるのだ。アンネローゼにこの実は刺激が強くてくしゃみが止まらなくなるから、目くらましの為に相手に投げて使うと教えられたが、それを聞いて思い当たる物があったのだ。


 ホオズキの様な花の中にある種、これを実際砕いて中の粉を舐めてみた。強い刺激が舌を電気の様に走ったが、舐めてみて確信した。これは間違いなく胡椒だと。ちょっと前世の物より刺激が強いが。


 アンネローゼからは、単体では食べれず、刺激が強い物には毒性があると疑われていたため、皆手を出していなかったのだとか。遠慮なくたくさん摘んでおいたので、魔法の袋には十分ストックがあるのだ。


 ニンニクと胡椒があれば、ガーリックペッパーが完成する。これを振り掛け肉を焼けば美味しい物が出来上がるに違いない。


 ガーリックパウダーなる物を求め市場の中を探し回る二人。










 一方、リーゼロッテは中央地区でウインドショッピングをしていた。しかし、普段であれば楽しいはずが、今は少し浮かない表情をしている。


 今日も三人で色々なお店を見て回りたかったが、何故か二人とも昨日の食事の不満について話し合い始め、何故か調味料探しをすることになった。私もそれに同伴すればよかったのだが、何故か同伴するのを拒んでしまった。


 昔からあの二人の会話に時々ついていけない事がある。悪い意味ではなく、ただ単純に話の内容が難しいのだ。これは自分の母親でもあるアンネローゼも似た様な事を言っていた。あの二人の考え方は、大人の私たち以上だと。


 親は違うけれど、同じ孤児院で同じ様に生活をしてきたのに、二人だけが先に行ってしまう。どうしても自分ひとり焦ってしまうのだ。


 恐らく二人は、天才と呼ばれる人たちと同じ領域にいるのではないか?幼い頃からの無二の親友シャルロット。シャルロットの良き友人レオンハルト。時々二人で何かをしている事もあり、それは気にも留めていなかったのだが、孤児院を出てから初めてこの様な気持ちを強く感じてしまった。


 そんな気持ちで一つのお店を見つけた。特に買う物はないが、商品を見たりして少し心を落ち着けようと考えお店の扉に手を掛けようとすると、不意にその扉が開きバランスを崩す。


 お店の入口で転びそうになるところを、お店から出てくる人に支えられて、転ばずに済んだ。


「これは申し訳ございません」


 白髪の老齢の男性が丁寧な口調で謝罪をしてくる。他の事を考えていた自分にも非があるので、此方も同じように謝罪する。


 目の前の老齢の男性は、執事服を身にまとっているので、何処かの貴族に使えている者だとすぐには理解できなかった。リーゼロッテにはこれまでそう言った接点がないから知らず、執事服を清潔な服と思った程度だ。


「アルノルト何をしているの?」


 男性の背後から女性の声が聞こえる。この女性も高そうな服装に簡単な装飾品を身に着けていたが、前の男性より身分が高そうと言う事だけは理解できた。


「あら?貴方浮かない顔をしてどうしたの?」


 成人して少し経ったぐらいの年齢の長身の女性。薄い青色の長い真っ直ぐな髪は、とてもサラサラしており、自分の母親とは違う別の意味で綺麗な方だと思ってしまった。


 見知らぬ人に声を掛けられ、浮かない顔を否定するも、綺麗なお姉さんはそんな言葉を信じなかった。いや、否定していた。


 仕方なしに旅の仲間の事で少し劣等感を感じた事を掻い摘んで伝えた。


「そっか・・・・なら、気分転換に少しお茶しない?」


 彼女の言葉に戸惑いを覚える。しかし、悪意は感じられない。


 しかし、少し表情が落ち込んでいたぐらいで、お茶に誘う物なのだろうか?そんな事をしていれば常に誰か数人とお茶をしていなければならないのだろう。ではなぜ自分なのか不思議でならない。


 目的がわからない以上、無暗について行くのは危険だ。街にいる同じ年頃の判断できそうにない・・・・例えば、午前中に知り合ったテオ少女みたいな子ならついて行くかもしれないが。そのあたりの教養も母親からしっかり教わっている。


 丁重にその申し出を断る。


「そんなに怖い顔をしなくてもいいわ。まあ見ず知らずの人について行こうとしないだけ、まだ判断能力はあるみたいだしね。一応簡単に自己紹介をしておくわ。私はこの街の領主をしているヴェロニカと申す。何か疑って居るんであれば、街の人に聞いてみると良い」


 何やら試されたような感じがするが、身元が判明したので後はそれの確証を得るだけだ。その者に断りを入れて、丁度近くを歩いていた通行人数名に確認を取ってみる。


 通行人たちは皆同じように、ナルキーソの領主ヴェロニカ様だと口を揃えて言った。しかもその後に、その領主に挨拶に行くぐらいだ。街の人に慕われているのだと思えた。


 身元がはっきりし、害もなさそう・・・・あるとすれば貴族と言う立ち位置なのかもしれないが、流石にそこまで判断が出来ないリーゼロッテ。


 向こうも余り強引には来ないが、退く気は余りなさそうに思えたので、少しだけならと言う条件で一緒にお茶をすることにした。


 アルノルトと呼ばれる執事が挨拶をしに来た後、アルノルトからヴェロニカにこの辺りの飲食店を教えていた。


 目的の場所も決まったことで、歩いてすぐの所にある様なので、そのまま徒歩で向かう。


 その際中にも街の人から声を掛けられたり挨拶されたりしているので、人柄が良いのだと思えた。


 お店の看板には、ポラリスと書かれており、兎の様な絵と木のコップが描かれていた。


 アルノルトがお店の戸を開け、ヴェロニカが入ると自分もその後に続く。


「いらっしゃいませ。あっ!!ヴェロニカ様。今日はどうされたんですか?」


 店員らしい女性が対応してくれたが、彼女を見て少し動揺していた。まあお店の外観からも思ったが、このお店は如何やら庶民向けのお店らしい。そんなお店に貴族が入ってくれば動揺も起こるものだ。


 最初に対応した店員に説明し、席へ誘導してもらう。


 メニューの書かれた板を見て、紅茶を頼むことにした。彼女も同様の紅茶を頼んでいた。


「さて、きちんと自己紹介をしておこうか。先程も述べたが、私はこの街で領主をしているヴェロニカ・イーグレット・フォン・ヴァイデンライヒと言う。貴族階級は子爵家になる。気軽にヴェロニカと呼んでほしい」


「わかりましたヴェロニカ様。自分は、リーゼロッテと言います。まだなり立てですが、冒険者として活動させてもらっています」


 こんな感じで良いのだろうか?先日の事もあり、レオンハルトとシャルロットが、貴族にあった際の挨拶の仕方を教えられていたので、その時お手本で見せてくれたレオンハルトの様に振舞った。


 感心するように頷き、博識もあると褒められたが、そこは旅の仲間でもある親友や友人に教わったと素直に答えた。


 そんなやり取りをしていると、店員が紅茶を持ってきた。それとは別に小さな器に入ったパンの様な物を彼女と私の前に置く。私は注文した記憶がないのでそれを言おうとしたが、どうやら彼女が注文したらしい。


「どうぞ召し上がれ、何お代は私が持つから気にしなくていいよ」


 そう言って、先に紅茶を飲まれる。それにしてもこのパンの様な物は何なのだろうか?前レオンハルトが作ったパンケーキによく似ているが、それよりもふっくらしているように思う。不思議そうに眺めていたリーゼロッテを見て、ヴェロニカが口を開く。


「これはね。このお店自慢のカップケーキと言うやつさ。甘くてとっても美味しいからぜひ食べてみてくれ」


 目の前にあるカップケーキを見る。焼きたてなのか仄かに香る甘いそれは、見ただけで美味しいと想像できてしまう物だった。


 最初の一口でその凄さを実感する。パンケーキとはまた違ったふんわり感にやや生地の重みを感じ、口の中に仄かに香る紅茶の風味がより際立つように広がった。


 暫くはそのカップケーキに夢中になっていたが、不意に顔を上げるとヴェロニカがこちらを見ている事に気が付く。


「そう言えば、どうして自分に此処までの事をしてくれるのですか?」  


 さり気無く聞こうかとも考えたが、彼女の方がこう言った駆け引きは得意のはずだ。そんな彼女の土俵で挑んでも返り討ちに合うのが関の山だ。はぐらかされる可能性もある位なら真っ直ぐ聞いた方が、よりはっきりするかもしれないと考えての言葉だった。


 ヴェロニカは、余りにもストレートに聞いてくるリーゼロッテに呆気に取られてしまったが、すぐさま表情を元に戻し、その答えを言う。


「一つは貴方に興味があったから、と言ってもあの時初めて会ったのだけれど、貴方ぐらいの子供にしては、しっかりした眼をしていたからかな?表情は少し落ち込んでいたけれど・・・二つ目としては、父上からの教えでしょうね。領主は領民と共にあってこそ領主なのだとね」


 そこまでいると、手に持つ紅茶を一口飲む。


「だから、領民が困っているのであれば手を貸してあげたいと思ったの」


 その言葉を聞いてからか、彼女は信用できるのではと思い。そのまま話を続ける。冒険者になる前の旅やこの街での事、三人の仲の良さ等話をしていった。


 話の中には、午前中の出来事もあり、その時は少し考え事をするように彼女は聞いていた。


 それとは別に食事についても偉く興味を持っていた。パンケーキ等の料理やマヨネーズ等の調味料にも。


 如何やら彼女の世代になってから食事の改革が本格的に行われるようになったらしい。それまでは交易都市イリードやレカンテート村と差ほど変わらない状況だったようだ。扱う物が肉か魚かの違い位で、魚をただ焼くだけか、汁物に入れるかしかしていなかったそうだ。


 だから、レオンハルトたちの様な料理開発をしている者に興味を持ったようだ。


 何故か料理を熱く語る彼女を見ていたら外に見知った人物が市場の方へ走っている姿が見えた。


「あっ!!」


「ただ焼くので、ん?どうかしたのか?」


 ヴェロニカは自分の後ろに何かあるのかと振り向くがいつもの様に人が往来しているぐらいだ。良く分からない為、もう一度彼女に尋ねると先程話していた仲間が市場の方へ走り去ったのだとか。


 執事のアルノルトに会計を任せ、走り去った方へ追いかける事にした。











 その頃・・・・。


「その角を曲がった先にあるお店だったよな」


 ガーリックパウダーが人気かどうかはわからないが、売り切れてしまっては困る。折角売っているお店を教えてもらえたのだから、確実に手に入れておきたいと言う一心で、市場を颯爽と走り抜けていった。


 教えてもらった店の名前と目の前のお店の名前が一致。若干調味料とか売っている感じのお店に見えないが、取り敢えず入ってみる事にする。


 外観からも分かったが、食品店と言うよりも薬品店と言った感じに近いお店だった。肉類や野菜類などの代わりに水薬(ポーション)や何かの骨、前世の干し柿の様に吊るされたトカゲの丸焼き、色取り取りの砂の様な粉。薬品店と言うか不気味な魔女のお店の様な品ぞろえだった。


 流石に入るお店を間違えたかなと思ったその時、お店のカウンターの奥にある戸棚にガーリックパウダーと書かれた瓶を見つける。


 食べ物として使うのではなく何かの素材に使うのかもしれない。


 お店の人らしきお婆さんに声をかける。


「すみません、あそこの棚にあるのってガーリックパウダーで間違えないですか?」


 現物は見た事がなく、本の絵しか知らない為、一応確認してみた。


「ああ、君らの言うガーリックパウダーであっとるよ。一昨日入荷したばかりじゃが、まだ半分ほどしか売れとらんけー数はそこそこ残っておるぞ」


 一昨日で半分と言う事はそれなりに人気があるのだろう。在庫がどのくらいあるのかと、これはそもそも何に使用する物なのか尋ねてみた。前世と同じニンニクかちょっと自信がなくなったからである。


 名前が似ているだけで、食べ物でもないかもしれない。そんな予感がしてきた。


「数はニ十キロ程じゃが、君らこれの使い方を知らんのか?」


 お婆さん曰く、このガーリックパウダーは漢方として用いる事が多く。水薬(ポーション)作成時に少し手を加え、その中にガーリックパウダーを混ぜると体力の回復を促してくれる水薬(ポーション)が出来たり、大人の男性用の薬にもなると教えられた。


 漢方として使えると言う事は、普通に食べる事も出来るのだと安堵すると同時に、その使い道に若干困ってしまう。


 取りあえず、買ってみて思っているニンニクと違えば、体力回復促進水薬(スタミナポーション)を作ってみれば良いかと考え、金額を尋ねた。懐に余裕はあるが、恐ろしい金額だと少し躊躇ってしまうからだ。


「一キロ、五百五十ユルドじゃ」


(えっ?めっちゃ高っ!!)


 これは予想以上に高い。調味料の中ではかなり高価な分類に入る砂糖ですら一キロあたり三百ユルド前後だ。それの倍近くする値段に正直驚きを隠せない。何せ日本円で言えば一キロ、五千五百円もするのだ。そんなニンニク聞いた事がない。基本的にハーブ類や塩などの庶民でも比較的使用されている物が、一キロあたり三十ユルド前後なのだから、その値段の高さを理解できるだろう。


 買えない事もないが、悩む。不意に別の戸棚を見てみると体力回復促進水薬(スタミナポーション)が売られていた。その値札を見ると六百ユルドと書かれている。どれだけの量と他に何の素材がいるのか不明ではあるが、最悪其方に回して店売りしても問題ないだろうと考え、ニ十キロすべて購入する事にした。


 これには、シャルロットも驚きを隠せない様子だったが、後で説明すると言ってこの場を任せてもらう事にする。


 支払いの為、一万千ユルド・・・大銀貨一枚と銀貨一枚を渡す。日本円にして十一万円相当のニンニクと言う事だろう。


 流石にニ十キロ分を分に入れるわけにもいかないので、樽の中に入れてもらう事にした。樽だと隙間から粉漏れする恐れも考えたが、水なども入れて運ぶことが多い此方の世界の樽は、隙間なく丁寧に作られた物が多い。


 丈夫な樽も料金に上乗せする事になったが、そこまでは高い物ではない。


 宿屋まで届けるかどうか尋ねられたが、魔法(マジック)(バック)と見せてそこに入れるふりをして、魔法の袋の方に入れておいた。


 少し気味の悪い品も置いていたが、変わった物を仕入れる時はこの場所に来ると良さそうだと考えながら、店を出る。


 何故か店の外の道を不審な動きで歩くリーゼロッテと一緒に行動をしている見知らぬ女性がいた。


「あれ?リーゼちゃん、どうしたの?」


 シャルロットが、リーゼロッテに声をかけると漸く居場所を突き止めたと言わんばかりに此方へ走って来る。


「何か探していたのか?それに・・・・」


 俺はリーゼロッテに訪ねながら、女性へと視線を向ける。服装や仕草から裕福な者か貴族当たりの人間だろうと推測する。リーゼロッテは、確か美味しい店を探しに中央地区を散策していたはずが、どうして東地区まで来ているのか?どうして身分の高そうな人と一緒にいるのか。分からなかったが、一つ言えるのは厄介ごとに巻き込まれた可能性があると言う推測だ。


 もし厄介ごとにリーゼロッテが巻き込まれてしまったなら、仲間として助けなくてはいけない。


 まずは、状況を確認するために、彼女に自己紹介をする。


「自分は、レオンハルトと申します。失礼ですが、うちのリーゼロッテが何か粗相でも致しましたか?」


 女性は、彼の対応に何かを感じ取ったのか、突然笑い始めた。


「いや、すまない。リーゼロッテ殿も初めは偉く警戒していたから、同じように対応されて少し面白かったのだ。許してくれ」


 やはり、話し方からすると貴族の方なのだろう。


 そうして、警戒を続けていると、女性はそのまま話の続きを始める。


「私はこの街で領主をしているヴェロニカ・イーグリット・フォン・ヴァイデンライヒと言う。そこまで警戒しなくても何もしないから安心してくれ」


 レオンハルトは、尽かさずリーゼロッテの方を向く。ヴァイデンライヒと言う名前に心当たりもあった。初めて交易都市イリードに行く時馬車に乗せてくれた商人がヴァイデンライヒ子爵に雇われた商人だったからだ。自己紹介では、子爵だとは名乗らなかったが、恐らくこの推測は間違っていないと考える。


 貴族と言う事は、何かしら面倒事に巻き込まれている可能性が強まったが、彼女はそれに気が付き大丈夫だと言うかのように首を縦に振った。


 リーゼロッテが多少なりと信頼しているのであれば、そこまで警戒しなくても良いかと判断し、威圧を辞める。


 急にその場の空気が軽くなったのを感じたのか、後ろに控えていたシャルロットが今度は口を開いた。


「お初にお目にかかりますヴァイデンライヒ様。私はシャルロットと申します。以後お見知りおきを」


 ワンピースの裾を少し持ち上げて丁寧な挨拶をした。


「それで、リーゼロッテが何か致しましたのでしょうか?」


 結局のところ、彼女は何故リーゼロッテと一緒にいるのかわからない。それがわかるまでは威圧を解いた所で警戒がまったくなくなったわけではない。


「リーゼロッテ殿が粗相をしたとかは全くないよ。偶々お店の入口で鉢合わせて、私自身が興味を持ち少し一緒にお茶をしたぐらいだからね」


 そのまま話を聞けば、お茶の時に料理について話す機会があり、今現在このナルキーソで新たな料理を開発していると言う。そんな時に俺とシャルロットの話を聞き、料理の腕と才能を見たくなって、丁度お店の前を通り過ぎたのが見えたから追ってきたのだそうだ。


 この街で色々食べてみてどれも美味しいと思ったが、それらは開発の結果良くなったようで、まだまだ改良したい事はたくさんあるそうだ。


 実際、お茶した所のカップケーキが美味しかったとリーゼロッテから教わり、本当に食へ拘っているのだと思える。


 それにしても、カップケーキがあるのか。それは是非食べてみたい。案の定シャルロットに関しては、小言でカップケーキ、カップケーキと呟いている所を見ると女の人は甘い物に目がないのだなっと思う。


 それで、急いで何をしていたのかヴェロニカに尋ねられ、先程購入したガーリックパウダーについて話をする。


 食材じゃないと残念そうにしていたが、料理に使う事を伝えると驚かれた。


 やはり、このお店のお婆さんも言っていたように、基本ガーリックパウダーは調薬の材料として考えられているのだろう。一応、試作してみて駄目だったら調薬の材料として使うと伝えておく。


「なるほど、食材の料理方法や組み合わせだけではなくて、薬の材料等も使用してみる・・・・・実に良い発想だ」


 何だろう?最初の口調より段々砕けてきたと言うか、少し男勝りな口調になってきたと感じるレオンハルト。リーゼロッテは、当初より口調がだいぶ違う事にこれが素の状態なのかなとやや呆れ気味になっていた。


 同じ貴族でもエルフィーたちと偉く態度が違っていた。


「レオンハルト殿にシャルロット殿、リーゼロッテ殿も良ければ今晩一緒に食事でもどうだ?そのあたりの話も是非聞いてみたい」


 リーゼロッテが警戒しないのも何となくわかった気がする。彼女はきっと食への探求心が強いのだ。そして同時に悪い人には見えないと言うより見るほうが難しいと表現するべきであろう。


 しかし、折角のお誘いだが、レオンハルトはそれを断る。


 貴族からのお誘いを無碍にすると難癖付けてこられるかもしれないが、彼女はそうしない事を些細な時間で分かったから、敢えて断る。


 レオンハルトは、早くガーリックパウダーを使った試作品を作りたくて仕方がないからだ。


「それは、先の買い物を使って料理を作るためか?」


 ヴェロニカの問いに肯定する。すると、今度はその試食品を食べてみたいと言い出した。


 実際、料理に使えるか分からない物を領主が口にする。うまく行けば良いが、失敗した時が非常に怖い。如何にか此処を切り抜ける案がないかシャルロットと相談していると、急に背後に人の気配を感じた。


 慌てて、刀に手を掛けようしたが、其れよりも先にヴェロニカが口を開いた。


「アルノルトそこの者たちが、リーゼロッテ殿の仲間のレオンハルト殿とシャルロット殿だ。レオンハルト殿にシャルロット殿、其方が私の家に仕える執事のアルノルトだ」


 執事服を着た白髪の老齢の男性が、先に自己紹介をしてきたので、此方もそれに続き挨拶をする。


(このお爺さん只者じゃないな。これだけ近くに来られないと察知できなかったぞ)


 不意に現れたアルノルトの隠密の高さに感心するレオンハルト。


「レオンハルト様少々よろしいでしょうか?御当主様は、存じ上げる通り食への探求心が強いお方でして、もし宜しければ御当主様の願い聞き入れて頂けないでしょうか」


 小声で話すアルノルトに、同じく小声で失敗する可能性もある事を伝える。


「それでしたら、試作品と別の何かを御造りになられて、失敗した際は此方で既に準備に取り掛かっている料理をお出しすると言う事で如何でしょう」


(なるほど、試作品ともう一品作り、試作品に問題がなければ、それを出す。問題があった時は、料理人たちが作った料理を代わりに出すと言う事か、それならば場所も借りられそうだし問題ないかな)


 取りあえず、シャルロットとアルノルトの話し合いの結果、料理を作ることを承諾する。


 それを聞きリーゼロッテと話をしていたヴェロニカが子供の様に喜びを(あらわ)にする。


 その後、市場で他の材料も仕入れる事になり、良さそうな物を買っていく。もやしみたいな物や何かの腸詰、主に野菜の類をメインに買い込む。今日使う材料はシャルロットがアルノルトと一緒に買いまわっていたので、今買っているのは自分たちで使用する分だ。


 別々にしている理由は、今日使う材料は、領主持ちで買っているからだ。流石に此方の分も一緒に払ってもらうのはお門違いだろう。最初はそれも支払おうとしたので、慌てて別行動にしたのだ。


 ちなみに今は、リーゼロッテと二人きり。ヴェロニカが此方にいるとまた支払いの事で大変になりそうなので、シャルロットに悪いが其方と行動している。まあ優秀な執事もいるから大丈夫であろう。


 それとは別に、リーゼロッテの機嫌が珍しいぐらい良いが、それが何故かはレオンハルトには良くわからなかった。


 買い物が終わり皆揃って領主の屋敷ヴァイデンライヒ子爵邸へ向けて歩く。屋敷は中央地区の北側に位置しており、中央地区と言っても北地区よりにあるとかで、メイン通りを進んで暫くするとそれらしい塀と門が見えてきた。


 門にいた兵士に軽く会釈して敷地内に入り、アルノルトに先導してもらいながら屋敷の厨房へとお邪魔をする。


 アルノルトは、この屋敷の執事長と言う立ち場の人の様で、厨房にいた一人の料理人が慌てて料理長を呼びに行っていた。


 料理長へ事のあらましを説明したアルノルトは、俺たちを料理長に託し、一旦業務に戻るとの事で厨房を後にした。


 料理長の指示で厨房の一角をお借りし、物の位置やその他必要な材料があればすぐに対応できるよう助手を一人付けてくれた。


 材料は、既に買い込んでいたが、念のため他に何を保管しているのか知るため、助手と共に保管室へ足を運ぶ。


 幾つか使えそうな食材と料理酒に使用する用の赤ワインを見つけたので、それらを持って戻る。


 リーゼロッテに食材を洗ってもらっている間に、シャルロットはツインテールウルフの肉の塊を一定の大きさに切る。俺も先程買ったガーリックパウダーとペパリを配合し、軽く塩などで微調整する。


「野菜洗い終わったわよ。こっちの野菜たちは皮を剥けばいいのよね。これはどうするの?」


 皮剥きは、孤児院の時からしているから問題ないだろう。なので、切り方だけ教えておく。


 人参に似た黄色い野菜は、拍子木状に切り、面取りをする。ジャガイモに似たやや甘い根菜は、サイコロ状に切るようにする。後は少し手間だがもやしに似た野菜の髭部分を取る作業だ。


 そうしている間に、シャルロットが肉に切り込みを入れ、柔らかくするために臭みを消すため細かく刻んだハーブと柔らかくするための蜂蜜を塗る。


 助手の人に少し深い鍋を持ってきてもらい。俺は植物性の油をその鍋に注ぎ込む。温めている間に、溶き卵と小麦粉、黒パンを粉状にしたパン粉を用意。


 すると、シャルロットから既に処理を終えたオーク肉を受け取る。レオンハルトが作ろうとしているのは、オーク肉のカツだ。豚の魔物であるオークの肉なのできっと味も申し分ないはず。


 流れる様な連携に助手についてくれている料理人以外からも驚きの声が聞こえたが、それを気にせずに作業をする三人。


 取りあえず、料理長に味見をしてもらうように一つオークカツを揚げる。


 濃厚なソースを作る暇と材料がないので、代用品として熱したフライパンに赤ワインをベースに調味料等で味を調え、さっぱり系の柑橘の果汁を入れて完成させる。


「これを料理長に試食していただきたいのですが、呼んできていただけませんか?」


 助手にお願いすると、威勢の良い返事の後に急いで料理長の元へ走った。


 料理長が来るまでの間に、シャルロットに黄色い人参でグラッセを作るように言う。それと、ガーリックペッパーもどきを渡し、タイミングを見てツインテールウルフの肉も焼く様に言う。但し此方も試食用の数だけだ。


 そうこうしていると料理長がやってくる。何故か副料理長と呼ばれる人も一緒に連れてきていた。


 揚げたてのオークカツの余分な油を落とし、手ごろなサイズに切って、ソースをかけた物を渡す。


「これは・・・何という料理なのかね?」


「オーク肉を使った豚カツです」


 一応、試食品が失敗した時は此方を提供するつもりだと言う事を伝える。


 料理長と副料理長、助手についてくれた料理人が順番に食べる。


「ん――――――っ!!なんですかこれっ!!すごく美味しいですっ」


 第一声は助手の料理人だ。その後に彼ほどテンションは高くないものの料理長と副料理長も絶賛していた。


 問題なさそうだと判断して、次の作業に移ろうとしたところ、料理長からのまさかのストップがかかった。


 何でも豚カツの作り方を教えてほしいとの事だったが、次の料理の作業をしたいので一段落付いたら教える事にした。


 すると、そこに今度はシャルロットの方から香ばしい匂いが漂い始めた。その匂いが気になるのか、料理長と副料理長がそちらの方へ移動を開始した。


 俺もその後に続き、彼女の手元を見る。事前にすり込ませたのであろうガーリックペッパーの食欲をそそる匂いが良い感じに仕事をしていた。すぐに先程使っていた赤ワインをシャルロットに渡す。


 それを受け取り、フライパンの中に投入した。


 流石に生焼けは、衛生的に良くないだろうと考え、しっかり火が通ったウルフステーキをまな板の上に置く。それを試食できるようサイコロ状に切り、まずはレオンハルトとシャルロットが試食。


 食べた感じ、非常に美味しい出来に感動するが、体に異常がないか確認する。互いに問題がない事を確かめた後は、リーゼロッテ、料理長、副料理長、助手の料理人に試食してもらう。


「前食べた物よりすごく美味しくなった」


 リーゼロッテは、普通に驚く。まあ彼女はガーリックパウダー抜きの状態で食べた事があるからこんなものだろうと想像がつく。しかし、他の三人に至っては・・・。


「調理長に副料理長何か感想言ってくださいよ。おい、エトヴィンお前も何か言えよっ!!みんな黙っていると気になるだろう」


 試食していない料理人たちから感想を求められるが、それでも口を開かない三人。と言うか助手の名前エトヴィンと言うのか・・・。


 あんまり黙って居られると此方も味がどうだったか気になるので、感想を聞いてみた。


「ああ、今までに食べて事がない旨さだった」


「ええ、料理長の言う通り。美味しさのあまり感想すら忘れてしまったよ」


「自分は、自分は今とても幸せです」


 三人とも美味しかったのだろうけど、最後のエトヴィンの感想はちょっと微妙な気がする。


 他の料理人がすごく羨ましそうに見ていたので、残りのサイコロステーキを皆に食べてもらう。


 一時、厨房の機能がストップしてしまい。夕食を取りに来たメイドによって慌てて料理を再開した。料理長の指示で、ウルフステーキに付け合わせの人参のグラッセとサイコロポテトとオークの豚カツオリジナルソース掛け、もやしと菜っ葉のシャキシャキサラダの三品を出す事になった。


 もやしも付け合わせにしようかと考えたが、料理長たちが作る料理にサラダ系が少なかったので急遽変更したのだ。


 普段より少し遅れてしまった様だが、彼女は特に気にした様子は見られなかった。


 食堂へ着くと俺たちの席も用意されていたので、そのまま席に座る。椅子の近くまで行くとメイドが椅子を引いてくれたり、飲み物を注いでくれて些か落ち着かなかった。


 食事が次々運ばれてくる中で、一番に気になったのは、豚カツとステーキだそうだ。豚カツはその見た目から、ステーキは食欲のそそる匂いでとの事で、早速みんなで食べる事にした。


 みんなと言っても屋敷の主であるヴェロニカとお客として招かれた俺たち三人だけだが。


 聞けば、ヴェロニカの父と母は、病ですでに他界しているそうで、兄弟は弟と妹がいるがどちらも王都にある貴族の通う学園にいるため、此方には長期休みの時にしか戻ってこないのだそうだ。現在は領主として働いているが、ゆくゆくは弟に領主を任せるつもりらしい。なので言わば領主代行をしているのだそうだ。


「まあ、今は私の事よりもこの料理よ。素晴らしいとしか言えぬ。これは本当に焼いただけなのか?」


 その答えを料理長が返事をしていた。


「はい。見ていた限りでは下味をつけて焼くだけでした。正直我々が焼いた物との差がありすぎて、どうすればこの様な味が表現できるのか分かりません」


 料理長たちもステーキを出したりするらしいが、基本、臭みを取るための強めのハーブで下味をつけ、焼くだけらしい。まあ確かにそれなら、美味しいとは言えないかもしれない。


 人参のグラッセを食べてみたが美味しくできていた。如何やらシャルロットに聞きながらリーゼロッテが作ったそうだ。これなら普通にお店に出しても繁盛できるだろう。まあ看板料理が人参のグラッセではそこまで客入りがない感じもするが。


 談笑しながら、結局たくさんあった料理がすべて空になってしまった所で、料理長一押しのデザート、紅茶のスポンジケーキが出てきた。ホールではなく八等分に切られた状態で。


 食してみた感想を言えば、美味しい。紅茶の風味と何かの果物の風味が口の中に広がる。何の風味だろうと考えているとシャルロットから、モースモだと教えてもらった。


(なるほど、果肉を混ぜるのではなく。果汁を使ったのであろう。スポンジケーキの生地の甘さは、砂糖を使わずに果汁の甘味だけで作っているから、少し紅茶の苦みが出ているのだな)


 食事、デザートと堪能した後は、シャルロットとリーゼロッテにこの場を任せ、俺は厨房へ料理を教えに行った。


 取りあえず、夕食のメニューに出した豚カツとステーキの下ごしらえのやり方、それとは別に幾つか簡単な料理も教えておく。と言っても折角油を熱しているので、唐揚げや天ぷら等を教えた。それと、折角海の幸が豊富なのでそれを生かせる料理も教えておいた。焼くと汁物と最近では包み焼の三つの料理法のほかに、揚げる、新鮮であれば刺身も良いかと考えたが寄生虫とかを考え、薄く切った魚を湯に潜らせあっさりしたソースで食べる。すり潰し他の具材も混ぜ団子状にする等だ。


 これだけ教えておけば、あとは各々で改良してくれるだろう。


 夜も遅くなったので、二人を呼んで宿屋に戻る事にした。


 帰り際にヴェロニカからまた作ってほしいと言われたので、機会があれば訪れる事を約束した。


 宿屋についてから、明日どうするか話し合い。結果、大量に仕入れた材料で料理に必要な物を作り置きするため、一日料理に没頭する事にした。


 料理人たちに頼まれ、持っていたマヨネーズの半分近くを渡してしまったので、マヨネーズ作り、魚介類の乾物や昆布などを使って魚介出汁作り、大量に仕入れたトマトでトマトピューレ作り、その他にも色々な料理の仕込みを済ませるなどで一日潰れるだろうと思いそれぞれ部屋に戻る。

一日には投稿しようと思っていたのですが、仕事に追われ帰宅したらそのままベッドINしたりして、思うように進みませんでした。

少しは落ち着いてきたので、4~5日ペースで執筆できると思いますが、どうかまた読んでくださると幸いです。

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