106 王立学園
おはよう。こんにちわ。こんばんは。
先週はすみませんでした。バタバタと慌ただしく、執筆に時間を割く事が出来ませんでした。
これからも毎週の投稿ではなく、時々飛ぶ週もあると思いますが、ご理解いただければと思います。
「果たして、失礼な行為をしているのはどちらですかね?」
懇切丁寧に自己紹介を行うとサンドロの顔色が真っ青になって行く。侯爵家と伯爵家では侯爵家の方が地位は高い。けどそれは当主同士の場合であって、サンドロの様な貴族当主の子は、あくまで貴族と言う立ち位置を持っているだけ。
侯爵家の者と伯爵家の当主では、当主の方が地位は上になるのだ。子が親に泣きつけば、侯爵家の当主が出張ってくる可能性はあるが、それは相手によりけりで売る相手が、幾ら格式が自分たちよりも低いとはいえ、自国の王族が認める人物を権力のみで圧を掛ける事などできない。それが分かれば今度は自分たちに要らぬ視線を集めてしまうのだ。
圧倒的な地位にいると勘違いをしていたサンドロは、取り巻きたちを残し逃げる様に立ち去る。取り巻きたちも慌ててその後を追った。
その日から暫くは、サンドロたちも此方にちょっかいをかけて来る事は無かった。
「君、ヨーナス君って言うんだよね?少し時間ある?」
俺は、お昼休みの時間に一人ぼっちでいる男子生徒に声を掛けた。算術の時に学生についての情報収集を行おうと考え、情報を提供してくれそうな人物・・・その彼に。
「えっ!?えええーっ!!」
大きな声で驚くヨーナス。まさか、自分が声をかけられるとは全く考えていなかったので余計に驚いてしまう。
「あ、あの・・はい。時間あります」
「そう?よかった。俺の事は好きに呼んで良いから。仲間たちはレオンって呼ぶ事が多いかな?」
「では、レオンさんと呼ばせてもらいます。自分は、ヨーナス・ラダ・フォン・ベーレンドルフ。ベーレンドルフ男爵の三男になります。皆からはヨナって呼ばれています。よろしくお願いします」
自己紹介を終えると、そのまま彼の緊張を解くために世間話をする。会話の内容は極ありきたりのもので、授業の事や学園の事、王都でのお店の情報などだ。彼は男爵家と言う事であまり裕福な生活はしていないそうで、彼自身も冒険者として活動しているらしい。
ただ、レオンハルトたちの様な高ランク冒険者ではなく。年相応の低ランクだそうだ。受ける依頼も争い事が苦手と言う事もあり街のお手伝いの依頼が主となっているそうだ。
「討伐依頼とか受けないとあまり収入にならないでしょ?」
「そうですね。ですが自分は戦闘が得意ではないので、お手伝いなどの依頼を受ける方が性に合っています」
二年近く冒険者として活動しているが、お手伝い関連の依頼ばかりなので、ランクは下から二番目のHランクのままだそうだ。流石に最初のIランクは抜け出せているらしい。IランクからHランクへの昇格条件は、一定数の依頼を完了させれば慣れるので、依頼の種類は何でも良い。
HランクからGランクへの昇格は、一定数の依頼と討伐依頼、採取依頼の完了もあったはず。
ずいぶん前の事なので忘れてしまったレオンハルトだが、彼が昇格を希望するなら少し手伝ってあげても良いと思った。けれど、彼は今のランクで良いと言う事なので深く追求しなかった。
他愛もない話から、次第に本題へと話を切り替えていく。
昼の休憩中だけでは時間的に厳しく。聞けたとしても一人か二人ぐらいのちょっとした情報しか入手できないため、クラスでのグループについて尋ねる。
個々について調べる前に集団・・・それこそ、クラスでのグループを知っておくことも大切な事。グループと言うよりも貴族の場合は派閥とでも言うべき集団だろうが。
このクラスでは、サンドロ率いるマルプルク侯爵の派閥とオスヴァルト・ディルク・フォン・メルツァー、メルツァー子爵家の嫡男が率いる派閥に分かれているそうだ。女子生徒は派閥こそないが、仲の良いグループに分かれていると教えてもらう。ただし、貴族と平民とではかなり溝があるとも言っていた。
女子グループについては、後回しにして先に男子生徒について確認していかなくてはいけない。自己紹介の際にかなりの人数の男子生徒がシャルロットやレーアたちにいやらしい視線を向けていたからだ。
危険分子は早めに摘んでおく必要がある。何をするかは想像にお任せするが・・・。
(まず手始めに、サンドロ率いるマルプルク侯爵の派閥からだろうか?サンドロは勿論、その取り巻きも要らぬ知恵を吹き込んでいたようだしな)
男子生徒五、六人について聞き出す事が出来たレオンハルトは、また一緒に話をしようと伝えて、席に戻ろうと歩き始める。
「あ、あの。レオンハルトさん。もしお時間がある様でしたら、放課後にご一緒していただけませんか?」
「え?君は?」
不意に声をかけられた為、足を止めて振り向く。茶系の髪色をツインテールにした少し大人しめの少女が立っている。クラスメイトなのは、最初の挨拶の時に一通り見て覚えており、彼女は前の方に座っていた人だ。だが、お互いに自己紹介をしたわけではないので彼女の名前をレオンハルトは知らなかった。
「すみません。自己紹介がまだでした。私はロイヒリン男爵が三女アデリナ・シャハ・フォン・ロイヒリンです」
初めて会う彼女に用事を尋ねると、彼女は以前魔族が王都を襲撃した際に襲撃地点の近くに居たそうだ。勇者コウジ・シノモリが王都を守ったと世間では言われているが、見ていた者たちは勇者だけではなく、騎士団長やレオンハルトの事も感謝をする対象となっている。だから、彼女も個人的にお礼が言いたいのだそうだ。
気にしなくても良いと言うが、彼女はそれでもと言うので、あの時共に居た仲間にも声をかけて残っておくと言うと笑顔で頭を下げていた。
彼女と別れた俺は、自分の席に戻る事が出来た。昼からの授業は選択した授業で、早速貴族科の授業だ。それも今日は午後の授業全て貴族科を受ける事になっている。
貴族としては、既に一年以上経過しているにも関わらずあまり詳しく知らないから、ありがたくはあるが正直、選択した科目の中で最も退屈な授業として認識していた。
「今の方は、何の用事でしたの?」
礼儀作法について講師の先生からレクチャーを受けている間際にレーアが声をかけてくる。今の方とは、アデリナの事だろう。その前にヨーナスとも話をしていたが、彼女の言葉から感じ取れたのは、アデリナの方だと言っていた。
「午後の授業が終わったら、時間が欲しいって呼ばれただけだよ」
レオンハルトは、呼び出しを受けた理由を把握しているから不思議に思わなかったが、レーアはそうではなかったようだ。発言を聞くなり少し焦った様な仕草をした。
「そそそ、それってッ!!」
おっほんッ。
講師から此方を見ながら咳払いをした事に、無言の注意を受けていると分かると二人は雑談を止めた。講師も王女殿下に強く注意が出来ないからこそ、今の様に遠回しの注意に留まったが、これが平民ならば言葉にしていたことは明白。
取り敢えず、そのまま授業を真面目に受ける。
「礼儀作法で重要なのは・・・・」
初歩的な事を教える講師にほとんどの学生はつまらなさそうに聞くが、雑談をすると先程の様に講師からの注意があるため、皆どのように退屈な時間を潰しているのか気になった。
何せ。本当につまらない授業内容だったのだ。
「だからして・・・・ん?もう時間の様だな。この後は実技による作法の練習だ。各自遅れない様に」
長い。本当に長い時間だった。この後の実技は、佇まいの練習だったり、美しい歩き方を練習するらしい。
座学に比べれば、ましかもしれないがそれでも退屈な内容だとは思ってしまう。
「あ、あの先程の話の続きですが、呼び出されたのは・・・・ひょっとして・・・・」
「ん?ああ、さっきの子は王都襲撃の折に助けた子の様でお礼が言いたいらしいです。俺以外にも仲間たちも同行するので、レーア様が思っている様な事ではないですよ」
これだけ周りに人がいる中で呼び捨てにするわけにも行かないので、様付けで呼ぶ。
レーア自身は不満そうな顔ではあるが、婚約発表をしていないのも事実なので、それは一旦置いておくことにし、レオンハルトが放課後残る理由が告白ではない事を知って、安堵する。
その後、放課後となりアデリナとの約束を守るため、シャルロットやティアナ、リリーだけでなく、他学年のユリアーヌたちにエルフィーたちも呼んで、皆で会いに行った。
アデリナも最初、これだけの面子が来るとは想像していなかったようで驚いていたが、あの時の事をとても感謝している為、必死でお礼の言葉と誠意を伝えてきただけだった。
後から発覚した事なのだが、アデリナは既に他家との婚姻を結んでいると言う事で、レーアが思っている様な起こるはずもなかったのであった。
「それにしても、すごく腰の低い人でしたわね?」
「仕方がないのでしょう。これだけの人数に加えてティアナさんやリリーさんみたいな上級貴族の令嬢に、レオンくんみたいな伯爵当主、王女殿下までご一緒していては、誰でも低くなりますよ?」
余談だが、シャルロットは未だに、ティアナの事をティアナさんと呼んでいる。当然、リリーの事もリリーさんと丁寧に呼ぶ。リーゼロッテたち幼馴染には愛称で呼ぶが、幼馴染以外はまだ愛称で呼んだりはしていなかった。ダーヴィトやエッダは年上と言う事もあり、愛称で呼ぶがさん付け。
リーゼロッテは逆に、ティアナの事をティアちゃんと呼んで、リリーの事をリリちゃんと呼んでいる。エルフィーの事はエルちゃんと呼んでいるので、とても社交的な性格をしている。彼女の持ち前の明るさがチームの雰囲気を良くしているので助かっている。
呼ばれ方に拘りのない孤児院組とダーヴィトやエッダ。それに対して身分と言う立場から呼ばれ慣れていない上、相手を呼ぶ時は丁寧な上級貴族の御令嬢たち。
ティアナにリリー、エルフィーは皆、様やさん付けで呼んでいる。
「まあ、あれだけの被害を出した中で生き残っていたんです。僕たちも嬉しいですね」
ヨハンが皆の意見をまとめ、穏やかに下校をしていると。学園の門の所に豪華な馬車と数十名に騎士並びに数名の侍女が待機していた。
「あれって、もしかして?」
「私のお迎えですわね。私の身辺を警護する近衛騎士団二番隊の方々ですわ」
すると一人の女騎士が一歩前に出てレーア王女殿下に挨拶をする。二言程話をした後、此方へ視線を向ける女騎士。彼女だけが他の騎士よりも立派な鎧に身を包んでいた。
「きちんとお話するのは初めてですね。アヴァロン卿」
「はい、騎士団長の近くに居るのは何度か拝見しましたが」
話をしている相手は、国王陛下のアレクシス騎士団長の近くに待機している女騎士。会話も簡単な内容は行った事があるが、お互いに自己紹介した事はない。騎士団長の近くに居る所をよく見かけていたので、彼のサポートをする立場なのかと思っていたが、今回二番隊の方々とレーアに紹介されて、ひょっとしてそれなりに地位が高い人なのかと思っていると・・・。
「申し遅れました、私は近衛騎士団二番隊隊長を務めさせていただいておりますサラ・ローゼ・フォン・クルーガーです。以後お見知りおきを」
「騎士団の隊長さんでしたか」
二十代前半の見た目に整った容姿。纏う雰囲気で分かるが、相当の実力者だと意識づけられる。
「直接、お話をできる時にお伝えしたかったのですが、マウント山脈でのレーア様をお救い頂き誠にありがとうございます」
急にお礼を言われて何の事か分からない顔をしていると、詳しく教えてくれた。サラ隊長は数年前にレーアがワイバーンに襲われ、その後レオンハルトが川で見つけた際の護衛として同行していた一人らしい。当時は二番隊の隊長ではなく、隊長を補佐する地位で隊の中では副隊長に次ぐ地位にいたようだ。
あの襲撃で当時の隊長は、負傷を理由に引退。副隊長を務めていたマリオンは、隊長への昇格を言い渡されるも辞退し、サラにその地位を譲る事となったそうだ。マリオン自身は、隊長の地位にいる器ではないと言う理由らしいが、あの時の失態を償う為と言うのが実際の理由とも教えられた。
昇格と失態の償い・・・意に反する二つの状況だが、失態の償いは国から言い渡されたのではなく自分自身に科した償いらしい。
それに、サラはレーアと幼い頃から面識があるそうで、故に二番隊の隊長の地位にいながら、直接の護衛も行っているのだ。
女性を護衛する上で、護衛する側も女性の方が何かと都合が良いと言う理由も当然ある。
お礼を言われている理由を知ったレオンハルトは、頭を下げるサラに頭を上げる様に伝える。状況を聞けば・・・とは言っても実際はレーアから話を聞いているので、おさらいみたいな感じになるが、話を聞く限りでは騎士団に落ち度はない。サラの謝罪は個人的なけじめも含んでいるのだろう。
「レーア様、お乗りくださいませ」
サラに手を取ってもらいレーアが馬車に乗り込む。その表情にはどこか寂しそうな様子も伺えた。
「殿下、また明日もよろしくお願いします」
一言言うだけで、レーアの表情ががらりと変わる。そして嬉しそうに手を振ってその日はお別れする事となったのだ。
いつも読んで頂きありがとうございます。
今後も頑張って参りますので、応援の程よろしくお願いします




