105 王立学園編入②
おはよう。こんにちは。こんばんわ。
今回は少し短めの話になっています。
今日は何時もより教室内がざわついている。
「さっき、ブルマイスター先生から聞いた編入生って本当かよ?」
「本当のようですわよ?それも一人ではなく、何人もって聞いていますわ」
「高等部の制服の人が数人いたと目撃した人から聞いている。もしかして、このクラスにも?」
「優秀な者でしたらサンドロ様の配下に入れてはどうでしょう?」
「ふむ。マルプルク侯爵家の次期当主として、このサンドロ様が直々に見定めてやろう」
教室内にいる生徒は、今日編入してくる人物に話題が向いてしまっているからだ。この教室は高等部一年のSクラスと呼ばれるクラスで、貴族平民を問わず能力で優秀と定められた者がこの場に集まっているのだ。クラスと言っても科目の殆どが選択制なので、同じクラスの生徒同士が何時も一緒と言うわけではない。共通の一般教育ぐらいだろうか。
この時期に編入してくる者は余り少ない中で複数人編入してくると言うのは異例の事ではないかと考えたからこそ余計にこの騒ぎを大きくしていた。
俺は、男爵家の三男として生まれ、成人後には独立をしなければならず、学園で学んで身に付けられる事は、身に付けようと必死に頑張って高等部では念願のSクラスに選ばれた男だ。名前は、ヨーナス・ラダ・フォン・ベーレンドルフ。皆からはヨナと呼ばれている。このクラスでの成績は下の中ぐらいで、何でも出来るが、秀でた才はない。得意な事と言えば、覚えた事は忘れにくいと言う点だろうか、正し欠点として覚えるのにかなり時間がかかると言う事。
それから暫くすると、教室内にSクラスの担当をしている先生が入ってきた。
「おいっ。静かにしろよ?今日から皆と一緒に勉強する事になった者を紹介する。どうぞ中へ」
生徒に対する口調と招き入れる編入生に対する口調が明らかに変わった事に皆が不思議がっていると、六人の編入生が入室した。
えっ!?
六人の先頭を歩くのは、貴族であれば誰でも知っている人物。アルデレール王国の第二王女であるレーア・エル・フォン・アルデレール。我が国の美姫としても有名で、王家の方は美男美女揃いでその中でもレーア王女殿下は頭一つ抜け出る程の存在だ。
「レーア・エル・フォン・アルデレールです。皆様どうぞよろしくお願いします」
男子生徒だけでなく、女子生徒からも歓喜の声が上がる。
王女殿下に続く様に入室してきた男子生徒一人と女子生徒四人。合計で六人がこのSクラスにやって来たのだ。
「レオンハルトです。気軽にレオンと呼んで下さい」
「シャルロットです。私の事もシャルと呼んで頂いて構いません。よろしくお願いします」
礼儀正しく挨拶をするレオンハルトと言う自分たちよりも大人の雰囲気を漂わせる美少年とシャルロットと言うレーア様に引きを取らない美少女。
二人の挨拶で、クラス中の生徒が歓喜していた。
レオンハルトと言う人物は、この王都に置いて知らぬ者がいない程の有名人。何せ武術大会で圧倒的な力を見せて優勝し、しかもその時に魔族の襲撃から王都を救った英雄としても知られている。
数多の武勇伝を残し、国王陛下からも一目置かれる存在。
婚約者の話は聞かないが、恐らく隣にいる彼女がそうなのだろう。何となく二人の雰囲気がそう感じ取らせる。けれど、その空気を読めない人物も居るようだ。
「うひょーこのサンドロ様に相応しい美貌の持ち主だなー。愛人にしてやっても良いな」
シャルロットに続いてリーゼロッテも自己紹介を済ませた。
「あの子も良いなー。これが終わったら声をかけねば・・・」
マルプルク侯爵家の嫡男のサンドロが意気揚々と取り巻きたちに話をしていた。サンドロではないが、確かにリーゼロッテと言う少女もかなりの美少女であった。
「フォルマー公爵の娘、ティアナです。皆様仲良くしてくださいね」
「ラインフェルト侯爵の娘、リリーです。皆様同様に仲良くして頂けると嬉しいです」
王族だけでなく、上級貴族の令嬢たちも編入してきた。それも二人はこの王都の中心貴族と言える上級貴族の御令嬢だった。編入生たちの外見や地位が全員高い事に圧倒されそうになる。
「まさか、王女殿下と一緒に学べるなんて・・・」
「四大貴族の御令嬢が編入してくるとは・・・」
皆、思い思いの言葉を呟く中、一人だけ明らかに場違いな言葉を口にしていた。
「このサンドロ様に相応しい嫁たちが、向こうからやってくるなんて」
マルプルク侯爵家も上級貴族の一角に名を連ねる家系だが、レーア殿下やフォルマー公爵家、ラインフェルト侯爵家の御令嬢とは格が違う。それにこの三人は、婚約者がいないはずだ。婚約者がいるのであれば、世間一般に公表されていてもおかしくないから。
「レオンハルト様って、あのレオンハルト様よね?」
「すでにお相手が決まっているのかしら?」
クラスの女性陣の半数は殿下や上級貴族の御令嬢に視線を向けているが、残りの半数はレオンハルトに視線を向けていた。男性陣はレオンハルトに視線などほとんど向けていない。
それどころか・・・。
「誰だあいつは・・・それに何だ、クラスの女子共はあんな男の何処が良いんだ?」
「サンドロ様、あの人はアヴァロン伯爵です。魔族殺しで有名の」
取り巻きの一人が説明するが、サンドロには男に興味が無かったのであまり話を聞いていなかった。
(伯爵の子息風情が、この僕の嫁たちの隣に立ちおってからに・・・あとで、侯爵家の嫡男としての風格を教えてやらねばな)
完全に勘違いをするサンドロ。取り巻きの説明も抽象的な言い方だった事に加えて、サンドロの男に対する興味が反抗心ぐらいしかなかった事もあり、見当違いな解釈をしていたのだ。
つまり、アヴァロン伯爵の嫡男がレオンハルトで、アヴァロン伯爵家は魔族殺しの偉業を過去になしえたからこそ成り上がれた貴族だと言う事に・・・。
「先生―ッ!!質問。どうして編入生がこのSクラスに集まったんですか?普通は成績毎にクラスを決めると思うのですけど」
女子生徒の言う通り、編入生は編入試験の成績毎によってクラスが決まる。例えば六人の編入生が六人ともSクラスと言うのは余りにも異例。Sクラスは優秀者の集まりの様なクラス故此処に全員来ると言う事は、編入生六人とも成績優秀者と言う事になる。しかも、編入時の成績は普通の成績より厳しくみられると言われている。
「此処にいる六名は、全員上位の成績を収めている。ましてや、レオンハルト君とシャルロットさんは、短時間で全問正解させるほどの優秀な生徒だ。今は、Sクラスでも来年はこの中から確実にAクラスに落ちる者が出るぞ?そうなりたくなければ、しっかり勉強するんだな」
それから、一通りの伝達事項を終え、本日最初の授業である一般教育の算術の授業が開始した。編入してきた六人は最後列の机に座り授業を受ける。
転入して最初の授業が算術についてだったが、問題なく授業を受ける事が出来た。レーア王女も日頃から勉学をしていた事もあり、授業について行けている所か、余裕すら感じられた。
それにしても、算術の授業は中々に簡単すぎた。
前世で言う所の小学校二年生レベルの内容。それを中学一年生位の年齢で学ぶのだから、退屈になっても仕方がない。クラスの生徒たちもクラス上位の者は問題なくついて行けているが、クラスの下位の者はかなり苦戦している様子。
リーゼロッテやティアナたちも問題はなさそうで、俺とシャルロットは瞬く間に答えを出してしまうので正直つまらないと言える。
「ぐぬぬ。この数字が、ああなって・・・これは、どうなるんだ?」
如何にも貴族のお坊ちゃんと言う感じの男子生徒が悩んでいる声が、聞こえる。そう言えばこの生徒さっき挨拶をしていた時に嫁がどうとか愛人がどうとか言っていた奴だな。
どういう奴か確認しておかないといけないな。
「ティアナ?あそこにいる男子生徒が誰か分かるか?」
左隣に座るティアナに小声で訪ねる。因みに俺の右隣にはレーア王女が座り、更に向こう側にはシャルロットとリーゼロッテが座っている。ティアナの隣にリリーが座っていた。
レーア王女に尋ねないのは、ただ話しかけにくい位真剣に先生の話を聞いていたからで、話しかけにくいとかそう言う理由はない。・・・いや、立場の違いと言う点で話しかけにくいと言うのはあるが・・・。
「え?誰・・・・あっ、マルプルク侯爵の嫡男よ。あまり関りが無いけれどいい噂は聞かないわね?」
何でも、次期侯爵と言う立場を利用し、下級貴族をかなり下に見て生きているようだ。あとは、犯罪に近いような事も何度も行っていると言われ、それを全て金銭で片付けているそうだ。
サンドロと言う人物がと言うよりもマルプルク侯爵家そのものがそう言う集団に近いらしい。
なる程、無能でも家の地位だけが高いから、それが偉いと考えている家訓なのかもしないな。後で、学生たちの事を調べておかないといけないな。となると、情報を提供してくれそうなのは・・・・彼が良さそうだな。
レオンハルトは、授業中だと言うのに授業の内容をそっちのけで、情報を聞き出せそうな人物を探し見つけた。
前から二列目の廊下側に座る人物。なぜ彼を選んだのかと言うと、席の配置が自由なので割と仲の良い者同士が固まっているのだが、彼は一人ぼっちだった。たまたまかもしれないが、真面目そうに見えるし、一人ぼっちじゃなくても質問したら色々教えてくれそうな雰囲気がある。
暗に悪い人ではなさそうと直感的に思ったのだ。残りの授業中は、学生の観察を主に行い。時々、ティアナに誰なのか聞いたりした。貴族の子息女であれば、ある程度分かったようで一人ぼっちの男子学生の事も知っていた。名前は、ヨーナス・ラダ・フォン・ベーレンドルフ、ベーレンドルフ男爵家の三男らしい。
下級貴族の三男と言う事は、行く行くは独立をしなくてはならず、上級貴族からも相手にされない様な立ち位置なのだろう。
流石に名前以外は知らないようだったが、何も聞かないと言う事は悪い噂もないと言う事だ。
そんなこんなで、退屈とも呼べる授業が終わるとクラスの者たちが一気に俺たちの周りに集まってきた。
前世で良くある、転校生が質問攻めされる場面の様だ。ただ、貴族社会で生きてきた者たちとそう言う概念を身に付けていない者たちとの差は感じられたが。
何せ、開口一番が誰々の娘の・・・・。何処商会の跡取り息子で・・・と自己紹介に前置きがあり、更に勢いがあるがそれでいて丁寧な口調で話しかけてくるので、ちょっと思っていたものと違っていた。
「ご無沙汰しております。レーア様。本当にご学友になれるなんて」
レーア王女殿下の知り合いもいたのか、気兼ねなく会話をしていた。レーアだけでなくティアナやリリーも似た様な感じだった。流石に元孤児の俺やシャルロット、最近まで自分は一般人だと思っていたリーゼロッテには、そう言う知り合いは一切いないが。
そんな俺たちにも声をかけてくる者は多かった。シャルロットとリーゼロッテは男女問わず、俺は女子生徒から話しかけられる頻度が多かった。
「おい、サンドロ様が話しかけるんだから、場所を空けたまえ」
「空けたまえ」
「これこれ。皆の迷惑になるから止めないか。それと、殿下挨拶が遅れました・・・」
授業中に警戒しておかなければいけない人物の取り巻きたちがやって来たと思ったら、本人もすぐに登場した。彼の登場で周囲の空気が一瞬下がったよう感じがした。
流石に侯爵の息子と言う地位は、学園の中で権力を振りまく事が出来ないが、反抗できない立ち位置に居るのだろう。授業中に聞いた話でも彼が一番、地位が高いと言っていた。取り巻きたちも子爵の子と伯爵の子らしい。
それに、サンドロと言えば、言葉では止める様に口出ししているが、表情はまるで真逆だった。皆をどかせるとレーアに対して急に媚を売る様な態度を出す始末。
ああ、こういう奴。学校に一人や二人いたな。絶対に仲良くなれないタイプ。
「それに、他の女性たちも皆美しい。是非・・・」
シャルロットの手を触ろうとしたので、割って入る様に立ち塞がる。
「初めまして、サンドロ殿。私はレオンハルトと言います。以後お見知りおきを」
急に割り込んできた事で、サンドロの顔が険しくなる。
「何だお前は、失礼な奴だなッ!!僕は彼女と話をしていたのだ」
どちらが失礼なのやら。学園内での貴族と言う立場の利用は禁じられているが、守らなかったからと言って罰則があるわけでもない。利用は駄目だが分からせる事は問題ないだろうと判断し、自己紹介を訂正する。
「私は先程、自己紹介をしましたが・・・覚えられていなかったようですので、もう一度。私の名前はレオンハルト・ユウ・フォン・アヴァロン。アヴァロン伯爵家の現当主にして、まだ小さい町ですが、レカンテートと言う場所の領主もしています。ああ、ついでにアウグスト陛下からは外交大使と言う役職もいただいておりますし、隣国ガバリアマルス帝国の皇帝ジギスバルト陛下からは特爵と言う地位もいただいております。果たして・・・・」
いつも読んで頂きありがとうございます。
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