104 王立学園編入
おはよう。こんにちわ。こんばんは。
遂に学園のお話になりますね。暫くは学園についてのお話が多いかと思います。
金属音が鳴り響き、斬撃と金属同士が衝突する無数の火花がその戦闘の凄さを物語っていた。
「ヨハンッ!!」
「うん・・・『身体強化』、『俊敏力向上』」
ヨハンは詠唱省略でユリアーヌ、ダーヴィト、クルトと自分自身に強化魔法を掛ける。レオンハルトもそれに合わせる様に身体強化の魔法を自分自身に掛けた。
ユリアーヌの槍がレオンハルトの胴体を狙う。慌てる様子もなく左手で槍を弾くとそのまま間合いを詰めるが、危険を察知し跳躍でその場から離脱。すると、ヨハンの魔法攻撃が先程の場所に着弾する。
うまいっ!!
レオンハルトが、そう感じたのは跳躍した先にダーヴィトの盾が飛来してきていた。しかもその陰に隠れる様にクルトが双剣を構えて向かって来ている。
『周囲探索』で死角をカバーする。正面から盾とクルトが向かっている間にユリアーヌが背後に回り込んでいた。左手で飛来する盾を掴み、その勢いを利用して身体を回転させ、背後に回っているユリアーヌに盾を投げつけた。右手に持つ刀で接近していたクルトの攻撃に対処した。
クルトの八連続の斬撃は、すべて捌かれてしまい最後は蹴りを腹部に受けて後方に吹き飛ぶ。
地面に着地するが、すぐに後方へ飛びのく。ヨハンの土属性魔法『岩圧壁』が着地地点で発動した。『岩圧壁』は、指定場所を起点に地面が一枚岩の板を形成、トラバサミの様に目標物を圧し潰す魔法である。
今回の魔力量は動きを封じる程度の威力だが、それでも今の状況で足を止めるのは得策ではない。
ユリアーヌが突進の構えで此方に突っ込んでくる。空中で投げた盾は上手い具合に弾いてそれを持ち主であるダーヴィトの手元に来るようにしていたようだ。ダーヴィトも盾を装備した状態で走って来ていた。
「これでもまだ届かないか」
ユリアーヌは槍を突き出すようにして来るが、矛先が身体に触れる前に槍を切り上げ、攻撃を防ぐ。
「けど、これは想定済みだッ!!」
ッ!!
ダーヴィトが跳躍してユリアーヌの切り上げた槍を足場にしてレオンハルトの上空を飛んだ。その時に二つの盾をレオンハルトに向かって投げる。上空から来る時間差を持たせた二つの飛来する盾。本人も着地と同時に反転して間合いを詰める。拳でレオンハルトを攻撃するつもりの様だ。ユリアーヌの槍も上に弾かれていたが、ダーヴィトが足場にした事で定位置に戻されていた。
ユリアーヌとダーヴィトの攻撃だけに留まらず、クルトも空中で受けたダメージから復帰してその俊足を生かし一気に間合いを詰め、ヨハンもこの状況になる様に仕組んでいたのか、接近戦を仕掛けるため間合いを詰めに来ていた。
杖の先端には水で出来た刃があり、魔法で作った薙刀の様な形状の水刃。
前後左右に加えて上からの攻撃。上からの盾の攻撃が一番早く到達するが、その後の攻撃は四人同時だろう。盾も直接当たらない軌道ではあるが、一時的に死角を作る効果と注意を逸らす効果があった。
最初の盾が当たらない軌道で通過した瞬間、その一瞬の死角を突く様にヨハンが無詠唱で氷属性魔法『氷柱弾』を二発放つ。水属性魔法の上位魔法である氷属性魔法を無詠唱で此処まで早く魔法を準備できるとは思っていなかったレオンハルトは、その意表を突かれ回避に専念する。だが、頭上から二つ目の盾が襲って来る。
「ちっ!!」
咄嗟に刀で盾を弾く。しかし、攻撃の流れはまだユリアーヌたちにあった。ユリアーヌの槍による連続突き、ダーヴィトの重い拳、クルトの双剣の斬撃、ヨハンの水刃。
神経を尖らせて、危機を感じ取る。
「槍技『ブラッディスプラッシュ』」
「喰らえ『マイトフィスト』」
「『アサシングレイド』」
「やああー」
一人だけ掛け声だけになっているのは、魔法使いとして研鑽してきたヨハンに接近戦の技など持ち合わせていないから。けれど、他の三人はきちんと状況に合わせた技を使用してきた。
『ブラッディスプラッシュ』槍技の一つで、練度の高い連続突きを行う。そしてより使いこなす者はその突きの合間に斬撃を交えて行う事も出来る。『マイトフィスト』は渾身の一撃を繰り出す一撃必殺の攻撃手段、当たれば痛いでは済まされない代物だ。『アサシングレイド』は一撃の威力は少ないが、無数の斬撃で相手を斬り刻む技だ。しかも、より急所を狙った攻撃に特化しているのもこの技の恐ろしい部分である。
全てを捌ききれないと判断したレオンハルトは、盾を防いだ瞬間に刀を鞘に納めて、居合の構えを取った。
「「「「ッ!!」」」」
次の瞬間四人の攻撃は一度の攻撃で全て弾き飛ばされてしまう。
神明紅焔流抜刀術『螺旋神楽』。抜刀と同時に自身の身体を何度か回転させて一度の斬撃を抜き放ち続ける技。刀の軌道は、まるで螺旋階段の様に下から上へと昇る。斬撃で身を包む技故、攻撃手段よりも防御の技として使われる事が多いが、今回の様な同時に奇襲を受けたりする場面では、攻撃としての一面をのぞかせる技でもある。
(奥義・・・ではないッ!?)
四人とも神明紅焔流抜刀術奥義を使われると思ったのだ。レオンハルトからは奥義を放つかのような気迫を放っていたし、そう錯覚させる様にレオンハルトも意識を其方へ持って行っていた。
流石に手の内をこんなことで明かすつもりは無いので、神明紅焔流中伝のレベルの技を披露するにとどめたのだ。
四人が吹き飛ばされた所で、この戦闘は終了した。
単純に彼らの実力と言うか他の学生たちに教えるための練習の様子を知りたかっただけの学園の教員たちは、彼らの練習方法が全く参考にならないだけではなく。恐ろしい程の実力を兼ね備えている事を再認識させられた。
寧ろ、見学に来ていた教員の半分近くは逆に教えてほしいとさえ思っている。
学園長と話し合いをして、編入にあたっての諸注意を受ける。
「君たちは皆同じクラスに編入する事が決まっておるからな。それと学年についてだが、折角だからレオンハルトくんたちは同じクラスにしようと思うが良いかな?」
元々、レオンハルトたちは王立学園高等部一年に編入となり、レオンハルトよりも年上のヨハン、クルトは高等部二年のクラスに、ユリアーヌは最高学年である高等部三年に編入する。エッダとダーヴィトに関しては二人とも既に成人しており、本来であれば学園に通う年齢ではないのだが、特例でユリアーヌと同じ学年に編入する事になっていた。
国王陛下が如何やら王立学園に掛け合ってくれたらしい。
アニータとエルフィーは学年が下なので、中等部に編入される事になっている。
王立学園は六歳から九歳まで初等部で学び、九歳から十二歳までを中等部で、十二歳から十五歳までを高等部で学ぶ事になっている。初等部、中等部、高等部それぞれ学ぶ建物は違うが、同じ敷地内でもあるので顔を合わせる事も多い。
「ああ、それともう一つ。君たちのクラスに君たちとは別に編入してくる生徒さんが居るから仲良くしてあげてね?」
何か含む様な言い方をしてその場を去る学園長。誰だろうと不思議に思っていたが、翌日陛下からの呼び出しを受けて王城へ行くと「レーアもお主と共に王立学園で学ぶ事になったから仲良くしてやってくれ」と言われる。
昨日の学園長の言っていた別の編入生とは、アルデレール王国の第二王女レーアの事の様だ。彼女もこれまでは講師を王城に招いて勉学を教えていたそうだが、レオンハルトが行くのであれば是非自分も通いたいと言う娘の願いを叶え、王立学園に通わせる事にした。
流石に王女一人では不便だろうと言う事で、王城に勤める比較的若い騎士や使用人も一緒に編入させる様で、護衛の少年が一人と少女が二人。レーア王女と同年齢の給仕係が一人に侍女が一人となっている。
また、第二王女レーアの我儘に乗る形で、他の王族の子息たちも通いたいと言う事で、その手続きをしているそうだ。厳密にはレーアとその付き人に選ばれた者以外は、来年の春から入学と言う形をとる事になったそうだ。
第二王女であるレーアの実の双子の妹弟、第五王女のクリスティアーネ、第六王子のクリスハルトの二人。中等部二年生から学園生活を送る。異母姉弟で第二王妃の子供である第三王女のローザリンデが来年から高等部一年生に来る。第五王子のヨハネスは第三王子のディートヘルムと同じく他国の魔法学校に留学を希望しているので王立学園には来ないそうだ。第三王妃の子供である第四王子のカールハインも王立学園には来ない一人で、彼はレーアと同じ年齢にも拘らず、剣の才能に恵まれそれ相応の地位を貰っているからだそうだ。
そう言えば、陛下や王太子殿下、レーア以外の王族ってお会いした事が無いんだよな―などとどうでも良い事を考えていると、最後に第四王子カールハインの実妹で第四王女のマルティナは王立学園に来るそうだ。中等部三年生に編入する予定で、かなり彼方此方と学年が異なるので、用意する護衛や使用人が大変だろうに・・・と言うのが率直な感想だ。
まあ、一番大変なのは王立学園の教員たちだろうか。国のトップの血縁者がこれだけ多く学園にやってくるのだ。何か粗相をやらかせば、あっと言う間に首が飛びかねない。物理的な意味で・・・。
「レーア以外は、半年ほど先の事になるが、よろしく頼む。今回我々王族が学園に通う事で、これまで通ってこなかった多くの上級貴族の子息たちも編入してくるだろうから。要らぬ揉め事はくれぐれも起こさないようにな」
貴族とのトラブル何て良い事など一つも無いので、此方に危害を加えない限り何もしないつもりだ。
「学園へは何時から通うのだ?」
「学生服の採寸を行いましたので、学生服が出来上がり次第通うようになると思います」
王立学園は、決まった学生服が存在する。男女ともに上は、少しデザインは異なるが白いブレザーで、男性はループタイを身に付け、女性はリボンを身に付ける様になっている。ループタイとリボンは学年毎に異なる色を使用しているそうで、濃い朱色や紺色、深緑の三種類。下は、男性はチェック柄のズボンで、女性はチェック柄のスカートだ。
前世の学生たちが身に付ける様な懐かしいその制服のデザインは、過去に召喚された者が考案したそうで、今尚使用されているのだ。
因みにこのチェック柄にも工夫が施されており、赤色と緑色に白色のチェックラインが高等学校、黄色と茶色に黒色のチェックラインが中等部、白色と灰色に青色のチェックラインが初等部となっているのだ。
柄はどうする事も出来ないが、生地は選ぶ事が出来るそうで、平民に合わせたリーズナブルな金額の生地から貴族を対象とした高級な生地まで様々である。レオンハルトたちは丈夫でかつ肌触りの良い高級な生地で作成してもらっている。
出来上がるまで、五日ほどで仕上がるそうだ。この時期に編入してくる事は少なく制服の受注は少ないので早めにできるとの事。これが入学シーズンだとひっきりなしに注文が来るので、その時期だった場合かなりの時間が掛かるらしい。
「そうか。では学園では娘たちの事頼むぞ」
恐らくレーア以外の来年度から来るであろう王族たちも含めてよろしく頼むと言いたいのだろう。
貴族当主として、王族の対応はきちんとしなければならない。学園に居るのは貴族ではあるが当主の座についていない者や平民が殆どなのだから。
王城を離れ自身の屋敷に戻る。
屋敷では、自分たちが受ける授業の選択をみんな必死で考えていた。と言っても大方の授業は既に決めており、残りは特にどこでも良さそうな物ばかり。
俺は、貴族当主と言う事もあり、礼儀作法や貴族の何たるかを学ぶ貴族科、領地運営や経済学を学ぶ経営科、算術や地理を学ぶ一般教育、剣術や体術などの武術やサバイバル術を身に付ける冒険科、魔道具についての研究や開発を行う魔道具研究科を選択している。残りは週に一回から二回程度受けるだけの実地練習と言う物を選んでいる。実地練習は主に野外活動で、冒険者登録をしている者が授業中に簡単な依頼を達成する授業。
基本的には森の調査、薬草採取、魔物や獣、動物の討伐だが、魔物はゴブリンなどの低レベルの魔物しか狩らない。
単独での活動を禁止されているので、一緒に受ける者と臨時のチームを組むのだ。他者との連携を図るというのも課題の一つらしい。
「私も決まったよ」
シャルロットが授業の内容を決め終わった様だ。彼女も貴族科、運営科、一般教育までは同じで、他に魔法について研究する魔法科、病気や治療について学ぶ衛生科、裁縫やお菓子などを学ぶ家庭科を選択したようだ。家庭科は貴族たちではなく平民たちが履修する事が多い科で、貴族たちの場合は人を雇えばいいのだから態々身に付ける必要はないと考えている。因みにエルフィーも同じ選択科目を選んでいる。
ティアナとリリーもシャルロットに似た様な選択科目だが、衛生科と家庭科の代わりに冒険科と実地練習の様な物で貴族板の社交界と言う物を選んでいる。社交界と言うのは、貴族科でも習う様な礼儀作法を実戦で試したり、パーティを主催したりする授業だ。割と貴族の中では選択している者も多いが、レオンハルトは社交界よりも実施練習を優先させたのだ。だから代わりと言うわけではないが二人が授業を選択した。
リーゼロッテは、レオンハルトよりの選択で違うのは魔道具研究科ではなく商業科を選択している。
ユリアーヌにクルト、ダーヴィトは、冒険科に一般教養、罠設置や罠解除などの工作科、魔物や獣などの種類やその解体方法について学ぶ魔物研究科を選択している。後は実地訓練を多めに選択。
ヨハンは、ユリアーヌたちと然程変わりはしないが、工作科ではなく魔法科と実地訓練を減らして、魔道具研究科を選択している。
エッダとアニータもユリアーヌたちを同じ感じで、実地訓練を減らして家庭科を選択していた。
やはり料理などが出来るに越した事は無いし、冒険者として野外活動中の食事の美味さは仲間の士気にも大きく関わってくる。
今回誰も選択しなかったが、薬草や毒草についてだったり、薬を調薬したり、金属や鉱石を錬成する錬金科や地層などを調べる考古学科というのもある。馬術などを身に付ける乗術科と言うのも存在しており、馬に乗る以外だと馬車を操ったり、手漕ぎの舟を操作したりする練習がある科だ。
「何だかそれぞれ個性が現れる選択だな」
「まあ、とは言え私やダヴィ、ユーリくんだとあと半年も学園生活は残っていないけれどね」
「俺はそれぐらいで構わない。勉学より実践の方が好きだからな」
兎に角学園に向けての準備を着々と終えていく仲間たち。
そんなこんなで、あっと言う間に編入当日を迎える。
昨日取りに行った王立学園の制服に身を包み、各々に渡した魔法の袋や魔法の鞄に必要な物を入れて玄関前に集まる。
「レオンハルト様ッ!!とてもお似合いです」
玄関にはシャルロットたちの他にレーア王女殿下も来られていた。彼女も俺たちと同じく今日から学園に通うそうで、王城から態々此方まで来てくださったのだ。王家の者を寄り道させるとはどういう事かと周りから言われかねない状況だが、制服姿を誰よりも先に見せたかったと言う事で回りを黙らせたと後で護衛の者から教えてもらった。
普段は大人しく物事を良く観ようとする良い子なのだが、俺の事になると少々強引さをチラつかせる時があった。あまり気にしていないのだけれど。
「ありがとうございます。殿下もとてもよくお似合いですよ」
笑顔で答えると、嬉しい気持ちと少し不満な感情が交互に現れていた。
「私の事はレーアと呼ぶ様に言ったはずですわよ?私たちは婚約者同士の間柄なのですから」
レーア王女殿下との婚約は近日中に発表されるためか、今までよりも人目を気にしなくなっている気がする。案に俺の屋敷で周りの人間も俺たちとの関係を知る者しかいないからかもしれないが。
「レーア様、おはようございます。彼の言う通りとてもお似合いですよ」
「おはようございます。シャルロット様も凄くお似合いです。今日から共に頑張りましょう」
何を頑張るのかと不思議がる男性陣。女性陣はその言葉の意味をよく理解していた。共に頑張りましょうと言うのは、共に彼との学園生活を謳歌しましょうと言う意味。
レーアの乗ってきた王族専用馬車にレーアが乗り込み、侍女たちも同席する。その後方にアヴァロン伯爵家の家紋が記された馬車にレオンハルトと婚約者たちが乗り、更にその後ろには同じくアヴァロン伯爵家の家紋が記された馬車にユリアーヌたちが乗り込んで、王立学園に向けて出発したのだった。
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