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102 子供たち王都にやってくる

おはよう。こんにちわ。こんばんは!

気づけば十月も残り僅か。次は十一月ッ!!

一年がとても速く感じる今日この頃。

「「「「おはようございます。ご主人様」」」」


 奴隷たちを新たに加えた翌朝、食堂へ行くとフリードリヒを筆頭に給仕係(メイド)と新しく加わった奴隷たちが挨拶をしてきた。


 屋敷の中にいる使用人、奴隷たちも含む人数が五十人近くいるため、手狭に感じてくる。とは言え流石に全員で朝のお出迎えをするわけにも行かないので、此処にいるのは何時もの面々に加えて、昨日参加する事になった十八人の奴隷たち。


「トアさん。足の調子はどう?」


「エルフィー様のおかげで、こうして自分の足でまた歩く事が出来るようになりました。誠にありがとうございます」


 馬車横転による事故で、脊髄損傷になり下半身麻痺となってしまった彼女。寝たきりの生活を強いられていた彼女を奴隷として購入し、治療した。元商人の娘と言う事もあり算術や文字などの覚えていたため、今後はレカンテートの領地運営の手伝いをしてもらうつもりでいる。


「ごしゅじんさま。おねえちゃんを助けてくれて、ありがとーございます」


 トアの妹のステラが幼いながらもしっかりとお礼を伝えてくる。姉妹だけあってよく似ている。赤茶毛の髪に美少女と言うよりも普通の顔に近いが、何処か愛嬌のある顔立ちをしている。


「ステラも良くお礼の言葉が言えたね。偉いよ」


 褒められた事で嬉しそうにはしゃぐ妹を見て姉であるトアは少し頬を染めて止めた。


「ご主人様、どうぞこちらへ」


 狸人族の少女マルガに誘導されて、食堂の席に腰を掛ける。彼女は魔物の体液を浴びて失明していたのだが、エルフィーの治癒魔法のおかげで、見えるようになった。顔についていた傷も癒えていたので、体液を浴びる前の状態に戻った様だ。人族に近い姿をしているが、彼女の頭には狸の耳が生えており、尻尾もきちんとある。トアたちとは別の意味で愛嬌があってよい。


「え、ええっと。これが・・・じゃなかった。こちらが、今日の食事です?」


 聞かれても困るが、頑張って丁寧な言葉を覚えようとしているのだろう事は伝わってくる。不器用に朝食を運ぶ虹彩異色症(オッドアイ)の美少女ヴェローニカ。人形の様な顔立ちの彼女は元々旅をしながら芸を披露し生活をする一団の娘として一緒に行動していた。その一団が魔物に襲われ一団の殆どは命を落とし、辛うじて彼女は生き残ったそうだ。偶々通りがかった奴隷商人とその護衛が、彼女を保護したが、一人では生きて行けない為、奴隷となる事を決断したそうだ。二属性の魔法、火属性と土属性の魔法が使用でき、召喚魔法も使える。彼女を助けた奴隷商人はベルネットの部下で、そのまま彼の商会に置く事になった。ベルネットの元に来て日が浅く、礼儀作法は勉強中だったそうだ。


「ヴェローニカさん。お皿の配膳が間違えておりますわよ?申し訳ございません。ご主人様直ちに配膳し直します」


 ヴェローニカに注意するお嬢様口調の少女。彼女も昨日購入した奴隷の一人で、元々は他国の貴族令嬢だったそうだ。夕食の席でティアナやリリーたちと初顔合わせをした時の自己紹介で、ナルキト公国と言う国の元男爵の娘で名前をベアトリス・ヴァン・リリェホルンと言うらしい。今はただのベアトリスとの事だ。


 如何やらリリェホルン男爵が公王の息子である公太子の悪事を公王へ報告したら、公太子が既に裏から根回しをしており、貶められた。財産の没収と言う処罰で済んだが、貴族として生計の目途が立たず、男爵家はそのまま没落したらしい。


 ナルキト公国は、建国してまだそれ程経っていない若い国の一つだ。ローア大陸の中央周辺の小国の一つだそうだ。


 そう言えば、この大陸にある国がどれだけあるか把握していないな。また時間がある時にでも図書館へ行って調べてみるか。


「気にしなくても良いよ。段々と覚えていけばいいから」


 ヴェローニカの年齢はレオンハルトたちと同じ十三歳だが、ベアトリスの年齢は十八歳になるらしく、ヴェローニカからしてみたら出来るお姉さんみたいな感じらしい。元貴族の令嬢と言う事で礼儀作法も奴隷の中ではトップクラスにいるため、彼女の教育係にしてもよさそうだと考えている。


 因みに、トアとステラの姉妹に狸人族のマルガ、虹彩異色症(オッドアイ)のヴェローニカ、元貴族のベアトリス、それに昨日レオンハルトが治療した親娘のミアとミリアム、ハーフエルフのセシル、村娘のコノリを給仕係(メイド)として働かせるつもりだ。


 フリードリヒが選んだヴェローニカ、ベアトリス、ミアとミリアム、コノリの五人は最初から給仕係(メイド)として考えていたし、トアとステラそれにセシルの三人も給仕係(メイド)として働いて貰えばいいだろう。ステラとミリアムはまだ子供だから給仕係(メイド)見習いとしてだが。


 エルフの女性フェリシアと同じくエルフの少女シルフィアには、ローレたちの下で調薬や調合等を作ってもらう事にした。エルフは長命種としても知られており、薬草や魔法などの知識が豊富で、薬草採取などをさせると森と対話し、薬草の位置を把握できる。また、優れた能力として、精霊魔法を使える者も多くいる。二人とも精霊魔法を習得しているそうで、フェリシアは森の精霊、水の精霊と契約している。シルフィアは風の精霊と契約しているそうだ。


 ヴェローニカやベアトリス、エルフたちなど能力面を重視した部分もあり、ローレたちの時と違って支払った金額が桁違いになった理由の一つでもある。


 値段は・・・聞かない方が良いだろう。


 犬人族の少年アルヌルフと虎人族の少女ダグマル、鳥人族の女性イルジナ、狼人族の少女ルドミラの四人はイザベラの下で稽古をしてもらい、今後、ラン同様屋敷の警備をしてもらう予定だ。この四人は、戦闘が出来ると言う事で警備担当にしている。人族よりも獣人の方が警備は適していると言える。


 ランは猫人族で夜目が効くし、俊敏な動きで敵を攪乱できる。戦い方はクルトに近いだろう。まだそこまでの技術は無いが、行く行くはそうなってほしい。犬人族のアルヌルフと狼人族のルドミラは鼻が利く。その優れた嗅覚で異変に一早く察知してもらえるだろう。アルヌルフは堅実な剣と盾で、ルドミラは槍を使う。アルヌルフが右腕を失っていたのも魔物に襲われて戦っている時に食いちぎられたからだと聞いた。虎人族のダグマルは体術が出来るそうで半獣化の能力で両手を虎の様な鋭利な爪に変化できるそうだ。アルヌルフやルドミラ程ではないが、鼻も利く。鳥人族のイルジナはこの中で一番最年長で、鳥目で広範囲を探る事が出来る。また、自身の翼で空を飛ぶことが可能で、上空から弓で敵を狙い撃つそうだ。空戦に対する手段を持ち合わせない敵ならば一方的に攻撃が出来てしまう。近接武器として槍も使えるそうだ。今度、ユリアーヌたちと手合わせさせるのもよさそうである。


 借金奴隷として奴隷落ちしたドワーフの二人。物作りの熱意が高く我を忘れて色々な物を作る気質がある。聞くところによると二人は従兄弟同士との事で、二人の共通の祖父から技術を教えてもらったそうだ。兄弟子であるベルトと弟弟子のブラム。元鍛治師の男性のインゴルフ。彼は、鉱山の街で働く鍛冶師だったが、廃坑になってから街は(すさ)み彼も職を失って、ただ生きるだけの生活をしていた。


 最終的に奴隷落ちしてしまい今に至るが、彼も鍛冶師として働きたかったようなので、伯爵家に来てもらいその腕を振るってもらう事にした。


 これまで、鍛冶部門は無かった事もあり、補佐として戦闘は嫌いだが、力持ちの熊人族の男性デデン、算術と多少武器を扱える小人族の男性ルクステッドをつけた。小人族は、亜人族の部類になるそうだが、見た目は人族の子供とさほど変わらない。大人になっても身長が僅か百三十ぐらいしかないが、見た目に反して重い物も持ち上げる力はある。


 最後に残った羊人族の女性ファンヌ。彼女はエリーゼやラウラの様に御者人をしてもらう事にした。彼女の実家は牧場を営んでいたそうで、馬の扱いはお手の物だそうだ。それと、牧場での厨房業務も熟していた事から御者をしない時は馬の世話の他に厨房の手伝いを言い渡しておいた。


「ご馳走様。片付けを頼むよ。フリードリヒ、シャルたちは?」


「シャルロット様はエルフィー様とご一緒に昨日の健康チェックの書類をまとめられております。ティアナ様は、リーゼロッテ様とリリー様と一緒に剣術の稽古をされておられます」


 そうか。今日は三人とも実戦形式の練習日か。後で様子でも見に行くかな。


「ありがとう。少し執務室で大事な仕事をする。フリードリヒ後は頼むよ」


 新しく来た奴隷たちには、転移魔法の事は説明していない。来たばかりと言う事もあって、秘匿すべき情報は説明していないのだ。


 今の言い方で、フリードリヒには転移でユリアーヌたちの元に向かう事も伝わっているだろう。流石筆頭執事だけの事はある。


 手早く準備を済ませるとイリードへ転移する。そのままユリアーヌたちが宿泊していた宿屋へ行くが、早朝に出発したと聞き、裏路地から北門の近くの雑木林へ転移して捜索。それ程遠くに行っていないようだったので、そのまま人目に付かない様に雑木林の中を移動する。


 ッ!!


 護衛の一人が異変に気が付いたのだろう。周囲を警戒し始める。流石獣人族と行った所か、動きに未熟さがあるからランクも高くはないのだろうが、獣人の持つ固有の能力には目を見張る。


 気配を絶ち、魔法で姿と音を消す。流石にこのままヨハンたちに声をかければ驚かれるだろうから、近くの小石を拾って優しく投げる。


「ん?・・・石?ッ!!」


 周囲を見渡しても見つけられない事から、レオンハルトかシャルロットが近くに居ると判断した。


「すみません。少し馬車へ移動します」


 ヨハンは、馬車の中で待機するアンネローゼの所へ行くと、小声で姿を見せても大丈夫と話す。


「よくわかったな。それで、状況を教えてくれ」


 ヨハンは別れてからの二日間の出来事を報告。アンネローゼからも子供たちの様子を聞いた。


「んー確かに子供たちにとって旅は暇になるよな・・・そうだ、これを渡しておきます」


 魔法の袋から子供たちが退屈しない様に木製の色々な形をした物、俗に言う積み木を渡す。ただ、馬車の中では使い勝手が悪い遊び道具だろうけど。


 一通り話を聞いてから、先ほどと同じ様に姿と音を消す魔法を自分にかけて、その場を離れた。雑木林の中で転移魔法を使い屋敷の執務室に飛んだ。その後、何食わぬ顔で皆の前に姿を見せた。


「あっ!レオ様、おはようございます」


 リリーが一早く反応をすると木剣で鍔迫り合いをしていたリーゼロッテとティアナも此方見ると戦闘を止めて歩いてきた。


「おはようございます、レオン様。今日はご一緒されますか?」


 ティアナに誘われて、久しぶりに三人の稽古をつける事にした。











 私の名前はリリー・アストリット・ツキシマ・フォン・ラインフェルト。ラインフェルト侯爵家の娘で、レオンハルト・ユウ・フォン・アヴァロン伯爵の婚約者でもあります。


 侯爵家の娘が伯爵家、それも正妻ではなく側室として入る事はあまりある事ではありません。ですが、私はそれでも構わないと思う程、彼の事を好きになっています。


 彼との出会いは、幼い頃両親に連れられてとある街に行きました。当時から家族ぐるみの付き合いのあったフォルマー公爵家もご一緒に来ており、公爵家の令嬢にして幼馴染のティアナ様と街の近くにある森に探検に出かけました。


 何故、森の中に入ってしまったのか今でも不思議でなりませんが、当時は兎か何か小動物を見つけて追いかけていたと思います。


 そして、気が付けばティアナ様と私は迷子になっていました。


 お父様から「森の中には魔物が居るから、子供たちだけで入ってはいけない」と厳しく注意されていたのですが、私もティアナ様も我を忘れてしまい、結果、犬の魔物やゴブリンと遭遇してしまったのです。


 当時の私たちは魔物の種類まで分かりませんでしたが、今は冒険者として活動もしているのでよくわかります。当時遭遇した魔物は、ツインテールウルフやゴブリン、それとゴブリンの上位種であるゴブリンソルジャーやレッドゴブリン、亜種のゴブリンビーストでした。


 ゴブリンの上位種や亜種は、ゴブリンとは比べ物にならない程力の差があります。当時の私たちは上位種どころか普通のゴブリン一匹でも負けてしまう様な非力な存在でした。


 必死に逃げていましたが、所詮子供の走り、ましてやスラムの子供たちの様に走り回って育った者たちと違い、穏やかな生活をしていた人間です。捕まるのも時間の問題となったその時。


 一人の少年が、見た事もない剣で瞬く間に魔物を討伐してしまった。


 その時の勇ましさに一目ぼれをしてしまった私は、彼に相応しくなれる様代々伝わる剣技を身に付ける事にしました。当然、私だけではなく一緒に居たティアナ様も同じく一目ぼれをしてしまったようで、彼女も家に伝わる剣技を身に付けるために稽古をしていました。


 流石に、稽古ばかりでは淑女としての嗜みに欠けてしまうので、今まで習っていた稽古も変わらず取り組んでいました。


 物思いにふけっていると・・・。


「リリー。攻撃のテンポが遅れたよ?集中して」


 レオンハルトの木刀による斬撃がリリーを襲う。如何にか攻撃を受け流して距離をとった。今はティアナが彼を誘い三対一と言う体制で挑んでいる。


 三人とは、私とティアナ様とそれにリーゼロッテ様である。ティアナ様もリーゼロッテ様も私と同じくレオ様の側室候補者だ。候補者と言っても確定事項ではありますが、まだ正式に発表されていないから候補者と言う扱いになっています。


 レオ様の正妻には、彼と同じぐらい凄い人物であるシャルロット様がなるそうで、シャルロット様を筆頭に自国の王族であるレーア王女殿下、公爵家の令嬢ティアナ様、侯爵家の令嬢である私、伯爵家の令嬢リーゼロッテ、枢機卿の孫娘で同じく伯爵家の令嬢エルフィー様が側室として嫁ぐ予定です。


 何処の国の王族ですか?と問いただしたくなるような面々ですが、レオ様はそれだけの功績を過去何度も残してこられました。


 それと本来の地位で言えば、レーア王女殿下が正妻になるはずですが、シャルロット様もレオンハルト様同様に天才と呼ばれる人だと私は思います。あの方であれば、誰もが認める程の存在、それを強く感じさせられたのは、難しい内容を話すレオ様の言葉を理解し、即座に回答をする。それ以外にも言葉を発していなくてもお互いの考えを理解し、支え合っているのが分かってしまう。誰も彼女に勝てないと本能的に理解してしまった。


 当然、知識だけでなく戦闘能力も優れている。弓矢を使えばどんな場所にいようと必中させる腕を持ち、魔法に関しても幅広い属性を多用に使い分けている。攻撃に防御、補助・・・中でも治癒魔法は、それに特化したエルフィー様よりも数倍上の知識と技術を持っていた。


 まさに非の打ち所がない状態です。


「ティアは、振りが大きすぎる。リーゼはもっと攻めてきて」


 ティアナの大木剣とリーゼロッテの木剣を木刀で受け流し続ける。これ以上、注意を散漫させると怪我をすると判断したリリーは、細木剣で連続突きを繰り出す。


 高速の技を繰り出すが、今一つ決定打にならない。どれぐらい試合形式による稽古をしたのだろうか。額からは大量の汗が流れ、来ていた練習着も汗でぐっしょりとなっていた。


 ティアナとリーゼロッテを見ると二人とも同じような状態。レオンハルトは、額に汗は流れているが、布で拭えば分からない程度の量で、何処か涼しげな顔をしていた。


「レオンくん、殆ど汗かいていないじゃん。私なんてびちゃびちゃだよ?」


 リーゼロッテは、レオンハルトと仲良さそうに話をしていると、ふと二人の会話で気になる言葉があった。汗でびちゃびちゃと言う事は汗臭いかもしれないと言う事。


 冒険者として活動しているのだから、今更かもしれないが出来るだけそう言う事に気を使いたいお年頃でもある。特に好きな異性の前では。


「レオ様。今日はありがとうございました。ちょっと身嗜みを整えてまいります」


 リリーの言葉にティアナも同様に恥ずかしそうにして一言伝えると一緒に屋敷に帰った。一先ず、王城でも見た事が無いような素晴らしい造りのお風呂で汗を流し、身を清めてからいつも着る様な冒険者活動をしやすく且つ貴族の気品を感じさせられるような服に着替えるのであった。











 それから十日が経過し、予定より遅れる形でアンネローゼたちが王都に到着する。道中雨が降って立ち往生したようで、王都も二日ほど雨が降っていた。この十日間で大きな出来事と言えば、新しく商会を立ち上げた事だろう。


 商業ギルドで正式に手続きを行い、お店も賃貸する予定であったが、大通りで閉店する店があり安く購入できたため、その場所で色々な物を販売する予定だ。


 お店の持ち主だった人とは面識があり、安く譲ってもらっただけではなく、店もそのまま使うなり、壊すなり好きに使ってよいとの事だ。持ち主は、息子夫婦がいる街へ引っ越しするそうで、餞別代りに近々売り出す予定のシャンプーやリンス、ボディーソープを幾つか渡した。


 これらの商品は、屋敷で自分たち用に使っていた物だったが、使用人たちから強く販売した方が良いと打診され、奴隷たちも増えた事でローレたちの仕事量も大幅に軽減された。軽減された時間にシャンプーなどを作っていたので、仕事量は寧ろ増えたと言うべきかもしれないが。


 商会の名前はクイナ商会。前世で生息していた鳥の名前を選択した。クイナとは別名水鶏とも呼ばれる鳥で、英語表記に治すとウォーターレールと記載する。レールの発音がレインに似ているし、ウォーターは水。即ち雨を連想する事ができる。レオンハルトの前世の名前は伏見(ふしみ)優雨(ゆう)、雨と言う字を結び付けられる。他にもクイナは、小さい鳥に分類する。シャルロットの前世の名前も一緒に関連付ける事が出来たからだ。シャルロットの前世は、窪塚(くぼつか)琴莉(ことり)琴莉(ことり)をひらがなに直すと、「ことり」となり別の漢字に直すと小鳥(ことり)となるのだ。


 単純にこじつけたレベルではあるが、互いの前世の名前を連想できる物を選択したのだ。因みにこの案はレオンハルトが提案した物で、シャルロットはフシミ商会。リーゼロッテは、アヴァロン商会。ティアナとリリーは似た様な商会名でレオン商会とレオ商会だった。エルフィーも参加したが、ユウ商会と自分以外皆レオンハルトの名前に関する商会名だった。


 クイナの意味が分かる者はいなかったが、皆何故か賛同してくれた。結局俺自身が決めた事に反対しないと言う空気なのだろう。ただ、それを選んだ理由を説明するのが、少し大変ではあった。何せ前世の名前を連想させるものを選んだに過ぎない事をどう説明すると言うのだ。


 うまい理由が見当たらず、クイナは過去に居た偉人の名前から拝借したと言うが、実際に居たのかは恩恵による知識からも分からなかった。ただ、レオンハルトたちは知らないが、大昔商人として一時名を轟かせた人物の名前がクイナ・レナ・フォン・カルナードと言う者であり、それを知る事になるのは暫く先の事であった。


 商会の立ち上げ以外だと、アンネローゼたちや孤児たちを住まわせる屋敷の改造や片付けが終わった事だろう。借金奴隷として奴隷落ちしたドワーフの二人。兄弟子のベルトと弟弟子のブラム、元鍛治師のインゴルフ、熊人族の男性デデンに屋敷で修理が必要な個所を見てもらい直してもらう。トイレや台所、浴槽の設置など水回りの改装も行った。レオンハルトが取り付け方などを見せて、いたく感心していた。


 水回りの下水工事は、レオンハルトの様に魔法で解決するか、建築段階の基礎工事で処理をしなければ難しいが、台所のリフォームやトイレの取り付けは奴隷たちでも出来そうだし、物はドワーフたちが作ってくれそうだった。


 商会の一つにリフォーム業務を入れても良いかもしれない。そして、販売で水洗トイレや浴槽などを売り、取り付けで家の改修をする。どこかの大手家電量販店みたいな感じだろうか。家具類も色々置いても売れそうだな。


 まあ、それは後々考えるとして、今は子供たちが生活する屋敷の方だ。


 庭も綺麗になったし、庭の方にあった建物も修復しておいた。元々は、使用人の居住地として利用されていたようだが、今回は不要だろうと判断して子供たちが鍛錬できるように道場風の間取りにしている。簡単ではあるがシャワー室も完備させた。


 水の問題は、プリモーロにあるハンナのお店の様に貯水タンクを設置し、空気中の魔力を自動吸引して水へ生成する魔道具を取り付けた。


 ハンナのお店も何度も改良を加えて、今では定期的なメンテナンスに顔を出すぐらいで殆ど手がかからなくなった。


 服の依頼はあそこでする為、今でも定期的に訪問して購入してる。シャルロットは、色々オーダーメイドを依頼している様で、そのデザインを販売すると忽ち大ヒット商品になるそうだ。


 そう言えば、近頃は女性の悩みの物も相談に訪れているみたいだ。


 流石にこの水の自動生成魔道具は販売するつもりは一切ない。台所の(かまど)は市販のガスコンロの様な魔道具に切り替え、冷蔵庫の様な魔道具も設置している。流石に冷蔵庫の方は市販の物では頼りないので、その魔道具に手を入れて効率を高めたりしているが。


 下水も屋敷の下に新たに設置して、トイレや浴室、台所などの汚水は下水管を通って庭の地面に埋めた専用のタンクに溜まる様にしている。それだけではなく、汚水は一度タンク内で分別され、肥料になる物質と有害になる物質に分けられ、肥料の方は更に別のタンクへ移動し発酵させる。有害の方も肥料とは別のタンクへ行き、そこで魔法を使って浄化する。


 この一連の流れを行う魔道具は、試作段階と言う事もありレオンハルトたちの屋敷にもついていない物だ。まあ、彼方は此処の屋敷より違う意味で力を入れているので、設置をしなくても良いのだ。


「此処までの護衛助かりました。此方が依頼完了の証明です」


 ヨハンは、同行してくれた冒険者に完了の書類を渡す。三人の冒険者はそれを受け取ると頭を下げて冒険者ギルドへ向かった。


 この三人は、イリードで募集をかけて集まった二組の冒険者チームとは別の冒険者たちだ。イリードで採用した冒険者たちは道中の街までの護衛だったので、そこから更に募集を掛けたと言うわけだ。


「襲われる事は一切なかったから、本当に同行だけになっていたがな」


 ユリアーヌは、少し呆れ気味に話す姿にヨハンや他の大人たちは苦笑いをした。実際、ユリアーヌたちだけで問題は無かったが、念には念を入れての護衛なので、仕方がないと言える。


「アンネさん、長旅ご苦労様です。屋敷は何時でも使える様に準備を終えております。それと子供たちのお世話が必要かと思い。此方の使用人を数名配置しております。何かあれば指示を出してあげてください」


 トアとステラ、ミア、ミリアム、セシルを使用人としてつけ、仮の孤児院の護衛にアルヌルフとダグマル、ルドミラの三人を配置している。


「本当に迷惑ばかりかけてしまったわね」


「いえいえ、自分たちも幼少の時にお世話をしてもらいましたから、少しでも恩返しがしたかったので」


「ふふ、それに義理の息子になるレオン君には頭が上がらなくなりそうよ?」


「ちょっと!!お母さん!!」


 リーゼロッテは、事実ではあるが皆の前で言われた事に恥ずかしさが込み上げてきたのか、ついつい大きな声で反応してしまう。


「あんねせんせいー。もうおりてもいい?」


 子供たちは今に出も飛び出したい表情をしていたので、許可を出すと一目散に馬車から降りて庭を走り回った。


 男の子は、そのまま鬼ごっこを始め、女の子は手入れがされた花壇の所へ行き色とりどりの花を眺めていた。


「仕事体験もできる様に、うちの商会や話を通した所が幾つかありますので、気兼ねなく言ってください」


 レカンテートの孤児院の新築が出来るまでは、王都の屋敷で生活するようになるため、今までの様に狩りをして、お小遣いを得るのが難しく、村の中で仕事のお手伝いをしていた子供たちも仕事の体験を一時中断している。


 王都にいる間、暇にならない様に何処かのお店で短期的な労働経験を行い将来になりたいものを決めてもらうようにした。それと、学園希望者は学園へ通えるようになったので、勉強も並行して行っていく必要がある。


 子供たちが少しでも生きていける力が身に付ければ良いなとレオンハルトたちは考えていた。


いつも読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字のご報告もありがとうございます。

寒暖の差が激しいので、皆様お身体を壊さない様にしてくださいね。

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