101 奴隷商訪問
おはよう。こんにちわ。こんばんは。
鬼滅の刃の劇場版が始まりましたね。それに秋アニメもスタートしております。
皆さんのお勧めは何ですか?
自分は、劣等生と神様に拾われたetcを見ております。
「では、参りましょうか?」
フリードリヒが操る馬車に乗り込んで、今日の最初の仕事である奴隷商の元へ向かう。同乗者は、俺とシャルロット、エルフィーの三人。ローレは、誰も乗せていない馬車を操車して後方からついて来ていた。
他のメンバーは既に屋敷を出発している。
ティアナは、実家であるフォルマー公爵家に寄り、庭師の相談をしてから馬車に乗せて孤児たちの仮住まいとなる屋敷に移動。御者をラウラが務め、護衛に黒猫獣人のランを同席させている。
リリーもティアナ同様に実家であるラインフェルト侯爵家へ寄ってから、屋敷へ移動。御者をエリーゼが務め、護衛にランの師匠でもあるイザベラを同行させている。
イザベラは普段、レオンハルトの屋敷を警護している使用人だ。ランに戦い方を教えてくれているので、非常に助かっている。
リーゼロッテは、フリードリヒが俺に同行するため、孤児たちの屋敷の指示だしとして向かわせた。数人の使用人の他に狐獣人のルナーリア、黒猫獣人の妹リン、リタやナディヤも同行している。ルナーリアやリンはローレと共に調合や調薬などをしてくれている。
一応、ローレたちの上司の様な立ち位置にいるクリストハイトとイレーネ。イレーネは給仕係としても働いているが、二人とも領地の運営について調べ事をしたり、資金面の計算をしたりで忙しく、調薬等を見る人がいないから今回、リーゼロッテのお手伝いに行ってもらっている。
ローレたちと一緒に購入した奴隷で唯一ソフィアだけが今回屋敷から出ない。彼女は料理長の下で料理人見習いとして働いてくれているのだ。
屋敷に勤める多くの使用人や奴隷たちが屋敷を離れると言う事もあり、大急ぎで食事の準備をしてくれた。昼間は使用人たちに外食の許可を出しているので、ソフィアたち料理を作る者は、久しぶりの休息が得られるだろう。まあ、屋敷に残る使用人も居るので、その者たちの食事は用意しなければいけないが。
「ご主人様、目的地に到着しました」
フリードリヒの言葉に一同は降りる準備を始める。
以前は乗合馬車での移動を行ったので、目的地から少し離れた位置で降りる事になったが、今回は個人の馬車で来ているため、お店の前で停車している。
ローレたちを購入した奴隷商。一見さんお断りと言う高いハードルと扱う奴隷の質が基本的に上位に君臨する王国内でも大手の奴隷商だ。
奴隷の質が良いと言うが、当然ローレたちの様な訳ありの子も扱っている。と言うよりも保護していると言って良いだろう。ただ、流石に数年も居られると奴隷商としても困るので、その時は然るべき対応をするそうだ。
「会員証か許可証を拝見いたします。・・・確認しましたので、中へどうぞ」
以前警備をしていた熊の獣人が、今回も警備をしており、此方の顔を覚えていたようだ。一瞬注意しかかるが、寸前で思い出したため普通に対応してきた。
「いらっしゃいませー。どの様なご用件でしょうか?」
中には居ると初めて見るおっとり系の美人な受付嬢。年齢は二十歳を超えたぐらいだろうか。
「支配人のベルネット氏はおられますか?」
受付嬢は此方に断りを入れて席を立ち、裏方へ移動した。その数分後、受付嬢と一緒に支配人のベルネットが姿を現した。
「これは、これは。ようこそお越しくださいましたレオンハルト様。本日はどの様なご用件で?」
ベルネットは、レオンハルトの様子を伺いつつ、同行者の顔を確認する。すると、後ろの方に控えていた使用人の様な格好をした女性を見て驚く。
「ま、まさか・・・あなたは、ひょっとしてローレですか?」
彼女は、此処でレオンハルトたちに買われて出て行った奴隷の一人。当時は足が骨折し変形してしまった為、動かす事が出来ず立つ事すらままならなかった。
それが今では、自分の足でしっかり立ち、普通の人と変わらないレベルの歩行を見せていたのだ。
「レ、レオンハルト様?彼女に高位の治癒魔法を?」
誰が使用したのかは教えず、頷いて教えるだけにした。当然、彼女が元気にしていると言う事は、同じく買われた他の六人も元気にしているか気になるベルネット。自分が売った奴隷だけに、彼女たちがその後どうなったかと言うのは、とても気になっていたのだ。
「ええ。皆、元気に頑張ってくれていますよ」
今日一番の笑顔を見せるベルネット。売った奴隷のその後の様子を聞き、無事に頑張っていると聞くと嬉しそうに喜ぶ当たり、本当に人が良さそうだと思うレオンハルト。だからこそ、奴隷商と言う知り合いが殆どいないレオンハルトからしたら、此処で奴隷を購入したいと言う気持ちになる。
「また、奴隷が必要になってな。悪いけど見せてもらっても?」
「それは、どうぞこちらへ」
依然と同じくどの様な奴隷を必要としているのか尋ねられて、今欲しい人材の説明をする。
「大工仕事・・・ですか?」
そのうちの一つが、大工仕事が出来る奴隷だ。まあ、孤児たちの屋敷の修繕もそうだが、今後、ローレたちが行う店舗で水洗トイレや浴室などのリフォーム業にも手を出すつもりでいる。その時に取り付けを行える人材として、数人欲しいとこではある。
加えてレカンテートの街の発展開発にも携わってもらう予定だ。
欲しい人材の種類が多種多様のため、ベルネットは今いる奴隷の一部を除いた者たちを見てもらう事にした。一部の奴隷とは、房事をする為だけの奴隷だ。普通は此方を主に求めてくるお客が多いが、彼はそれを除いた人物を要求してくるので、代わりものだと思ってしまう。
「人数が何分多いので簡単にご説明していきます」
最初に連れられてきたのは、どれも質としては最高峰の者たちを取り揃えている場所。没落した上級貴族を始め、容姿が優れている者や戦闘技術が秀でている者、多彩な才能を持っている者たちだ。
「此方では、この部屋と其方の部屋以外でしたら、皆該当する者たちになります」
つまり、ベルネットが教えてくれた部屋の住人は房事のみを追求した奴隷と言う事だろう。通りすがりに部屋の中を見たが、かなりの美女、美少女ばかりだった。悲しい事に女性ばかりなのは美男子を置いても購入してくれない事が多いからである。他に手に職をつけていれば売れるが、房事だけの男性はそもそも売れないから、置いていない。女性より男性の方が一応権力を持っているのだ。
「此方の人族の女性は契約奴隷ですが、かなり高い素質を有しておりますよ?例えば、算術に礼儀作法、それと護身術ですね」
見た感じは、二十代前半と行った所だろう。抜群のプロポーションに整えられた顔立ち、薄い青色の髪が窓から入る光源と重なり幻想的に見えた。
「それと、此方の男性は、近接戦闘、中距離戦闘を得意とする奴隷ですが、他にも斥候としても活躍してくれますよ?」
あれ?房事を除いて貰ったら戦闘奴隷を紹介され始めた。確かにある程度戦闘が出来る人物とは言いはしたが、戦闘重視と言うわけではなかった。
戦闘職ではなく生産職や家事全般を重視してもらうことに路線変更を頼む。
「これは、これは。申し訳ありません。つい目玉商品をと思いまして・・・では、此方はどうですか?」
部屋から三人の奴隷を連れてくる。一人はドワーフの男。年齢は分からないがドワーフ特有の髭面をしていた。真ん中にいるのは、同じくドワーフの男だが、此方は一人目と違いまだ若い感じがする。三人目は熊の獣人・・・性別は男らしい。見た目は熊にかなり似た風貌だが、見た目に反して戦闘はからっきし駄目だが、代わりにその巨体を使った力仕事はお手の物との事だ。
ドワーフの二人は借金奴隷との事だが、腕は今いる奴隷たちの中で群を抜いて優秀らしい。物作りに熱中して金銭を湯水のように使い、結果多額の借金が残ったと言う事。熊獣人の方は故郷で仕事がなくなり、自ら自分を売りに来たそうだ。取り敢えず、保留と言う事にして他を見る。
次に紹介された人物は四人の女性。一人は他国の貴族の元令嬢との事、親族が粗相をして財産を没収されたそうだ。年齢は二十歳前後で、借金の方に売られた通常奴隷。次は虎人族の少女。戦闘は出来るが、性格的に憶病らしい。一応、使用人として躾はされているとの事。三人目は、人族の美少女で珍しい事に虹彩異色症の持ち主。赤い瞳と茶色の瞳を持っていた。二属性の魔法と召喚魔法が使えるそうだ。最後は、鳥人族の女性。人族と変わらぬ姿に背中から青い翼をつけていた。風属性魔法『飛行』の様に空を飛べるらしい。家事全般と槍術と弓術も少しなら行えるとの事。
その後も色々な奴隷を紹介される。
人族が約三十人前後、獣人が同じく約三十人前後、亜人も十五人程紹介された。これでも約半数は飛ばしているそうだ。
「一応、一般的に問題が無い奴隷は以上になります。ローレの様な何かしらの問題を抱えている奴隷も数名居ますがご覧になられますか?」
前回は、ローレたち訳ありの奴隷を殆ど買っている。だから奴隷商も彼らなら大丈夫だろうと判断しての発言。
問題の程度にもよる。治せる病気や欠損部位とかならどうにか出来るが、不治の病や先天性の障害は状況による。更に対応が難しいのが、犯罪奴隷だろう。彼らは、かなり厳しい制約で悪さは出来ないが、使い潰すような労働が主になる。素行も悪く、場合によって雇主に不利益な事が起こる事も十分考えられるのだ。例えば、禁止事項にギリギリ触れない事とか。
まあ、前提条件を伝えれば、奴隷商の方が選定してくるだろう。
「準備がお済みの様です。此方へどうぞ」
案内されたのは、ソフィアたちがいた場所だ。
「この少女は、馬車の事故で背中の骨を折ってしまい。どうにか此処まで回復させたのですが、不幸な事に足が動かなくなってしまったのです。文字と算術ができるので、こうして此方にいますが、その・・・」
ベルネットが徐々に口籠る。あまり良い結末では、ないのだろう。奴隷が売れなければ、鉱夫として鉱山へ移送せれる。しかし、彼女の場合それが叶わないので、安楽死させるのだろう。若しくは何らかの実験に使われる。
文字と算術が出来る人材はとても魅力的だった。取り敢えず、彼女の状態を魔法で確認させて貰う。
「どうだ?治せそうか?」
「脊髄損傷による中枢神経が断裂しているみたい。でも、これなら治せそうよ」
「そうか。わかった。一人目は彼女にしますので、支度を頼みます」
その後、複数人見せてもらい。合計で二十一人購入する事にした。脊髄損傷の彼女、トアと言う名前で、元々商人の娘として育てられたそうだ。馬車の事故で両親は亡くなり、彼女と妹のステラだけ残ってしまった。親戚たちは彼女たちを引き取れるほど豊かではなかったので、二人とも奴隷商に売られてしまった。
ステラもまだこの店に残っているとの事で、一緒に購入する。
右腕を欠損していた犬人族の少年に、とある魔物の体液で失明した狸人族の少女。遺伝性の病気を患った人族の母親と娘。この二人の病気は結晶硬化症と言うこの世界の病気だったが、神から貰った恩恵の知識の中に治療法があった。後は、普通に問題がない奴隷たちから、最初に紹介されたドワーフの二人と熊人族の男性。他国の元貴族令嬢に虎人族の少女、虹彩異色症の美少女に、鳥人族の女性。親娘とステラを除く女性たちは皆房事可能らしいが、俺としてはその予定はない。
後はエルフの女性と少女、ハーフエルフの少女、小人族の男性、元鍛治師の男性。羊人族の女性と狼人族の少女に最後は村娘を選ぶ。
思いの外、良い人材がいた事は朗報ではあった。俺が選んだ人材はドワーフの二人と熊人族、それに元鍛治師の男の四人だけ。
フリードリヒは、元貴族令嬢と虹彩異色症の美少女、親娘の二人に村娘の合計で五人である。元貴族令嬢は、給仕係として配属を考えているらしく、基礎がある分即戦力に期待してのこと。虹彩異色症の美少女は、虹彩異色症を持っているだけで、人気がある。虹彩異色症保持者は、魔力を普通の人の数倍近く持っているからだ。そして、何かしらの魔眼を使用できると言われている。彼女は俺たちの護衛をと考えて購入したそうだ。親娘と村娘は単純に孤児たちの世話のフォロー要員としてなのだそうだ。
残りはシャルロットとエルフィーの二人が選んだ。獣人や亜人種が多いのは、人族よりも優れた能力を持っているから。今後どう役立っていくか分からないにしても、いざと言う時に備えてもある。それと。不遇されやすいための保護も半分近くの割合で考えていた。
ローレたちの時と違い人数も質も違うためかなり高額になってしまった。
「本日もありがとうございます。それと、レオンハルト様にご連絡が、三月ほど先の事にはなりますが、この王都で、オークションが開催されます。それとは別に裏オークションもありますので、よろしければ是非お越し下さい」
おおっ!オークションだと。
前世でもインターネットオークションがあり、かなり多くの人が利用した事があるあのオークション。これは、是非参加しておきたい。
何せオークションは、掘り出し物の聖地。他国の特産品を集めた巨大市場も良いが、それよりも稀な物が多くある。
ただ、オークションと裏オークションの違いが分からなかったので聞いてみると、オークションは普通に出回るものよりやや珍しい物や奴隷、魔道具などを取り扱っていて、裏と言うのは国が認めているが、取り扱いに注意しなければいけない物や珍しい種族や特殊な能力を持つ奴隷。凄く低い確率ではあるが、過去には上級貴族の令嬢や王族の姫もオークションにかけられた事があるそうだ。
そう言う特殊な地位にいる物が出てくる時は、だいたい何処かの国が滅んだ事が理由に挙げられる。
この二つのオークション以外に闇オークションと言うものも開催させているらしいが、これは国が許可をしておらず、非合法のオークションである。内容もオークション、裏オークションに出せない様な物や取り扱い禁止の薬品や道具、呪われた装備品、希少生物の売買などだ。後は、誘拐された人々に保護対象となる生物や種族である。
「良かったら参加されませんか?我が商会も両方に出る予定です。普段はお伝えできないのですが、レオンハルト様には何時も贔屓にしてもらっていますので・・・」
ベルネットはこっそり情報を教えてくれる。別に贔屓にしているつもりはない。国王陛下が許可書をくれた商会だから使用しているだけに過ぎないが、ベルネットからしてみれば、ローレたちもそうだが、今回のトアたちも普通、能力があっても買おうと考える者は限りなく低い。それを毎回選んでくれるのだから、二回目の利用だろうと贔屓にしたいと言うのが奴隷商の意向だ。
「因みにどんな子を出すか決まっているのか?」
紹介された奴隷たちもどれも良い事には良いが、悪く言えばありきたりの者も多かった。通常のオークションでは出せる子は数人いるだろうが、裏の方だと厳しいのが現状。もしかしたら房事のみの奴隷に候補者がいた可能性もあった。
「値段や具体的な詳細は教えられませんが、一応目玉としては、通常のオークションに二名、裏で五名用意しています」
思いの外多い事に驚く。全部で七名ではなく目玉としての人数が七名と言う事だ。
「種族としては、以前レオンハルト様が購入された狐人族と同じ、狐人族ですが黒い毛並みの黒狐と呼ばれる希少な種や狼人族の仲間で雪狼族と呼ばれる北国で暮らす狼人族です。他にも希少な種やこの地域では見ない種もいますね」
獣人について詳しくなかったため、疑問に思った事を確認する。
「同種族がいた方が、安心したりしますか?」
今回購入した犬人族や狸人族、熊人族などやルナーリアの様な狐人族に同種が必要なのかどうかを確認する。猫人族であるランとリンは兄妹ではあるが、一応同種であるがルナーリアは狐人族としては孤立している。
同種族がいた方が良いのであれば、検討の余地があると考えている。
「そうですね。いると安心されると思いますが、獣人族と言う種族が居るのであれば、それ程気にしなくても良いかと思いますよ?」
いる方が良いのか。いなくても平気なのか。結局のところ、明確な答えにはなっていないが、奴隷たちには選択肢が無いと言う事だろう。
(屋敷に戻った時にでも相談してみた方が良いかな)
オークションについて、参加するかどうかは考えておく事にする。奴隷以外にも色々な物が出展されるようなので、見に行くだけでも良いかもしれない。
その事を伝えると、オークションに行かれる際は是非ご一緒にと招待された。彼は出店者側だが、魔道具など良い物があれば時々購入しているそうだ。
取り敢えず、今回の奴隷たちの支払いをし、契約を済ませる。
二台の馬車で此処まで来ているがお店の外には四台の馬車が停まっている。
「エリーゼにラウラ。二人とも来てくれていたんだね」
ティアナを実家経由で孤児たちの屋敷まで送り届けた後、此方に来ていたラウラ。その護衛をしていたランも馬の近くに待機していた。同じくリリーを送り届けたエリーゼも使用人のイザベラと共に此方に合流してくれていたのだ。
奴隷たちを馬車に乗せて一度屋敷に戻るレオンハルトたち。
道中で、新しく購入した奴隷たちに必要な消耗品を買いながら戻り、到着すると直ぐに割り当てた部屋へ案内する。
ローレたちと同じく。怪我や病気のある者を治療するためだ。そうでない奴隷たちはフリードリヒやローレたちに連れられて、まずは使用人が利用できる浴室へ案内させた。奴隷と言っても身体を拭いたりはしていたが、それだけでは汚れは落ちない。なので、石鹸で身体を綺麗にし、湯船に浸かって長年の垢を落としてもらう。
戸惑う奴隷たちだが、この屋敷では当たり前の事だと説明して、順番に入ってもらった。
一方レオンハルトは、シャルロットとエルフィーの二人を連れて、脊髄損傷による下半身麻痺の少女トア、右腕を欠損している犬人族の少年アルヌルフ、失明している狸人族の少女マルガ、結晶硬化症を患っている母親のミアと娘のミリアムの治療を行う為にそれぞれの部屋を訪問した。
奴隷たちの名前については、馬車で移動中にランやイザベラ、ローレたちが聞き出していた。
トアとマルガの治療はエルフィーに任せて、シャルロットにはアルヌルフの治療を行ってもらう。俺は、ミアとミリアムの病気の治療を担当する事にした。
「エル。もし魔法を掛けても治せない様ならシャルを頼る様に」
エルフィーには、これまで医学的な知識をある程度教えてきている。人体の構造であれば、王都でもトップクラスの知識は有しているし、実際に治癒魔法で同じ様な症状の者たちを治してきているから大丈夫ではある。まあ不測の事態に備えてと言う意味を込めて伝えておいた。
シャルロットには、欠損部位の治療が終わり次第、エルフィーに合流するように伝えている。問題がなければ、そのまま二人で、他の奴隷たちの健康チェックを行ってもらう為だ。
実は、この健康チェックは使用人たちを本格的に雇用し始めた時に考えた仕組みで、ユリアーヌたちや執事や給仕係たちなどの使用人、奴隷たち全員を年四回実施する様にした。
俗に言う所の雇い入れ時の健康診断みたいなものだ。魔法で全身チェックするので、健康診断以上の細かい部分まで調べる事が出来るが。
「ローレ。君は俺と一緒に薬の調合をするよ」
結晶硬化症の治療法は、治癒魔法ではなく投薬による治療法だった。希少な薬草を使用したり、珍しい素材をつかったりする様だが、一応手元にある材料で作る事が出来るので良かった。もし、材料がなければ、買うか採取しに行くしかなかった。
「まず、結晶硬化症の薬を作るにあたって、グルソンを使う・・・これを磨り潰したらクランベリーの汁と混ぜ、水薬を少しずつ加える・・・」
ローレに作り方を教えながら実際に作り方を見せて教える。グルソンは、痺れ薬としてもつかわれる薬草で、綺麗な水がある場所に生えている。痺れ薬として使われる反面、手を加えれば痺れ治す薬にもなるのだ。
今回は、どちらかと言うと痺れ薬としての効果が出るみたいで、直す時の痛みを痺れさせて感覚を分からなくする様だ。イメージとしたら局所麻酔の様なものだろう。
「ワイバーンの爪、ロック鳥の嘴、ローエンハイブの葉を加えて熱し、綺麗な布で不純物を取り除いたら、植物油を入れる」
ワイバーンの爪とロック鳥の嘴は、そのまま入れるのではなく石臼で粉末状にして入れる。ローエンハイブの葉が希少な薬草の一つで、山間部の綺麗な水・・・それも滝が流れている滝の裏側で自生しているのだ。
万病薬の素材の一つでもあり、そのまま煎じて飲んでもある程度の病気であれば和らげてくれるのだ。
「植物油ですか?」
既に何故そんな工程を取っているのか理解できないローレだが、レオンハルトはその疑問をきちんと説明する。
「油と使って更に不純物を取り除く必要があるんだ。見てごらん?油と一緒に不純物が沈殿しているだろ?この上の透き通った部分が薬になるんだ」
上澄み液をあらかじめ用意していた蒸留水で希釈する。すると、淡い黄色い液体に変化した。
「これが、あの親娘の結晶硬化症を治療する薬だ」
調薬を終えると、その液体を持って二人がいる部屋を訪れる。
「ご、ご主人様?この度は、娘と・・・」
「・・・ミアだったね。すまないが先に結晶硬化症の治療をする。ミリアムと一緒にそこのベッドに横になってくれるか?ローレ、この液体を布に染み込ませて患部に当ててくれ、それが終わったら、同じ薬を飲ませるんだ」
ローレは、指示されたように清潔な布に淡い黄色の液体を染み込ませて、娘のミリアムの結晶硬化症となっている患部に染み込ませた布を押し当てる。
「うっ!?」
凄い刺激臭で嘔気に襲われるが、それに耐えながら今度は、治療薬を飲ませる。ミリアムも自身から発する刺激臭に顔を歪めているが耐えるしかない為、我慢しながら淡い黄色の液体を飲んだ。
「―――全部飲んだね?暫くは身体が動かしにくいだろうけど、明日には元に戻るはずだ。後で同僚の者を此処に来させて、世話をさせるから。ローレ行こうか」
レオンハルトは、ローレと共に二人の部屋を出る。
「私は付いていなくてよろしかったのですか?」
「構わないよ。後でエルフとハーフエルフの子、羊人族に両目の色が違う子に様子を見てもらうから、それにシャルとエルも屋敷に残しておくし・・・ローレも良かったら手伝う位で良いよ?」
ローレは、如何やら手伝うつもりらしく後で、部屋に伺うそうだ。
四人の奴隷以外の奴隷たちには、今日一日安息日として与えた部屋で休んでもらい。明日の朝から働いて貰うつもりだ。まあ、部屋で休む前にフリードリヒたちが、仕事の説明をしたり、仕事着の採寸をしたりするのだろうけど。
四人の奴隷には、後日安息日を設ける事にする。
「エリーゼとラウラ。悪いけどもう一つの屋敷に行くから馬車の用意を」
馬車二台を用意してもらっている間に、厨房へ行き料理長へ人数が増えた事を伝えて提供する食事の量を増やしてもらう事に、すると料理長の指示でソフィアが新しく入った奴隷たちの所へ食べられない物を確認しに行った。
種族的に食べれない物やアレルギー反応を起こす可能性を考えての行動の様だ。確かに、羊人族に羊肉を食べさせたり、鳥人族に鶏肉を食べさせたりするのは、倫理的にきわどい所だろう。
エリーゼから準備が出来たと言う事なので、馬車に乗り込む。イザベラとランも一緒に同行する様なので、ラウラが御者をする馬車に乗ってもらった。
場所が変わって、ユリアーヌたちがいるイリードでは、今日も朝から雨が降り続いていた。
「雨の勢いが弱まってきたから、明日には出発できそうだね?」
「ああ、そう言えばギルドへ行った時に二組の冒険者が護衛依頼を受けてくれたみたいだぞ」
レオンハルトたちが去った後、その日はずっと雨が降り続け、冒険者ギルドに依頼を出しに行ったユリアーヌたちも明日の出発から雨が止んでからの出発に内容を切り替えて依頼を出した。
雨が降っていなければ、今日の朝出発していただろうが、あいにくの雨で一日延期となり、暇になったユリアーヌたちは、宿屋にある食堂で雑談をしながら過ごしていた。子供たちは二日も宿屋に足止めになってしまった事から暇を持て余し、ウロウロして他の客や従業員に迷惑をかけ始めたので、アンネローゼとアニータ、エッダの三人は子供たちと一緒に過ごしている。
「ダヴィ。二組の素性は調べたのか?」
「ああ。一組は、Fランク冒険者三人の男女混合のチームで、護衛依頼はこれで三回目らしい。若いが、しっかりした良いチームだったよ。もう一組は同じくFランク冒険者三人にEランク冒険者二人の獣人族のみで構成されたチームだったよ」
実際に依頼主である円卓の騎士のダーヴィトは依頼を受ける冒険者たちとの打ち合わせを行いその時の印象を伝えた。
「そよ風の旅団に鋼の牙。どちらも聞いた事が無い名前だな」
そよ風の旅団が男女三人構成の冒険者のチーム名で、鋼の牙が獣人族の冒険者のチーム名らしいが、どちらも名前負けしている。まず、旅団と呼べるほどのメンバーがいないそよ風の旅団。今後増える事を見越しているのかもしれないが、増えなかった時は気の毒でしかない。それに鋼の牙のチーム名も虎人族や獅子人族などの獣人の集まりならば、チーム名通りだが、猫人族に、犬人族、狐人族で構成されているらしく、鋼の牙と言うにはインパクトがなさすぎる。
まあ、自分たちも人の事は言えない。円卓の騎士と言う名前のチーム名。テーブルを囲う騎士ってだけでも変なのに、そもそも自分たちは騎士ですらない。
まあ、チーム名が普通の爪とか、若者の集いなんて名前だったら、誰も依頼をしようとは思わないかもしれない。
そんな事は、今は良いとしてその二組の冒険者の事を詳しく聞く。
「僕は、その二組で良いと思うよ?鋼の牙はディアントまでで、そよ風の旅団はラウロまで護衛してくれるんだよね?」
ヨハンの言うディアントとラウロとは、交易都市イリードから王都アルデレートまでの道中にある大きな街の名前だ。イリードから二日ほど進めば要塞都市ディアント、そこから北上して三日程進めば歌の都ラウロがあるのだ。ラウロから二日ほどの距離に王都があるので、ラウロから王都までは最悪、ヨハンたちだけでも問題はない。と言うより最初からヨハンたちだけでも対処できるが、安全策を取って依頼しているだけの事。
本当は各街の道中に村や宿場町もあるが、そこまでの護衛はあまりいないだろう。
「夕方にもう一度ギルドへ行くが、問題ないなら話を確定してくるぞ?」
誰も反対意見を出す者がおらず、結果そよ風の旅団と鋼の牙それぞれを護衛として依頼し、翌朝天気が回復した事もあり、一日遅れの出発をする事になった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字のご連絡ありがとうございます。間違いが多くて申し訳ありません。
登場人物が増えてきたので、一度何処かで紹介枠を作ろうかと考えております。
来週は少し文字数が少なるかもしれませんが、投稿できるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします。




