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100 忙しい日常②

おはようございます。こんにちは。こんばんわ。

皆さん遂に100話突破しました。


それと、本ストーリーに出てきた二つ名だけ登場している人物を主人公にした作品を現在執筆しております。

まだ、書き始めたばかりなので投稿はしばらく先になるでしょうが、応援お願いします(笑)

 翌朝、目が覚めると微かに聞こえる音に少し、憂鬱な気分にさせられた。そのまま着替えをして、部屋を出る。鍵をかけて受付に鍵を返しに行くと、既に何人かが起きていた様で声をかけてきた。


「おはよう。今日は雨が降っているみたいね」


「レオンハルト様、おはようございます」


「おはよう、シャル。それにエルも」


 シャルロットとエルフィーも鍵を返しに来ていた・・・・と言うよりも彼女たちは二人部屋で同室だったようだ。そして、朝一から憂鬱にさせている正体は、雨が降っている事。前世の様に夏の焼けたアスファルトに雨が降れば、何とも言えない様な匂いを感じるが、此方ではそう言った事はほとんどない。何せ路面が舗装されていない土なのだから。


 だから、雨の時は地面がぬかるみ易く馬車を動かす事が難しいし、傘の様な代物も殆どなので、水を弾く外套を羽織る必要があるのだ。


「空模様を見ますと、今日一日降りそうですね」


「そうだね。まあ、幸か不幸か今日は補充や護衛の依頼をするだけだけど、明日以降も雨だと少し予定を考えないといけないかな?」


 今回は交易都市イリードから北上する経路で王都を目指す事になる。余り使った事のない経路ではあるが、イリードから王都に向かう経路では最もよく使われており、魔物からの襲撃は少なく、比較的安全と言える。逆に人の往来が多い所は盗賊の出現率も多少上がるが、それらも基本的には兵士などが巡回し捕縛しているので問題ない。


 そして、雨だと地面がぬかるんでいて馬車が思う様に進まないのと、野営をしても身体が休められない上に、戦闘でもかなり足を取られるのだ。


 昨日の騒ぎが嘘のように静まり返っている食堂で、他の仲間たちを待つレオンハルトたち。十数分後には、何時ものメンバーが揃っていた。


 それだけではなく子供たちも続々と降りてくる。


「皆好きな物を食べて良いぞ」


 朝食セットならぬモーニングセットを食べていたレオンハルトが、降りてきた子供たちに朝食を取らせる。モーニングと呼称し直したのは、おまかせサラダに何かの魔物のベーコン、オニオンもどきのスープ、そしてパンと言いうメニューだった。


 アンネローゼとしては、出来るだけレオンハルトたちに負担をかけたくなかったので、外食時は出来るだけ安価な物を食べさせるつもりでいた。流石に安過ぎると単品のものになるので、セットのものにするつもりでいた。


「いいの?やったーわたし、この・・・やき、とり?の、何とかセットが良い」


「おれは・・・お、これだ。スタミナセットって言うの」


「ぼくは・・・」


 子供たちは各々と食べたい物をリクエストしてきたので、店員を呼んで注文する。最初の女の子がリクエストした食べ物は、焼き鳥の香草セットでパンとスープと鳥を香草と一緒に焼いた代物で、次にリクエストしたスタミナセットは、魔物の肉をステーキ状にして提供するものだ。他にもアップルパイの様な物や肉や野菜を挟んだ総菜パンの様な物を頼む子もいた。


 会計をまとめて払っておく。追加で頼む可能性もあるので多めに払い。余った分はチップとして受け取っておいてくれと伝える。


「さて、俺たちは行きますので、後は任せるよ?」


 食事中に粗方打ち合わせも行っていたので、食べ終えると直ぐに席を立ち別行動に移る。何せ子供たちの人数が多いので、全員が座る事が出来ず、食べ終わった者から順に部屋に戻ったり宿屋の中を探検したりして、待っていた他の子供が食事を食べ始めていたのだ。


 俺は、シャルロットとリーゼロッテ、ティアナにリリー、エルフィーを連れて宿屋を出る。同時にダーヴィトとクルト、ヨハンの三人も宿屋を出た。彼らは冒険者ギルドで護衛依頼の募集と食料や消耗品と言った物の補充に出かけた。


 途中でダーヴィトたちとも別れ、俺たちはそのまま人目の付かない裏路地に移動した。『周囲探索(エリアサーチ)』で回りに誰もいない事を確認した後、転移魔法で屋敷の地下に移動した。


 部屋や執務室ではなく地下を選んだのは、彼らが雨に打たれて濡れているからだ。そんな恰好で部屋や執務室に飛んだ場合、間違いなく絨毯を汚してしまう。魔法で綺麗にできるのだが、自分たちの服装だけでなく絨毯やその他諸々を綺麗にするのは何か思う部分もある。


 恐らく日本人だった頃の罪悪感の様な物だろう。日本人は家に入る時靴を脱いだりするが、欧米などは靴のまま入る。アルデレール王国もアバルトリア帝国も欧米スタイルなのだ。地下ならまだ汚れてもそれ程、罪悪感は湧かない。


 六人は雨用の外套を脱ぎ、地下室の一角に用意された洋服掛けに外套を掛ける。これもこう言う時の為に用意しているものだ。


 地下室から出ると、ローマンと遭遇する。


「ご、ご主人様っ!!お、おはようございます」


「おはよう。悪いけど下に濡れた外套を掛けているから、後で外干するように伝えておいてくれるかな」


 ローマンにさせても良いが、彼は執事として働いてくれている。濡れた外套を外に干すのであれば一度雨水を洗い落とす必要があるため、執事である彼よりも給仕係(メイド)の仕事になる。


 イリードと違って王都は快晴の様だ。日の光が窓から差し込み屋敷を明るくしてくれている。朝と言う事もあり皆、掃除や今日一日のスケジュールの確認など大忙し。すれ違う度に作業を止めて挨拶してくるから申し訳なく思う。


 そう言えば、前世で働いていた時、代表取締役や専務等の経営者が部署に顔を出した時は、皆作業を止めて立ち上がって挨拶をしていたっけな。


 昔の事を思い出し、少し微笑してしまう。


 一度、各々の部屋に戻り、服を着替えて執務室で予定を話しているとフリードリヒが入室してくる。


「おはようございます。本日のご予定ですが・・・」


 フリードリヒにも話をしているので、直ぐに動ける様だ。それにフリードリヒ以外にも給仕係(メイド)が数名、護衛をしてくれる黒猫獣人の兄妹の兄ランも同行する。彼も他の者たちに揉まれてかなりの実力をつけているそうだ。


 俺とシャルロット、リーゼロッテ、ティアナ、リリー、エルフィーの六人は王城を訪問。国王陛下に呼び出されている。恐らく王立学園の件について打ち合わせだろう。ついでに孤児院の子供たちの編入とユリアーヌの年齢的な事を確認しておくつもりだ。


 孤児院の子供たちが編入できるかが、今回の大きな問題点になるだろう。


 王立学園は確かに平民も通っているが、それでも身元がはっきりしている。家庭に余裕があると言う平民しか通わせていない。学費が払えないから通わない。家業の手伝いで通えないと言う子供の方が圧倒的に多い。


 これまで、孤児院の子供が通った例は一例もない。これは、アンネローゼから教えてもらった情報だが、前提条件を考えると確かに通える雰囲気ではなかっただろう。


 もしそれを許せば、他の貴族から苦情の嵐になる。「優秀な我が子を無知で礼儀知らずの孤児と一緒に居させるのはどういうことかっ!!」ってね。


 ただ、それは後ろ盾をする貴族と孤児たちの学力不足も起因するため、それらを取り除ければ、多少は緩和されるのではと言う考えもあった。何せ優秀な人材はどの貴族も喉から手が出るほど欲しいだろうから。


 まあ、前置きはさておき、俺たち六人は馬車に乗り込み王城へ向かう。今回はエリーゼだけで、ラウラはお休みだ。


 王城に入る前の城門で兵士に入城の手続きを行い、馬車をいつもの場所に停めエリーゼを待機させる。俺たちはそのまま王城の中へ入る。


 騎士に国王陛下から呼ばれている事を伝えると、そのまま会議室の方へ案内された。


 暫くすると、アウグスト国王陛下とエトヴィン宰相、ラインフェルト侯が入室してくる。何故かその後ろから、コンラーディン王太子殿下とレーア王女殿下、エクスナー枢機卿、シュヴァイガート伯、エーデルシュタイン伯も入室してきた。


「ふむ、アヴァロン卿。急な呼び出しで、すまぬな?」


 アウグスト国王陛下の言葉に、まずは挨拶をした。


「今日呼び出した用件だが、まずは王立学園の事だ。王立学園への編入試験だが、半月後ぐらいでどうだろう?あまり早いとなると学園側の準備が難しくてな」


 編入試験は、筆記試験と実技試験、魔法試験の三種類。正し、魔法試験は魔法が使える者のみとの事。魔法試験を受けた者は、魔法関連の授業を選択できるそうだ。


 授業の種類も多種多様の為、自分で履修科目を選択する。これは事前に仕入れていた情報なので、再確認の意味で話を聞いておいた。


「あと、レーアもレオンハルト君と一緒に王立学園に通う事になったから、学園ではよろしく頼むよ」


 一通り話を聞いた後、コンラーディン王太子殿下よりニコニコと笑みを浮かべながら、とんでもない事を口にした。


「殿下も編入されるのですか?」


 レオンハルトの驚きに、レーア王女殿下が少しだけ頬を膨らませる。


「レーア」


「え?」


 何のことを言っているの変わらず呆けていると、再びレーア王女殿下は不機嫌そうな顔で答える。


「殿下は嫌です。レーアと呼んでください」


 なる程、呼び方に不満があったのかと思ったが、今は不味い気がする。此処は非公式とは言え王族や上級貴族が居るのだ。流石に呼べるはずもなく、如何にか抵抗する。


「流石にこの様な場では、お呼びできません。またの機会にしていただけませんか?」


「おや?構わないと思うよ?ねー父上?」


 コンラーディン王太子殿下は問題ないと言い、それに同意を求めるとアウグスト国王陛下も頷いていた。この場に居る者は皆、俺とレーア王女殿下との婚約を知っているからだろう。


「わ、分かりました。レーアもこれで良いかい?」


「ダ、メ、です・・・レオンハルト様は、(わたくし)がご一緒ですと・・・その、迷惑ですか?」


 機嫌が直らないレーア王女殿下。問題は呼び方だけではなかった様だ。最近彼女の時間をあまり取れていないから余計にこういう一緒になれる時間を彼女なりに確保したい気持ちがあったのだろう。それにしても、美姫と言われる程の彼女の容姿で、その膨れ顔は何と言うか、とても可愛らしく思う。


 決して迷惑ではなく、ただ確認の為に聞いたと説明する。


「前に話をした婚約発表の事だが、編入後にお主とレーアとの婚約を発表しようと思うのだ。当然、他の婚約者たちも含めてな。その話し合いも必要だろう?」


 遂に来たかと項垂れる。本来ならば喜ぶところだろうが、考えても見てほしい。前世では結婚経験のない俺が、急に六人の美少女と結婚すると言う意味を。更に肉体的年齢は同年代だとしても精神年齢はその三倍ちかくあるのだぞ。


 ロリコンと罵られても否定できないのだ。加えて言うならば、婚約から結婚までは多少期間が開いたとしても、結婚する頃の年齢は前世で言う所の中学生ほど。「早すぎるだろうッ!!」と突っ込みたくなる年齢だ。


 その事実は知っていたが、あまり現実を直視したくなかったので目をそらしてきたが、婚約発表をしてしまったら、そう言うわけにもいかない。


 はぁー。


 溜息が漏れるレオンハルト。逆に隣に座っているティアナとリリー、エルフィーと向かい側に座るレーア王女殿下はとても嬉しいのだろうか大喜びしている。シャルロットとリーゼロッテは喜んでは居るが、他の者たちよりは落ち着いている。


 四人は、喜びすぎてエクスナー枢機卿が咳払いするほどだった。


 このタイミングの咳払いは、孫娘や他の令嬢に慎みなさいと言う合図である。それを理解した四人は顔を真っ赤にして伏せてしまった。


「そう言えば、婚約発表を行うにあたってアバルトリア帝国へも報告は必要ですか?」


 そう、レオンハルトはアルデレール王国では伯爵の爵位を授かっているが、それとは別にアバルトリア帝国でも特爵と言う特別な爵位を授かっているのだ。どちらが先かと言えば王国の爵位だが、アバルトリア帝国は新しい爵位を用意するほど彼を気に入っている。特爵位は言わば、名誉爵位と同じ効力だが、爵位の地位で言うとどの辺りか厳密には決まっていない。伯爵より高い事は無いだろうが、同列の可能性はあり得る。


「・・・そうだな。一応、陛下から皇帝宛てに親書を出す様にしておこう。陛下、宜しいでしょうか?」


「その方が良かろう。後程、用意しておく」


 それで、正妻と側室の話になり正妻にシャルロットを置くと言うと、シュヴァイガート伯とエーデルシュタイン伯が驚かれる。この場で知らなかった者はこの二人だけで、後の者は既に承知している事だった。


「陛下、よろしいので?レーア様が側室なんですよ?」


「テオよ。これは既に話し合いを終えている事なのだ」


「ですが、正妻に貴族ではない彼女を置くのは、必ず発表の際に貴族から苦情が寄せられますぞ?」


 六人の婚約者の中で、唯一貴族ではないシャルロット。他の者は上級貴族に名を連ねる者たちだけに余計に悪目立ちする。


「そこは問題ない。シャルロット嬢はアヴァロン卿に匹敵する魔法の天才。血筋より才能を優先させた事にすればよい。最悪、王家の養子と言う事も視野に入れておるわ」


 アウグスト陛下の発言に今度は、エトヴィン宰相が反対の言葉を発言する。王家の養子は過去にもあったそうだが、それは公爵家から養子にしていたそうだ。公爵家は一応、王族の血を引く一族なので対外的に問題にはならないが、それが孤児からとなると話は別だと言う事だ。これにはラインフェルト候やシュヴァイガート伯も同意する。


 当の本人たちを他所に大人たちだけで議論が始まった。一度決まっていた事を覆す事は無いだろうが、皆を説得させるだけの材料が無いと言う事。


 確かに、陛下の独断で決め家臣が反対する。最悪家臣の一部が、反乱分子となり国が二分するのは非常に宜しくない。


 これを解決させる手札はあるが、あまり使いたくないと言うのがレオンハルトの考えでもあった。


 あったのだが、レオンハルトは今世で最も守らなければいけないのは、前世で果たせなかった彼女(窪塚琴莉)を守る事。それが最優先事項である。今はそれと同等の誓いとして、リーゼロッテたちもその対象となっているが・・・。


 結局、それにしても手札・・・この場合、切り札と言うべき情報の開示を行えば、現状は納まりが突くだろう。


 隣に座るシャルロットの手を握る。


 不意の出来事に彼女は、一瞬身体が反応していたが此方を見て、微笑み頷いた。言葉では何も語っていないが、レオンハルトの考えている事が通じた。


「陛下、一つ発言したい事があります」


 真剣な表情で陛下たちの議論に割って入る。そして、席を立ち深々と頭を下げた。


「ど、どうしたのじゃ?急に頭なんぞ下げおって・・・」


「申し訳ありません。此処にいる皆様に秘密にしていた事があります」


 その言葉で誰もが彼へと視線を向ける。静まり返る空間で、静かに口を開いた。事前に移合わせで決めていた内容を話し始める。


「私と彼女(シャルロット)は、転移魔法が使えます。それもかなりの魔力をお互いに有しているので、転移魔法のデメリットは殆どありません」


 そう。此処で提示した情報とは、転移魔法の使い手であると言う事。流石に転生者だと言う事や(ヴァーリ)から膨大な恩恵を受けていると言った情報は、開示できない。レーア王女との婚約を了承する時に条件としてシャルロットを正妻に向かえると報告した際にアウグスト国王陛下やごく少数の者にしか伝えていない事実。それをこの場に居る大臣たちに打ち明けたのだった。但し、転生者の事は伏せている。この情報は、最後の手札として残しておく必要があった。まあ、この情報も一部分を改竄(かいざん)して伝えても良いだろうが。


 例えば、未知の知識を有する叡智の力を得ているとか、ほぼ無尽蔵の魔力で連続魔法が使える事や魔法を新しく創造し生み出せるなどだ。実際には未知の知識は前世の知識で、無尽蔵ではないにしても膨大な魔力と精密な魔力制御(マナコントロール)で、それに近い事は行える。魔法創造も実際にシャルロットは、オリジナルを作っている。これは恩恵から得た知識を元にしているにすぎないが。


 それらの情報を開示しただけで賢者、大賢者、大魔導士と呼ばれかねない。


「ッ!!何とそれは真か?」


 既に知っている情報だが、アウグスト陛下は初めて耳にしたという雰囲気を出して、話を合わせてくれる。前回話を聞いていた一部も同様に演技で顔や仕草などを合わせてくれていた。


「はい。実際に実演してみましょうか?この場に居る人数で・・・・そうですね。距離がある方が良いので、帝都近くの丘に行ってみましょうか。シャル先に行くから後で皆を連れて来て、場所は・・・・」


 そう言うと一足先にレオンハルトがその場から姿を消した。その数十秒後に此処にいる者を引き連れてシャルロットは『転移(テレポート)』を使用した。


 一瞬で景色が変わり、会議室にいたはずの場所が、見知らぬ丘に移動していた。丘だと遮蔽物が少なく転移の目撃者がいるかもしれないが、そこは念入りしている。まずはレオンハルトが丘の近くへ転移し、周辺に人が居ないか確認する。もし人がいた場合は、直ぐに戻ってシャルロットの『転移(テレポート)』を止めていた。


 そこまでの危険を冒すなら森でも良いだろうと考えるだろうが、距離と言う部分で何処の森にいるのか分からないと意味がない。なので、丘と言う選択肢を取り、その丘から帝都が見える様にしたのだ。


「こ、これは凄い・・・この人数を転移させたと言うのか?ハッ目撃者は大丈夫か?」


「ええ。事前に私が此処へ移動して周囲を確認しました。問題ありません」


「驚異的だな・・・これ程の転移魔法を使える者は、余は見た事ない」


「私も同意見です」


 アウグスト陛下の驚きにエトヴィン宰相も感想を述べる。他の者たちもほぼ同じような驚きを示していた。


 あまり長居をするのはどうかと思い。二手に分かれて、それぞれアルデレール王国内の主要個所を経由して王城の会議室に戻る事になった。


「なる程、陛下たちはナルキーソ経由でしたか。私共は、オルキデオ経由でした」


 つまり合計で三回転移した事になる。帝都近くの丘からナルキーソ近辺またはオルキデオ近辺へ移動し、その後王城に戻った。アウグスト国王陛下たちも前回は一緒に転移すると言う事はしなかったが、実際に体験してしまうとその凄さを身に感じてしまう。国王陛下だからと言って王城にいる転移魔法が使える魔法士においそれとお願いできるような代物ではないからだ。


「距離と言い、使用回数と言い・・・其方たちは本当に転移魔法を自在に使用できるのか?」


「国王陛下、それにお父様。レオン様の転移は、私たちは何度も経験しております」


「申し訳ありません。本来であれば報告を行わなければなりませんのに・・・」


 ティアナとリリーは黙認していた事を謝罪する。エルフィーも同じように謝罪した。リーゼロッテは、祖父であるテオに頭を下げるだけに留める。


「この事はアンネも知っているのか?」


「はい、孤児院へ何度か帰った時に。態々、馬車移動と見せかけるのが大変なので」


「すみません。彼女たちに黙って居る様に伝えたのは私です。どうか彼女たちを責めないでいただきたい」


 レオンハルトの謝罪に陛下たちは、それを受け取る。貴重な転移魔法を使えることを隠していたのは、思う所もある。しかし、貴重な転移魔法を制限なく使用できるのであれば、逆の立場でも同じように秘匿していただろうとアウグスト陛下より言われた言葉。


 手札の一枚を切った事は功を成したようだ。


 与えた情報からエトヴィン宰相が最も反対意見が起きにくい内容を考え、ラインフェルト候、シュヴァイガート伯、エーデルシュタイン伯がそれを形にできる様準備をする。エクスナー枢機卿も教会の力を使う様だ。


「時に二人とも、我が王国騎士団へ入らない?」


 何かと理由をつけては騎士団へ勧誘してくるコンラーディン王太子殿下。帝都訪問以降、前にも増して勧誘してくるようになったが、転移魔法を話した今回を機に更に勧誘を強めてこようと動き出す。


 だが、幾ら勧誘してきても返答は決まっている。


 答えは「ノー」だっ!!


 正確には「ノー」とは言っていないが、丁重にお断りしている。けれど、今回は何時もであれば此処で引き下がるのだが、そうではなかった。


「アヴァロン卿よ。其方とシャルロット嬢を緊急事態が発生した時で構わないから、力を貸してもらえないか?」


 陛下も加わり勧誘を後押しする。陛下の場合は騎士団勧誘と言う感じではなく。有事の際の脱出の手助けだろうけど。


 それに関しては、王国貴族と言う立場もなるので、有事の際の援軍として駆けつける事は約束した。


 そうこうしている内にエトヴィン宰相たちの方も話がまとまった様だ。


 今回問題となっているのが、レオンハルトの正妻がシャルロットだと言う事。この事に関してこの場の者たちは納得しているが、他の貴族からの反感は予想される。それが、正妻の地位が孤児で、側室に王女殿下、公爵令嬢と言った上級貴族の令嬢だと言う事。


 要は、シャルロットの地位をどの様に上げるかと言う部分だ。ただ闇雲に公爵などの養子にしても結論は同じ、養子の子が正妻で、第二王女が・・・と言われる。


 なので、今回彼女には何らかの功績を立ててもらいそれを基盤にすると言う路線に至る。また功績も何でも良いと言うわけには行かない。今回、その博識と魔法を用いて功績を上げてもらう必要がある。


「博識と魔法ですか?」


「そうだ。魔法は新魔法の開発でも既存の魔法・・・出来れば中級から上級の魔法を披露してもらいたい。博識は新魔法であればその理論の説明等で構わないし、何か作るのであれば目新しいものが良いか?」


 何を与えようとしているのか分からないが、それらの功績が必要なのは何となくわかった。要は特殊な存在であると言う証を立てなくてはいけないと言う事。そして、それには転移魔法を使用してはいけないと言う事だろう。


「転移魔法は公表させてもらうが構わないか?距離や使用回数を少々下方修正した情報だが・・・」


 訂正、如何やら必要らしい。ただ、下方修正してくれるのは正直助かる。


「博識は何でも良いのですか?例えば、調合や調薬、医術とか?」


「そう言えば、レーアを救った時も・・・何と言ったか?」


「点滴です」


「そうそう。その点滴とやらを使ったのだったな。他にもあるのか?」


 医学、医術が発展すれば、治癒魔法が使えなくなった時に非常に役に立つ。水薬(ポーション)と言う選択肢もあるが、薬だけでは限界がある。


「他にもあります。一応、此処にいるメンバーには最低限の事は教えていますし、いないメンバーも同様です。特出しているのは、彼女(シャルロット)ですが最近はエルフィーも頭角を現しております」


 陛下の質問に答えると、宰相が考え込み始めた。知識は財産で力だ。何処まで開示させるかを考えているのだ。


 だが、治癒魔法を使用せず専門的な治療を行えるのであれば、戦死者がかなり減るのも事実。最終的にシャルロットの功績を得る手段として、医学や医術の知識を広めるのと魔法の行使と言う力量を披露する事になった。そのあたりの事はエトヴィン宰相やラインフェルト候たちで段取りを行うそうだ。


 その後、雑談や各々の報告を行い。孤児院の子供たちを含め、編入試験の日程などが決まり次第連絡が来るよう手配してくれた。


「ふー疲れたな」


 エリーゼが操車する馬車の中でレオンハルトは、気の抜ける様な声で背筋を伸ばしながら話す。


 国王陛下たちと話を終えて屋敷に戻ろうかとした所、レーア王女殿下にそのまま捕まり、お誘いのあったお茶会が急遽開かれる事になった。


 メンバーは、レーア王女殿下にシャルロット、リーゼロッテ、ティアナ、リリー、エルフィーに加えてレオンハルトとエリーゼの七人である。エリーゼもずっと馬車の所に待機させておくのも悪いので、王女殿下の計らいでお茶会の席に同席していた。と言うよりもさせられていた。


 流石に奴隷と言う身分から、かなり居心地が悪そうではあったが、いずれ家族になるのだから今の内から慣れておいた方が良いと言うご都合的な理論で、同席させているので、彼女がこの中で最も気疲れをしているだろう。


 お茶会は一刻ほど行われて、男性が自分しかいない環境にレオンハルトも疲れてしまったのだ。


 何と言ってもレーア王女殿下の押しの強さ。今まで構ってもらえなかった分、今取り戻そうとするかの様な勢いで彼是聞かれる事になった。主に好きなタイプはとか、どう言う家庭を築きたいとか、子供は何人欲しいとか主に恋愛面の質問攻めが多く、何時もなら助けてくれるシャルロットも興味本位に耳を傾けていた。


(何だろう?好きな人・・・今は彼女だが、その彼女の前で彼是恋愛について聞かれるのはかなり精神的に疲れるな)


 帰るギリギリまで、恋愛についての質問攻めに加えて、次のお茶会の約束まで取り付けられては、幾ら精神年齢が大人の彼でも参ってしまう。


 まあ、レーア王女殿下に引っ張られる感じでエリーゼを除く五人からも恋愛方面の質問を幾つか受ける事になったのが更に彼の疲労を積み重ねる結果になった。


 正直、エリーゼの後ろに隠れてしまいたいと思うってしまった程だ。


「すっかり長居をしてしまったけど、どうする?これからレオンくんが購入した屋敷でも見に行く?」


 リーゼロッテの提案を聞き入れ、エリーゼに目的地を自分たちの屋敷から孤児院の仮住まい用に購入した屋敷へと進路を変えてもらうのだった。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 使用人の一人が屋敷の前でお出迎えをしてくれる。使用人の挨拶の後、少ししてフリードリヒがやってくる。


「お出迎えが遅くなり申し訳ありません」


 深々と頭を下げるフリードリヒに気にしない様伝えて、中を見学する事にした。


 たった一日で、昨日よりかなり片付けられている。外壁の汚れはそのままではあったが、蔦は綺麗に取り除かれていた。内装も使えない据え置きの家具などは撤去されており、新しく食卓用の大きなテーブルや食器棚、宿屋にある様な簡素な作りのベッドと大きな家具から寝具類に各食器類まで既に買い揃えていた。


「思っていたよりも立派な作りねー」


 トイレと浴室は自ら手を入れると伝えているので、何もされていないが、台所や玄関、各部屋は直ぐにでも利用できそうなぐらいになっている。


「申し訳ございません。片付けにもう暫くかかりそうです」


 謝罪するフリードリヒに予想よりも綺麗になっているから、謝罪をする必要はない事を伝え、寧ろ頑張ってくれている使用人たちに何かしらの労いが必要だと思う程だ。


「一日、二日で綺麗になるとは思っていないし、子供たちが王都に来るのもまだ時間がかかるからゆっくりやってくれて構わないよ」


 明日からは、レオンハルトも此方に来て汲み取り式のトイレと小さな浴室、実は浴室ではなく洗濯場だった場所を檜風呂へ改修しようと考えていたら、先に人員の補充をした方が捗るのかと思い。明日の予定を変更する。


 直ぐに使用人を雇用するのは難しいので、奴隷を購入する事にした。


 奴隷に対して、当時はかなり抵抗があったが、今はかなり慣れ始めてきている。それでも抵抗はあるが、やはりローレたちの様に優秀な人材もいるし、奴隷として辛い生活を強いられる者たちを少しでも緩和させてあげたいと言う考えもあった。


 偽善と罵られるだろうが、それでもこの考えは一生変わらないだろう。


「明日、奴隷商へ行ってくる。シャルとエルは悪いけど同行してくれるか?それとフリードリヒも一緒に来てくれ、此処には居ないローレも同行させよう」


「承知しました。私のいない間の指示は誰に任せましょう?」


 フリードリヒの言う指示は、この屋敷の片付けの作業の事。レオンハルトたちが住む屋敷は、待機している使用人たちだけで現状どうにかなるのだ。


「リーゼ。此処の指示を任せても良いか?出来ればティアナとリリーは、この飾り気のない屋敷を華やかにしてくれるか?」


 リーゼロッテは、孤児院での生活を共にしていた為、何が必要で何が不必要か分かるし、テーブルや食器棚の位置もより使いやすいように考えてくれるだろう。ティアナたちには、上級貴族の令嬢と言う事もあり、這いつくばった様な掃除をさせるわけにはいかない。


 本人たちは特に嫌がりはしないだろうが、使用人たちが落ち着かないはずだ。


 それに、この屋敷には飾り気がほとんどない。辛うじて庭に花があるぐらいだが、それも手入れされていないので、無法地帯と化している。


 装飾品や絨毯の様な敷物、観葉植物は花などを購入してきてもらう事にした。


 今日の買い物では、そう言った物は購入していない事も聞いているし。


 設置は、使用人たちがするだろうし、購入した花や庭の花の手入れは庭師にしてもらえば良い。要は装飾品に求められる美的センスは、メンバーの中で群を抜いて持っているだろうから。


「それでしたら、レオン様。フォルマー家の庭師を手伝いに来させましょう。お父様も了承してくれるはずですし」


「うん。ラインフェルト家からも専属の庭師に来てもらえるよう、お父様に尋ねてみます。お父様もレオ様の頼みなら快く手を貸してくれます」


 ティアナの実家であるフォルマー公爵家とリリーの実家であるラインフェルト侯爵家から庭師の増援を頼む事になった。


「ティアにリリー。二人ともありがとう。お願いしても良いかな?」


「「はいっ」」


 満面の笑みを浮かべながら返事をする二人。そうして、明日の予定を話し終え、片付けを切り上げる事にした。外壁の汚れは帰り際に魔法で綺麗にしておいた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字の報告もこの場を借りてお礼申し上げます。

誠にありがとうございます。


報告のある誤字脱字や矛盾点等、随時訂正しておまいますので、応援よろしくお願いします。

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