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010 海隣都市ナルキーソ

 とある村に治癒と状況確認の為訪れていた。


 王都の教会には、例年変わった風習がある。聖属性魔法を使える修道女(シスター)が各街や村などに足を運び、現地の司祭や修道女(シスター)の状況を確認しに行くと言う物だ。頻回にと言うわけではないのだが、年に一度は訪れるようにしなくてはならず、今もその状況確認に赴いた村で治療をしていた。


 司祭や修道女(シスター)たちが皆、聖属性魔法を使えるわけではなく。どちらかと言うと全体の一割ぐらいしか使える者はいない。ただ、司祭たちは厳しい修行で聖属性魔法に近いレベルの祈祷や薬学、治療の知識を身に着けているので、余程大きな怪我や病気以外では対応できている。


 私の訪れた村は、聖属性魔法を使える者はいなかったために、臨時で治癒を行っている。


 と言っても私は、聖属性魔法の適性が高く魔力もそこそこあるのだが、何せまだ成人もしていない年齢に加え、修道女(シスター)の立場も見習いのままだ。護衛にと昔から親しかったフロシャウアー男爵家の三女、ローザ・フロシャウアーに同伴してもらっている状態だ。


 彼女は、貴族でありながら冒険者への道へ進み、実力も確か。護衛としては申し分ない存在。


 村での治療と状況の確認を終え、近くの街から王都へ戻る途中、魔物の襲撃を受ける。


 雇われている冒険者やローザも迎撃にあたったのだが、血の匂いに釣られ森から更に魔物が増えていきました。気が付けば前の馬車も後ろの馬車も大破し、冒険者たちも半数近くが魔物の餌になっていました。


 毒を持つ魔物もいて、冒険者たちが思うように動けない為、すぐさま馬車を降り、治療をすることにしました。


 やはり、目の前で人が死ぬのは見ていられないからです。


 魔物に囲まれたあたりからは、ローザの結界魔法で耐え忍ぶ状態になったのですが、それもただ生きている時間をわずかに伸ばす程度の事。結界魔法の効力が失われたら、あっと言う間に蹂躙されてしまう。


 しかし、絶望の淵に立たされた(わたくし)たちにも希望の光が見えたのです。


 魔物の蠢く声しか聞こえなかった結界の外から、人の声と戦闘音が聞こえてきたのです。


 初めはそれに驚きました。


 魔物の大群に戦いを挑む者がいるなんてと、しかも私よりも少し年上の女の子二人が、馬車の場所まで駆け付け、結界魔法の代わりに火属性魔法で魔物の進行を食い止め、もう一人は聖属性魔法を使えるとの事で治療をお願いしたのだが、最小限の魔法と水薬(ポーション)で次々治していた


 炎の壁で向こうの状況が全く分からなかったが、魔物の悲鳴に似た叫び声と戦闘音が止むことなく続いていたので相当強い人物が、援軍に来てくれたのだと考え、治療に専念する。


 そこからは、必死すぎて良く覚えていないが、気を失う前にとんでもない物を見た様な気がする。


 目を覚ませば、魔物に襲われてから二日経過していた。魔力欠乏症になれば大体半日は、起きてこれない。死と隣り合わせで魔力欠乏症になっても精神的に耐えて起きていた事が、余計に覚醒を遅らせてしまったのだろう。


 シャルロットと言う治療を手伝ってくれた者とリーゼロッテと言う魔物の群れを食い止めてくれた者、それにレオンハルトと言う朝食をご馳走してくれた者に二日間お世話になったようだ。


 魔物の素材の分配の話の時に驚かされたのが、魔物の大群の七割近くを一人で倒してしまっていると分かった時です。


 その事実に驚きつつ、亡くなった方への御祈りを行い、出発した。先程の話が本当なのかを夜、シャルロットとリーゼロッテに確認したところ、事実だと判明した。


 レオンハルトとローザは、夜の番に出ていてテント内には三人しかいなかったので、彼の凄さがどれ程のものなのか分からなかったが、明日にでも改めてローザに確認しようと心に決め床に臥せる。


 翌朝、美味しそうな香りがテントの中まで漂ってきたので、その匂いに釣られて目を覚ます。こう言うと語弊があるように聞こえるかもしれませんが、事実今まで嗅いだ事のない甘い匂いが私の食欲を刺激してくるのです。


 支度をしようと起きるとテントには誰もいません。寝坊でもしたのかと慌てて支度を済ませテントを出たのですが、外は漸く明るくなり始めた時間で、他のテントで寝ている人たちは、まだ夢の中のようです。


 美味しそうな甘い匂いのする方へ足を運ぶと簡易調理設備で料理を作る三人の姿がありました。


「レオンハルトさん、シャルロットさん、リーゼロッテさん、おはようございます」 


 三人も私の朝の挨拶の後に同じ様に挨拶をしてくれる。


「エルフィーさんは、テーブルについていてください。もうすぐ終わりますから」


 三人でそれぞれ何かを作っている様子だが、ただお客さんとして扱われるわけにはいきません。今は同じ旅の仲間なのですから。


 お手伝いを申し出ると、レオンハルトが気を利かせてくれて、食器の用意と皆が飲む飲み物の準備を任せてもらう。


 もう少し何か手伝わせてもらってもと思ったが、手元の料理を確認すると本当にもう終わる直前なのだと理解できたからです。


 それからローザが、戻って来て五人で朝食を召し上がる事になったのですが、何でしょう?目の前にある品々は。


 見た事もないようなものがたくさんあり驚きでいっぱいです。


 ふわふわとした白パンに似たそれを口に含むとほんのり甘く、それでいてとても柔らかい食感に笑みがこぼれてしまう。


「あ、あの。これは何ですかっ!!」


 この、ふわふわした食べ物について聞いた所、レオンハルトが丁寧に教えてくれました。


 先程食べたこれは、パンケーキと言う名前の食べ物との事。何でも小麦粉と砂糖、モーニングバードの卵、山羊の乳、ベーキングパウダーと言う聞いた事もない材料で作っているらしい。


 ベーキングパウダーについて聞いたが、三人とも少し困った表情をしていた。


 聞いてはまずい事なのかと思い誤ったら、特にまずい事はないのだと言う。


 作るのが思いのほか手間なので、一つ一つ説明すると時間がかかってしまうらしい。王都に戻ったら料理人や商人に聞いてみる事にしましょう。

 

 後は、山羊の乳のくどさを消すために香草を数種類配合して入れている。


 そのまま食べても美味しかったのだが、ハニービーの蜜を掛けるとよりおいしさを増す。


 卵と蜜を前の村で仕入れる事が出来たのでこの料理を作る事にしたのだそうです。


 パンケーキ以外にもかき混ぜた卵を焼いたスクランブルエッグと言う料理に魔物の肉を薄くスライスして焼いたもの、香草と野菜のスープ。どれをとっても非常に美味しい代物でした。


 彼らは本当に多彩な才能を持っていらっしゃると思えた。


「とても美味しかったです。特にこのパンケーキは毎日でも食べたいと思えるほどでした。レオンハルトさんは料理も非常にお上手なのですね。昨日召し上がったマヨネーズなる調味料も非常に美味でしたが、それを超える美味しさがありました」


 朝食後のデザートにと、ローザの持つ魔法の鞄から果物を出される。王都の市場でもあまり入手できないバロッサムの実をシャルロットが均等に切り分けてくれたので、皆で召し上がる。


 朝食を片付けた後は、それぞれの馬車に乗り込み昼過ぎには海隣都市ナルキーソへ行く道と王都アルデレートへ行く二つの道に差し掛かった。昼食をそこで済ませ、その後はお互いに別々の道を行く。


 王都に来た際は、ぜひ訪ねてほしいと彼らに伝えた。訪ねてきた時は、今回のお礼も兼ねてしっかり御もてなしをしようと心に誓った。











 エルフィーたちと別れて二日、道中魔物に襲われたりもしたが、無事に海隣都市ナルキーソに到着した。


 交易都市イリードと同じように高い壁に囲まれており中の全貌がわからないが、仄かに香る磯の香りが近くに海がある事を物語っていた。


 門には幾つか列があり、列に並ぶためフランクたちとその場で別れる事にする。支払いは基本払いなので、ただ馬車から降りて挨拶と俺を伝えるぐらいで済む。


 フランクやモーリッツたちからはすごく感謝をされる。恐らくセアドの命を救った事だろうと思うが。此方としてもそこそこ実の入りがあったので大したことではない。


 別れたあと、一番奥の列に並んだ。一般人が入るための列だそうだ。その他としてノーチェックで済む貴族の窓口、馬車の中を確認したりする商人たちの窓口、冒険者やその他身分証を持っている窓口とあるのだ。当然身分証を持っている列が一番長いが、一人一人チェックに時間がかかるのは、俺たちの並んでいる一般の窓口だろう。


 イリードの街でもしていた質問や荷物チェック、目的、それに滞在するための仮許可書の発行とある。料金も少し高めで一人当たり大銅貨一枚と銅貨五枚必要だった。


 水晶によるチェック等を済ませた三人は漸く、ナルキーソの街に入る事が出来た。


「うおーーーー」


 三人は同じように驚く。それも仕方がないだろう。

 

 交易都市イリードの三倍近い大きさの街に、水の都と呼ばれるにふさわしい光景が目の前いっぱいにあるのだから。人口は約二十万人、土地柄街の半分近くを水路や噴水、港などの施設や倉庫が占めているため、建物は大体五階建てが基本のようだ。海風で劣化しないように白い石造りの構造になっている。


 しばしその光景に見とれた後は、門にいた兵士に冒険者ギルドの場所を尋ねる。


 まっすぐ進んで大きなオブジェクトのある十字路に付けばわかると教えてもらった。この街もイリードと同じ中央から東西南北に延びるメイン通りがあるようだ。ただ水路があるため幾つか橋がかかっている様だ。


 サブ通りはなく。メイン通りを外れると水路の関係上、迷路のような構造になっているそうで、迷わずに行こうと思うなら水路にいる船頭たちにお願いするのが良いそうだ。


 取りあえず、冒険者ギルドへ向けて歩き始める。ただ、進むのも味気ないので、向かう道中にあるお店を覗いたりして見た。


 流石海の傍と言う事もあり魚介類が豊富に並んでいたが、港の方に行けばもっと多いと店先の亭主に教えてもらった。折角なので、幾つか旬の魚を選んでもらい購入する。購入した魚の料理方法も聞いておいた。前世で言う所のサンマを煮つけにして食べたりしないようにだ。


「登録が終わったら一回港の方に行ってみない?」


 シャルロットの提案にレオンハルトとリーゼロッテも賛成し、最初の目的地である冒険者ギルド行く為、少し早歩きになりつつ、兵士に教えてもらった十字路へ行く。


 それから暫くして、十字路へ到着。途中の屋台などで少し食べ歩きをしてしまい遅くなってしまった。


 イリード支部よりやや大きい敷地にずっしりと構える石造りは、小さな城を連想させられるほどだ。実際、城など見た事がなく前世で某テーマパークにある城を遠目に見た事があるぐらいだ。


 中へ入るとその大きさはよりはっきり分かる。


 一階部分の受付は、イリードの倍以上あり上の階から吹き抜けとなっているため、開放感があった。


 二階や三階部分に買取や販売の場所を設けているようで、四階に至っては冒険者に必要な最低限の知識を得れる図書室みたいなものがあった。。


 受付に並べば良いのか分からず、見ていると二十代前半とみられる冒険者に声を掛けられた。


「そんなところに突っ立ってどうした?」


 話をかけてきた冒険者は、複数人で行動していたのか。同じパーティーメンバーらしき女性や獣人の男性も同じように話しかけてくる。


 俺たちは、事情を説明して冒険者登録のやり方を聞いた。


 初めに声をかけてくれた男の冒険者は、邪魔者扱いや面倒臭そうな対応ではなく。親切に教えてくれた。


 冒険者の人曰く、登録は受付ではなく別の窓口で行うそうだ。大体の者は受付に並んで、そこから正規の窓口の場所を教えてもらうそうで、直接窓口に行っても良いのだとか。窓口にいるギルド職員が細かい説明などしてくれるそうで、少しばかり時間がかかるらしい。


 ついでに窓口の場所も教えてもらった。L字状になった受付の一番奥の窓口らしい。初めての人が受付に間違えて聞くのであれば、案内表示でも出せば良いのにと思ったが、字が読めない人もいるので表示していないのだろうと考え、教えてくれた冒険者にお礼を言って登録窓口へ行く。


「ようこそ冒険者ギルド、ナルキーソ支部へ。冒険者登録ですか?」


 明るい感じの女性が対応してくれる。ギルド職員に獣人族や亜人族も少なからずいるが、登録窓口にいた女性は人族の者が対応していた。


 登録に来た旨を伝えると、登録時に銀貨一枚かかると言われ、銀貨三枚をカウンターの上に置く。それを確認したギルド職員は同じ書類を三枚取り出す。必要事項に情報を書き込む為のようだ。渡される時に音読・執筆代行は必要ですかと尋ねられた。


 読み書きできる事を伝え、必要事項の場所に書き込みを行う。


(名前に年齢、性別、種族、出身国も書くのか・・・それにしても書く内容が少ないな。前世だとこう言う登録には住所や電話番号、物によっては勤め先なども書いてたっけか)


 甚だ簡単な書類を書き終え渡す。渡された時に一応、間違えがないか確認していた。誤字脱字がないかなどのチェックだろう。


「大丈夫みたいね。ちょっと冒険者カードを作成してくるから、それまでの間にこの冊子に目を通しておいて」


 俺たちに冊子を渡した後、奥の部屋に書類を持って消える。


 言われた通り三人で目を通し始める。最初に記載されていた事は、冒険者とは何なのかである。難しく書いていれば、読まない人も出てくるだろう配慮なのか、かなり簡潔に書いていた。


 魔物や獣を狩り、食料を売り生計を立てる。御遣いの様な事から魔物討伐、要人護衛まで幅広い仕事を行う。未知の遺跡や洞窟、未開地区の探索などで得られた情報や財宝で生活する者など幅広く行う者を総称として呼ぶらしい。登録をしていなくても冒険は出来るが、冒険者ギルドからの恩恵や依頼などが得られないので、普通は登録をするようだ。


 その他にも冒険者カードについて、ランク制度について、禁止事項、注意事項、依頼の出し方・受け方について等書かれていたが全部は読めなかった。


 辛うじて、冒険者カードについては読む事が出来た。冒険者カードには幾つかの機能があるようで、一つは個人情報が書かれているため身分証として使う事が出来ると言う事。機能と言うか特典に近いかもしれないが、冊子にはそう書いてあった。二つ目は、依頼完了数や討伐数の書き込みができる事だ。書き込むと言っても羽ペンとインクを使って直接カードに書くのではなく。依頼数は冒険者ギルドで職員が更新し、討伐数は周囲の魔素を取り込んで自動で更新されるらしい。後半の機能に関してはいまだに解明していない技術が使われているそうで、よくわかっていないらしい。


 冒険者カードは一応、古代聖遺物(アーティファクト)の様で、そんな物が一般化されているのは、冒険者カードを作る古代聖遺物(アーティファクト)の存在があるからだそうだ。古代聖遺物(アーティファクト)を作る古代聖遺物(アーティファクト)どういった構造なのか、専門家にも分からない。失われし超古代技術(ロストテクノロジー)と呼ばれる古代の技術に現代の技術が全く追い付いていない様だ。


 話がそれてしまったが、他にも冒険者ギルドと提携しているお店なら買取価格が少し上乗せされたり、支払いが割り引かれることもあるようだ。これも機能と言うよりは特典だなと頭の中で解釈した。


「お待たせいたしました。此方が君たち冒険者カードになるわ。冊子の方は何処まで読めたかしら?」


 カードについてまでは読み終わったことを伝える。


 それ以降については、ギルド職員が直接説明してくれた。


 ランク制度については、一応以前助けたエルフィー・マリア・シュヴァイガートの護衛に就いていた冒険者、ローザ・フロシャウアーから聞いていたが、一応おさらいの意味も込めてもう一度聞く。


 ランクは、下から順位I(アイ)ランク、(エイチ)ランク、(ジー)ランクと続き、(エー)ランクに達すれば超一流と呼ばれる者たちになれる。更にその上に(エス)ランク、SS(ダブルエス)ランク、SSS(トリプルエス)ランクとあるが、過去SS(ダブルエス)ランクに到達した者は七人しかいない。


 (エス)ランクも現在登録されている者は、この大陸だけでも三十人いないらしい。それ程までに厳しい道のりなのだそうだ。ランク基準として(アイ)ランクは初心者レベル、(エイチ)ランクは初級者レベル、(ジー)ランクと(エフ)ランクは一般、(イー)ランクと(ディー)ランクは中堅(ベテラン)レベル、(シー)ランクと(ビー)ランクは一流、Aランク以上は超一流となっているようだ。


 禁止事項は、犯罪行為等があげられている他、冒険者ギルドの名を汚すような事が禁止されているらしい。


 注意事項には、冒険者カードの紛失、もし紛失した場合は再発効に金貨一枚かかるそうだ。他にも冒険者同士の喧嘩も一応いけない様だが、これは軽く注意を受けるか素行の評価が下がる程度らしい。実力と信頼がいる仕事もあるそうなので、あまり羽目を外さない方が良さそうだ。


 それと、緊急招集依頼は余程の理由がない限りは強制参加になるそうだ。例えば魔物の大群が街を襲うような機会に招集がかかったりするらしい。もし参加しなかった場合は、ランクダウンに加え、重い罰が下されるとの事。酷い場合には剥奪されることもあるそうだ。


 依頼は、依頼掲示板にある依頼書を受付に持って行く一般依頼と、依頼者が直接冒険者を指名する指名依頼があるそうで、指名依頼の方が、報酬が割高になるとの事。但し、その分危険な仕事を任されることも多いそうだ。


 それと依頼は基本一つしか受けれないそうだ。正し常時出ている討伐依頼や採取依頼に関しては、討伐証明部位や薬草などの現物と一緒に依頼書を持ってきてくれれば、他の依頼を受けている時でも対応できそうだ。なぜ複数受けられないのか尋ねた所、何とも簡単な理由で、過去に何度か依頼を受けたまま護衛の依頼に行ってしまって対応が遅れたり、配達依頼を複数受けて荷物がゴチャゴチャになったりしたからだそうだ。要は計画的にできない者が起こした失敗のせいと言う。


 ネームタグの事も言われたが、以前聞いた内容と同じで、残しておきたい内容などを記録させる物で、(ジー)ランクになれば有料で購入でき、実質無料で配布されるのは(ディー)ランク以上でないといけないらしい。前見たネームタグは、(ジー)ランクだったので自分で購入した物なのだろう。まあ遺言として使う事も出来るしな。


 死亡した場合は、冒険者ギルドは一切、関与しないそうだ。行方不明ならば捜索隊を出す事もあるが、死亡者に多額のお金が支払われることはない。そんな事をしていたら、死亡率が高い冒険者に保証をしていたら、あっと言う間に潰れてしまうだろう。


 その他は、渡した冊子を読んでおいてくださいとの事だ。一応、もっと細かい事を書いている部分もあるそうなので、夜にでも皆で確認する事にした。


 冒険者カードを受け取り、買取カウンターへ足を運び、エルフィーたちを助けた時の魔物の死骸の幾つかを売る事にしたのだ。大体手持ちの半分ほどだ。


 そうして得たお金を手に持ち、まずは宿屋探しを行う。港に行こうかと思ったが、宿屋を見つけてからゆっくり散策したいと案が出たためである。


 冒険者ギルドのある近くの宿屋は、値段がそこそこしたため、少し離れた所にする。但し、セキュリティーなどがしっかりしていれば多少高くても惜しむつもりはない。


 東地区、いわば海側の方にある宿。月夜の宿と呼ばれ少し周囲の宿屋に比べれば高めだが、室内から鍵もかけれて、清潔感がある上に料理もおいしいと街の人に聞いたのでそこに決めた。


 受付に部屋が空いているかの確認を行う。


「二人部屋と一人部屋をそれぞれ一部屋ずつ空いていますか?」


「空いておりますよ。料金は二人部屋が四百ユルド、一人部屋が六百ユルドとなりますが、何泊ご利用されますか?」


 イリードの黒猫亭より少し高めの値段のようだ。あそこは二人部屋が三百ユルド、一人部屋が四百ユルドしていた事を考えると地域柄物価が高いのかもしれない。まあ黒猫亭は三人部屋と四人部屋しか利用していないので、部屋の大きさがかなり異なるかもしれないが・・・・。


 取りあえず十四日程滞在する旨を伝え、延長可能かどうかも訪ねておく。


「延長をご希望される場合でしたら、最終日の前日までに延長分の宿泊費をお支払いいただければ問題ないですよ」


 当面はこの街で過ごす事になるだろうから、延長する可能性は大いにある。十四日間の間に他に良さそうな宿屋が見つかれば其方に移るかもしれないが・・。


 二部屋合わせて千ユルドなので、十四日分の一万四千ユルド支払う。孤児院にいた時期に狩りで得た収入や先日の臨時収入のおかげで懐は大分温かいので、問題なく支払う事が出来た。宿屋の女将は、十歳の子供が大金を支払ってきた事に少し驚いていた様子だったが。


 受け取った鍵を持って部屋へ移動。旅用の外套を脱ぎ、背負っていた大きめの背負い(バックパック)を机の上に置く。中身は余り物を入れていないが、何も入っていないと怪しまれるので、数枚の着替えと寝袋、毛布など軽めの物を詰め込んでいた。魔法の袋から肩掛け鞄を取り出し、それを持って部屋から出る。


 魔法の袋と同様の肩掛け鞄は魔法(マジック)(バック)となっている。容量は汎用仕様なので見た目の十倍程度しか入らないが、誰でも取り出せるので、割とこういった買い物では重宝している。


 宿屋を出た後は、そのまま港の方へ散策に行く。磯の香りが強くなり始めた頃には、目の前に広がる広大な海。港に停泊する大型の船、漁港には多くの店が賑わいを見せていた。


 市場と化しているお店を順々に見て回る。綺麗な魚や何となく見た事のある魚、ちょっとグロテスクな魚など様々な魚に加え、海老や蛸、烏賊、貝類等も売り出していた。海藻系はあまり人気がないのか取り扱っているお店が少なく。見つけ次第購入する。特に昆布は汁物の味をより旨くするので、出来るだけ多く入手しておきたかった。


 中には海の魔物も売り出している店もあった。


 海老の魔物ネオシュリンプ。蟹の魔物クラッシュシザークラブ。亀の魔物ロックタートル等が置かれていた。どれも中堅の冒険者が狩れる魔物のようだが、一筋縄ではいかないのだとお店の人から聞いた。


 ネオシュリンプは、麻痺や閃光による視界封じ等してくるし、クラッシュシザークラブの鋏は、鋼鉄の盾をもあっさりちょん切る。ロックタートルの防御力も中々のもので、剣や斧等の刃は一撃入れるだけで折れたり大きく欠けたりするし、メイスなどの鈍器で攻撃しても物によっては武器の方が破損するらしい。


 恐らくかなりの損害を出しながら狩ったのだろう。


 先の三種は滅多に市場に出ないので、買い手たちで賑わう。


 後は、俺たちにとっては珍しい物として、サハギンと言う魚の半魚人だ。一応分類では魔物の扱いになる様で、強さもゴブリンよりやや強い程度だそうだ。何故か三叉槍(さんさそう)と言う。穂が三つに分かれた槍を持っていて、殆どが天然の岩を削った物で出来ている。中には漁師の使う鉄の物もあるので、討伐時の報酬としては実の入りが良いのだそうだ。  


 これ食べれるのか?と見た時に疑問が浮かんだが、半魚人と言っても人の形とは程遠い生態なので、街の住民は普通に汁物に入れたりするらしい。


(そう言えばオークも普通に食べていたから、案外食えるのかもな)


 取りあえずサハギンの処理済みの切り身を幾つか仕入れる。流石に丸々一匹は捌き方がわからない。


 他にも色々見て回っていると果物を主で販売している店があり、少しのぞき込んでみると以前ローザがくれたバロッサムの実が二つほど売られていた。


 見た目は赤い色をしたパイナップルの様な形で、味が甘いメロンの様な不思議な果物だったが、見た目とは裏腹に美味であったのを覚えている。王都でもあまり市場に出てこないと言っていたが、この街には幾つか売られているのだろう。但し値段が他の果物と比べると高い奴の五倍近くする値がついていた。そのうちの一つを購入しておく。


 気が付けば空が茜色に染まり始め、お店の幾つかは店じまいを始めていた。俺たちも今日の散策を切り上げ、宿屋で夕食を食べる事にした。


 折角海が近くにある宿屋に泊っているので、魚料理を注文する。俺はアンブリルと言う魚の塩焼きをメインに魚のアラとピリ辛のハーブで作ったスープ。シャルロットは、アンブリルのバナナリーフ包み焼とサラダ、魚のツミレのスープ。リーゼロッテは、小海老と二枚貝、アスパラガスの炒め物とグリモの平焼きを注文していた。当然、黒パンが白米の代わりだ。正直黒パン以外のパンをパン屋が早く開発してほしいと思った。


 注文したバナナリーフは、バナナの葉っぱの様で、バナナも果物屋に売っていた。味は確認していないが、見た目はバナナそのものだ。色が若干オレンジ色だったのは気になる処だが・・・。


 後、リーゼロッテが注文した料理の中にあるアスパラガスは、前世と同じ様だが、大きさが少し大きいようだ。此方も味が同じかどうかは食べてないので分からない。グリモの平焼きとは、グリモと言う名のジャガイモの一種で、潰して練った物を調味料で簡単に味付けし、薄くのばした物を焼くから平焼きと言うらしい。これはリーゼロッテが店員に聞いていたので、知る事が出来た。


 少し談笑していると店員が料理を持って現れる。見た目はどれも美味しそうに見える。皆の分が揃ってから食べ始めた。塩焼きは、普通に美味しい。アンブリルと言う魚は、何処か鰤の様なあっさりした味で、塩加減も良く魚料理では、当たりの分類に入ると思う。スープの方も魚の濃厚な出汁が出ていて、それを少しピリ辛なハーブが味を際立たせていた。シャルロットとリーゼロッテの料理も少し交換して食べたが、バナナリーフの包み焼は、焼きと違い蒸した様な料理になっていて、バナナリーフの甘い香りに、少し酸味の効いたタレが、さっぱりした魚料理に良く合っていた。リーゼロッテの小海老と二枚貝、アスパラガスの炒め物は、予想と違い調味料の味が薄くその分素材の旨味を生かす調理法を取っていた。


 どれも美味しかったが、一番美味しかったのは意外にもバナナリーフの包み焼だった。当店人気メニューなだけはある。


 正直、塩焼きや包み焼のメニューにご飯がないのが非常にもったいない。今の所どこの街や村へ行ってもお米は見つけられていなかった。もしかすると存在しないのか、あっても一部の地域なのか分からないが、ないと非常に食べたくなる。某番組で小麦粉を練って小さくちぎりお米代わりにしていたが、いっその事気合を入れて自分もしてみようかと思ってしまった。


 食事について言えば、お米以外にも調味料についても少し不満があった。此処のお店の料理は美味しいから良かったが、大体のお店は塩かハーブなどの香草が主で味付けされている。後は砂糖や蜂蜜、酢、柑橘系の酸味等であろう。砂糖は割と高く料理に隠し味程度しか使わない。寧ろ醤油や味醂、料理酒等が発見されていないので、使う機会が少ないとも言える。ケチャップやマヨネーズ、ウスターソース、味噌等も見当たらない。


 醤油や味噌、マヨネーズにケチャップの作り方は知っているし、各種ソースの作り方も恩恵の知識で作る事が出来るが、味醂に関しては知識を知らず恩恵もえれなかった。これはシャルロットも同じで知識、恩恵共に得れなかったそうだ。


 材料がない為ほとんどの調味料は作れていないが、マヨネーズだけは孤児院にいる時から作っていたのでストックも多少残っている。制作にはかなりの労働だったので、出来たら頻回に作りたくないと思っている代物だ。材料は卵、酢、油、砂糖、塩で値段を考えなければ手に入りやすかったので作ってみたのだ。後は山羊乳から作ったバターもあるが、此方はそれ程数が揃っていない。


 孤児院の子供にたくさん分けた事が少ない原因の一つだ。マヨネーズも分けたが、此方はアンネローゼが作り方を覚えたので、子供たちに定期的に作らすそうだ。ある意味拷問に近いとその時は思ったものだ。


 流石にバターまでは手が出せないと作り方を教えようとしたら断られたので、沢山渡したのだ。


 この街で時間がある時に仕込みをしておく必要があると考えていると、シャルロットから明日の予定を聞かれる。


 特にこれといって考えていた訳ではないが、折角冒険者になったのだから、依頼の一つでも受けてみようと言う事になり、その後は自室へ戻った。今後の予定を忘れないように薄い木の板に書いておいた。

 

 それから、皆が寝静まった時間を見計らい一人宿屋から出る影があった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

なかなか安定しない文字数だとは思いますが、これからも執筆していきたいと思いますので、良ければ読んでやってください。

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