表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

続・相合傘したガール

 私は燃えていた。

 結局のところ、恋する乙女は余計な小細工なしに、ストレートにぶつかるのが一番良いと思うのだ。これまで数々の作戦を練っては失敗したけど、今日はシンプルに行く。

 この相合傘におあつらえ向きの雨模様は、きっと神様が私の恋を応援してくれているのだろう。

 下駄箱でのんびりと靴を履き替えている彼に、私は勇気を振り絞って声を掛けた。


「神崎くん、一緒に帰ろ?」

「ああ、吉田さん。もちろんいいよ。最近一緒に帰るの増えたよね」

「えへへ、そうだね」


 彼と肩を並べて一緒に帰る。以前はこれだけで天に昇るような幸福感を味わえた。

 私はさらに勇気を振り絞り、お気に入りの水色の傘を閉じた。


「吉田さん? なにやってるの? 濡れちゃうよ?」


 彼は自らの傘をさっと私に差してくれる。

 私は、その彼に身体を寄せる。


「……吉田さん?」

「前からね、神崎くんと相合傘したいと思ってたの」

「え……そうなんだ」

「うん」


 彼は顔を赤くして言葉をつまらせていた。可愛い。

 そのまま私と彼は歩いた。しとしとと降る雨が、彼の肩にあたって濡れていた。それを防ぐために、私はいっそう彼に身を寄せる。

 橋を渡ると、以前私が踏み抜いたコンクリートロードに差し掛かった。道は未だに補修されずにいた。これも良い思い出だ。あの時の彼の体温は今でも忘れられない。

 今日の私と彼は無言の時間が多いけど、いやな雰囲気ではない。心地よい沈黙だった。

 しばらく歩くと、駅についた。屋根があるので彼は傘を閉じた。

 いつもならここで別れる。私と彼は乗る電車が違うのだ。

 私は別れが名残惜しくて、俯いてしまっていた。

 二人で改札を抜ける。私は下り線で、彼は反対側の上り線だ。でも彼はそちらに行かず、立ち止まっていた。

 そして彼が大きく息を吸ったのがわかった。


「あのさ、吉田さん。君に言いたいことがあるんだ」

「神崎くん……?」


 今、駅のホームには私たちしかいない。だから彼の声もよく聞こえる。

 彼は、私の目をまっすぐに見つめてくる。

 彼の顔はほのかに赤らんでいた。きっと私もそんな顔をしているのだろう。


「俺って思ったことは結構すぐ言いたくなるタイプなんだよね」

「うん」

「それで、今まで吉田さんに対してなんとなく思うところがあったんだけど、今日までそれがなんだかよくわからなかった」

「……うん」


「でも、今日はっきりした。俺、吉田さんのこと好きだ」

「神崎くん……!」


 彼の言葉を聞き、私は感極まって泣いてしまった。

 でも、私も言わなくちゃ。


「私も、私も神崎くんのこと好き。ずっと好きだったの」

「……ありがとう。凄く嬉しいよ」


 そう言うと、彼は私を抱きしめてくれた。

 勇気を出して良かった。躊躇せずに相合傘をしてよかった。

 私の恋は、最も幸福な形で成就した。



吉田さんの得たもの

・彼との幸せな生活

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ