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いとしの彼を守りたガール

 夏本番、私は燃えていた。

 夏といえば恋の季節である。彼に恋する私の季節といっても過言ではなく、もはや私のために夏があるといっても過言ではなかった。

 今夏、私には野望がある。愛しの彼と夏の代名詞たる海に行くことだ。

 そのために水着も新調した。彼をメロメロにすること間違いなしのセクシーかつ可愛い水着だ。少し不安があるとすれば、私のプロポーションが彼の好みと合致するかというところだ。

 もし、彼が類まれに見るデブ専だったとしたら、完全に私はアウトだ。私は控えめにいっても痩せ型、語弊を恐れずに言えばモデル体型、誇張して言えば究極完全態グレート・ボディである。

 しかし、彼の好みはチェック済みだ。過去に私が「モデルと大関、彼女にするならどっちが良い?」と尋ねたところ、彼は「え、その二つなら、まあモデルだよね」と迷いなく言っていた。控えめに言っても痩せ型の私は完全に彼の守備範囲でありストライクゾーンど真ん中である。彼の言葉が真実だと仮定した話だけど。

 私は勇気を振り絞って彼に声を掛けようとした。

 でもその直前、教室に闖入者が現れた。


「お前ら全員動くな! これをぶっ放されたくなかったらなぁ!」


 見るからにテロリストだった。黒い銃口が私たちクラスメイトに向いている。

 きゃーっ! と女の子の悲鳴が上がり、教室の端に逃げた。無理もない。


「うるせぇ! 黙ってろ!」


 テロリストは自動小銃を天井に撃ってクラスメイトを黙らせた。天井にたくさんの穴が空き、ぱらぱらと破片が落ちてきた。

 私は目に涙を浮かべて、密かにいとしの彼のもとに近づいた。


「こ、怖いよぅ」

「大丈夫だよ、吉田さん。大人しくしてれば大丈夫」


 彼が私の手をぎゅっと握ってくれた。私は幸せのあまり笑顔になるところだった。

 テロリストが教壇に立っていることもあり、クラスメイトのほとんどが教室の後ろの方に固まっていた。皆、怯えた表情をしていた。ちなみに先生はいない。


「くっくっくっ、目的の金を手に入れたらお前らは解放してやるよ。まあ、見せしめに二、三人は死ぬかもしれんがなぁ!」


 テロリストの脅し文句に多くの生徒が怯えて身を震わせた。

 私も得意のぷるぷる演技をすると、彼は私を抱きしめてくれた。耳元で「大丈夫、落ち着いて」と優しく声を掛けてくれる。私は歓喜に身を震わせた。


「おーおー、見せ付けてくれんじゃねぇか。おぉん?」


 私たちのラブラブっぷりを目撃したテロリストが、嫉妬に狂って近寄ってきた。私たちの空間を邪魔するのはやめて欲しい。


「彼女は怖がりなんです。こうしないと気が動転してしまうんです」


 彼はテロリストに対して毅然と言った。かっこ良すぎ!

 私はテロリストに顔を見られないようにしながら、相変わらずぷるぷると震えていた。


「けっ。まあ、泣き叫ばれるよりはいいか。殺さないといけなくなるしなぁ!」


 テロリストは教壇に戻っていった。

 それにしても何人のテロリストがこの学校に侵入しているのだろう。

 私は持ち前の第六感を駆使して学校内の気配を探った。


(あれ? 三人?)


 どうやらこの教室だけ占拠されているみたいだった。教室の外に見張りと思われるテロリストが二人居るが、それで仲間が全部かどうかまではわからない。

 窓際のクラスメイトが外を見ていた。その反応を見るに、おそらく他のクラスメイトが逃げているのを見たのだろう。

 でも私にとってそれらはどうでもいいこと。今はただ彼の胸に顔をうずめて、彼の匂いと体温を存分に味わうことが最優先だ。はぁ、おちつく。

 教壇に立つテロリストが携帯を使ってどこかに電話していた。


「おう用意出来たのか? 早く耳そろえて持ってこないとガキが死ぬぞ! わかってんのか!?」


 身代金を要求しているのだろう。いったいどれほどのお金なんだろう。億以上は間違いないだろうけど。


「遅すぎる! よーし、我々が本気だということを教えてやる。今からガキを一人殺す」


 テロリストは電話の相手にそう宣言した。いよいよ命の危機だ。


「さーてどいつにするか……。よし、そこのカップルの男の方。ちょっとこっちこいや」


 テロリストはあろうことか愛しの彼をターゲットにした。

 彼は私をぎゅっと抱きしめてから、すっと立ち上がった。


「ま、待って神崎くん! 死んじゃうよ!?」


 私は必死だった。


「くっくっくっ、いい顔だぜぇ女ぁ? 今からお前の彼氏は死にまーす!」


 テロリストは楽しげだった。

 私は怒りで燃えていた。誰であろうと彼に危害を加える人間は許さない。

 私は立ち上がり、テロリストのもとに近寄る。


「吉田さん! だめだって!」


 でも神崎くんに止められた。

 私は彼の手を柔らかく離すと、彼にしか見せないとっておきの笑顔を浮かべる。


「大丈夫。恋する乙女は強いから」


 私はつかつかと歩き、テロリストの目の前に立った。

 テロリストは、私の額に銃口を当てた。


「代わりに死ぬってか? 純愛だなぁおい!」


 私はひるまずに銃身を両手で握り、曲げた。


「なっ!?」


 動揺したテロリストの腹を蹴り飛ばし、黒板にめり込ます。マスクの口元あたりから血が滲んでいた。


「おいどうした!?」


 見張りが教室に来た瞬間、私は一歩で間合いを詰める。

 当然、相手は私の早さに対応できない。私は見張りの両手首を強く握って粉砕し、両足首も粉砕した。ついでに両膝と両肘も砕く。やかましい悲鳴が教室に響き渡った。

 廊下にはもう一人の見張りがいたが、私の恋する乙女パワーを見て逃げ出した。もちろん、ただで逃す私ではない。

 突如、廊下に突風が吹く。ちょうど、逃げ出す見張りの向かい風である。

 見張りは風に乗って私の目の前に吹っ飛んできた。私は飛んできた見張りをボレーシュートの如く蹴り飛ばし、廊下の壁に打ち付けた。その衝撃に壁が耐え切れず、人型に貫通した。

 私は教室の方に戻り、骨を砕かれた見張りの胸ぐらを掴んだ。


「他の仲間はどこにいる」

「へ、へへ、い、言うもんか」


 それだけで他に仲間がいることは確認できた。

 私は持ち前の威圧感を発揮して、もう一度問いかける。


「これ以上ひどい目に遭いたいのかな? 死ぬより辛いことがあるって、私の読んだ携帯小説に書いてあったよ?」

「ひぃ! わ、わかった! 言う! 裏門近くに仲間が待機してる!」


 ゲロったこいつに用はない。手刀で気絶させた。

 そして私は天に願う。こいつらの仲間に雷が落ちるようにと。

 思いは届き、晴れていた空はみるみるうちに重苦しい曇天へと変わる。

 黒雲から落ちる幾筋の雷が学校を照らした。ほぼ同時に轟音が鳴り響いた。


「……終わったかな」


 私はふっと息をつく。

 教室に戻ると、クラスメイトはまるでおぞましいものを見るような目で私を見ていた。

 むろん、それで怯む私ではなかった。


「うわぁ~ん! 怖かったよぉ~!」


 私は彼の胸に飛び込んだ。先ほどまで鬼神の如き活躍をした人間とは思えない無垢な振る舞いだけど、嘘も通せば本当になる。私の演技力はそれを可能にする。


「よ、吉田さん、俺は幻覚を見ていたのかな……? 君がとんでもなく強く見えたんだけど……」

「なに言ってるの! 私、銃を向けられてからのことは全然覚えてないよ! 怖くて、ずっと目を閉じてたんだからぁ!」

「そ、そっか。そうだよね。とにかく無事でよかったよ、吉田さん」


 彼はまた私を抱きしめてくれた。幸せすぎて気絶するところだった。



吉田さんの得た能力

・躊躇しない心

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