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手を繋ぎたガール

 梅雨の季節、私は燃えていた。

 相合傘は失敗に終わり、お昼を食べにいくことも結局流れている今、私は何としてでも彼と距離を縮めたかった。というか、手を繋ぎたかった。

 手を繋いで登下校など乙女の夢である。「ほら、トラクター来てる」なんて言われながら手を引き寄せられ、彼の身体に身を預けたりなんかしたいものである。

 放課後、私は勇気を振り絞って彼に声を掛けた。


「あの、神崎くん。一緒に帰らない?」

「ん? いいけど珍しいね。吉田さん」


 彼が不思議に思うのも当然……ううん、そろそろ私の好意に気付いてくれてもよくない? でもそんな鈍感なところも好き。


「ほら、神崎くんとは帰り道が一緒だし」

「あはは、そうだったそうだった」


 私のお決まりのツンデレに笑顔を返してくれる彼。

 私と彼は、駅までの道をのんびりと歩いていた。

 彼と手をつなぐため、私は行動に移す。


「んー、今日ってちょっと肌寒いよね」


 そう言って彼の反応を窺うと、彼はハンカチを手に額の汗を拭っていた。ハンカチの色が完全に代わってしまうほどに汗をかいているようだった。


「え? なにか言った?」

「えっと、ううん、なんでもないよ」


 どう見ても彼は暑そうだった。たしかに六月は寒いといえる季節ではないけど、それにしても汗をかきすぎにも思う。

 私は天候を恨んだ。今日くらい肌寒くてもいいじゃない。

 私は「太陽のばか!!」と心の中で叫んだ。

 すると、不思議なことにみるみるうちに太陽は陰り、温度が下がり始めた。


「あれ、なんか急に寒くなってきたね」


 彼が身を震わせていた。汗が冷えたことも関係しているのだろう。

 これは千載一遇のチャンスだ! 今こそ私の熱い体温を分け与えてあげたい。何なら手なんかじゃなく全身で温めてあげたい。


「じゃあさ、神崎くん、私の手あったかいから、その、手を」

「あーよかった。こんなときのためにカイロを持っておいて」


 カイロ!? 夏なのに!?

 私は目を丸くした。この時期にカイロを常備している高校生が果たして存在するだろうか、いやいない。

 こうなったら別の作戦を考えるしかない。

 私と彼は橋を渡っていた。橋の下には川が流れており、川岸には釣りをしている人なんかが見られた。

 その橋を渡りながら、私は閃く。

 某栄養ドリンクのCMのように、ファイト一発手を差し伸べればいいのだ。例えば彼が崖から落ちたり、橋から落とされるようなことがあれば、もう完全に手つなぎチャンスである。

 でも、そんなシチュエーションはそうそうない。あるとすれば、彼が何かに躓いたときに支えるくらいしか……!

 私と彼は橋を渡りきった。

 平坦な道を歩きながら、私はひとつ強く踏み込んだ。

 ズドン!


「うわぁっ!?」


 すさまじい轟音と衝撃が走った。爆心地は私の右足だった。

 私にとってそれらはどうでもいいことで、この衝撃でこけそうになる彼を支えることしか考えていなかった。

 しかし衝撃が強すぎたせいで、彼は私から数メートル離れた場所に吹っ飛んでいた。


「よ、吉田さん!? 大丈夫!?」


 彼はすぐに立ち上がり、私のもとに駆け寄ってきた。格好良いけど、できれば私が手を差し伸べて立たせたかった。


「う、うん、大丈夫だよ神崎くん。何が起きたのかな?」


 私はぷるぷる震えながら言った。我ながら完璧な演技だと思う。


「わからないけど、多分隕石が落ちてきたんだと思う。ほら、すぐそこのコンクリートがえぐれてる」


 彼は、私が踏み抜いて粉々になっているコンクリートを怯えた表情で見ていた。子犬みたいで可愛かった。

 しかしまた手をつなぐことに失敗してしまった。

 そろそろ駅についてしまう。駅で彼とは別れてしまうのだ。何か別の作戦を考えないと……!

 そして私ははっとなる。そう、私は乙女、か弱い乙女なのだ。


「あっ……」


 私は唐突に地面に膝をついた。

 それを見た彼が、心配そうに尋ねる。


「ど、どうしたの!? 大丈夫?」

「……実はね、さっきの隕石で、足を痛めたの」


 実際には全く痛くないし、隕石なんて虚言もいいとこだけど、これで私を立たせるために手を貸してくれるはず!

 そう思って彼を見ると、彼は私に背を向けて膝をついていた。


「ほら、おんぶしてあげるから。乗って」

「……うん!」


 手を繋ぐことはできなかったけど、結果おーらい! 恋する乙女は好きな人と触れ合えるだけで幸せなのだ。

 私は喜んで彼の背に身を預けた。必要以上にぎゅーっと彼を抱きしめると、彼は苦しいよと苦笑いしながら言っていた。



吉田さんが得た能力

・天候操作

・半端ない脚力

・アカデミー賞クラスの演技力

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