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お昼を食べに行きたガール

 土曜日の放課後、私は燃えていた。

 午前で授業が終わることもあり、ほとんどの生徒はお弁当などは持ってきていない。家に帰って食べるか、帰りにどこか食べに行く人がほとんどだ。

 そして、愛しの彼が午後をフリーにしているのはチェック済み。私が彼とお昼を共にすることは十分可能なはず。

 教室を出ようとしていた彼を、私は勇気を振り絞って呼び止めた。


「あの、神崎くん。お昼食べに行かない?」

「ん? 別にいいけど、珍しいね。吉田さんがそんなこと言うなんて」

「それはほら、神崎くんが暇そうだったから」

「あはは、そっかー。誘ってくれてありがとね」


 彼は柔らかい笑顔を浮かべて了承してくれた。私の微妙なツンデレに嫌な顔ひとつしない彼に改めて惚れた。

 彼と一緒に教室を出ると、彼の友達が目の前に現れた。


「おい神崎、今日部活オフだったけど、やっぱあるって。二時にグランド集合だってよ」

「え、マジ?」


 私は耳を疑った。どうしてこのタイミングで部活なのだ。


「ごめんね、吉田さん。部活が入っちゃった……」


 彼は心底申し訳無さそうな顔で謝った。彼は何も悪くないのに。


「そ、そっか、それならしょうがないよ。うん」


 私は気丈に振る舞った。彼は何も悪くないのだ。

 でも諦めきれない。なんとかして彼をこの場から連れ去れないものか……!

 しかし考えは浮かばず、彼とその友達はこの場を後にしようとしていた。

 切羽詰まった私は奥の手を使うことにした。


「う、うぅ……ひっく……」


 私の目から滂沱の涙が流れた。はっきりいってこの涙を見て足を止めない男は男にあらず。私が見込んだ彼は間違いなく男だから、きっと立ち止まってくれるはず。


「吉田さん!? どうしたの?」


 ほら、やっぱり彼は優しい。


「ううん、なんでもないの。えへへ、ごめんね」


 私はやはり気丈に振る舞った。これぞ戦略、これぞ乙女、これぞ強い女。

 彼の友達も、私の涙を見て心が動かされたみたいだった。


「……神崎。行ってやれよ」

「……のぼる?」

「俺はお前に部活の変更を伝えるのを忘れた。……そういうことにしておいてやる」

「のぼる……!」


 彼の友達は颯爽と廊下を歩いて行った。彼ほどではないけど、彼の友達も間違いなく男だった。


「じゃあ、吉田さん。いこっか」

「うん!」


 私は意気揚々、彼とともに下駄箱に向かった。

 下駄箱に着くと、またしても彼に声をかける人が現れた。


「神崎くーん! 借りた本をちゃんと返してください!」

「あーごめん。月曜日に返すから……」

「そう言っていっつも返さないじゃないですか! いいです、今日は私があなたのおうちに行きますから!」

「え! そこまでしなくても……」

「問答無用です!」


 図書委員の小倉さんだった。どうやら彼は図書室から借りた本を延滞しているらしかった。

 私はめらめらと燃えていた。なにせ彼女は彼の手を握り、それどころか家にあがるつもりでいるのだ。これを見過ごしては女がすたる。というか、私はメスに容赦はしない。


「小倉さん? 神崎くんが困ってるよ?」


 私が声を掛けると、小倉さんは眉を釣り上げた。


「神崎くんのせいで図書室を利用する大勢の人が困ってます!」


 むぅ、正論だ。でも、恋する乙女に理屈や正論は通じないのだ。

 私は目に力を込め、声にも力を込め、小倉さんに言い聞かせる。


「いいから、手を離して、あなたは図書委員の仕事に、戻りなさい。わかった?」

「……はい」


 私の恋する乙女パワーに慄いたのか、小倉さんは茫然自失の顔で図書室に戻っていった。全ては恋の力の成せる技である。


「あれ、小倉さんどうしたんだろ?」

「さあ。でも、本はちゃんと返さないとだめだよ?」

「あはは、うん。そうだよね」


 彼を優しく叱る良い女、それが私である。

 ともあれ、一刻も早く学校を出たい。彼は私が見込んだだけあって交友範囲が広く、人望も厚い。学校にいると、分単位で誰かに声を掛けられてしまう。

 私が一瞬で靴を履き替えた一方で、彼はのんびりと靴を履いていた。そんな姿も可愛いけど、今は急いで欲しかった。

 やっぱり私の第六感が告げている。彼に声をかける悪しき人物が近づいていると。


「おう神崎、今日部活あるって聞いたか?」


 下駄箱に現れたのはサッカー部顧問の岡田だった。

 声を掛けられた彼は、私を一度見ると小声で「ごめん」と言った。


「いえ、聞いてませんでした」

「そうか、まあ、二時にグランド集合だ。他にも聞いてない部員が居たら教えてやれ」

「はい」


 流石に顧問に見つかってしまっては彼も部活に行かざるを得ない。

 でも、諦めきれないよ。私は彼と一緒にお昼を食べたい。それであわよくばあーんとかやって、間接キスもして、最後には……!

 でも、それもうたかたの夢と消える。彼はこれからグランドに向かってしまうのだ。


「ごめんね、今日は部活行くよ。でもさ、吉田さんさえ良かったら来週あたり行こうよ」


 私の気分は一気に晴れやかなものとなった。やっぱり彼は最高だった。

 満面の笑顔を浮かべて、私は言った。


「うん! ぜったい来週は一緒にご飯ね!」


 彼もまた、笑顔で頷いてくれた。




吉田さんの得た能力

・嘘泣き

・威圧感

・恫喝

・第六感による気配探知


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