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私の一番古い記憶は、空腹だ。
いつもお腹をすかせていた。
母はいつも私ではない誰かを見つめていた。
気がつけば、母がいない。
当たり前の事だった。
誰もいない部屋で空腹の私は、いつも母を待っていた。
ねぇ、早く帰ってきて。
目が覚めた。
ソファーではなくてベッドにいた。
洋服もムームーのようなワンピースを着ていた。
こちらのパジャマのようだ。
昔の夢を見ていた気がする。
いつも体調が悪いと昔の夢を見る。
背中の痛みは、消えていた。
どうやらずいぶんと寝てしまったようだ。
すっかり真っ暗になっている。
喉が渇いた。
一回自覚すると、どうしても水が飲みたくなった。
そろそろ、寝るか。
アレクは執務室の光を消すと、部屋を出た。
寝る前に日課の戸締りを確認しにいく。
コトっと何か音がした。
いつも持ち歩いている短剣に手をかけ、そろりと中を伺う。
月明かりの中で、迷い人が膝を抱え椅子の上に座っていた。
何をしているんだ。
確認しようと黙って見守る。
どうやら水を飲んでいるようだ。
ほっとしてもう一度迷い人をしっかりと見た。
本当に小さい。
背中を治療して、ベッドに運んだときの体の軽さに驚いた。
しがみついて来た時は、さすがに動揺したが。
けれど、帰りたいと言わないし、わがままも言わない、泣いたりもしない。
その様子は達観した大人のようだ。
見た目が子供の様だから、その様子がかえって痛々しい。
くしゅん。
小さなくしゃみが聞こえた。
「夜は冷える。そろそろ部屋へ戻れ。」




