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8.帰郷

男色王13話と共通です


お気に入りありがとうございます!!


闇夜に紛れて走る。

先を走る父は、容赦がない。

いつもそうだ。

いつも、私を置いていくつもりで走っている。




*************



「え、姫様結婚するんですか?!」

王都に戻って来たのは三ヶ月ぶりだった。

魔物討伐の遠征に加わっていたのだ。

「何回確認とっても承諾するんだ、あいつ」

目の前の、姫様の兄君、アイルファード国王アントニオ・アイルファード国王陛下は困ったように眉を下げる。

「テロルゴは隣国としてはいい。いい、が」

「テロルゴって……テロルゴの王家に嫁ぐんですよね?」

頷く陛下にさらに聞く。

「でもテロルゴの国王って男色で有名じゃないですか。他に男性の王族いませんよね?……まさか先王」

「それはない」

陛下が即答したことに少し、いや、かなり安堵する。

「陛下がそもそも話が来た時点で拒否すればよかったのでは?」

そう切り返すと、

「俺もそのつもりだったんだが……、使者が来たところに姫がいてな……」

そう言って陛下は眉に指をあてる。

「あぁ、それは……」

姫様が一度言ったら考えをなかなか覆さないのはさすがにもうわかっている。

なにか説得出来るほどの理由があれば話は別だろうが。

こちらもこちらで、半ば諦めている。

「……そう言ったら、聞きませんからね。まぁ、私も同行……」

「お前は駄目だ」

「どうして」

「魔力の維持はどうやってしていくつもりだ」

その言葉に詰まる。

「遠征が大丈夫だったので、多分平気です」

苦し紛れに出た言い訳にしてはまともだったと思う。

「……あのな、遠征とはいえ今回は国内だったから何とかなったようなものだ。あいつが行くのはテロルゴだろ?向こうは向こうで独自の……」

「大丈夫です!いざとなったら王宮から抜け出しますから!!」

拳を作って力説すると、陛下はこちらをうさん臭そうに見る。

「ったく、魔装具作らせるから持ってけ!」

半ば、やけくそになる陛下に私は笑顔で淑女の礼をとった。







それから一ヶ月。

仕事の引き継ぎも済ませた。

魔装具も出来上がり、足首に着けている。

ぱっと見はただのアンクレット。

侍女の服を着れば裾に隠れて見えない。

準備は上々。

私は上機嫌だった。

……そう、私は。



「はぁ?海路が封鎖?!」

ただでさえ地声のでかい陛下がさらに大きな声を出すと、王宮の入口まで聞こえるのではないかという幻想を抱いてしまう。実際、陛下の執務室の外に居る護衛騎士が驚いている。

海路、ということは姫様の輿入れの話だ。

声を抑えるような仕草をする。

「えぇ……どうやら、海賊のようです。それも一隻だけじゃありません。賊にしては珍しく他の徒党と組んで海路上に居座っていますね」

「……何隻だ?」

「それが、霧の深い海峡に根城を置いているようで……。はっきりした数が掴めていません」

陛下の眼に険が宿る。

「……地形を変えればいいんじゃないか?」

「は?」

驚きの声を上げたのは今まで黙っていた宰相だ。

「地形を変えれば、霧もなくなるじゃないか」

私と宰相、二人して無言になる。

別に確かに……なんて思っているわけではない。

こいつならマジでやる。

そう思ったからだ。

「よし、やろう」

そう行って椅子から立ち上がり、部屋を出て行こうとする陛下を私と宰相は必死で引き止める。

「っ!陛下、ちょっ、待ってください!!」

隣を見ると、宰相も涙目である。

可哀相に……彼は確か来年定年を迎えるはずだ。





*************




「陛下、……なに、してらっしゃるの?」

紋章を方陣化して展開している夫。

方陣の上に自分の紋章を重ねて発動だけは止めている妹。

いつから発動しているのか、入口のすぐ側で防御結界を展開しながら失神しかけている宰相。

正直、誰に何を話しかけたらいいのかが、分からない。

そういった顔で、アイルファード国の王妃――ミリアム・アイルファードは辺りを見回す。




「ミラ!止めるな、たかが山の一つや二つ……!」

「何が、一つや二つだ!地図が変わるわ!!」

あら、珍しい。

ミラが本気で怒っているわ。

暢気にそう考えていると、宰相が一番初めにミリアムの存在に気がついた。

「お、王妃様……!!」

宰相の声に他の二人もミリアムの方を見る。

「ごきげんよう、宰相閣下。……二人も、元気ねー。まだまだ若い証拠ね」

頬に手を当ててにっこりと笑顔を浮かべる王妃に、その場に居た全員が気を抜く。

「……妃、ミラを説得してくれ。海路の賊を一掃させるのは姫の輿入れだけではない、政治上にも意味がある」

「あらあら。陛下、海路を整理したいお気持ちは分かりますがさすがに地形を変えてしまうのはよろしくありませんわ」

ミリアムがそう言うと、アントニオは紋章を解除する。

「わかった」

アントニオが紋章を解いたのを確認すると、ミラも紋章を消す。

「助かりました、王妃陛下。私では紋章は止められませんから」

「よく言うよ、現実に俺は紋章を発動できなかったぜ」

「私がどれだけ頑張ってもストッパーにしかなれないの、陛下が一番よく知ってるじゃないですか」

ミラが柔軟体操をしていると、ミリアムがミラの側による。

「あら?ねぇ、ミラ。そのアンクレットどうしたの?」

姉が不思議そうに指さす先をミラは目でたどる。

足首で煌めくアンクレットが目に入った。

「あ、これ?魔装具です」

スカートをめくり上げると、顔を真っ赤にしたアントニオが滑り込んでミラのスカートを抑える。



「女の子がはしたないことしちゃダメでしょ!!!」





顔を真っ赤にしたままのアントニオがミラのスカートを整えてから立ち上がる。


「……ッホン!!しょうがない、地形は変えない方向で賊の討伐を進めていく事にしよう」

納得はいっていないようではあるが、アントニオが譲歩をするのは珍しいから何も言わない。


「ねぇねぇ、ミラ。どうしてアンクレットを着けているのかしら?いつもはアクセサリ着けたがらないのに」

国王の照れ隠しを完全にスルーする王妃を呆然とアントニオとミラは見つめていた。




*************




目の前に広がる王都を、ミラはぼんやりと見つめる。

あの時着けていたアンクレットは国境付近で使い物にならなくなっていた。

アクセサリとしては十分使えるが、これから侍女として働く自分には不要な物だろうと、しまいこんでいたのだが。


「……もとに、戻ってる」

足首にあるアンクレットは魔装具としての機能を果たしていた。

なぜ使い物にならなくなっていたのかも、それすらも今のミラにはどうでもいいことである。


「お前は、強くなったね」

父が振り返る。

「いつもと同じスピードだと余裕も出てきたね」

にっこりと、姉と同じ笑顔を向けられる。

それには言葉を返さず、もう一度愛する祖国の都を見つめる。






もう、戻ってくるつもりはなかったのに。





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