6.自覚2
「……なんで、避けなかった」
将軍はあからさまに顔に不快感を出している。
「彼女達、自分が何言ってるのか解かってなかったでしょう?後宮内に来られても面倒ですから」
理由はそれだけではない。
将軍はあの侍女たちの口から自分の名前が出て来た時にはすでに近くにいた。
様子を見ようとしたか、面倒に巻き込まれたくなかったのかは知らないが、彼女たち最初に手を振り上げた時も動く様子がなかったので、一発くらいは受けた方がいいのかと思ったのだ。
「彼女たちは後宮内には来ない。入れない」
「……それ、言ってもいい事なんですか?」
聞いちゃいけないことを聞きたくはない。
どうせ、もうすぐこの国から居なくなる身の上だ。
「いいさ。……あんたなら」
と、いうことは本当は言っちゃいけない事だったんだろう。
沈黙が流れたところで自分が何をしていた途中か思い出す。
「……あ、じゃあ自分は姫様のところに戻ります」
助けてもらってありがとうございました、と頭を下げ、その場を離れようとする。
「あんた、なんで自分が王族だって黙ってた?なんで王族が侍女として働いてるんだ?」
背を向けた私に将軍は棘のある言葉を投げる。
「この国には姫様の侍女として来たからです。……まぁ、言った方がいいのかとも思ったんですけど。祖国でも王族の一人だなんて扱い受けていなかったですから、知らせない方がこっちもそちらもも色々とやりやすかったでしょう?ってか、王族が働くことの何が問題なんですか。貴族の娘だって侍女として働いているでしょう?」
将軍の一言に腹が立った。
まるで、王族は遊んで暮らしているようじゃないか。
「王族と貴族が働く先を一緒にしてどうする……」
「深窓のお姫様にでもなれと?誰の事を言っているのかは知りませんけど、私はその人ではないです。過度に期待されても嫌ですし、私を見ないうちから過小評価されるのも嫌です」
「……あんたこそ、誰の事を言ってんだ」
噛みついたのがよっぽど気に食わなかったのか、将軍は眉間に皺を寄せて睨みつけてくる。
将軍の問いには答えずにもう一度頭を下げて、その場を走り去った。
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……で。
なんで、こうなった。
「あなた、最近ライザック様にベタベタしすぎではなくって?」
「ライザック様は皆に優しいのよ、あなただけではないの」
「そうよ、あなたのようなみすぼらしい娘、ライザック様につり合うはずがないわ」
さっき聞きました。
ため息を漏らしたくなる。
先程の侍女達とは違う侍女の集団につかまったのだ。
今度は廊下の陰。
なんというか、パターンにもう少し多彩性をみせてもらいたい。
しかし、彼女達は先程の侍女も言わなかったことを言ったのだ。
「あのような、殿方しかいらっしゃらない後宮に居座るような、好色の王女に付き合わなければならないなんて。ライザック様はおかわいそう」
「……。失礼しますね」
貴族の侍女たちは、目の前のみすぼらしい侍女を追い詰め、彼女が泣いて職を辞めればいいと思っていた。
しかし、目の前の侍女はにっこりと笑い、侍女―ミラは、輝くほどの笑顔を目の前の侍女たちに向けてそう呟いた。
刹那に風が吹く。
廊下の陰から一人の侍女が出てきた。
彼女は何ごともなかったかのように、王女宛の書類を持って後宮に向かって歩き出した。
その後。
見回りの騎士によって廊下の陰で気を失った侍女が集団で発見されたのはその日の夕方の事であった。