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4.デート2





不機嫌というよりも、恥ずかしそうに拗ねている将軍の背中を追いかけて小走りでついて行く。

体格がこれだけ違うのだから、当然のことながら足のリーチが違う。

さっきまでは手加減して歩いていてくれたんだな、とわかる。

「将軍、機嫌直してください。あと、御馳走様でした」

背中に話しかけると、少し歩行速度が遅くなった。

支払いは将軍がしてくれた。「こういう場面は男が払うもの」なんて。

今どき古いですね、なんて言ったらさらに拗ねることが分かっていたので言わなかったが。

「……よ」

「は?」

なんと言ったか聞こえなかったので、聞き返すと将軍が振り返る。

「だからっ、秘密にしといてくれよって言った」

「……何を?」

将軍の秘密なんていつの間に握ったのだろう?

「……俺が、甘いもの好きだってこと」

「あぁ、……坊ちゃんって呼ばれてることに関しては話しても?」

むしろ、そっちの方が嫌だと思っていたんだが。

「……それもだ」

呻く将軍に思わず笑ってしまう。

「いいじゃないですか。私、祖国では女史って呼ばれていたんですよ?」

「お局……ってやつか」

将軍がニヤッと笑う。


すねでも蹴ってやろうかしら。




*************





「……城下町の西は治安があまり良くない、というのは聞いていましたけど……。東も芳しくはないご様子で。」

「俺も今知ったんだよ。悪かったな、巻き込んで。……なんとか、あんただけでも……。」

逃げれねぇかな。と呟く背中を肩越しに見ると、ミラは口の端を上げだ。

「将軍が御存知ないというのは、それほど向こうが巧妙だったのか……、ただ将軍が職務を怠っていたのか……どちらですか?」

「……あんた、俺にだけは容赦ねぇよな?」

その言葉に思わず笑ってしまう。

「笑える……ってことはまだ余裕だな?」

「えぇ。……でもきっと逃げられないでしょうね……囲まれていますし。」

「!分かるのか。」

将軍が振り返るのが分かる。

「問題は、将軍ではなく私です。武器もなにも持っていませんから。」

「あんたは、俺が。」

「守ってやる……とか言わないでくださいね。」

自分が言おうとした言葉を言うなと不快そうに吐き捨てるので、思わず息が詰まってしまった。

そうしているうちに囲まれていた輪が徐々に縮まっていっていた。

「守っていただかなくてもいいですから、……後ろ。後ろだけ、任せますから。守ろうなんて、絶対に考えないで。」

「……分かった。けど頼むから無理はすんな。」

ライザックが自分の腰から何かを引き抜く。

「使いな。」

受け取ると、それはダガーだった。

将軍が持っている実用的な剣とは違い、煌びやかな彫刻が柄に彫られている。

刃渡りは中指一本分位で、将軍が使うのだと考えると小さい気がする。

「これ……?」

「小さいが、切れ味は保証する。あんま武器とか持たせたくないんだが、……非常事態だしな。武器持ってるからって頼むから自分から挑むなよ、あくまで、逃げることが大前提な。」

ライザックはもう一度正面に向かって剣を構える。

正直、小ぶりなダガーを一本持っているだけの侍女に背後を任せるなんて普通なら絶対にしない。




*************





こんな白昼堂々と襲ってくるとは思っていなかった。

足元にのびている暴漢共を見おろす。

それにしても、おかしい。

三流の匂いはするものの、狙いは完全に将軍だった。

私はどちらかというと同行者だから襲われた感じ。

将軍に目を向けると剣を収めているところだった。

「けがは?」

首を振ると、安堵したように近づいてくる。

この人は自分の姿が分かっているのだろうか。

「片付いたのはいいけどなぁ……後始末が面倒だな」

「……よくそんなに返り血浴びられますね」

シャツが白いせいか、余計に将軍が血だらけに見える。

「あんたは、綺麗だな」

忌まわしい父の教育方針のおかげで、私は無傷。

スカートを返り血で汚すこともなかった。

「えぇ、おかげでけがもありませんし、大丈夫ですよ」

綺麗だな、なんて。

今の状態から考えると、嫌味なのか皮肉なのか。

いい意味で聞こえないのは確かだ。




「さっきの酒場に戻る。あそこなら勝手が効くからな」

先に路地から出て行くように促される。

噎せ返る血の匂いは路地の中だけだった。

一つ道を違えただけで、空気も何もかもがすべて違う。


「……ふぅ」

息をつくと将軍が私をより先を歩く。

「悪かったな、観光台無しにした」

そう言いながらも、将軍は殺気を隠そうともしていない。

牽制のつもり?

「いいえ……。将軍、殺気を抑えて」

身近な路地に将軍を引っ張り込む。


チッ……無駄にでかい図体してるわね!





やがて先程まで自分たちがいた路地の人の気配が消える。

……今日は、様子見って事かしら。

「……すみません、気のせいだったみたいです」

将軍の腕を掴んでいた手を離すと、逆に将軍が手を掴む。

「あんた、何者だ……?」

真剣な瞳に貫かれる。

「普通の侍女は気配なんて読めねぇ。殺気だってそうだ」

「……理由は、私の独断ではお話しできません」


これ以上話すのは、勝手にはできない事だ。







「……城に戻りましょう」

「あぁ」





陛下への報告もあるだろう、姫様にも。










*************






「ミラっ!!街で暴漢に襲われたって本当なの?!」

陛下の執務室で将軍が陛下に報告中に、姫様がドアを蹴り破る勢いで入室してきた。

「姫様……私は無傷です。あと、陛下の御前ですよ」

近衛は何をしていたんだ、と思わずには居られないが姫様にそういう事を望んでもしょうがないのも分かっている。

「申し訳ありません、陛下……」

後ろを見ると、息を切らせながら追いついたポネーと近衛騎士の姿が見えた。

「……姫様、お部屋にいらしたんですか?」

「えぇ、知らせをいただいてここまで走ってきたの」

陛下の執務室があるのは後宮ではない。

姫様の部屋からそこそこの距離がある。

「……それでも、君たちは殿下に追いつけなかったのか?」

私の考えていた事を代弁する、ノーランド様が呆れたように額に手を当てている。

「姫様の逃げ足は油断するとそこらの盗賊よりも早いですよ」


これまで何度逃走……撒かれたことか。







「……で、話を戻させてもらうが。姫さん、あんたの侍女は一体何者だ?普通の侍女は気配なんて読めないもんだし、あんたに対する態度もそうだ。一介の侍女がしていい態度じゃねえだろ」

将軍はあれからいつもの冗談を言っていない。

「彼女は独断で自分の話はできないって言っている。だから姫さん、教えてもらえないか?」

私も姫様も、言葉に詰まる。



「それは……、出来ません」

「理由は?」

「私の独断でも……言えないのです」

将軍は何も言わない。



「……二人を襲った男たちに関してはこちらで探っておく。何かわかるかもしれない。……しかし、無事でよかった、今は、ただそれだけだ。そういう事にしないか」

沈黙を破った陛下は、姫様に笑いかける。

「……申し訳ありません……」


何も、言えないことに。

陛下はおろか、将軍さえも信用していないようで、胸が少し痛んだ。







*************





自室に戻ってから気がついた。


将軍に貸りたダガーを返すのを忘れていた。

「……今は、」


返しに行く勇気が、ない。


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