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10.新任

お気に入り、感想ありがとうございます!

男色王と書籍王妃15話と共通です。

この話までが共通です。

「お前、ちょっとここに正座」

戻って来たミラに向かってアイルファードの国王の第一声はそれだった。



「はぁ……」

そう言って謁見の間で正座する女性。

「魔装具持たせたよな?」

頷くと、目の前の国王は頭を抱える。

「動作不良でテロルゴに着いてすぐに外しましたけど」

今は元のような輝きを取り戻しているアンクレットをミラは足首に着けている。

「……何で一度も戻ってこなかった?その様子だとなんかあったろ」

こちらを睨む視線が痛い。

「先日戻る直前にとある御仁達の記憶をいただきましたから、まだ大丈夫です」

にっこり笑うと、国王は玉座から立ち上がる。

「ミラ、……すまん」

悔しそうに俯くアントニオ。

「なんで、陛下が謝るんですか。むしろ喜ばないと」

「それでも、俺にはもうお前に何もしてやれない」

「……魔装具の機能は戻っています」

「……それでも期限は付く」

何を言ってもアントニオの顔が晴れることはない。

「……しっかりしなさい。アントニオ、父親がそんな顔をしていたら産まれてくる赤子がかわいそうだ。姉上も、お腹の子も、守れるのは貴方だけだ。背筋を伸ばしなさい。前を向きなさい。貴方が背負うのは妻と子とアイルファードの民。……私が言えるのはそれだけだ」

ミラの口調は国王に向かって話す言葉づかいではなかった。

それでもその場に居た誰一人として動こうとしない。

「……あぁ。ありがとう、ミラ」

そう言ってアントニオはアルティアラインにそっくりな泣き笑い顔を浮かべた。



*************


イズールがアントニオに話があるからと言われ、特に興味もなかったので謁見の間から出て行く。

当然だが、王城に変わったところはない。

見張りの兵も、顔を覚えているものばかり。

ミラはふといつもの癖が出ている事にある場所に着いたことで気がついた。



「あれ?姐さんじゃないっすか。いつ戻ったんス?」

気がついたら練兵場に来ていた。

いつもの事だった。

王城でする事が無くなると、ミラはとにかく練兵場に来ていた。

それは、まだ自分が少女であった頃からの癖。

「いつ戻られたのですか?だろう。何かその言葉おかしいぞ、ロキ」

目の前の猫のような相貌の青年を見る。

以前下町でいろいろとやらかしていた彼の首根っこを掴んで騎士団にぶち込んだのは確か三年前。

戻った、という表現がくすぐったくって、思わず笑ってしまう。

「……?将軍は、仕事か?」

かつての部下の姿が見えないので、辺りを見回すが姿が見えない。

「あぁ、ダンチョーサンなら結婚の、なんちゃらでずっと机仕事ッス」

結婚の、で合点がいく。

あぁ、姫様の結婚式か、と。

「そうか。陛下も来賓で行かれるからか」

彼も大変だな、というとロキは楽しそうに剣を取り出す。

「まぁ、後でダンチョーサンにも会って下さいッス。で、姐さん。やろうッス!」

「……ロキ、なんでも“ッス”を付けたら丁寧になると思っていないか?」

「え?なんねぇの?……ま、いいや。姐さんやりましょうよ。で、オレが勝ったら結婚しようッス!」

楽しそうに、剣を差し出す目の前の青年にミラは苦笑いで応える。




「……勝てるものなら、な」







「…………ッはっ!」

「剣筋はまぁまぁ腕を上げたが、左の脇ががら空きだ。少しは防御も覚えろ。ロキは、回避はできるのに防御が甘い。……それから三番隊。全員脇をもっとしめろ。四番隊、剣先で攻撃しようと思うな。どちらかというと柄の方で斬りかかれ……」

目の前の相手のみならず、練兵場の各隊に指導していくミラに、ロキは息を切らせながら呟いた。

「……化、けものっ、みたいッス……姐さん……」

その呟きに意地悪な笑みでミラは答えた。

「なんだ?その化け物に求婚したのか?お前は」




「……私の仕事を取らないでください、女史」

言葉とは裏腹に、嬉しそうに苦笑いで練兵場の入り口に立っていた男にその場に居た兵士が敬礼する。

「女史はやめて下さい」

髪には白髪が混じり、目尻には笑い皺ができ始めた将軍、かつてのミラの副官――現アイルファード騎士団団長オルトヴァレス・ドルレアンは微笑んだ。




オルトヴァレスはゆったりとした足取りで、練兵場の中に入ってきた。

「お久しぶりです、ミラ女史」

にっこりと笑うオルトヴァレスに思わずこちらまで笑顔になってしまう、とミラは思った。

「えぇ。お久しぶりです。お変わりありませんか」

「ダンチョーサン、婚約したッスよ!」

回復したのか、手合せの前と雰囲気を変えずにロキが立ち上がる。

「しかも二十歳下ッスよ。結婚したら幼な妻ッスね~」

「……そうッスねー」

顔を真っ赤にする騎士団長を見てミラは思わずそう呟いてしまった。

「それは、おめでとうございます。ご結婚はいつの御予定ですか?」

ミラが気を取り直して祝いの言葉を言うと、オルトヴァレスは嬉しそうに頬を染め直す。

「えぇ……、彼女は私が四十になる前に結婚しようと言ってくれているのですが、来月は王女殿下の御婚姻ですし……私の誕生日は三ヶ月後なので三か月後に結婚しようか、と言っていまして……。私は婚約でも十分嬉しいのですが」

照れながらもばっちり惚気るオルトヴァレスに見慣れたのか、ロキはげんなりした顔をしている。

「三か月後……ですか。……もう少し早い方がいいかもしれませんね。いっそテロルゴの婚儀が済んで帰ったらすぐの方がいいんじゃないかと思いますよ」

「?何でッスか?」

……ロキには言えない……。

すぐに辺りに言ってまわりそうだ、さながら拡声器のごとく。

「……ロキ。君は訓練中だろう。陛下が女史をお呼びだから私は女史と謁見の間に行くから、訓練を続けてくれ」

「うッス!じゃあ、姐さんまた後で」

疑問に答えて貰わなかったことはあまり気にしていない様子で、ロキは訓練に戻った。


「陛下が呼んでいるというのは……?」

「女史はどうせ訓練場だろうから、しばらくゆっくりしてからでいいとの仰せです。……少し、歩きましょうか」

そう言ってオルトヴァレスはミラと練兵場をあとにした。





*************


「……私は、理由を聞いても大丈夫でしょうか?」

「えぇ」

ミラは何を、と聞かずに頷く。

「では、どうして三か月後では都合が良くないのでしょうか?」

にっこりと笑う騎士団長には隠し事をする必要はない。

それは、長年年下の自分を上官として着いて来てくれた事も一因している。


「王妃陛下が、ご懐妊されました。……と言ってもまだ二・三週間といったところです。……しかし」

「……しかし?」

オルトヴァレスは喜びも、驚きもせずにミラの次の言葉を待つ。

「……しかしすでに国王の紋章は王妃陛下の御子に受け継がれています」

「!」

「どうやら、次代の国王陛下は天賦の才と言っても良いほどの何かをお持ちのようです」

少し笑ってみると、先程まで微笑んでいたオルトヴァレスは緊張を顔に張り付かせている。

「……なるほど、それで、三か月後は……」

「えぇ。王国全体が湧きます。……混乱も、ね」

「……それならば、私の結婚など」

「結婚など、とは言ってはいけませんよ、オルトヴァレス。婚約者殿も、貴方も幸せになるんですから。婚約者殿と話し合ってください、それで決めてください」

ミラがにっこり笑うと、オルトヴァレスは婚約者を思い出したのか、幸せそうに笑う。

「……えぇ、そうします。ありがとう、ミラ女史」

「だから、女史はやめてくださいと、何度言ったら……」

ミラが困ったように眉を下げると、オルトヴァレスは面白そうに笑う。

「女史、も結婚式にはぜひ来てくださいね」

「だから……、あぁ、もう。結婚式、絶対行きます!!」

ミラは諦めたように、それでも楽しそうに声を上げた。







もう一度来た謁見の間には、

「ミラ!」

駆け寄って自分を抱きしめる懐かしい感触に、ミラの顔が思わず緩む。

「ただいま、姉様。……懐妊、おめでとう」

「……ありがとう」

本人は涙をこらえているつもりだろうが、重力に耐えきれない涙はこぼれ出す。

「ホントはね、アントニオにその事を聞いたとき、おろすことも……考えたの」


「そんなことしたら、陛下の顔が原型見る影もなくなりますよ?」

「そんなことしてたら、いまごろ君は未亡人だったねぇ」


毎度のことながら、いつの間にかミラの隣に立っているイズールとミラがとんでもない事を言い出した。

特に、イズール。


「彼女と僕の子に子供を宿しただけで殺したいのに、その上、腹の子を殺すなんて、ねぇ?」

「えぇ。国王というのも、従兄弟というのも全て無視して、一人の外道として跡形もなくこの世から存在を抹消します」

ミラの発言は、先程よりもエスカレートしていた。


「二人とも、気持ちは分かる。……そんなこと、俺もさせない。それより、胎教に悪い。余り物騒な事言わないでくれ」

アントニオは、真剣な顔でミラに駆け寄る際にミリアムが落としたショールをミリアムの身体に巻きつける。

ついでに、自分も巻きついた。

「……寒くないか?」

「えぇ、大丈夫。……あら?お父様、ミラ、どうしたの?」


胎教に悪い、と言われたせいだろう。彼らは何も言わない。

言わない代わりに、娘であり、姉であるミリアムに抱きつくアントニオを射殺さんとする視線を送る二人が居た。





「……じゃあ、僕アイルファードに行って来るよ」

長い沈黙を破ったのはイズールだった。

何故?とかは誰も聞こうとしない。

ただ、見送るだけ。

理由や、行き先などイズールに聞くのは無駄だと皆が知っているから。

「えぇ、いってらっしゃいませ」

兵士たちが敬礼する中、軽い足取りでイズールは風の様に姿を消した。


「……で?私に用事って一体なんですか?」

イズールが出て行ったことを皮切りに、ミラもアントニオを見る。

「あぁ。お前、仕事しろって話」

ミリアムを抱え上げて、玉座に座らせる。

自分の座った、玉座に。

「陛下、ここは」

ミリアムは自分の方の席に視線を送るが、アントニオは彼女を膝から降ろすつもりはないらしい。

「いいんだ」

幸せそうに、王妃の額に口づけを落とすと、それをスイッチに顔中に口づけていく。

「……休憩ね、ここ」

近くにいたオルトヴァレスにそう告げる。

オルトヴァレスも慣れているので、苦笑するだけ。

むしろ謁見の間の若い騎士達が顔を真っ赤にしている。

「陛下?ミラに何か言うことがあるんじゃありません?」

「ん?……あぁ、居たのか。ミラ」

……存在抹消の下りを根に持ってる。

そう思ったが、ミラは何も言わないことにした。

あとは、姉上に任せよう。うん。

「そうそう、話って言うのはな……」

そうしてやっと話し始めた内容に、ミラもオルトヴァレスも、頭を抱えざるを得なかった。




「陛下、そういう事は、先に言っておかないと……」

王妃の方を向いて楽しそうに額に口づけながら国王は答える。

「ん?あぁ、話したぞ?ロキに」





*************




「え?あぁ、その話ッスか?いやぁ、オレやっぱ机に向かうの苦手ッス!……って、え?姐さん、ダンチョーサン?なんで臨戦態勢なんスか?!」

「アホか!これから書類書いて人員の整理して……、確実に徹夜決定じゃない!」

「……手伝いますよ、女史……」



かくして、ミラとオルトヴァレス、そして強制的にロキが次の日の昼まで執務室から出てこなかった。

次からは話が別々です

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