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06  電気椅子

 男がおいしそうにチョコレートパフェを食べている様子を、私は作り笑いをしながら眺めていた。彼はタワーのように細長い容器に盛られた生クリームやコーンフレークを、柄の長いスプーンを使って器用に食べている。

「おいしい?」

 私が訊くと、男は満足そうに頷いた。

「美味いよ。お前も頼めば良かったのに」

「甘いものは苦手だから、いらない」

 彼は「ふーん」と関心があるのかないのかよく分からない返事をして、それからチョコレートアイスをつつき始めた。私はファミレス独特の、安っぽいコーヒーに口をつける。



 平和な男だ、と思う。もうすぐ自分が死ぬなんて、この男は想像すらしていないだろう。



 パフェに乗っていたミカンが、バランスを崩して机に落下した。それを見て男は「もったいない」と騒いでいる。私はそれを、ほほ笑みながら眺める。



 この男がなぜ死ななければならないのかは、知らない。知ろうとも思わない。

 殺せと命令されたから、殺す。

 それが私の仕事だから。


 それだけ。





「お前はさ」

 男が、コーンフレークを咀嚼しながら話す。

「なんか……不思議だよな」

「そう?」

「人を寄せ付けない感じがするっつーか。美人だからかなあ」

 平和な男だ、と思う。それと同時に少しだけ勘が鋭いな、とも。

「――もしも、」

 何度繰り返したか分からない質問を、私はまた繰り返す。

「もしもあなたの目の前に電気椅子があるとして」

「電気椅子って、あの、処刑に使われるやつのことか?」

 唐突な質問に、男がポカンとする。私はうなずいた。

「そう。その電気椅子が目の前にあるとして、『今、電気は通っていません。安全だから座ってみてください!』ってすすめられたら、座る?」

 男はぽかんとした顔のまま硬直した後、げらげらと笑った。

「なんだその質問」

「いいから、答えて」

 私が真剣な顔で言うと、男は肩をすくめてウエハースを一口かじった。それから

「……ま、座らねえだろうな。いくら安全だって言われても、気持ち悪いだろ。もしも本当に、その電気椅子に電気が通ってないとしてもさ」

 へらへら笑いながら男が言ったその答えを聞いて、私も笑った。

「でしょうね」

「なんだ今の質問」

「なんでもない」

 男に断りもせず、私は煙草に火をつける。男は首を傾げながら、チョコレートパフェを食べるという仕事に戻った。私は煙草の煙をゆっくりと吐き出し、その行方を目で追いながら呟く。



 だから私は、人を寄せ付けないのよ。



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