23 処分
「ノラネコ」
名前を呼ばれて、私は振り返った。向こうから歩いてきていたのは
「……あなたは何番?」
私と同じ顔をした、人間だった。黄色のワンピースを着た彼女はくつくつと笑いながら、私の目の前までやってきた。周囲には、他に誰もいない。
「23番だよ。ノラネコ、あんたは分かりやすいよね。自分で自分の名前を考えたクローンなんて、あんたくらいだよ? 年中長袖着てるやつも、あんた1人だけだし」
そう言われて、私は反射的に右手で左手首を掴んだ。それを見ていた23番が、笑う。
「知ってるよ。手首切ったんでしょ? ていうか、なんでそんなことしたの。死にたかったわけ?」
「違うわ」
私は、自分の手を見ながら呟く。
「……こんな手、いらないと思ったから」
ヒトを殺すことしかできない手なんて、いらないと思ったから。
けれど彼ならきっと、私のこの傷を見ても許してくれるだろう。
そしてきっと、手を繋いでくれる。
彼なら、きっと。
「……ふーん」
興味のなさそうな、23番の返事。それから
「ターゲットは始末した?」
私の瞳の中を覗き込んでいるかのように、彼女は私から目を離さない。
「……まだよ」
「手こずってんの?」
「まあ、そんなところ」
「へえ……」
彼女は私から目をそらすと、ちょうど駅にやってきた電車の方を見た。それから、冷たい声で言った。
「なんか手こずってるみたいだからさ。8番が、代わりに始末しに行ったよ?」
「……!」
表情を変えた私を見て、23番は愉快そうに笑った。それから、私の左腕をつかむ。
「離して!」
「ノラネコ。私たちはさ、ヒトが殺せなくなったらおしまいなんだよ?」
そう言うと彼女はポシェットから素早くハンカチを取り出して、私の口にあてがった。
「やっ……!」
「あんたは、人目に付かないとこで処分しろって言われたんだよ。もうあんたはゴミなの。分かるよね? ……あーあ。クローンを殺すのに、微弱電流が使えないってのは面倒くさいねホント」
嘲笑するような笑い声が、私の頭の中に響く。
ゆっくりと遠のいていく意識の中で、私は彼の名前を、呼んだ。