22 急転
きっと、どうにかなると思う。二人一緒なら、きっと。
俺は自分の部屋で荷物をまとめながら、あれこれ考えていた。彼女のことだったり、これからのことだったり。そう言えばバイト先の店長に、辞めると電話していない。……それどころでもないか。レモンティーが熱すぎたようですよ、くらいは伝えておけばよかったかな。――なんて、どうでもいことを考えながら必要最低限の荷物をまとめていく。
衣類を適当に詰め込んでから、預金通帳を開いた。
葬儀代にしようと思って貯めてたこの金が、逃亡資金になるなんて思ってもみなかったな。
一人で苦笑して、通帳をかばんに突っ込んだ。その時だった。
ピンポーン
安っぽく、古臭いインターホンの音が部屋に響いた。腕時計で時刻を確認する。 18時25分。普段なら眠っている時間だ。そしてこの時間に、誰かが訪ねて来たことはほとんどなかった。誰だろう。大家さんか?
俺は首をかしげながら、ドアへと向かった。このボロアパートには覗き穴がついていない。何の確認もせずに、ドアを開けた。
「……あ」
ドアの前に立っていたのは、彼女だった。
「あれ? 駅で待ち合わせって言ったのに」
俺は笑ってから、ふと気付く。
先ほど別れた時と、彼女の服装が違うことに。
今日、彼女はタンクトップにカーディガンを羽織ってたはずだ。けれど目の前の彼女は、半袖のTシャツ姿だった。
「……野良、さん?」
彼女は無言のままで、口だけが笑っていた。俺の中の違和感が、警戒心へと変わっていく。
けれど、遅かった。
彼女は頬笑んだままゆっくりと、
ゆっくりと、俺の頭に右手を置いた。
「……!」
振り払おうとしたが、間に合わなかった。急激に歪む視界と、吐き気がするほどの激しい耳鳴り。俺はバランスを崩し、頭を抱えた格好でその場に倒れこんだ。
訳が分からなくなるほどの罪悪感。罪業感。喪失感。希死念慮。幻聴。幻覚。
その中でかろうじて聞こえた、彼女の言葉。
「さよなら、三宅優」
そこで、俺の意識は途切れた。