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 ナポレオンフィッシュという魚がいる。一言で言うなら、ものすごくブサイクな、でかい深海魚だ。

 への字に曲がったたらこ唇と、突出したおでこ。なんていうか、ものすごく独特な顔つきの魚である。


 そのブサイクな魚を、美人な彼女が真剣な顔で見ている。というか、見つめあっている。ナポレオンフィッシュがこちらを向いているので、どうしても見つめあってるように見えてしまう。

 そのシュールな光景に、俺は思わず腹を抱えて笑った。

「なによ」

「だ、だって……」

 そう言ってる間も、ナポレオンフィッシュは彼女のことをじっと見ていた。



 ペンギン。アシカ。イルカ。ラッコ。水族館の中にいるかわいい生き物たちの中で、彼女が最も気に入ったのは……エイだった。

 彼女は人気のある可愛い生き物たちをスルーし、エイばかり見ている。いやまあ、エイもかわいいと言えばかわいいんだけど、

「なんか、UFOみたいじゃないですか?」

 ふわふわ……いや、ひらひら? 泳ぐエイを見ながら、俺は苦笑した。

「でも」

 彼女はお腹を見せながら泳いでいくエイを見つめて、言う。

「笑ってるように見えるわ」

「ママー、エイさん笑ってるねー」

 隣にいた小さな子供が、まったく同じタイミングで同じ感想を言った。俺と彼女は顔を見合わせて、それから笑った。

「あらー本当ねー」

 小さな子どものお母さんは、子供の頭を撫でながら「ほら、またエイさん来たよ」と笑っている。それを見た彼女が、ふいっと顔をそむけた。


 俺は繋いでいた手を、少し強く握る。彼女は、握り返してこない。


「……自分の意志では、止められないのよ」

 囁くような、誰にも聞こえないような、彼女の言葉。

「手のひらの微弱電流は、自分の意志では止められない。きっと……私が死ぬまで、永遠に止まることはないわ」

 

 頭を撫でている母親と、嬉しそうに甘える子供。

 彼女が目をそむけた、その光景は、


 

 彼女には、一生できないかもしれないこと。



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