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17 手の温かさ
彼は馬鹿なんだ、と思う。完全に私に気を許している。私が、殺人鬼だと知っているのに。
あとは彼の隙をついて、頭に触れるだけでいい。ただそれだけでいい。きっと彼は、死んだ母親のことを想いながら、死んでいくだろう。
右手が、温かい。
私がクローンだと、そして人間兵器だと知っている組織の人間は誰ひとり、私には近づかなかった。
私を作った、あの科学者ですら。
「近づくな。気味が悪い」
それが普通だと思ってた。それが当たり前だと、思ってた。
けれど彼は違った。彼は私の話を聞いても、怯えてなんかなかった。手を、握ってくれた。
今まで何人もの人間を殺した、この手を。
右手が温かい。
だけど、もうすぐ彼の手も冷たくなるだろう。
私が、彼を殺すから。
それが、私の仕事だから。