表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/25

プロローグ  科学者の手記

2002年 4月3日

 これから私は、「ヒトを殺傷する能力を持つクローン人間」を作る。もしも研究が成功すれば、このクローン人間は画期的な人間兵器となりうるだろう。

 クローン人間を作成するにあたり、堕胎された胎児の遺体を高値で買い取ってきた。この胎児の遺伝子から、クローン人間を作成するつもりである。人権を持つ人間のクローンを作った場合は問題となりうるだろうが、堕胎児のクローンならばどうだろうか……。

 私はバイオエシックスを追及しているわけではない。私が求めているのは、結果だけだ。


 本日から、研究に入る。買い取った胎児の性染色体はXX、すなわちメスだ。万が一研究が頭打ちになった場合は、オスの堕胎児も買い取るつもりである。




2002年 6月9日

 クローン人間はともかく、「ヒトを殺傷する能力」を開発するのは難しい。ここでいう「殺傷する能力」とは、ナイフで刺したり銃で撃ち殺したりするような、単純なものではない。完全犯罪をも可能とさせる能力、だ。野暮な言い方をすれば、「魔法のような能力」だろう。

 私はあくまで科学的に、その魔法を作りだすつもりだ。問題は、いかなる能力にするかである。他殺には見えない、殺し方。これを考えねばならない。




2005年 2月15日

 私の開発した成長促進剤を投与することで、一般的なヒトの何倍もの速さでクローン人間を成長させることに成功した。また、成長促進剤を打つのをやめた段階で、クローン人間の成長は、一般的なヒトと変わらない成長速度に戻る。この「倍速成長」は、かなり役立つ技術である。

 現在は4倍速程度だが、これが20倍速になれば、クローン人間を1年間で20歳にまで成長させることができる。ただし、これは身体年齢の話である。知能は1歳児のままだ。まずはここを改善する必要がある。




2007年 5月5日

 脳に特殊な電磁波を与えることで、身体年齢に相応の知能を持ったクローンを作りだすことに成功した。現在の最高倍速は20。つまり1年で、20歳の人間と変わらないクローン人間を作成することが可能である。残るは、「ヒトを殺傷する能力」のみである。




2007年 8月27日

 かなり惜しい線まで来ていると自覚している。あと少し、あと少しの辛抱だ。微弱電流の調整が、困難である。




2008年 9月23日

 「ヒトを殺傷する能力を持つクローン人間」が、遂に完成した。長い闘いであった。クローン人間を作るのみならず、殺す能力まで開発できたことを、私は誇りに思っている。この情報は、きっと高く売れるだろう。私が欲しいのは金だけだ。次の研究テーマもすでに決めてある。この情報を売り飛ばし、得た大金でまた新たな研究を始めようと思っている。

 売り飛ばす前に、今回の研究成果について軽く書き残しておこう。


 ヒトを殺傷する能力。これはすなわち、「ヒトを自殺に追い込む能力」である。


 私の作りだしたクローン人間には、手のひらに特殊な微弱電流が流れている。その手で、殺傷する対象の頭に触れるだけでいいのだ。この微弱電流は、頭蓋骨や脳漿のうしょうを容易に貫通する。そして、脳内の特定のシナプスを攻撃する。

 結果、セロトニンの再取り込みを活性化させ、さらにはレセプターの働きを……ここでは簡潔に書くが、要は対象を一瞬でうつ状態にまで追い込むのである。

 クローンの手のひらに流れている微弱電流はさらに、違う神経伝達物質にも作用する。これにより、ヒトを極度の活動状態にさせる。


 激しい「鬱状態」と「活動状態」が拮抗した場合、ヒトはどうなるか。狂い、果てには自決を選択する。すなわち私の開発した能力は、『対象を発狂させ、自決させる能力』と名付けるのが一番妥当であろう。

 刃物や銃器などで、直接手を加えることなく人を死に追いやる。最高の人間兵器である。


 一応書いておくが、この微弱電流はクローン自身には効かないように遺伝子操作を施してある。よって、この能力でクローン人間が自決することはできない。



 完成品は、N-197。見た目はただの成人女性にしか見えない。そのうえ、彼女の顔立ちは整っており、スタイルも抜群である。



 これほど華麗な人間兵器が、他にあるだろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ