第八魔導
__________________
「さあいよいよ始まるぞ!アルグランテ魔導学校の特別推薦の枠を勝ち取る決闘が!ルールは三つ!使用魔導の無制限!魔導器具の使用可!殺さない事!決戦の場所は《崇拝の祭壇》!かつて俺らの先祖様が神様に供物を捧げた際に祭壇として使われた場所だ!広さは村の半分ほどだが、地面は踏みならされて頑丈になっているぞ!神様の祭壇に使われていただけあってここら辺の地形だと高所な場所だ!さらにすぐ近くには湖がある!踏み外したら命が危ないぞ~!さあ!血を流し!持てる力の全てを引き出し!全力で戦った戦友に敬意を払え!此度の聖戦にて相まみえるのは~?こいつらだ__________」
「うるさいよ、ディールさん!」
「おっと…すまんすまん!つい興が乗ってな~。」
「集中してるんだから黙っててよ!」
「集中か…」
二人は崖の端にある円形の舞台に立っている。村の人たちが集まり、二人の対決を見届けようとしている。高所だからだろうか、風が強く吹き、髪や服を激しく煽り、バタバタと音を立てている。目の前に立つレイドの目はいつも以上に座っており、こちらをじっと見つめてくる。
「…本当に、俺に勝つつもりなのか。」
「もちろん!」
「…そうか。なら俺も、全力で相手になろう。」
レイドは持っている杖を握りしめる。一瞬だった。風の音。風が服を煽る音が止まってしまったかに思えた瞬間、レイドの目の前に魔法陣が展開され、炎の球が一直線に飛んでくる。ミルニィは少し服が焼かれたが、間一髪でそれを躱す。長年、レイドの魔導を見続けていた成果だった。
「…!相、変わらず魔導の発動までが速いね!」
「…喋っている余裕があるのか?」
いくつもの魔法陣から火の球が絶えずに飛んでくる。しかし、ミルニィに当たることはなく、良くて服を掠め焼くだけだった。
「驚いた。ここまで動けたなんて。…今まで手加減していたのか?」
「そうゆう!君こそ!詠唱は!使わないの!?よっと!」
「まだ使わなくてもいいと判断した。このまま弾数を増やせば、いずれ押し切れる。」
その言葉通り、さらに増える火の球。避けれてはいるが、段々と避けるスペースがなくなって来ている。
「戦う場所が限られている以上、数が物をいうんだ。そのまま湖に落ちてくれ。」
さらに増す火の球。その一つがミルニィの顔面を捉えた。レイド自身が手応えを感じた、しかし、火の球がミルニィに炸裂する前にバシュッと音を立てて消滅した。いや、相殺したという方が正しい。ミルニィの顔の前には、白く煙が上がっている。レイドは不可解な光景に、一度攻撃の手をやめる。
「…どういうことだ。」
(…俺の魔導が相殺された?…あいつは魔導を発動していないはずだ…だとしたら魔力そのもので相殺したとしか…)
「まさか!?」
考えをまとめる前に魔法陣を展開する。先程の魔法陣よりも二回り程大きい。人一人と同等の大きさだ。
「___焼棄されるは水の源
____第三"火炎"魔導
___『満ちた円環』」
巨大な火の球がミルニィを襲う。傍から見てもやりすぎな威力。命を奪いかねない魔導に、ディール以外の村人たちは驚愕する。そんな村人達の懸念も一瞬で消え去った。バシュッと音が鳴る。またも煙が白く上がり、相殺反応を見せた。ミルニィはただ右手を目の前にかざし、息を切らしている。
「はあ…はあ…さすがにきついね…あはは。」
もはや問答すらままならないのか、ミルニィの言葉を遮るように新たに魔法陣を展開する。"火炎"魔導ではなく、レイドが最も得意とする魔導。しかし、魔法陣を展開するより前に、視界に何かがよぎる。眼を動かし、注視する。それはミルニィから投擲された三枚の木の板、片面には魔法陣が描かれており、レイドは魔導器具だと確信する。防御の魔導を発動しようとするより前に、パンッっとミルニィの手を叩く音と同時に投擲された魔導器具が発動する。描かれた魔法陣が白く光る。木の板がビキビキと音を立てて割れ、辺りが白く染まるほど発光し、レイドの視界を奪う。
「ぐっ…!?」
あまりの眩しさに反射的に手で目を塞ぐ。
(遠隔で魔導を発動させた!?…まさか魔力を飛ばしたのか!?ありえない!どんな魔力量だよ!)
視界を取り戻してすぐにミルニィを見やる。ミルニィは攻撃魔導で追撃を仕掛ける訳でもなく、片膝をつき両手を地面についていた。
「___地は悠久に廃れることはない。
____第一"震天"魔導
___『不可視の穿ち』」
ミルニィが詠唱をした瞬間、《崇拝の祭壇》全体がまばゆい光りに包まれ、地面に描かれた巨大な魔法陣が浮き彫りになる。
(ここまで巨大な魔導陣を生成出来たのか!?…いや、元々描かれていたものか!どちらにせよ、この規模の魔導を使うのは相当の魔力を_____)
ビキビキと不快な音を立てて、《崇拝の祭壇》が崩壊した。物を落とされて割れるガラスのように砕け散った。足場を失ったレイドとミルニィは湖に向かって一直線に落ちていく。
(くそ!この高さから落下したらダメージが大きい…!落下中に迎撃はせずに魔力で体を_______)
ドンッと腹に衝撃が来る。ミルニィが頭から突撃してきた衝撃だ。腰に手を回し、がっちり抑え込んでいる。ミルニィから粗雑で巨大な魔力を流し込まれ、体をうまく魔力で覆うことができない。
「なにしてんだ…!魔力で体を強化しないと洒落にならねえぞ!」
「ここで引いたら…!前に…!進めないんだよ…!」
しゃがれながら体を一切守らずにしがみついてくるミルニィ。レイドは、どうにか魔力で体を強化しようと模索したが、落下までには間に合わず二人は砕けた岩の破片と共に、湖に突き落とされた。
「…がぼ。…ぐ。」
酷い鈍痛が背中を襲う。痛みによるパニックで酸素を求めるが、口に入るのは水だけだ。水面に上がろうともがくが、引っ付いているミルニィのせいでうまく動けない。
(…こいつ!頭イかれてんじゃねえのか!!このままじゃお互い水死体になるぞ!…そろそろ、息が…荒業になるがしょうがない!)
湖の底に沈みながら、手を上にかざそうとする。レイドは、魔導で湖を吹き飛ばすつもりであった。ただそれより先に、ミルニィが詠唱を開始していた。
「___主の名の元に決定する。
____第一"制帝"魔導
___『六碇の鎖』」
がぼがぼとくぐもった声で詠唱を終える。光が届かない暗い湖の底がぼんやり光ったかと思えば、一本の鎖が凄まじい速度でレイドの足に巻き付く。
(…!!??…魔導が発動できない!!…だめだ…もう……意識が…)
万策尽きた。考えることをやめ、レイドは意識を手放した。
___________________




