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無銘の神童と有銘の乙女~無能と呼ばれる俺を、最強の少女たちが独占したがる理由~  作者: まめだいふく
第1章:黎明の抜刀編

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第9話:規律局の緊急介入


 翌朝、天霧迅は登校するのを本気で躊躇っていた。


 だが、登校しなければ規律違反で支持率がマイナスに振れ、強制送還の対象になる。それはそれで平穏だが、あの千早がそんなに簡単に自分を逃がすとは思えない。


「……はぁ」


 重い足取りで校門を潜った瞬間、それは起きた。


「迅! おっはよー!!」


 背後から放たれたのは、もはや時速数百キロの砲弾に近い挨拶だった。


 恋火が紅蓮のマントをジェットエンジンのように噴射させ、迅の背中に飛びついてくる。


「っ……離せ。首が絞まる」

「あはは! 照れないの! 昨日の『所有権宣言』、もう1億再生超えたわよ! アンタ、名実ともにアタシ様のものなんだから、もっとこう、飼い主に対する愛想ってものを見せなさいよ!」


 恋火は迅の首に腕を回したまま、当然のように頬を寄せてくる。彼女の肌からは、早朝とは思えないほどの熱量が溢れ出していた。


 だが、その熱気を一瞬で凍りつかせる声が、正面から響き渡った。


「――そこまでです。不知火恋火、並びに天霧迅」


 校舎の影から現れたのは、規律局の精鋭を引き連れた鳳凰寺氷華だった。


 今日の彼女は、いつも以上に装備が重厚だ。マントには規律局長の紋章が刻まれた特注の強化プレートが装着され、手にするレイピアからは絶対零度の霧が噴き出している。


「あら、氷の女。また朝からお説教? 悪いけど、アタシ様と迅はこれから『同伴登校』っていう大事な儀式の最中なの。邪魔しないでくれる?」

「『同伴登校』などという低俗な概念は、本校の校則には存在しません」


 氷華は無表情を装っているが、そのレイピアの先が微かに震えているのを迅は見逃さなかった。


「天霧迅。貴方は現在、他校生との不適切な接触により、学園の風紀を著しく乱していると判断されました。よって、これより『規律局の特別管理下』に置くものとします」

「管理下……?」


 迅が眉をひそめる。


「ええ。具体的には、貴方の半径2メートル以内に不知火恋火が接近することを禁じ、その監視のために、私――鳳凰寺氷華が、貴方の全登下校、全授業、全休憩時間に常に同行します」


「……はあ!?」


 迅と恋火の声が重なった。


「ちょっと待ちなさいよ! それ、単にアンタが迅の側にいたいだけじゃないの!?」

「くっ……! 職務です! これは学園運営局、並びに学園長からの正式な命令です!」


 氷華は顔を真っ赤にしながらも、強引に恋火と迅の間に割り込んだ。


 彼女がデバイスを操作すると、迅の足元に円形の青い光――「接近禁止エリア」のマーカーが展開される。恋火がその境界を越えようとすると、パチリと静電気が走り、彼女を押し返した。


「なっ、何よこれ! 卑怯よ氷女! 自分の職権をそんな風に使うなんて!」

「規律を守るためなら、いかなる手段も正当化されます。さあ、天霧君。教室へ向かいましょう。……私と一緒に」


 氷華は恋火とは逆の腕を強引に掴むと、真っ直ぐに校舎へと歩き出した。


 反対側では、エリアの外側に弾き飛ばされながらも、恋火が「待ちなさいよー!」と炎を噴き上げて追いかけてくる。


 校庭のドローンが、このシュールで殺伐とした登校風景を逃さず中継していた。



『――速報! 規律局、ついに三角関係へ公式介入! 局長・氷華が盾となり、暴君・恋火の独占を阻止!』

『支持率ボルテージ、昨晩の記録をさらに更新! 世界中の修羅場ファンが熱狂中!』


 その日の授業風景は、国立御剣学園の歴史に残る異様なものとなった。


「……以上が、古代フォトンの集積回路に関する基礎理論だ。質問はあるか?」


 教壇に立つ教師の喉が、引きつったように鳴る。視線の先、一番後ろの席に座る迅の両隣が原因だ。


 右隣には、当然のように椅子を持ち込んで座り、迅の教科書を覗き込む氷華。


 左隣――校舎の外壁を「朱雀」でぶち抜き、教室の三階だというのに空中に浮遊しながら窓から身を乗り出している恋火。


「……鳳凰寺。いい加減、自分の教室へ戻れ。お前は三年生だろう」


 迅が低い声で抗議するが、氷華は微動だにせず、迅のノートを凝視している。


「言ったはずです、全授業に同行すると。天霧君、ここの数式が間違っています。規律局員たるもの、計算のミスは心の乱れに繋がります。……私が直接、教えてあげましょう」


 氷華がこれ見よがしに迅の手に自分の手を重ねようとする。その指先は、冷気よりも熱い期待で微かに震えていた。


「ちょっと! ズルイわよ氷女! 迅、アタシ様なんて数式なんて分からなくても、野生の直感で戦えるわよ! ほら、そんなノートよりアタシ様の背中に乗りなさいよ。今すぐ空のデートへ連れてってあげるから!」

「窓から離れなさい、不知火恋火! 壁の損壊は器物損壊罪です!」

「うるさーい! 迅の隣を不当に占拠してるアンタの方が、アタシ様の感情に対する重罪よ!」


 教室内に冷気と熱風が吹き荒れ、他の生徒たちは机にしがみついて嵐が過ぎ去るのを待つしかない。


 ドローンは教室の天井に張り付き、氷華の「献身的な指導という名の嫉妬」と、恋火の「空中からのアタック」を余さず全世界へライブ配信している。



『――現在、ボルテージは嫉妬の嵐モードに突入! 規律局長、なりふり構わぬ密着作戦!』

『対する暴君、校舎を破壊しての強制介入! 支持率がバグのように上昇中!』



 休み時間になると、事態はさらに悪化した。


 迅が購買へパンを買いに行こうとすれば、氷華が「栄養バランスが乱れます」と手作りという名の下ごしらえを他人にやらせた可能性が高い、豪華すぎる弁当を差し出す。


 そこへ恋火が「そんな冷たい飯より、アタシ様の炎で焼きたての肉を食べなさい!」と、どこから持ってきたのか、最高級の和牛を大剣の熱でその場で焼き始める。


「……いい加減にしろ」


 迅の堪忍袋の緒が、音を立てて切れた。


 彼は購買部のパンコーナーの前で、周囲に立ち込める霧と焼肉の煙を、マントの一振りで強引に吹き飛ばした。


「俺は一人で飯を食いたい。ついてくるな。……これ以上騒ぐなら、二人まとめて叩き出すぞ」


 その瞳に宿った本物の拒絶に、氷華はショックを受けたように言葉を失い、恋火は逆に「もっと怒って!」と目を輝かせる。


 だが、その一触即発の空気を、蓮の慌てた声が引き裂いた。


「迅! 逃げろ! システムが……学園の支持率システムが、お前らの関係を『ボーナスステージ』として認識しやがった! 他のランカーたちが、お前を倒して『注目度』を奪おうと、こっちに集まってきてるぞ!」


 蓮の言葉通り、購買部の廊下の先から、武装した上級生たちの集団が現れた。


 彼らの目的は、今や世界で最も注目されるコンテンツである迅を打ち負かし、自らの支持率を跳ね上げること。


「天霧迅! その女二人から、その『主役の座』を譲ってもらうぞ!」


 狂乱は、ただの痴話喧嘩から、学園全体を巻き込む狩りへと変質しようとしていた。


「天霧迅! 貴様さえ倒せば、この莫大な支持率ポイントは俺たちのものだ!」


 購買部の廊下を埋め尽くしたのは、支持率の急上昇という甘い毒に当てられた上級生たち――通称「ハイエナ」と呼ばれるランカーたちだった。彼らは手にしたアーク・シェルを起動し、色とりどりのフォトンの刃を迅へと向ける。


 だが、その刃が迅に届くよりも早く、廊下の温度が「極寒」と「焦熱」に二分された。


「……私の管理対象に、許可なく触れようとする不届き者がこれほど多いとは。規律局長として、看過できません」


 氷華の瞳から、少女の動揺が消え、冷徹な執行者の光が宿る。


「あはは! 面白いじゃない! 迅の『初めての敗北』を奪うのはアタシ様って決まってるのよ! 雑魚は火の粉になって消えなさい!」


 恋火が『朱雀』を大きく薙ぎ払う。


 氷華のレイピアから放たれた氷の礫が、敵の足元を凍らせて動きを止め、そこへ恋火の炎の旋風が容赦なく叩き込まれる。


「熱い! 凍る! どっちだ!?」

「ぎゃああ! 属性がバラバラすぎて、防御シールドが計算できない!」


 完璧なまでの不本意な連携。


 正反対のフォトンが互いを打ち消すことなく、むしろ互いの威力を増幅させながら廊下を一掃していく。その光景は、ドローンを通じて世界中に「最強のダブルヒロイン」として配信され、ボルテージはもはや測定不能の領域へと突入した。


 そんな狂乱の背後で、迅だけは一人、壁に寄りかかりながら別の方向を見つめていた。


(……来やがったか)


 蓮が言っていた「他校のランカー」や「支持率目当ての生徒」とは違う。


 熱狂に沸く生徒たちの影に隠れ、一切の音を立てず、一切のフォトンを漏らさず、確実に自分の命だけを狙っている視線。


「おい、迅! ぼさっとしてる場合じゃねえぞ、運営がこの状況を面白がって、さらに増援を送るつもりだ!」


 蓮が駆け寄ってくるが、迅はその肩を掴んで制した。


「蓮。……氷華と恋火を連れて、ここを離れろ」

「は? 何言ってんだよ、あいつらが暴れてるおかげで俺たちは安全……」

「違う。……狙いは俺じゃない。俺を『孤立』させることだ」


 迅の視線の先。


 校舎の二階、人影のないバルコニーから、一筋の細い光が迅の眉間を捉えていた。それはフォトンの武器ではなく、物理的な弾丸を用いる旧時代の狙撃銃。


 支持率システムが魅せる戦いを推奨するこの学園において、最も美しくないやり方で死を運ぶ者。


「チッ……」


 迅はハーフマントを大きく広げ、乱闘を続ける二人の少女の視界を遮るように割り込んだ。


「そこまでだ、二人とも。……『客』が来たぞ」


 その瞬間、パァン! という乾いた乾いた破裂音が、フォトンの駆動音を切り裂いて響き渡った。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

誤字脱字など御座いましたらコメント下さい。


「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです

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