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無銘の神童と有銘の乙女~無能と呼ばれる俺を、最強の少女たちが独占したがる理由~  作者: まめだいふく
第1章:黎明の抜刀編

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第14話:予選大会、開幕


 国立御剣学園の広大な敷地中央に位置する『極光(きょくこう)円形(えんけい)闘技場(コロシアム)』は、今日という日のために、その全機能を「熱狂」へと振り向けていた。


 空を埋め尽くす数百機の中継ドローン。それらが撒き散らすフォトンの粒子が、陽光を反射して七色の雲海を作り出している。



 弧光(ここう)祭典(さいてん)――。



 それはかつて平和を祝う場だった。だが今、その実態は若き星導術師たちの闘争心と、視聴者の欲望を支持率という名の電子通貨へ変換する、巨大な博打(ばくち)の祭壇と化している。


「――全校生徒に告ぐ。予選のエントリー締め切りまで、残り三十分だ」


 会場の巨大ホログラムに、千早の艶やかな、しかし底知れない冷たさをたたえた微笑が映し出された。


 沸き立つ観客席。その喧騒から遠く離れた待機エリアの片隅で、迅は愛刀『黒鉄』の柄に巻かれた古びた柄糸(つかいと)を、静かに、そして力強く締め直していた。


「……迅様。準備はよろしいですか?」


 背後から声をかけたのは、氷華だった。


 昨日の「共鳴」以来、彼女の纏う空気は明らかに変容していた。規律局長の冷徹な仮面は残っているが、その瞳の奥には、迅と繋がった者だけが持つ、隠しきれない熱が沈んでいる。


「……何の準備だ。俺は一人で出る。誰とも組むつもりはない」

「それは無理です。……規約を読みなさい。予選は『デュオ』が絶対条件。パートナーのいない個人のエントリーは、システムが自動的に弾きます」


 氷華は冷徹に、しかし期待を込めて自身の端末を操作した。


 彼女には勝算があった。規律局長としての特権コードを用い、この場で自分を迅のパートナーとして「緊急登録」する。昨日の共鳴を公式に証明するために、自分が隣に立つ。その準備を、彼女は密かに完了させていた。


「さあ、迅様。私の端末に認証を。そうすれば、私が貴方の盾となり……」

「あはは! 抜け駆けは禁止よ、氷女!」


 爆音と共に現れたのは、朱色の軍服を翻した恋火だった。


 彼女の背後には、すでに顕現された『朱雀』の火の粉が舞い、支持率メーターは彼女の登場だけで一気に跳ね上がっている。


「迅! アンタの隣はアタシ様に決まってるでしょ! ほら、さっさとアタシのデバイスと同期しなさいよ!」

「不知火恋火……! 貴女、この場は規律局が管理しています。迅様には、私という最適なパートナーが……!」


 二人の少女が、迅のエントリー端末を奪い合うようにして激しく火花を散らす。


 その間、迅は一言も発さず、ただ自身の端末の画面を凝視していた。


「……二人とも、どけ。俺は管理されるつもりはないと言ったはずだ」


 迅は、二人の手が伸びるよりも早く、自身の指先でエントリーボタンを叩いた。


 画面には「警告:パートナー未設定」の文字が踊る。だが、迅はそれを強引にバイパスし、「単独出撃」を強行しようとした。


 その瞬間、コロシアム全体の照明が赤く染まった。



『――緊急介入。個体識別コード:天霧迅。規定違反の単独エントリーを検知。……これより、大会運営による「特別強制マッチング」を実行します』



 千早の冷ややかな笑い声が、スピーカーから響き渡る。


「迅くん。君は一人で戦いたいようだけれど、世界はそれを許さない。……さあ、今この場で最も支持率を稼げる『正解』を、システムが選んであげましょう」


 巨大なモニターに、迅、恋火、氷華の三人の顔が高速でスロットのように回転し始める。


 氷華が「待ちなさい! 書き換えを……!」と叫び、恋火が「アタシ様を選びなさいよ!」と拳を握りしめた、その刹那。


 ガキンッ! という重いロック音と共に、運命が決定された。



『――決定! 予選Aブロック・第1試合。学園の「暴君」不知火恋火 & 「沈黙の神童」天霧迅!』



「嘘……。そんな、嘘ですわ……!」


 モニターに映し出された【天霧迅 & 不知火恋火】の文字を仰ぎ、氷華はその場に膝をついた。


 指先が震え、手にした端末が床に転がり、乾いた音を立てる。彼女が用意していた「迅様を規律で守るための完璧なシナリオ」は、千早という絶対的な運営の悪意によって、一瞬で紙クズへと変えられたのだ。


「あはははは! 見た!? 見たわね氷女! システムもアンタじゃなくて、アタシ様が迅に相応しいって認めたのよ!」


 対照的に、恋火は歓喜の声を上げて跳ねた。彼女はそのまま、呆然と立ち尽くす迅の右腕をがっしりと掴み、自らの豊かな胸元へと引き寄せる。


「さあ行くわよ、迅! 世界中にアタシたちの『熱』を見せつけてやるんだから!」

「……放せ。一人で歩ける」


 迅は不快そうに腕を振り払おうとするが、決定したタッグの情報は、すでに二人のデバイスに強制同期されている。


 逃れられない。迅は「チッ……」と短く舌打ちを漏らすと、絶望に染まった氷華には一瞥もくれず、白光が漏れ出す出撃ゲートへと歩き出した。


「迅様……、迅様ぁぁっ!!」


 氷華の悲痛な叫びを背に、二人は闘技場の中心へと踊り出る。




 ――ワァァァァァァァァァッ!!




 鼓膜を突き破らんばかりの地鳴り。


 数万人の観衆と、数億人のオンライン視聴者が、この異質なタッグの登場に狂喜乱舞していた。


 画面端の「ボルテージメーター」は、試合開始前だというのに、すでに昨日の最高記録を塗り替えようとしている。


「おいおい、待ちくたびれたぜ。……『神童』と『暴君』のデコボココンビか」


 ステージ中央、不敵な笑みを浮かべて待ち構えていたのは、予選第1戦の相手――重力を操る『グラビス』と、磁力を統べる『マグネ』の二人組だった。


 彼らは御剣学園でも指折りの実力者であり、そのマントからは、空間を歪めるほどのフォトンが溢れ出している。


「あいつの刀はただの鉄だ。俺の磁力で、鞘から抜くことさえさせずにへし折ってやるよ」


 マグネが掌から青白い電磁の火花を散らし、迅を挑発する。


「迅、下がってなさい! こんな雑魚、アタシ様が焼き尽くして……」

「……恋火。動くなと言ったはずだ」


 迅の声は、恋火の熱狂を瞬時に凍りつかせるほどに冷たかった。


 彼は初めて、愛刀『黒鉄』をゆっくりと抜き放った。フォトンによる装飾も輝きもない、ただ研ぎ澄まされただけの鋼の刃。


「磁力と重力。……なるほど、物理を殺すには最適な組み合わせだな」


 迅の周囲で、物理法則を無視した磁場が唸りを上げ始める。


 マグネの能力が、迅の全身に数トンの電磁負荷をかけ、その『黒鉄』を磁力で引き千切ろうと牙を剥いた。


「――潰れろ、旧時代の遺物め!」


 マグネの咆哮とともに、闘技場中央の磁界強度が臨界点に達した。


 青白い電磁の奔流が、迅様の持つ『黒鉄(くろがね)』を標的に収束し、鋼を無理やり引き千切ろうと荒れ狂う。同時に、グラビスが地面を叩き、迅様の足元の重力を通常の十倍へと跳ね上げた。


 鉄の刀を磁力で奪い、その肉体を重力で圧殺する。


 フォトンによる防御アークシェルを持たない迅様にとって、それは逃げ場のない死の包囲網に見えた。


「迅! アタシ様の後ろに隠れなさい! こんな磁力、アタシの熱で焼き切って……!」


 恋火が加勢しようと、紅蓮の炎を纏いながら迅様の前へと割り込もうとした、その刹那だった。


「……位置が悪い。そこを動くなと言ったはずだ」


 迅様の冷徹な声が、電磁の轟音を切り裂いた。


 直後、恋火は自身の右肩に、岩石のような質量と、骨を軋ませるほどの鋭い「衝撃」を感じた。


 迅様は、磁力によって猛烈な負荷がかかった『黒鉄』をあえて手放さず、その強力な「引き込む力」と、自身にかかる「重力加速」を逆に利用。地を滑るような超速の踏み込みで恋火の懐へ潜り込むと、彼女の肩を文字通り「踏み台」にして、磁場の頂点へと跳躍したのだ。


「――っ!? ちょっとぉぉぉぉ! アンタ、アタシ様の肩を何だと思ってるのよぉぉ!?」


 絶叫しながらバランスを崩す恋火を置き去りにし、迅様は空中で鮮やかに身を翻す。


 磁力の影響が最も弱まる高き頂点。彼は、磁力に吸い寄せられようとしていた『黒鉄』の柄を、逆手に、そして完璧な力加減で捉え直した。



「――天霧流・(ばち)空裂(くうれつ)(せん)



 重力に引かれて落下する全質量に、迅様の鋼のような全身のバネを乗せた一閃。


 それはフォトンの刃ではない。超高速で振り下ろされた鋼が空気を断絶し、真空の刃を産み出す物理の極致。

 

 迅様が着地した瞬間、ステージ中央を中心に巨大な衝撃波が円状に広がった。


 磁力と重力の結界が、紙細工のように無残に切り裂かれ、制御を失ったフォトンが火花を散らして霧散する。


「が、はっ……!?」


 マグネとグラビスは、刀が肌に触れるよりも早く、その圧倒的な風圧だけで後方の壁まで吹き飛ばされた。彼らの纏っていた最新鋭のアークシェルが、過負荷による火花を上げて完全にロストする。


 訪れる、凍りついたような静寂。


 ドローンが捉えるのは、ひび割れたステージの中央で、静かに刀を鞘に納める迅様の背中。


 そして、その足元で、肩を押さえながら顔を真っ赤にしてプルプルと震えている恋火の姿だった。


「……連携など必要ない。お前はそこに立っているだけで、十分な『(おとり)』になった」

「……お、お、……おのれぇぇぇ天霧迅! アタシ様を! この不知火恋火を足蹴にするなんて、一生かかっても後悔させてやるわよぉぉぉ!!」


 恋火の怒号がコロシアムに響き渡る。


 しかし、その直後。会場の巨大モニターに表示された数字を見て、観客席が地鳴りのような歓声に包まれた。



『――勝者、天霧迅 & 不知火恋火! 支持率……過去最高記録を更新!!』



 運営席でその光景を見つめる千早が、不敵な笑みを深くする。


 人々が熱狂したのは、華麗な連携ではない。最強の少女を「踏み台」にするという、迅様のあまりにも傲慢で、しかし抗いようのない「強さ」だった。



「……迅様、ああっ、迅様……! なんて酷い、なんて素晴らしい踏み込み……!」


 観客席の端で、氷華様がモニターに吸い付くようにして、恍惚とした吐息を漏らしていた。

 

 不本意なタッグ。最悪の初陣。


 しかし、それは世界を熱狂させる「純愛闘争」の、決定的な火蓋となった。



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