風に飛ばされた幼馴染の恋文
初々しい二人を書きたくて。
ずっと傍にいると思っていた。まあ、でも、家族の延長。
「ケイティアが、おめかしなんて似合わね~ぞ」
「そっちこそ。ローリーがそんな敬語使っているのを見ると笑えるわ~」
貴族令息たちの集まるお茶会で見知った顔を見付けて笑い合った。
それが王子の婚約者と側近を見定めるお茶会だって言うの知っていたけど、大人しくじっとしていなさいと言われていたのもお構いなしで、王城の庭で遊びまわった。
そんな様子を見て、主催の王子が逆に気に入ってくれて、共に側近として取り立てられた時は信じられないと話をして二人揃って確認に行くほどだった。
「そんな二人だから気になった」
王子の言葉に二人が三人になり、王子の婚約者を含めて四人になっても友情は続くと思っていた。
――貴女がどんどん綺麗になっていく。
花は自然のままが一番美しいと思っていたから眺めて満足だった。
だけど、今は辛い。
いっそ、花盗人になればこの心は救われるのだろうか。
「…………」
何処からともなく飛んできた紙。何気なく見ていたらそれは幼馴染の字で書かれた恋文だった。
「ケイティア!! 今、そこに紙が飛んで……」
ローリーが慌てたようにいつものように柵を超えて我が家の庭に入ってくる。門をわざわざ通ることをしないローリーはこれで何回うちの警備に注意されたことだろうか。
いつもならそれを叱るはずのわたくしは黙ったまま紙を持っているのをローリーが訝しげに見て、やがて、
「………………もしかして見た」
「………………………うん。ごめん……………」
言い訳など浮かばないので謝る。
「そっか……」
「ローリー。好きな人が居たんだね………」
声が震えている。
「そ、そっか。びっくりしたよっ。あ。あんな、ロマンチックなこと書けるなんて……きっと、好きな人に読んでもらえたら、喜んでくれるよ……」
「ケイ……」
「わたくし、応援するからっ」
そうだ。応援しないと。
零れる涙を無視して無理やり笑おうとする。
「ケイティア……」
「応援する。ローリーが想い人と結ばれるのを……」
応援するからと言おうとしたが、声が途切れる。
「嘘。ごめん……応援できない……」
それだけ告げると馬車に……いや、馬車ではすぐに追いつかれると思って、厩に向かい、馬を一頭借りて疾走する。
「ベルリンダさまぁぁぁぁぁ!!」
大事な友人の一人である王子の婚約者である公爵令嬢ベルリンダさまに事前連絡もしないで突撃をするなんて、貴族令嬢あるまじき行いだけど、限界だった。
相談できる友人が他に浮かばなかったのだ。
「あらあら。そんなことが……」
急の訪れでも動じずにお茶とお菓子を用意してベルリンダさまは迎えてくれた。
「わ……わたくし……ずっと、ローリーは幼馴染で家族だと……」
領地は離れているが、王都では隣同士の幼馴染。半年は離れているが残り半年は常に傍にいた。学園に入ると半年以上も一緒でそれが当たり前で………。
「ローリーに想い人がいるって知って、初めて気づいたんだ……」
ああ。ローリーとの関係は【家族】ではない。
「いつか、ローリーはわたくしと離れて、別の女性を家族にして子供を作る。それが嫌だと……」
家族だと思っていたから危機感を抱かなかった。幼馴染は一生幼馴染で傍にいられると――。
だけど、違った。
「どうしよう……こんなんじゃローリーの傍にいられない……」
この胸を締め付けるものは【恋】だ。
「わたくし……わたくし……ローリーのことが……」
ぼろぼろと涙を流しているとベルリンダさまはそっと紅茶を一口運びながら、
「それはご本人にお伝えするといいでしょう」
その言葉と共にドアが開かれる。
「ケイティア……」
「ロ、ローリー。なんで……」
「わたくしが連絡しました。きっと、心配しているでしょうと思ったので」
驚いているわたくしにお構いなしとばかりにベルリンダさまは微笑んで告げる。
「ケイティア。話が……」
「聞きたくないっ!!」
嫌だ。ローリーの口から好きな人のことを聞くなんて絶対に嫌。いやだと耳をふさぐと。
「ベルリンダ嬢。すみません」
「――構いません」
ベルリンダ嬢に何か許可を得たと思ったら乱暴な動きでわたくしの元に近付いて、抱き付いてくる。
その際、紅茶のカップが倒れ、クッキーが床に落ちる。
「好きだ。ずっと好きだったんだ。ケイティアのことが」
「………っ⁉」
えっ、意味が分からない。
困惑しているこちらを無視して、
「お前がお前らしくしているのが好きで、幼馴染という関係で安心しているのならこの心は封じようと思って……それでも吐き出したくなって、出すつもりのない言葉を紙に綴っていたんだ」
渡すつもりのない恋文。だけど、何の因果か風に飛ばされてケイティアに届いてしまった。
「ごめん。いやなら言ってくれ。こんな俺と縁を切りたいのなら切ってくれれば……」
震える声。怯えたように縋る腕。
言葉と裏腹に離したくないと態度は示している。
「嘘……」
恋に気付いてすぐに失恋だと思っていた。だけど、そうじゃなかった。それどころか……。
「わたくしはずっと、ローリーを苦しめていたんですね……」
報われないと思って時間は自分よりも長かっただろう。たった数分であっただけであんなに心が苦しくて辛かったのにローリーはそれよりも長く……。
わたくしを想い続けてくれた。
「ありがとう……わたくしも……」
声が震える。
「わたくしも、ローリーのことが……」
言え、言わないと。
ローリーがここまで言ってくれたのだ。最後はわたくしが言わないと……。
「わたくしもローリーのことを愛しています」
告げるとともに満面の笑みを浮かべるローリー。
「ふふっ。わたくしの大事な友人がやっと結ばれてよかったですわ」
ベルリンダさまの声でここが二人だけではないことに気付く。
「べ、ベルリンダさま……」
「盛り上がるのはいいですが、後は帰ってからにしてくださいね。わたくしも殿下に甘えたくなってしまうので」
そんな言葉で追い出される。
「帰ろうか」
「うん」
緊張したように二人で手を繋ぐ。
「今更だけど、婚約を申し込んでいいか……」
「う………うん」
二人とも婚約者はいない。もしかしたら家族はすでに承知済みだったのかもしれない。ベルリンダさまのあの反応ならあり得るかもしれないと思えて、二人して顔を赤らめた。
片思いの人の好きな人の噂を聞いて本心を隠して応援するよりも応援できないというこの話を見て見たかったので。




