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最終章:月下の決戦 ―神々を射落とす家族の円舞曲―

 さあさあ、お立ち会い!  運命の八月十五日、夜がやってまいりました。

 空には、恐ろしいほどに巨大で、冷徹なまでに輝く満月が鎮座しております。その光が地上に触れた瞬間、あたりは昼間のような明るさに包まれましたが……そこにあるのは生気ではなく、万物を凍てつかせ、ひれ伏させる「天の威圧感」でございました。


 竹取の庵の屋根の上。

 そこには、三つの影が悠然と並び立っておりました。


 真ん中には、凛として銀の気を纏うかぐや姫。

 右には、自らの背丈ほどもある戦斧を肩に担ぎ、鼻息一つで雲を散らすおきな

 左には、愛用の扇を閉じ、静かに目を閉じて大地の脈動と一体化するおうな


「来たぞ、かぐや。しけたツラして降りてきやがった」

 翁が空を指差します。


 天空が裂け、黄金の雲に乗った数万の天人軍勢が舞い降りてきました。その先頭に立つ指揮官が、神々しくも冷淡な声で宣言いたします。


「かぐや姫よ。穢れた地上の縁を切り、清らかなる月へ戻る時だ。抵抗は無意味。天の法を前に、地上の力など塵に等しいと知れ」


 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、翁が動きました。

「がはは! 法だか何だか知らんが、俺の庭に土足で踏み込むとは、いい度胸だ!」


 翁は、足元に用意していた「霊域の巨岩」……普通の男が百人がかりでも動かせぬ岩を、片手でひょいと持ち上げました。

「投石機などいらん! 俺の腕こそが最強の兵器よ! ――死ぬ気で受け取れええいッ!!」


 ドォォォォォォンッ!!


 放たれた岩石は、音速の壁を幾重にも突き破り、炎を纏う彗星となって天空へ逆流いたしました。

 天人たちは慌てて光の盾を張りましたが、翁の「純粋な暴力」を込めた一撃は、その盾を紙細工のように粉砕! 黄金の雲を半分ほど消し飛ばし、天人たちの隊列を文字通り「散り散り」にしてしまったのでございます。


「な、何だこの蛮族は……!? 全員、天の矢を放て! 忘却の光で魂を浄化せよ!」


 降り注ぐのは、一度触れれば地上の記憶をすべて失うという、忌まわしき光の矢。

 しかし、そこで媼が静かに一歩前へ出ました。


「……私の前で、娘を忘れさせるなどという物言いは。――不快、極まりありませんわね」


 媼が扇をパッと広げ、虚空を優雅に撫でました。

 すると、庵の周囲に張り巡らされた「気の結界」が猛烈に回転を始めました。降り注ぐ光の矢は、その結界に触れた瞬間、あべこべに天へと跳ね返り、放った本人たちを撃ち落としていくではありませんか!

 これぞ媼が極めた「返魂・逆鱗流はんごん・げきりんりゅう」。敵の力が高ければ高いほど、自滅の威力が増すという恐ろしい技でございます。


「お父様、お母様。……あとは、わたくしが」


 かぐや姫が、ゆっくりと空へ向かって踏み出しました。

 彼女が歩くたびに、空中には銀色の蓮華が咲き誇り、彼女の足場となります。

 月の指揮官がかぐやを捕らえようと、「不死の羽衣」を投げかけました。一度これを着れば、地上の情愛は消え去り、月の人形となってしまう禁断の法具。


 ですが、かぐや姫はそれを避けるどころか、真っ向からその布を掴み取りました。


「この衣を織った気配……冷たく、あまりに寂しい。……お母様から教わった『愛の重さ』、少し分けて差し上げますわ」


 かぐや姫が、両親から受け継いだ全霊の気を拳に込めました。

 翁の「剛」と、媼の「柔」。それが融合し、彼女自身の「月の霊力」が合わさった時、その拳はもはや宇宙の爆発にも等しい輝きを放ちました!


「――はぁぁぁぁぁッ!!」


 一撃。


 かぐや姫の拳が空を突くと、天人たちが乗っていた巨大な黄金の雲が、一瞬で消滅いたしました。衝撃波は月面まで届いたとかいないとか。

 空に浮かんでいたのは、もはや軍勢ではなく、あまりの衝撃に言葉を失い、ただぷかぷかと浮いている腰を抜かした天人たちだけでございました。


「戻って、伝えなさい。……わたくしは、この『最強の二人』の娘として、この地で一生を終えるのだと」


 かぐや姫の宣言に、月の軍勢は蜘蛛の子を散らすように、欠けた月の裏側へと逃げ帰っていきました。


 夜が明ける頃。

 竹取の庵の縁側では、三人が何事もなかったかのように朝茶を楽しんでおりました。

 翁はボロボロになった戦斧を研ぎ、媼は天人が落としていった羽衣を「これは丈夫な雑巾になりますわ」と切り分け、かぐや姫は二人に甲斐甲斐しくお茶を注いでおります。


「がはは! 案外、大したことはなかったな、かぐや!」

「本当ですわ、お父様。でも、お父様の岩投げのせいで、裏山の形が変わってしまいましたわよ?」

「あらあら、また私が直しておかなければなりませんわね」


 最強の家族は、今日も穏やかに、そして賑やかに笑い合うのでございました。


 ……え? 私ですか?

 私は、その戦いの衝撃で宇宙から降ってきた「月の石の破片」をこっそり拾い集め、それを『絶対に落ちない合格祈願石』として都の受験生に……。

 ああ、いけない。翁がこちらを睨んでおります。

 私の正体ですか?

 はは、私はただのしがない語り部……竹の精霊とでも言っておきましょうか。あの竹からかぐやを最初に見つけ、この最強の夫婦に託した……そんな、通りすがりの悪戯好きでございます。


 さて、この物語はこれにておしまい。

 もし皆様も、夜空に輝く満月を見上げることがあれば、思い出してください。

 あそこには今も、天界すら恐れて手出しができない、地上最強で最高に幸せな親子が住んでいるということを。


 お後がよろしいようで。


(完)

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