第六章:帝の来訪と、満月の予感
さてさて、五人の貴族たちが這う這うの体で逃げ帰った後、都の噂はさらに加熱いたしました。
「竹取の家には、伝説の宝を雑巾にする不遜な翁と、天女のごとき娘がいる」
この話を聞いて、ついに動いたのがこの国の頂点、帝でございます。
ある日のこと、山奥の質素な――といっても、柱の一本一本に翁が彫った「龍」や「虎」が今にも動き出しそうな威圧感を放つ――庵の前に、豪華な牛車が停まりました。
現れたのは、当代の帝。供の武士たちが威儀を正して並びますが、翁は欠伸をしながら、薪を割る手を止めようともいたしません。
「……そなたが讃岐の造か。余の遣わした者たちを、随分と手荒くもてなしてくれたようだな」
帝の言葉に、翁は丸太のような腕を組み、ニカッと笑いました。
「がはは! 帝自らお越しとは驚きましたな。ですがね、帝。あんな、なまくらな宝物を持ってきて『娘を嫁に』なんて言う不届き者は、うちの婆さんの針一本で十分だったのでございますよ」
供の武士たちが「無礼者!」と刀を抜きかけましたが、帝がそれを手で制しました。
その時、庵の奥からしずしずと、かぐや姫が姿を現したのです。
帝は、その瞬間に息を呑みました。
五人の貴族が語った言葉など、この輝きの前では泥のように色褪せて見える。その凛とした佇まい、そして瞳の奥に宿る「銀河のごとき深淵」。帝は瞬時に悟ったのです。この娘は、人の手で縛れる存在ではない。ましてや、男の独占欲でどうにかできる相手ではないと。
「……かぐや姫。いや、娘よ。そなた、なぜこれほどの力と美を持ちながら、このような山奥に隠れ住んでいるのだ? 余の宮廷に来れば、世界のすべてを望みのままにできようものを」
かぐや姫は、優雅に一礼して答えました。
「帝、お言葉ですが、わたくしにとって世界のすべてとは、この庵の縁側で飲むお茶と、お父様とお母様の笑い声に他なりません。それ以上の贅沢は、月の光と同じく、ただ冷たく虚しいものでございます」
帝はその言葉に深く感じ入り、無理に連れて行くことを諦めました。
……しかし。帝が帰ろうとしたその時、かぐや姫の表情が、ふと曇ったのを私は見逃しませんでした。
「お父様、お母様……。もう、隠し通すことはできませんわ。……満月の夜、わたくしを迎えに、月の軍勢がやってまいります」
かぐや姫の告白に、翁は驚くどころか、鼻で笑って見せました。
「がはは! 月の軍勢だと? かかってくるがいい! 俺の斧で、あの光り輝く月を真っ二つに叩き割ってくれるわ!」
しかし、媼は静かに、かぐやの肩に手を置きました。
「かぐや。あなたは、どうしたいのですか?」
「……わたくしは、ここに居とうございます。このお二人と共に、泥臭くとも温かいこの地で生きていきたい。たとえ天の法がそれを許さぬと言おうとも!」
かぐや姫の瞳に、初めて「抗う者の色」が灯りました。
それを見た媼は、柔和な笑みを浮かべたまま、その身から地を這うような重厚な「気」を放ち始めました。
「よろしい。ならば、準備をしましょう。お父様、薪割りは今日で終わりです。……これからは、天を射落とす準備をなさい」
その日から、竹取の家は「要塞」へと変貌いたしました。
翁は山の岩を削り出し、空を飛ぶ敵を迎え撃つための巨大な投擲機を素手で作り上げ。
媼は、家の周囲に「一度踏み込めば三日は方向を失う」という迷宮のごとき気の結界を張り。
そしてかぐや姫は、自分の記憶の奥底にある「天の武技」を呼び覚まし、二人の両親と共に最後の特訓に励んだのでございます。
……え? 私ですか? 私はその時、帝が感動のあまり置いていった最高級の反物を、こっそり「最強家族の御守り」として都で……いえいえ、来るべき決戦を全世界に伝えるべく、筆が折れるほどの勢いで記録をつけておりましたとも!
さあ、いよいよ八月十五日、運命の満月。
天から降り注ぐのは、慈悲の光か、それとも最強家族の怒りの拳か!
ついに最終章、【月下の決戦 ―神々を射落とす家族の円舞曲―】!
語らせていただきましょうか!




