第五章:五人の貴族と最強の門前払い
さて、都でのあの一件以来、竹取の庵にはひっきりなしに文が届き、ついには五人の貴族たちが、自慢の宝物を携えて直接乗り込んでくることになりました。
彼らの目的はただ一つ。都を騒がせる絶世の美姫、かぐや姫を妻に娶ることでございます。
まずやって来たのは、石作の皇子。
「これなるは天竺にある仏の御石の鉢! これを捧げるゆえ、姫を私に!」
恭しく差し出された鉢を見た瞬間、庭で薪を割っていた翁が鼻で笑いました。
「がはは! 鉢だと? 婆さん、あれは昔、お前が漬物石にちょうどいいと、その辺の河原で拾ってきた石と同じじゃないか?」
媼は、縁側でお茶を啜りながら涼しい顔で答えます。
「あら、本当。あちらの方が少し、形が不格好ですわね」
皇子が顔を真っ赤にして反論しようとした刹那、翁が鉢をひょいと指先で摘み上げました。
「どれ、強度はどうかな?」
――パキィッ!
翁が少し指に力を込めただけで、伝説の鉢(の偽物)は、まるで乾いた煎餅のように粉々に砕け散りました。皇子は腰を抜かし、そのまま転がるように逃げ帰っていったのでございます。
続く貴族たちも、散々な目に遭いました。
車持の皇子が持ってきた「蓬莱の玉の枝」。
「ほう、綺麗な枝ですわね。ですが、うちの勝手口にある火かき棒の方が、よほど良い鉄を使っておりますわ」
そう言って媼が、台所から真っ赤に焼けた「鉄の枝」を持ってくると、それはなんと龍の髭を鍛え上げた伝説の業物。皇子の持ってきた偽物の金細工などは、その熱気に触れただけでドロドロに溶け落ちてしまいました。
さらに傑作だったのは、阿倍御主人が持ってきた「火鼠の皮衣」でございます。
「火に焼かれないこの衣こそ、かぐや姫にふさわしい!」
自信満々に差し出した皮衣を見て、かぐや姫が首を傾げました。
「お父様、これ……私が赤子の時に、おしめ代わりに使っていた布に似ておりませんか?」
「ああ、あれか! 確かにお前が『熱いのは嫌だ』と泣くから、火山の奥底に住む大鼠をひと捻りして剥いできたやつだな。今は……ああ、そこに敷いてある雑巾がそれだ」
見れば、翁が汚れた床を拭いている布こそ、本物の火鼠の皮。貴族が持ってきた偽物を火にくべれば、あっけなく燃え上がり、男は涙目で退散していきました。
石上中納言に至っては、燕の持っている「燕の子安貝」を取ろうとして、翁に「そんな高いところに登るのは危ないぞ」と襟首を掴んで引きずり下ろされた衝撃で、腰の骨を鳴らして逃げていく始末。
五人の貴族たちは、宝を持ってくるどころか、この家では「伝説の宝が日用品として雑に扱われている」という絶望的な格差を見せつけられ、ほうほうの体で都へ逃げ帰ったのでございます。
「まったく。娘を嫁にというからには、せめて俺の裏拳一発くらい耐えられる根性が欲しいものだな」
翁は退屈そうに巨大な戦斧を研ぎ始めました。
「あなた、あまりいじめて差し上げるものではありませんわ。……ですが、かぐや。これで少しは静かになるでしょう」
「はい、お母様。私はただ、お二人とこうして穏やかにお茶を飲んでいたいだけですわ」
かぐや姫は微笑みます。その手元では、空中に浮かせた茶器を「気」だけで操り、一滴もこぼさず茶を淹れるという、神がかり的な修行を続けておりましたが……。
しかし、この騒動はついに、この国の頂点……帝を動かすことになります。
そして、その帝の背後には、かぐや姫が最も警戒すべき「月の影」が忍び寄っていたのです。
……え? 私ですか? 私はその時、貴族が捨てていった偽物の鉢の破片を、こっそり接着剤でくっつけて「幸せを呼ぶ聖なる石」として都の若者に……いえいえ、一家の団らんを邪魔する不届き者がいないか、門番を気取っていたところでございますよ!
さて、次はついに帝の来訪、そして物語は一気に「月の使者」との最終決戦へ!
それはまた、次のお話で。




