第一章:鉄拳の翁、神霊を割る
さあさあ、皆々様、お立ち会い。 今からお話しするのは、皆様がよくご存じの「竹取物語」……とは、少々毛色の違うお話でございます。
今は昔、その男を人々は「讃岐の造」と呼んでおりました。 後の世には、竹を切って細々と暮らす、慎ましいお爺さんとして伝わっておりますが……とんでもない。その実体は、竹を愛し、竹に愛され、竹と共に修羅の道を歩む、天下無双の豪傑でございました。
男が住む庵から、さらに険しい山奥へ踏み込んだ先に、「魔の竹林」と呼ばれる場所がございます。
そこには大地の霊気を吸い込み、鋼鉄よりも硬くなった「霊竹」が、これでもかと生い茂っておりました。
普通の人間なら、立ちこめる妖気に震え上がり、一歩も近づくことはできません。ところがこの男、一人で悠然と、鼻歌交じりにやってくるではありませんか。
「ふむ。今日の風は少々湿っておるな。竹を断つには、このくらいのほうが刃に粘りが出てちょうどよいわい」
男の背丈は、なんと二メートル超。
丸太のような肉体は、長年浴び続けた山風と、想像を絶する研鑽によって鍛え上げられておりました。白髪こそ混じっておりますが、その眼光の鋭いこと! ひとたび睨みを利かせれば、山の大熊ですら腰を抜かして逃げ出すと言われていたほどです。
男は、背負っていた「竹切り斧」をゆっくりと下ろしました。
ですが、これがまた、ただの斧ではございません。柄は千年の霊木、刃は伝説の刀匠が「岩をも断つ」ために打ち上げたという、とてつもない代物。男がこれをひと振りすれば、竹林の一角が丸ごと吹き飛ぶほどの嵐が巻き起こるのです。
「さて、今日はどのあたりを掃除してやろうか」
男が歩くたびに、周囲の竹がザワザワと戦慄きます。まるで、絶対的な王の来臨を恐れているかのようですね。
その時でございます!
竹林の奥深く、万年雪が残る崖の近くから、異質な光が漏れ出しているのを男は見逃しませんでした。
それは、ただの光ではございません。
天から降り注ぐ月光を、一本の竹に凝縮したような黄金の輝き。その光に触れた草木は冬だというのに狂い咲き、空にはおめでたい印の五色の雲が渦巻いております。
「ほう……。こいつはまた、景気のよい光り方だ」
普通の人なら、神様に感謝して祈るところでしょう。ですが、この男は違いました。
愉快そうにニヤリと笑うと、巨大な斧を肩に担ぎ直し、地響きを立ててその竹に歩み寄ったのです!
「これほど太く、輝く竹。……がはは! これで酒器を作れば、さぞかし美味い酒が飲めるに違いないわ!」
神様への畏れすらも自分の力で飲み込もうという、とんでもない笑い声。
男は腰を深く落とし、大地をしっかりと踏みしめました。
「――ぬんッ!!」
短く、鋭い気合!
次の瞬間、男の全身の筋肉が爆発したように膨れ上がりました。振り下ろされた戦斧は、音さえ置き去りにする速さで黄金の竹を叩き切る!
ドォォォォォンッ!!
山全体が揺れるほどの、凄まじい衝撃。
本来なら神の力が斧を跳ね返すはずが、男の「純粋な暴力」がそれを力技でねじ伏せました。黄金の竹は、悲鳴を上げるように真っ二つに割れ、溢れ出した光の奔流が辺り一面を真っ白に染め上げたのです。
光が収まったあと、男の目に飛び込んできたのは驚くべき光景でした。
割れた竹の節の中に、わずか三寸ばかりの、それはそれは美しい女の子がちょこんと座っていたのです。
「……おや?」
男は斧を地面に突き立てました。それだけで地面が割れましたが、構わず、大きな掌を赤子へと伸ばします。 赤子は眩しいオーラを纏い、地上のものではない輝きを放っております。ですが、これほどの巨漢の翁を見ても、怯えるどころか不思議そうに見つめております。
「がはははは! 面白い! 竹から酒器を作るつもりが、娘が出てくるとはな!」
男は太い指でそっと、しかし大切に赤子を抱き上げました。
その温もりを感じた瞬間、男の胸の中に、これまでの戦いでは味わったことのない、温かな感情が芽生えたのでございます。
「お前、俺の顔を見て笑うか。……よかろう。貴様は今日から、この讃岐の造の娘だ。俺がその辺の神様も寄り付かぬほど、強く、美しく、最強の姫に育て上げてやろうぞ!」
男の咆哮が、竹林を越え、都を越え、はるか月の都まで届くかのように響き渡りました。
後に「かぐや姫」と呼ばれることになるその少女は、力強い声に応えるように、小さな手で翁の髭をギュッと掴み、満面の笑みを浮かべたのでございます。
……しかし、翁はこの時、まだ知りませんでした。 この運命の出会いが、家に帰って待っている「最強の奥様」の、静かなる逆鱗に触れることになろうとは。
さてさて、物語はここからが本番。 最強の夫婦が、ひとりの赤子を巡って一体どんな大騒動を繰り広げるのか。
それは、また次のお話で。




