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君は私だけを愛してくれればいい

掲載日:2025/11/14

ざまぁ系ってこれであってますか?


「マナッ!私は今ここで貴様を断罪する!」


何処かで聞いたことあるようなセリフを、声高々と話す王子に対し酷く冷たい視線を向けながら、マナは大きくため息をついた。


「こちらの令嬢に、貴様が今まで数々の非道な行いをしてきた証拠は十分に揃っている!よって婚約破棄する!」

「…ふーん」


興味ない…というかのように、髪をいじりながら気の抜けた返事をしたら、更に王子の怒りを加速させるばかりだった。



「確か、物語の中だとお前のような令嬢を悪役令嬢と言うそうだな」

(私の場合、悪役令嬢じゃなくて悪役‘霊場’だけどね。怪異だし…)


そっから某王子は真実の愛を見つけただの騒いだ挙句、ここにいる令嬢と婚約するのだと宣言した。因みに令嬢は罪を償って下さいだとかほざいている。…胡散臭ぇ。


(……あーなるほどね、実はヒロインがクズなパターンか…)


半ば話を聞き流しながら、マナの頭はぐるぐると違うものに回路を回させる。


実はマナ、今は小説の中にいる。詳しく言えば先程まで読んでいた小説の世界に迷い込んでしまった。


何故このような世界に迷い込んでしまったかはわからないが、読み始めようとした小説に、何かしらの魔術や魔法といった超常的な類いのものが、施されていたのはおそらく間違いない。しかも、さっきからずっとこの空間について解析を行っているのにも関わらず、今になっても逆探知ができないということは、相手は相当の手慣れである。


全ての事の発端は、この国にも古本屋があると聞いて、どんなものだか覗きに行ったことだった。小さい店で店内はそこまで広くないものの、案外品揃え悪くなく、中々に興味の啜る本が数冊見つけることができた。

—と思っていたが

「うっかりしてたわね〜」

一冊だけブックカバーと全く内容の異なる本を買ってきてしまった。私は自宅の書庫でひとりごちる。よく確認すればよかったと今更後悔するが、買ってきてしまったものはしょうがない。

「どれどれ…」

目当ての本ではなく苛つきを覚えながら、ブックカバーを外す。内容はどうやら[悪役令嬢が婚約者とヒロインに対してざまぁする]というよくあるかんじの小説だった。

くだらない、と思いつつ私は本のページをめくった。


…そして冒頭に戻る。

何故小説の世界に迷い込んだのかはわからない。けれどここが小説の中なら、きっと物語を終られせば元の世界に帰れるはず。


しかも読者の記憶を頼りに役者を振り分けているらしい。ヒロインは現実世界では私の妹にあたる人物だ。対して、婚約者はマナの中で該当する人物がいなかったのであろう、マジで知らん人である。


色々と突っ込みたいところは多々あるのだが、今ここから出られる条件がわからない以上、物語を終わらせることが最優先だ。



二人の前で[ざまぁ]な展開に持っていけばいいのだろうけど、問題はどうやってその展開にもっていくかだ。


過去に読んだことがある悪役令嬢のざまぁ系は、婚約者の悪事を暴いたり、ヒロインの策略を見破ったり等、…まぁ実に多岐に渡るわけだが。


断罪イベントはもう始まっちゃってるし、ここからどのように逆転させるのか、もう始まってしまったからには、こちらとしても対策のしようがないのだ。だからといって、黙って断罪されるのもまっぴらごめんだ。


「黙っているということは罪を認めるということだな!」


すっかり黙り込んでいるマナに痺れを切らしたのか、王子がそう叫んだ。


認めるも何もマナはなにもしていないのだ。小説の主人公は何かしでかしたのかも知れないけど、マナにとってはどのみち関係ない。


というよりさっきから、マナが何も喋らないのをいいことに、ヒロインと婚約者がいちゃついてるのが非常に気に食わない。


マナの目つきが怖いだの、王子がいて心強いだの…。王子も王子でヒロインの言葉を鵜呑みにするものだから、怖かったな、とか、もう大丈夫だとか呟いている。


要するにとてもうぜぇ。


マナはその様子を見て「あくまで小説の設定であって本人ではないから」と割り切って…


「割り切れるワケねぇわよッ!!このポンコツ魔術師!!!」


割り切れるわけもなく吹っ切れた。


先程まで冷静に考えていられたものの、

やはり自分以外と妹がイチャイチャするのは大変不愉快だ。

それが所詮小説の中の話で、本人ではなくても、だ。


マナが手を前に翳した瞬間、ズドンッという激しい衝撃音が鳴るとともに、地面に大きな亀裂が入った。丁度王子とヒロインの間を器用に二等分している。


当然攻撃されて驚いた王子は、すぐに気を取り直し咄嗟として叫んだ。


「貴様!何をしているのか分かっていr…「マジルテはね、私のことだけ愛してくれればいいの」


マナは歩み寄り、そっと頬に手を当てた。


妹のほうに


「私の前で知らねぇヤツとイチャイチャするなんてマジであり得ないんだけど!!」


まだ動揺しているのだろう、某ヒロインの妹のほうは琥珀色の目が見開かれ、未だに呆然としている。


「だからボクは真実の愛を見つけたのっ。お姉サマは黙ってて!」


「真実の愛の相手はこの私。ソイツじゃない。だからマジルテは私のことだけを見てくれればいい」


「そんな無茶苦茶なコトを…!」

「無茶苦茶な事…?」


ピクリ、とマナの体が震えた。


その場にいる誰もが察した、[これ絶対怒らせたらアカンやつ]だと。


最初は小説の中だからと我慢していたが、もう我慢の限界だ。


マナにとって、ここが小説の中だろうが、虚構の世界だろうが、それはもはや最早関係なくなっていた。


「ふざけんじゃねえわよ!!私のことを世界で一番愛してるって言うまで一生背後霊として纏わりついてやる!!!マジルテは私のことだけを愛してくれればいいの!!それ以外はお姉ちゃんが絶対ッ、ぜーったい認めないッ!!!」


マナはマジルテに向かって特大の容赦ない魔力球を叩き込んだ。


その瞬間、視界の全てが真っ白に染まり、耳を裂くようなキーンという音と共に、私は目を覚ました。








おまけ


「悪夢体験どうだった?」

「…最悪だった」


目の前でにまにまと満足そうに笑っているのは、同じ怪異である付喪神のドロセラ。術にかかった人間を虚構の世界に引きずり込む怪異である。私が現実世界で目を覚ました時には、彼女が私の顔を覗くように居座っていた。



…そうつまり、今回の事件は全てドロセラの仕業である。


ま、まさか、あれを全部聞いてたのか…

あんな大掛かりな魔法、実現できる人物など最初から限られている。もしかしたら…とは思ったが、まさか本当にそうだったとは。


「あと気圧の調整が全くできてない」

「厳しいわぁ」


そういえば、普段イタズラをする印象がないドロセラであったが、実はこういったドッキリといった類いが好きだったことをすっかり忘れていた。妹ほどの頻度じゃないが、そういえば自分も定期的にイタズラやドッキリに巻き込まれていた。普段はおとなしいのに…


…それにしても、癪だがドロセラの魔法の再現度には毎回感銘を受ける。知識、イメージ、技術、魔力量、コントロール…どれをとっても怠りがない。どれも勝てない。同じ魔力質の自分がやろうとしても、到底不可能だろう。


「…逆にそれ以外は完璧。到底真似できないわ」

「それはそうよ、だって絵画の魔女だもの」


非生物である怪異は、こういった人間では到底不可能な超常的なことをたびたび引き起こす。特に創造物の壮大さを表す象徴である付喪神のドロセラは、人類では到底使用できない魔法を扱う。魔法と魔術、程度の能力と存在を、かけ合わせて、繊細なイメージで構成されたドロセラの魔法は、とうに人類の域を超えていた。

私も怪異の一種であるのだが、怨霊のため元は人間。生まれつきの化け物には勝てなかった。


しばらくふふんと機嫌が良さそうに笑っていたドロセラだったが、急に真顔に戻り、すん、とこちらを見つめてきた。


「…もう、タネ、バレちゃったわね」

「えっ…?いや……絵画の魔女でしょアンタ」

「そうだけど…」


ドロセラはハァと大きなため息をついて、不貞腐れた様子で言った。


「つまらない勉強ばかりしてるから、わかったら面白くなくなっちゃうのよ」

「…だまし絵はわかったらただの絵なのよ」

「だまし絵の意味違うような…」


マナは一瞬考える素振りを見せたが、やがて開き直り口を開いた。


「けど、アンタが‘ただの絵’なんて言うとは思ってなかったわ」

「それは—」





昔、とある画家によって描かれた名もなき絵画があった。

時が経ち、自分の絵を嫌うようになった画家に存在を否定され、永遠の孤独と絶望を、もの言えぬ絵画(モノ)として過ごす。やがて、省みられる事がなかった名もなき絵画に怨恨が募り、現実世界に嫉妬する魔女へ変貌した。

『ただの‘偽物(モノ)’なのにね』


マナは、ドロセラは‘ただの絵’という言葉の重さを、誰よりも知ってると思っていた。


ドロセラは次の言葉が思いつかずに黙り込むが、次の瞬間には優しい笑みを、少しうかべていた。


「それにしてもさぁ、あれがただの絵って言われちゃうと、流石に自信なくすわねぇ…」

「…残念ねぇ」

「急に罵倒された」


しばらくの間沈黙が続く。先に声を発したのはマナの方だった。


「…そういえばさぁ、あの部屋の解除条件ってなんだったの?」

「…秘密♪」

「えー!教えなさいよ〜!!」

「秘密ったら秘密なのよ♪」





本当の気持ちを伝えないと出れない部屋



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