第三話:VSビースト①‐動物保護団体に訴えるぞ
ネ:「第二話の前書きで蜜子の『蜜』が『密』になってたぞ?」
蜜:「気分によって使い分けます!!」
マ:「気分で名前変わるの!?」
五月六日木曜日の曇り。
最近、警察がよく来る間蔵〔マクラ〕高校。
なんでも、事件の被害者がこの学校の卒業生だとやっと調べ出し、教員に事情聴衆しに来ているらしい。
そんな学校の屋上では、昼ご飯を食べに来たり、彼氏彼女とイチャイチャするために来たり(死ねばいい)、ただ暇だから来た生徒がちらほらといた。
その中に、一際大きな声がアタシに向かって喋っていた。
「本当なんだって!! でっかい石が浮いてたんだって!! 信じてよマイちゃん!!」
羽蝶 蜜子〔ハチョウ ミツコ〕。
アタシの親友。茶色がかった髪を邪魔にならない程度に切り揃え、藍色のブレザーを着ている。テンション高め。
「……ご飯飛ばすな」
そんな大声を聞いているのはアタシ、マイちゃんこと高上 舞〔タカガミ マイ〕。
黒髪ポニーテール、寒くないからブレザーを脱いでセーター姿。
アタシと蜜子はお昼ご飯を食べるために屋上に来ていた。
そして、食べながら蜜子はマシンガンの様に喋り続ける。
「マイちゃんと別れたあと本屋に寄って立ち読みしてたらいきなりバーンッて大きな音がしてワーーッて!!」
「う…うんうん……」
長い付き合いだけど、こんだけ喋られるとつらい…。
それに、アタシは見たどころかそれを実際に体験しているから、今更聞いても驚かないよ。
六日ほど前、投石 炎岩〔トウセキ エンガン〕とか言う男と戦った。蜜子が言っているでっかい石とは、炎岩が使った『能力』のことだろう。
…そう言えばあいつ、あの後どうしたのだろうか?
ちゃんとやり直すことが出来てるだろうか?
「うぉおーーい!! 聞いてんのかあ!!」
おっと、まだ喋っていた。
「聞いてる聞いてる。ガ〇ダムSEED最高」
「一言も言ってない!!」
まあ、放課後にでもネコマタに聞いてみよう。聞けばだいたい教えてくれるし調べてくれるし…
そう言えば、あいつどうやって調べてるんだろ???
───────────-
「平成版ガメ〇2は傑作だと思う。レギオ〇のデザインとか神」
放課後、路地裏のど真ん中でネコマタは他の猫と共に特撮映画トークに花を咲かせていた。
「事件はどうしたあああああぁッ!!」
マイ、ネコマタに向けて渾身の肘打ち。
「背骨があああアアアアアアアァッ!!」
普通の猫なら即死レベルの一撃を背中に直撃させた。メキメキゴキゴキと音がなり皮膚と肉と血管が裂け真っ赤な血が飛び散り目や鼻や他のあらゆる穴という穴から液体が
「そんな描写いらねぇんだよ!」
「いやいや、ちゃんと書かないと読者が想像しにくいでしょ?」
「お前が言うな!」
もちろんネコマタは妖怪なので死にません。ご安心下さい。
いつの間にか身体を元に戻し、改めてマイと向き合う。
「てかさ、事件事件うるさいんだよ…。シリアスも良いけど、笑いも必要だぜ?」
マイは近くにあったポリバケツに腰掛ける。
「アタシはアンタを見るだけで笑えるよ」
ちょっとにやけるネコマタ。
「お、なになに? 俺ってそんなに和み系?」
「滑稽で笑える」
「……泣くぞ」
その目は既に涙目だった。
ふうっとマイは息を吐き、
「…ま、いいや。たまには喋ろっか? …そういえば、仲間って奴見つかった?」
「よくぞ聞いてくれた!」
涙目から一転、キラキラと目を輝かせて、嬉しそうにしながら喋りだした。
「うん、どうやらこの街に集まってきているのは本当みたいだった。この前会ったぞ」「ホント!? 何? カマイタチ? 天狗? 河童? それともアンタと同じネコマタ!?」
マイは身を乗り出す。
「イヌマタ」
そしてすぐ動きが止まった。
眉間にしわを寄せて、記憶の中からイヌマタの情報を検索する。……出て来なかった。
「…なにそれ?」
「オスの柴犬の妖怪で名前の通り尻尾が二本ある。そして特撮ならゴジ〇シリーズが好き」
「最後の情報いらない」
やっぱり知らなかった。未確認の妖怪は案外多いのかもしれない。
マイは半分呆れながら一様聞いてみる。
「…そいつだけ?」
「いや、あと二匹会った」
目がミラーボール並に輝く。
「トリマタとサカナマタって奴らだ! 好きな特撮映画は平成仮面ラ…」
「もーーいいよっっ!!」
マイは立ち上がり、ネコマタをつまみ上げる。…以外と重たい。
「痛い痛すぎる!! 首の皮が剥がれる!!」
猫なのに痛いのか……。
「なんでどいつもこいつも〇〇マタなんだよっ!! 流行りか!? 流行ってんのか!?」
「違うって名前だって」
「何だトリマタって!? 何だサカナマタって!? サカナマタに関しては魚類じゃねえか!!」
「本当にいるんだから仕方がない」
「ムムゥ~~…」
そう言われたら反論出来ない。この世界の裏事情はネコマタの方が詳しいし、嘘は極力つかない奴だから、多分本当なんだろう。信じたくないけど…。
ぺいっとネコマタを放り投げ、またポリバケツに座る。
「もっとメジャーなのはいなかったの?」
マイはもう一度質問した。
ネコマタは首をさすりながら、
「あのなぁ、妖怪は集まってきてるけど、そうそう見つかることは無いと思うぞ。上手く人間社会に紛れ込んでるからな」
まあ確かに。簡単に見つかったら妖怪は単なる珍しい動物、または人種となるだけである。見つからないからこそ、妖怪は妖怪でいられるのだ。
「…アンタ、即行アタシに見つかったよね?」
「ギクッ……な、何の話? 田中くんの話じゃね?」
「わざとらしい」
ネコマタはこの街に来た瞬間にマイと出会った。話によれば、隠れることなく堂々と路地裏にいたらしい。
「アンタ妖怪っぽく無いんだよ! もっと天狗とか河童とか見習いなさい!」
ネコマタは目線を反らしながら、
「あれは油断したんだよ…。ちゃんとしてれば平気だし…」
「ちゃんとって何すんの?」
「そりゃあ…人に化けるとか」
「ふ~ん……。…マジでかっ!?」
ガタッとポリバケツから崩れ落ちるマイ。
「今までそんなことしてなかったじゃん!」
「いや、やるタイミングが無くて……。見たい?」
マイは首を高速で縦に振る。興味ありまくり…。
「仕方がない、では………その前に、格好良すぎて失禁すんなよ。あと…」
「はよせい」
すぱーんっとネコマタの頭を叩く。かなりいい音がした。
「ウッ、はいはい…、では……………………」
「…………ゴクッ」
固唾を呑んで見つめるマイ。
「…では、……まず!、あらぶる鷹のポーズをとり!! そのまま身体を一周半右にねじり!! さらに一分間息を止める!!」
「ぉお!?」
なんか凄い!?
「…のはつらいから省略」
「省略出来るんかいっ!?」
「次に、ヒンズースクワット千回を十秒間に五セット!! 終わったら宇宙〔ソラ〕に向けて電波を飛ばし、宇宙人と交信!! 宇宙人と友達になったらドラ〇エ5のラスボスとバトル!! エンディング見終わったら島〇紳助さんにイタ電!!」
「いや待て!? それは関係あるのか!? そしてもっと内容が難しくなってるよ!?」
路地裏で動きまくる黒猫と、それにツッコミを入れる女子高生…。奇妙にもほどがある。
「するとぉおおおお!!」
「い、いよいよ!?」
ようやくネコマタの動きが止まった。つられてマイも動きを止める。
「…………………」
「…………………」
ネコマタは頭から二本の尻尾どちらの先まで変化無し。
しばらくの間の後、マイは無表情でネコマタを睨みつけ、
「……変化は?」
「確率十分の一で出来たり出来なかったり」
軽いジョギングをした後の様な、爽やかな汗をかいた笑顔でした。
「よし、アタシが変化手伝ってやる。まずはその顔からだ」
「そのコブシは何!? ちょっ、やめ、変化じゃない変化じゃない!! どっちかって言うと原形崩す感じ!! ゴメンってマジだから冗談抜きだから!! 動物保護団体に訴えるぞ!! あっ?! いや!! ッガ…! ゴェ、、、ブァッ…。んお?? ギャァアアァアアイイイィ」
どこにでも無い様なやり取りが、この路地裏で起きていた。
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「…まったく、マイちゃんのやつ……、危うく俺のイケメンフェイスが台なしになるところだったぜ……」
っと、夕暮れの路地裏で俺は独り言を漏らした。
せっかくシリアス続きだから笑わせようとしたのに、笑いどころかグロが入るとは…。予想外だったぜ。
「さて、魚の骨でもねぇかな~♪」
行きつけのゴミ捨て場に足を運ぶ。寿司屋の裏っかわの細い道にあるから頻繁に魚の生ゴミが出る。ふっふっふ…まさに魚天国だ。
「……ん? …あぁ、ここかぁ」
しばらく歩いていたら、目の前にコンクリートの瓦礫の山が会った。近くにショベルカーやトラックが置きっぱなしになっている。
マイは炎岩とか言う奴と戦ったらしいが、ここで戦ったようだ。
「派手にやったなぁ」 っと、瓦礫の山の手前に何かがあった。身体が勝手に山へと向かう。
「さ…魚か!?」
それっぽく見えたがそんな訳無かった。小さなマグロのキーホルダーだった。確かどっかの寿司屋で貰える奴だったはず…。
「………気に入った!」
俺はそれを持って帰ることにした。だって猫なんだもん、キーホルダーでも魚が好きなのは仕方がない。
サッと口にくわえ、細道にあるポリバケツの所に直行。
「ルンルン~♪……ん?」
角を曲がると、ゴミ捨て場にすでに先客がいた。
猫ではない、犬でもない、鳥でも魚でもない。
目が血走った人間がそこにいた。
「………こわっ」
とりあえず、普通の猫のふりしてさっさと魚を取ろうっと。
ポリバケツの上に飛び乗り、隙間から頭を突っ込もうとして、ふと横の先客を見てみた。
男、四十後半、身長低め、ボサボサ白髪混じりの髪、無精髭、細い目が血走ってる、右胸ポケットの破れた白衣、何故か裸足、…と言ったところか?
こんな奴無視無視、と思ったが、何かこっちを見開いた目で見ていて気になった。
ん~~~、ん?何ガン飛ばしてんだ
なんて考えた瞬間、
男は手を突き出して飛び掛かって来た。
手だけならまだいい。問題なのは、爪が刃物の様に鋭く、俺に目掛けて振って来たことだった。
後ろに跳ねて避ける。目の前で爪がギュンッと空を裂き、ポリバケツが簡単にバラバラとなる。
男は息を荒げ、汗をかく。何か焦っているようにも見えた。
「なんだぁあ? ケンカ売ってんのか? …ふん、じゃあ買ってやるよ」
喋っちまったがもうどうでもいい。キーホルダーを毛の中にしまい、全身に力を入れる。本気でぶちのめすために。
「喜びな! この大妖怪ネコマタ様の妖術は、そんじょそこらじゃ見れないんだぜぇえ!!」
「…………………」
無言の男が四つん這いでこっちに走って来たが関係ない、攻撃範囲内だ。
唇をすぼめ、肺を限界まで膨らます。敵はすぐ近く。もう五メートルも無い。
ここで一気に、
敵に向けて火炎を吹く!
ゴウッ!! と勢い良く燃え上がり、男は、あっという間に炎に包まれる。
「…楽勝楽勝」
口から煙りを出しながら、俺は余裕の笑顔を浮かべた。
ちなみに、この火炎は俺のもともとの力ではない。
かなり昔、当たり前に妖怪がいた時代。鬼火とか輪入道とか、火を使う妖怪ももちろんたくさんいた。
俺は化けたりちょっと腕力があるだけで火は使えない、でも使ってみたかった。だって、自分に無い力は誰だって欲しいだろ?
だから、見様見真似でやってみた。
するとどうだろう?すんなり使えた。使えないと思ってたのに、二三回試しただけで使えたのだ。
やってみれば以外と何でも出来る。ようはやる気だった。
それに比べて人間はすぐ無理だの、努力が必要だの、やりもしないでそんなことを言う。やってみれば案外簡単かもしれないのに…
とにかく、変な男は焼かれておしまい。最初に向こうから仕掛けて来たから文句は言うまい。
「…………ふん」
食欲をなくしたから帰ろっかな。
「………?」
しかし、三歩ほど歩いて気づいた。
獣の様な息遣いが、揺らめく炎の中で聞こえることに。
「!?」
即座に振り返る。だが炎の中に男はいなかった。
その時、上から引っ掻く様な音がする。そのまま俺の後ろへと素早く音が動いていった。
もう一度振り返ると、今度こそ男はいた。
「……壁を使うのか」
「…………………」
壁に張り付き、爪を食い込ませて移動してきたのだ。
「この!? きめぇんだよ!!」
今度は火球を作り、二発飛ばす。
だが男はそれにビビることなく、壁から壁へと跳び移ることで簡単に避けて見せた。
「……?」
なんだ?この違和感。なんか、俺の経験が何か言っている気がする…
男は俺の前に着地し、止まった。
「……それを……わたせ!」
「…喋れるのかよ」
それってなんだ?俺の宝毛?
「わ…わぁたせぇえええ!!」
痺れを切らして突っ込んで来やがった。…めんどくさくなってきた。
「…あ~ぁあ、めんどくさい。めんどくさいから…」
前足に力を込める。そして、
「ブッッつぶす!!」
おもいっきり腹を“ぶん殴った”。
「ゲォォッ、、、!! なっ……なに!?」
まあ驚くのも無理ないか…。なんたって、“腕だけ人になる”とは思わなかっただろうからな。
……そこ、想像したらキモかったとか言わない。
「言ってたろ? 俺の妖術は、そんじょそこらじゃ見られないってな!」
俺の中で一番最高のキメ顔で言ってやった。
「……く、くそ」
男はさっさと逃げて行った。猫に負けるとは…情けない人間だな。ハッハッハ!!
「ハッハッハッハ………ハッ…あれ?」
今思えば、あれって犯人じゃね?
「…しまった、忘れてた。顔覚えてないぞ」
……ま、まああれだ、顔以外なら覚えているぞ?まず………白衣だろ?ヒゲが…あったっけ?髪型……身長……。
「ヤバい!! ぜんぜん覚えてな……?」
まて…白衣?被害者は間蔵高校の卒業生でほぼ同年齢。犯人が高校の関係者の可能性大。この近くに病院とかないし、白衣を着るような職業って…。
「……もしかして」
俺は何か気づいたっぽい。
「犯人って、学校の先生?」
───────────-
まったく、昨日はネコマタのせいで疲れた…、もう学校休みたいよ…。
なんて考えながらアタシは教室移動のために廊下を歩く。蜜子は先に行っちゃったから無言でいると、
「…あ、先生」
白髪混じりでボサボサの髪を掻きながら、背の低い男が歩いていた。
「ん? あぁ、高上さん」
「キーホルダー見つかりましたか?」
右胸ポケットが破れた白衣を着て、無精髭を生やした生物学の先生は、
「…いいえ、完全に無くしてしまったみたいです」
「そうですか…。先生、何か顔色が悪いですよ? 大丈夫ですか?」
お腹にアザがある、鬼懺 槐〔キザン エンジ〕先生は、
「えぇ、ちょと、お腹が空いてて」
申し訳なさそうに言った。
イ:ト:サ:「「「俺たちの出番は?」」」
ネ:「誰?」
マ:「あれじゃね?モ〇ハンの新しいモンスターじゃね?」
ネ:「じゃ、狩るか」
俺:「誰なのかは俺が書いた本編を見直そう!!」
ネ:「あ、逆鱗ゲット」