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第二話:VSステイク②‐ただの変態さ


ネ:「今回長いな。そんなことより早く人間になりたい」


密:「そんな貴方にこの薬!!飲めばたちまち人間か∀ガ〇ダムのどっちかになれるよ!!」


マ:「アタシの五目チャーハンどこ?」

「まいったなあ、ホントにまいった。どれくらいまいったかと言うと………まいったなあ。てか展開早過ぎ……」


 とある路地裏。黒猫がブツブツ独り言を呟きながら走っていた。もちろんマイクからの声ではなく、幻聴でもない。間違いなくこの黒猫が喋っている。

「まさかこんな近くから血の匂いがするとは…」

 二本の尻尾を振りながらまっすぐ走る。

 喋るこの黒猫の正体は驚くなかれ、妖怪の一種で名を猫又〔ネコマタ〕と言う。

 猫又とは昔、長生きした猫の尻尾が二つに分かれて妖怪になったものと言われ、人に化けたり、油を舐めたり、時には人を襲って喰ったとか。

 そんな妖怪が何故こんな街にいるのか。理由はズバリ、仲間探しのためである

 実はもうこの時代の妖怪は殆ど絶滅危惧種みたいなもので、一県内に一匹いるかいないかのレベルでしか存在しない。しかし、最近何故かこの街に妖怪が集まりつつあるのだ。それが何を意味するのかはまだわからない。

 とにかく、他の妖怪に会う機会がなかったネコマタは、自分と同じ化け猫仲間と出会うためにこの街を拠点にしたのだった。

「……まさか、マイちゃん襲われてないだろうな…」

 ネコマタは、心の底から心配そうに

「俺のご飯運搬係が勝手に殺されるなよ…」

 してなかった。

 その時、ネコマタの足が止まった。

「…? 匂いが分かれてる?」

 血の匂いの出所が複数ある…

 まさか同時に複数人殺したか? いや、不可能だ。まだ新しい血の匂いだし、それぞれ離れ過ぎてる。ならば殺し損ねたか……考え込むネコマタ。

「…マイちゃん、マジで平気かな…」

 この失踪事件の犯人はヤバい気がする。ネコマタは仕方なく適当に道を選んで走っていった。

「ん? よおネコマタ」

 途中、知り合いの猫が、猫しか解らない言葉で話し掛けてきた。

「ん? 今忙しいから後でな!」

「いや、お前が言ってた事件なんだけどよぉ」


 そして




───────────-




 大型立体駐車場。六階建て。

 近くのデパートのために建てられたが、あまりにも街の外れにあるので利用する人がいなかったので、デパートもろとも廃墟となってしまった。

 そんな駐車場に一人の女子高生が入って行った。スカートとワイシャツに袖の無い肌色セーター姿、間蔵〔マクラ〕高校の制服(夏服)。

 肩まで伸ばした黒髪を結んでポニーテールにし、鞄から取り出した金色の腕輪を右手に着け、高上 舞〔タカガミ マイ〕は『神様代行』として犯人を捕まえに来たのだった。

「…とりあえず、…探すか」

 匂いの出所は間違いなくここ……だと思う。途中他のとこから匂った気がするがとりあえずここに来た。迷ってもしょうがない。

 適当に一階ずつ見て、非常階段で上に上がる事にする。

 そして六階、この上は屋上になっている。

 左右からは街が一望出来た。前方はずっと駐車場。どこまでも駐車場。車は一台も無く、立入禁止の看板が倒れていた。

 ……本当に広い。

 どんだけでかいの建ててんだよ。確実に金の無駄遣いだろ…。

 上下はコンクリートで固められ、何本も柱が四列になって続いている。高さもだいぶある。

 駐車場の真ん中まで歩いて、誰もいないのを確認して、

「……じぁあ次は屋上か」

 と、階段に戻ろうとしたその時、


 カン…カン…カン…と、誰かが階段を降りて来た。


 思わず驚いた。もしかして犯人かもしれない…。

「嬢ちゃん…お母さんに教わらなかったか?」

 非常口からその男は出て来た。

「こんな時間に一人ぼっちでいると……」

 男は体を屈め、足に力をいれる。

「変態さんが出るってなあぁ!!」

 次の瞬間、男はマイに向かって突撃した!

 右手に持ったナイフを振り回しながら、たった四秒でマイに接近する。

「うわっ!?」

 マイはそれを、

「近寄んなああぁ!!」

 ガキンッと男の股の“アレ”を蹴り上げることで止めた。

「ヘキュッ!!? …カッ!? …コホッ??」

 ナイフを落とし、バタリとその場に倒れ込む。

「………………………」

 マイは犯人を倒した。

「マジで!? こんなアッサリと!?」

 とか言ってる間に、男は顔だけ上げた。

「…ま、まさ…か…、こんな…嬢ちゃんにやられるとは…。君、強いね…、この投石 炎岩〔トウセキ エンガン〕、油断した…」

 見た目若く、ワックスでツンツンにした髪と少しアゴ髭をはやした男。ガラシャツの上にヨレヨレの黒いスーツを羽織っている。ケガでもしてるのか、スーツに血が付いていた。

「……まあ、慣れてるから」

 『神様代行』になってから体が強化されてるのと(血の匂いが分かったのは嗅覚が強化されていたおかげ)、多少は実戦経験もあることがあるから慣れていると言う意味です。

 炎岩と名乗った男は倒れたまま、マイをジロジロ見た後、

「その服、間蔵高校の制服か? 懐いなぁ…。俺、そこの卒業生だよ」

 マイは無視して、

「アンタ誰? もしかして犯人? だったらアタシは、アンタをギッタンギッタンにボコさないといけないんだけど」

 炎岩はゆっくり立ち上がった。

「フッ、俺ぁただのしがないヤクザの下っ端やってる変態さ…。所で嬢ちゃん、アンタ俺の好みピッタリなんだけど、付き合ってください」

「嫌です」

「友達になってください」

「だが断る」

「ヤらないか」

「そこに座れ!! ボコボコにしてやる!!」

 握りコブシを振り上げる。


 瞬間、右頬に鋭い痛みが走る。


「……………えっ!?」

 マイの目の前を何かが飛んできた。

 振り向く。すぐ後ろのコンクリの柱にヒビがはいっていた。そのヒビの中心に灰色の円柱が、いや、灰色の杭が刺さっていた。

 炎岩はバックステップで素早くマイと距離を置く。二人の間はおよそ十五メートル。

「仕方ない…、付き合ってくれないならとりあえず逃げるまでだ。モタモタしてると人呼ばれるからな…」

 炎岩の足元のコンクリートが、ザラザラと音を立てて削り取られる。そして、砂状になったコンクリートが炎岩の頭上に集まって行く。

「せっかく『能力』使って、幹部どもをボコボコにしてまで組を抜けたのに、また相手するのはやだからなぁ」

 集まったコンクリートが五つに分かれ、杭の形を作る。

 そして、炎岩の周りに浮いて停止した。

「見ろよ、このスーツ。幹部から奪った戦利品なんだぜ? 今更返しますって訳にゃ…」

 右手を、マイの胸に、心臓に向けて振り下ろす。

「行かないんだよなッ!!」

 五つの杭が真っ直ぐマイの心臓に向けて飛ぶ。速度は拳銃のそれ以上、目にも留まらぬ速さで飛来する。

 しかし、マイは炎岩が手を振り下ろす前に動いていた。

 マイは右腕を前に突き出し、力を入れる。

 その瞬間、右腕に着けた二つの金色の腕輪の内の一つが光を放ち、手首を包む。その間約一秒。


 光が消えた時には、


 マイは一本の剣を右手に携えていた。


 あまりに特徴が無い剣。見た目はRPGだと一番最初に装備しているような両刃剣。鍔にも目立った装飾は無く、刀身も曇ったような白色。全長はちょうどマイの胸の高さくらいの長さである。

 そんな剣をマイはひょいと軽く持ち上げ、飛んでくる五つの杭を一つ残らず切り裂く。

「………ぁあ?」

 炎岩はア然とした。

 それもそのはず、暴力団すらものともしない、最強なはずの自分の力を、どこからともなく取り出した剣一本で防がれたのだ。

「……なんじゃそりゃ? 嬢ちゃんも能力持ち? まさか、俺と同じ選ばれた人間なのか…!?」

 マイは剣をつまらなそうに担ぎ、

「それこそなんじゃそりゃ? アタシは『神様代行』ってのやってるだけなの。アンタみたいのを取り締まわないといけないの。分かる?」

「なるほど…つまり俺に告白を……」

「何でだふざけんなッ!!」

 無視して炎岩は一歩下がり、仕切り直す。

「つまり俺と嬢ちゃんは同じ『能力』持ちなんだろ? だったら勝負勝負!」

「………殺してえ」

 深い深いため息をはくマイ。

 正直こうゆう性格のタイプの『能力者』は何回か見たことがある。

 ここまで好戦的なやつは初めてだったが、『能力者』が選ばれた人間だとか神だとか、主人公気取りの中二病患者。この投石 炎岩という男はその典型的パターンの一人だろう。

「言っとくけど、本当は直前で止めようとしたんだぞ。俺の『石杭射出〔ストーンステイク〕』はもっと速い」

 炎岩の足元が削られ、また空中で杭の形になる。

「そして、もっと大量だ」

 炎岩の周り、半径十メートルのコンクリートが砂に変わる。


 すべて、炎岩の頭上に浮かぶ大量の石杭へと変わった。


「………勘弁してよ…」

 マイは剣を両手で持ち、腰の位置に構える。

 炎岩はマイを確実に仕留めるために、百本以上の全ての杭を打ち出すために、両手の人差し指でマイを指差す。

「さあ止めてみろ! さあ切り捨ててみろ! さあ倒してみろ!! ただし、俺の杭は止まることなく、剣も追いつくことなく、無敵だけどなあぁッ!!」

 ヒュンヒュンヒュンッ! と杭が風を切る。長さ三十センチ、太さ十センチの石で出来た杭が、まるでライフル銃から打ち出された鉛玉のようにマイに襲い掛かる。

「ッ……ハッ!」

 息を吐き、マイは剣を振る。

 『神様代行』の肩書きがマイの身体能力を底上げしてくれているため、飛んでくる杭の一つ一つを確認し、確実に切り付けることが可能なのだ。

 最初に右肩、次は左脇腹、それとほぼ同時に右足に来る。

 確認し、剣を振る。最初の杭を右手の剣で真下から切り上げ、左横から右下に切り落とし、二つの杭を同時に切る。切り捨てた杭はガラガラと落下した。

 だが、それでもまだ杭が飛んでくる。

 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!

 風を切る音が永遠と連なり、止まることを知らない。

 炎岩は指を動かさず、足元のコンクリートを削って減った杭を補充する。そして、饒舌になった炎岩は笑いながら、

「クハハハァ! どうしたどうしたどうしたよぉ、もっと頑張れよ! こっちはコンクリがありゃあ弾∞なんだぞ!? 気張ってくれなきゃつまんねぇぜえぇ!」

 マイは剣を持つ手を右手だけにし、腕を動かし続ける。

 ズバズバとリズムよく切り捨てるが、少しずつ、確実に体力が消耗してきた。たしかに体力も底上げされているが、あくまでも無限ではないのだ。

「ハッ…ハッ……んっ…ケホッ」

 息が荒くなる。

 だが、炎岩はその手を止めない。

「…ん~、もう限界か…。まあ、俺の彼女になるんなら…許してやるかな?」

「……………だ」

「ん? ゴメン、よく聞こえなかった!」

「嫌だ!!」

 次の瞬間、ボゴンッ! と、大きな音と共に砂煙りがたつ。

「…当たったか?」

 手を降ろし、杭を止める。

「………ありゃりゃ?」

 マイはそこにいなかった。あるのは地面に開いた一人分通れる穴だけ。

「……ッチ、逃げたのか……。まあいいや…ここまで来たら何が何でも何だろうと、俺の愛人にしてやらぁ」

 炎岩は穴にゆっくりと近づく。頭上にあった杭は炎岩から離れて行くに連れてボロボロ崩れていった。

「今行くぜ…、その場で張り付けプレイに突入してやっからな♪ ………っとと!?」

 途中、足元の小さな穴に蹴っつまづいた。倒れそうになって踏み止まる。

「………穴??」

 どうやら、地面の四角く開いた穴に足がはまってしまったらしかった。削り過ぎたか? いや、そんなはずは……と、穴を見つめる炎岩。


 次の瞬間、ボゴンッと音を立てて、足元が崩れ落ちた。


「ッ!? …なッ!?

 さいの目に綺麗に切り取られたコンクリートと共に、炎岩も下の五階に落下する。

 そこに、剣を構えたマイがいた。

「! ……このっ!」

 マイは逃げる所か攻撃の雨を避け、反撃に出る為に下の階に降りたのだ。

 そしてもう一つの理由。炎岩は杭を作り出す時、柱や天井を使わず、足元のコンクリートしか使わなかった。もし、能力が有効なのが足元のコンクリートだけだとしたら……

「空中で……杭を作れるか?」

 炎岩に向かってマイはジャンプした。剣を下段で構え、切り掛かる。

「っ、…まだまだあアァッ!!」

 叫ぶ炎岩は無理矢理身をよじり、落ちるコンクリートのブロックの一片に足を付ける。ブロックは形を変え、小さめの石杭になった。そして、マイの眉間に発射される。

「ッ!」

 マイは剣を盾にして防ぐ。

 だが、杭のあまりの威力に吹き飛ばされた。ドンッと背中から地面にたたき付けられる。肺から息を吐き出し、苦痛で顔が歪む。

「ゲホッ!? ぐっ……まだまだっ!」

 それでも、マイはすぐに立ち上がり、尻餅をついている炎岩に向きなおす。

 炎岩はまた距離を置き、余裕の笑顔を浮かべた。

「クハハハハハァ! 結局どうする? 遠距離攻撃は俺の専売特許だぞ?」

 確かに、マイの武器は剣。この距離からは攻撃出来ない。

「…じゃあ」

 しかし、マイも笑顔を浮かべる。

「…こっちも遠距離攻撃」

「何て?」

 剣を水平に炎岩へと向けて、


 ギュンッ!! と、一直線に剣先を伸ばした。


「は、…はぁああッ!!??」

 比喩ではなく、本当に剣が伸びてくる。

 炎岩は身を屈めるが避けきれず、左肩にかすった。肩を押さえて痛みを堪え、歯を食いしばる。

「グッ…ウウゥウウウゥウゥッ……!! な、なんだ……その…剣!?」

 剣が元の長さに戻る。

「…『メタモルフォーゼ』っていう剣で、初めてバイトに来た時に貰ったやつ。質量無視して形を変えることが出来るとか…、まあなんとなくで使ってるけど」

「じゃ…じゃあ、最初っから使ってれば…」

「…疲れるし」

「!?」

 マイは本気ではなかった。

 何度も言うようだが、いくら体が強化されていると言っても、限界は必ずある。パワーもディフェンスもスピードもスタミナもHPも、結局はマイの元々のステータスにわずかにプラスされただけに過ぎない。

 疲れるものは疲れるし、怪我するものは怪我するのだ。


 疲れたくない、


 怪我したくない、


 汚れたくない、


 めんどくさい。


 だから本気を出さない。


 しかし、それでも炎岩と戦うには充分過ぎた。その気になれば、マイはいくらでも攻撃するチャンスがあったのだ。

「……………」

 コツ…コツ…と、無言で右手の剣を構えながら炎岩に近づくマイ。炎岩は怯んで動けない。

「…こ、殺すのか?」

 炎岩は震える声で言った。

「いや、こらしめるだけ。降参して白状するなら、『能力』だけ消して警察に突き出すだけで済ませてあげるけど…」

「わかった…わかった…。暴力団のことは、ちゃんと警察に言う……」

「じゃなくて、失踪者はどこかって言ってんの」

 炎岩はキョトンと目を丸くする。

「………なにそれ? 俺は組の人間を攻撃しただけだぞ?」

 マイの足が止まる。

「???」

(まさか、犯人はコイツじゃない? だったら誰?)

 マイは頭を抱えて考え込んだ。その間に、

「……くっ!」

 炎岩は立ち上がり、『能力』を発動する!

「! しまった!」

 今度は足元だけではない。壁も柱も天井も、すべてが塵となり、一点に集まって行く。炎岩は笑いながら、

「クハハハ、…俺の力の有効範囲は足元だけじゃない、足に触れるコンクリ全部だ! …え? 何で最初から使わないかって? 疲れたくないからだよっ!!」

 マイの足元まで砂となり、真下に落下する。

「う…うわっ!」

 今のマイなら多少高い所から落ちても耐えられる。マイは四階三階をすっ飛ばし、二階に着地した。

「…あれ? 四階と三階は?」

 マイは上を見上げ、現状を確認する。遥か高くにあるのは赤く染まった空と薄い雲。


 それと、とてつもなく巨大な石杭。


「…でっけぇなぁ、おい」

 炎岩は二階から上の駐車場のコンクリートすべてを使い、超巨大な杭を作り出したのだ。

「『鬼殺しの大岩杭』……俺の必殺技だ!!」

 怒りと疲れが混ざったような声が上からする。ここからは見えないが、炎岩は杭の上にいるようだ。

「避けれるもんなら避けてみろ。止めれるもんなら止めてみろ! 斬れるもんなら斬ってみやがれええええええぇ!!!!」

 杭が落下を始める。マイを潰すため、ビルのような円柱が空を切り裂きながら降ってくる。

 マイはそれを、冷静に、静かに見つめる。

「…じゃあ避けてあげる」

 ゆっくりと足を曲げ、

「…じゃあ止めてあげる」

 剣を変形させて伸ばし、

「…じゃあ斬ってあげるッ!!」


 マイは杭に突っ込んだ。


「ァァアアアアアアアアッ!!!!」

 杭の尖端からズバズバと、リズミカルに斬り刻む。

 伸ばした剣が巨大な杭を端から端まで動き斬り付け、杭はコンクリートのブロックへと変わる。斬撃のあまりの勢いに巨大な杭は上に押し返され、結果的に空中で静止しているように落下が止まっていた。

「…なんだ!? 何で落ちない!?」

 炎岩は理解出来なかった。理解出来る訳がなかった。たった一本の剣だけで、たった一人の女の子だけで、自分の本気の攻撃を防がれるなんて信じられる訳がない。

 『神様代行』の肩書きが与える力は確かにわずかな物だ。ただし、力はマイの潜在能力を最大限引き出した状態にプラスされる。そして、マイの潜在能力は桁違いだったのだ。

 もちろん炎岩はそのことを知るよしもない。

「こんな…こんな事って…! ありえねーだろ!!」

「ゥオルィヤアァッ!!」

 杭の四分の三を切り刻み、マイは剣をトドメと言わんばかりに振り上げる。バカンッと杭が真っ二つに分かれ、巨大な杭は巨大な音と共に地面に落ちた。

 よろっと炎岩は衝撃で体勢を崩す。顔がくしゃくしゃに引き攣っていた。

「ウオ!? …そ、そんな!?」

 そして、炎岩はその割れ目に立つ人影を見た。

「……お望みどおり、止めたよ」

 何事も無かったかのように、当たり前のように、剣を担いだマイがそこにいた。

「う…うわっ、は…ハッ、クソッ…」

 炎岩は膝をつく。その顔に、戦いの意思は無かった。

 マイは炎岩の前に立ち、幼い子供に問うように優しく聞いた。

「本当に、アンタが失踪事件の犯人じゃないの?」

 炎岩は俯きながら、

「…知らない。俺にはそんな度胸は無い。…ビビりながら暴力団の下っ端やってただけだ」

「……なんでそんなことしてたの?」

「よくわかんねえ。気づいたらこんなことしてた…」

「…………」

 マイは何も言わず、制服のスカートから紙を取り出した。その紙を炎岩の頭に貼る。すると、紙は溶ける様に消えた。

 この紙はいわば目印の様な物で、『天界』の役員はこの目印を頼りにやって来て『能力』を奪う。

 そしてマイは、

「…アタシが言うのもなんだけど、…やり直せるよ。まだまだ先は長いから」

 それだけ言って、人が来る前に走って帰って行った。

「………年下の女の子に言われちゃったよ……」

 炎岩は座ったまま、空を見た。赤色から、ゆっくり紫色に変わろうとしていた。




───────────-




「あ、ネコマタ~~~」

 帰っている途中、ネコマタに会った。

 ネコマタはマイに駆け寄って、

「マイ、大丈夫か? 犯人は?」

 マイは困った顔をして、

「あー…違ったみたい。炎岩とか言う変態だった」

「…そっか、で、今日はもう帰んのか?」

「うん。…なんかあんの?」

「まあな」

 ネコマタは毛の中から出した紙を見ながら、

「被害者の共通点がな、もう一つ分かった」

「?」




「全員間蔵高校の卒業生だ」




───────────-




「……やり直して、何すりゃいんだろ?」

 ボリボリ頭を掻く間蔵高校卒業生、投石炎岩。

 親に心配かけて、好き勝手やって、挙げ句の果てヤクザの下っ端やって、嫌になったから勝手にやめた自分に何が出来るのか。

「…とりあえず、警察行かなきゃな」

 暴力団の仲間が来る前に自主することにした。諭されたのが女だろうと何だろうと、感謝しなければ…。

 そう思って、投石 炎岩は歩き始めたその時ふいに、足音がした。

暴力団の連中か? いや、早過ぎる。野次馬だろう。と、急いで去ろうとした。


 だが、その足音は真っ直ぐ、炎岩に向かって走って来た。


「!?」

 気づいた時にはもう遅い。首筋に鋭い激痛が走る。


 何かが炎岩の首筋に食いついた。


「…!?、……!!?。ごっ…ゴボッ!!、、、ァ…ごえェ!?。。」

 皮膚を破き、血管をちぎり、喉仏を砕き、牙が気管を貫いて穴を開ける。

 血が開いた穴から空気と共にゴボッと噴き出した。食いついた“それ”は血を飲み乾そうと喉を鳴らした。

 炎岩の体はビクッと痙攣し、感覚が麻痺する。

「…!? …くっ…そ!」

 それでも炎岩は足を動かす。

 かろうじて一本の石杭を作り、それに向けて発射する。

 当たるぎりぎりで喉から離れ、服がわずかに破けただけだった。

 炎岩は首を押さえながら逃げる。しかし、もう走れない。ふらふらとよろめきながら細道に入る。

 そこで、足が止まった。

「…ひゅ~…ひゅ~…」

 喉に穴が開いていて上手く息が出来ない。血も止まらない。

 後ろからやつが来るのが分かる。もう、ここまでだ。

 炎岩は汚い細道で前のめりに倒れる。結局やり直すことなく、あっさりと死んでしまうのだろう…。


 いくら後悔しても、


 いくら反省しても、


 いくら謝っても、


 あいつが止まる訳にはならない。

 …そういえば、あいつどっかで見た。昔、あの顔を見たことがあったはずだ。


 …確か………あれは………






 グチャ






 炎岩の意識は、そこで途絶えた。




∀:「俺の出番少なっ!!」


炎:「彼女募集中!幼女熟女問わないぜ」


マ:「五目チャーハンどこだっつってんだよっ!!」

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