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第一話:VSステイク①‐キタレアニメタイコク


ネ:「サイクリング行こうぜ」


マ:「だが断る」

「マイちゃん、どうして昨日午前高校遅れたの!?」


 四月三十日火曜日晴れ昼休み、私立間蔵〔マクラ〕高校三階(全部で四階)一年R組窓側の座席にて、マイちゃんこと高上 舞〔タカガミ マイ〕は話かけられた。

「…ちょっと五月病で行く気がしなくて」

「そっか、五月病なんて誰だってなるよね!! むしろ午前中に治してきて学校に来るなんて褒めるべきだよ!!」

 そう言って、羽蝶 蜜子〔ハチョウ ミツコ〕はマイの頭を残像が残る程の超スピードで撫でた。黒髪のポニーテールがまさに馬の尻尾のように揺れに揺れている。

 蜜子はマイの親友で幼い頃からの知り合いである。少し茶色がかった髪を邪魔にならない程度に切り揃えられ、なかなか綺麗な顔立ちをしている。ご覧の通り常にテンション高めの性格。

「…蜜子、…ちょ、…まじ、…揺らさな、…昼飯が、…出る」

「ん!? あっゴメン、さっきお弁当食べたばっかりだったね!!」

「マジで勘弁して…、ブレザーにゲ〇ついたらクリーニング代出してもらうから…」

「なんと!!女の子のマイちゃんから〇ロ発言とは…まあいつものことか!!」

「いつもゲ〇吐いてるみたいに言うんじゃない!」

 第三者視点から見れば大声でかなり下品な会話をしているかなり迷惑な女子高生である。

 セーター姿の二人は向かい合うように椅子に座り、そんな周りの視線を無視して(というより気づいてないだけ)会話を続ける。

「それにしても昨日の先生のマイちゃんへのキレっぷりは凄かったよねえ! 学校だけマグニチュード8の大地震が襲ったような感じだったよ!」

「あー…それは私も思った…、鬼懺〔キザン〕先生キレるとあんなに怖いとは思わなかった」

「授業中はあんなに優しいのにねえ! ハハ!!」

「連絡するの忘れたって説明したのに…」

 と、言っても連絡出来るわけがない。なぜなら彼女は、とある路地裏で妖怪であるネコマタから神隠し事件の情報を聞き出し、ついでにアニメ○トに寄ってテニ〇リDVDボックスを購入、更にはサイゼ〇ヤでハンバーグステーキのライス付き+ドリンクバーを頼んでお昼ご飯を済まして来たのである。これをそのまま説明すれば中二病患者のレッテルを貼られること間違いなし。

「…あ、そういえばあの事件ってどうなってんの?」

「ん?! あー、あの事件ね…!」

ほんのちょっとテンションを落とす蜜子。

 あの事件とは、最近この学校の近くで起きている失踪事件のこと。


 最初は男性のサラリーマン、


 次に同じく男性のカメラマン、


 最後に主婦。


 この三週間の間に突然三人もいなくなった。一週間に一人のペースである。

 順風満帆なはずの彼らが失踪する理由もなく、その証拠に失踪した後、必ず失踪者の家の近くに血の跡が残っている。

 DNAも本人と一致し、誰かに襲われて監禁されている可能性が高いと警察がテレビで言っていた。

 少しの間を空けて蜜子が、

「何の進展も無いっぽいよ。テレビで何も言ってないし。…てゆうかあんまし女子高生っぽい会話じゃないよね。…マイちゃん興味あるの?!」

 見つめてくる蜜子から目を背けながら、

「いや、まあちょっと…。あんまりニュース見ないから…」

「はあ…、だからマイちゃんみんなの話題についてこれないんだよ…」

「…まあ、あんまし気にしてないし…」

 マイはどちらかと言えば友達が少ない方である。かといって嫌われていたりイジメられたりされている訳では無く、ただ純粋に友達と呼べる人が少ないだけなのだ。もちろん蜜子は例外である。

 キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…と、鐘の音がぼろいスピーカーから出て来た。いつの間にか昼休みが終わっていたらしい。

「やばっ、次の授業鬼懺先生だ」

 マイは慌てて教科書を出すためにロッカーへと走る。

 ついでにロッカーを開けながら、マイは失踪事件について考える。たまには真面目に仕事をしなくては…。


 そう、マイの仕事は犯人を見つけて捕らえること。




 マイは『神様代行』と言う特殊な仕事をしているのだ。




───────────-




 さてここら辺で、『神様代行』と言う怪しい仕事を高上 舞がしているのかを説明しよう。

 約八ヶ月も前のことである。

 マイの家庭は親が共働きをしていてなかなか帰って来ない為、自分と兄だけでなんとか家事をこなしている。そのためお小遣をもらう機会が少なく、節約しながら欲しい物を買うといった状況である。

 マイは苦しんでいた。マンガ、ゲーム、グッズ、などなど自分の趣味をかなり我慢せねばならないからである。

「砂漠の真ん中で生活しろと言ってるようなもんだ」

 と、マイは語る。

 そんなわけでお金の為にバイトを探すことにした。しかしレジ仕事は会話が苦手なのでやりたくないし、肉体労働も疲れるからしたくないし、

「てか今までバイトしたことねえし」

 と愚痴る始末。

そんな時、一枚の貼り紙を見つけた。


《バイト募集中!

日給三万、好きな時に来て好きな時間に帰ってよし!

仕事内容はバイト先で説明します!

もちろん怪しくありません。本当です!

希望者は朝8時に〇〇町の駅前まで!》

 ………怪しいにもほどがあった。

「こ……これだあああッ!!!!」

 …が、何の気の迷いかマイはその話に飛びついた。

 飛びついてしまった。

 以外とバイト先が近く、バイト経験がないマイにとって、あまりに都合のいい話しに見えたのだ。

 翌日、案の定希望者はマイだけで、駅前には白いフードコートを着た男がいるだけだった。

「説明の前にこれを…」

 ボソッと聞き取りずらい声で男が言うと、マイの右手の甲に何故かインクのついてないハンコを押し、金色の腕輪を着けさせた。そして

「では、今日から貴女は『神様代行』です…。『天界』で処理仕切れない怪事件の解決を手伝って下さい…。拒否した場合さっき押したハンコの効果で頭に激痛が走った後、脳みそが爆発します…」

 とんでもないことを言い出した。

「嫌で…っ!? ぬぐぅぉお~~!!」

 すぐ断ろうとしたが、考えた瞬間脳みそを直接揺さ振られるような感覚に襲われた。…なんか本当っぽい。

 苦しむマイを無視して男は事情を説明する。

 何でも、この世界は大まかに三つにわかれていて、


 悪魔が住む『地獄界』


 人間が住む『地上界』


 天人が住む『天界』が存在しているらしい。

 その中でも、『天界』の仕事には『地上界管理』と言う特殊な職業があるらしい。死んだ生き物の魂をリサイクルし、新しい命として地上に帰すのが主な仕事で、常に地上を見守っている。そしてもし、予想外の死、つまり悪魔が引き起こしたもの、異能力によるもの等が起きた場合、原因究明、解決も行っているらしいのだ。

 しかし、最近天界人により『世界の歪み』と命名された謎の現象により、異能力者が増えはじめ、対処仕切れなくなったのだ。

 そこで藁をも掴む勢いで地上人に助けを求める最終手段をとることとなったのだ。

 それだけを説明した後、

「ではまた後で連絡します」

 と言って、男は目の前で蜃気楼のように消えてしまった。

「…………………」

 訳もわからないまま、放心状態ですぐ家路に着いたマイ。言いたいことがありすぎたが、とにかく忘れたかったのだ。

家に着いた後もずっと放心状態が続いたが、

「まあ手の込んだイタズラか…」

 と勝手に解釈して現実逃避。

 しかしその夜、自宅にあの男からの電話が掛かってきた。ボソッと聞き取りずらい声で、

「事件解決に協力お願いします…」

 もちろん電話番号を教えた覚えはなかった…。

 こうして、マイは『天界』にまんまと利用されてしまったのだ。そして今も現在進行形で、絶賛利用され中である。

 普通の人なら文句の一言二言あるだろう。むしろ告訴したい程に。しかし、お金はちゃんと貰える(ちゃっかり一万円になってはいたが)。だからマイは特に何も言わなかった。

それで物が買えるならそれで満足なのだ。

 結局、マイは自分がよければそれでいいのだ。他のだれかを救うためではなく、自分の欲のために事件解決の仕事を引き受けたのだ。しかし、人間なら必ずなにか自分の得の為に行動するはずである。


自分が手にするために


自分が勝ち残るために


自分が満足するために


自分が生きるために


 高上舞だけではなく、人間なら当たり前のことなのだ。

 だから『神様代行』になったからといって、マイが化け物になった訳ではない。










 マイは間違いなく、普通の人間なのだ。










 ちなみに妖怪のネコマタと出会ったのは『神様代行』になった一週間後である。それはまた今度話すことにしよう。




───────────-




 放課後、蜜子と別れてマイは一人で歩いていた。赤い夕日が街を包む中、路地裏は一足先に夜を迎えているように暗かった。

 ビルや飲食店が多いこの街には雑居ビルなどの建物と建物の間、つまり路地裏や裏道がかなりある。表側は綺麗に見えるが裏側はかなり汚い街なのだ。さらには不良のたまり場だったり猫の集落だったり、時にはヤバい取引が行われてたりしている時もある。

 だからとにかく、マイはそっちに近づきたくなかった。不良に絡まれるというのもあるが、まず一番の理由は…

「ザ~ン~コ~ク~ナテ・ン・シ・ノ・テ~ゼ~~♪」

 この無駄にいい声で歌ってる黒猫が絡んで来るからである。

「いやあ~、初めてヱヴァ見たけどいいよね~。まあTV版の最終回がいろいろ言われてっけど個人的には有りだと思うんだよ俺。劇場版も良かった」

 …路地裏通るんじゃなかった、と後悔する。

 二本の尻尾を揺らしながら、

「マイちゃんはどの使徒が好きだ? 俺はやっぱりラミ〇ルかなあ~カッコイイよなあ~♪」

「私はカヲ〇君」

「……ああ、初号機に握り潰された…」

「やめろ! カヲ〇君はカッコイイんだ!」

 くだらない会話が裏道に響く。

「でもさあマイちゃん…、日本ってこのままでいいのかねえ…」

「?」

「このままだとアニメ大国のレッテルが剥がれなくなる気がするぞ」

「全然いい、むしろ瞬間接着剤で貼りまくってやる。キタレアニメタイコクウウウウゥ!!」

「お前のせいで現実が二次元に侵食される!!」

「アニメはいいよ…いいよアニメは…手にいれられない物が全て手に入れられるんだよそうだよだから人類は三次元ではなく二次元に住むべきなんだよさあ行こう平面の世界へフライアウェイキャッハアアアアア!!」

「お前ツッコミ担当だろ!? 戻ってこい!」

 マイの立ち位置は時々ぶれる。

 まともに戻ったマイはネコマタの方を向く。

「いいじゃない、人間なんだから夢ぐらい見るよ」

 二本の尻尾を振りながら、

「正夢にしようとしたくせに…。まあ確かに、人間はどいつもこいつも欲深だからな」

「そうだよ? 人間は自分の欲の為にしか動かないの。ボランティアも結局は自己満足の為だから欲の内に入るよ」

「まあ俺も食欲とかには勝てないからな……あ、そうだ。事件調べてやったから例の物出せ。」

 そう言うとネコマタはその小さい肉球をマイの前に突き出した。

「ああ、はいこれ」 ネコマタはシジミを手に入れた。

「……ずっとこれを持ってたことに驚きだよ」

 シジミを一口で殻ごと飲み込み、ネコマタは事件について話す。

「事件現場に居合わせた野良猫に聞いたが、人間がいたから物影からビビって出られねえで直接見てないらしいが、あるどいつも同じ匂いと音を感じ取ったらしい」

「?」





「血の匂いと、何かを引きちぎるような音が聞こえたらしい」






「…………」

 背筋が凍る。

 なにが来ても動じないと覚悟を決めていたのに、すでに妖怪という化け物と会話すら出来るというのに、あまりの犯人の得体の知れなさに、素直に恐怖したのだ。

 マイは目に見える物なら何だって冷静に対処出来るという自信を持っているし、自分の長所だと思っている。しかしそれは、裏を返せば目に見えない物に関しては何も出来ず、不安になってしまうということだ。

 マイはわずかに声を震わせながら、

「…そ、それで? 後は?」

 何処かから出した紙を見ながら、

なかまから聞けたのはそれだけだ。後はそうだなあ……被害者の年齢がほぼ同じってのは知ってるか?」

「あ、それは知ってる」

 と言っても、ニュースを見ないマイは蜜子に教えてもらっただけだが…

「たしか被害者は皆二十六歳だったとか…」

「なんだ、知ってたのかよ。じゃあこんだけだな」

 紙を自分の毛の中にしまい、

「じゃあせっかくだからもうちょい調べてやるよ。だから今度こそ魚を用意しな」

「じゃ、今度はアサリね」

「貝類はもういいよ!! …んじゃな」

 ネコマタは残酷な天使のテーゼを歌いながら路地裏の奥へ走って行った。

「…今日はここまでか」

 ため息をつきながらゆっくり歩きはじめる。

 すぐ事件が起きる訳でもないし、また明日捜そうと思った。


 その時、






 ヌメリとした、鉄臭い血の匂いが鼻に着いた。






 マイの足が止まる。血の臭いは何となく路地裏の奥からした気がする。

「………どうしよ」

 帰る気マンマンだったのに、目の前に犯人が、得体のしれない何かがいるかもしれない。

 …別に帰ってもいい。

 特に時間制限がある訳でもないし、最終的に捕まえればバイト代の一万円はちゃんと貰える。誰が犠牲になっても関係ない。

 ぶっちゃけ怖いし。

「………」

 マイは真っ直ぐ歩きはじめる。







 ビルとビルの間、路地裏の奥へと。






 助けたい訳ではない。ただ、仕事が長引くのが嫌だから。早めにお金が貰えるから。

 マイはそう自分に言い聞かせ、歩き続ける。





 マイは自分の為に、戦うことにした。





ネ:「俺の出番少なくね?」


マ:「友達とサイクリング行ってくるね」

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