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第十三話:VSゴッド①‐粗大ごみ!?


ネ:「更新がかなり遅いが、大丈夫か?」


俺:「大丈夫だ、問題ない」


マ:「文章力の向上が見られないが、大丈夫か?」


俺:「大丈夫だ、問題ない」


神:「展開が早いと思うんだが、大丈夫か?」


俺:「大丈夫だ、問題ない」


ア:「頭大丈夫か?」


俺:「大丈夫じゃない、問題だ」



 このライトノベル風な小説のジャンルは『ファンタジー』である。

 ではあるが、物語は日本の現代を舞台にして展開する。伝奇小説とでも言うべきか、小説家気取りの痛い妄想と言うべきか…、とにかく現代の設定である。

 だから、この世界は現実と同じ、ごく一般的な世界観のはずだ。

 “はずだった”はずだ。

 だが今、この世界にはある“現象”が起こっていた。それこそが、本作を『ファンタジー』に分類させる原因であり発端でもある。


  『世界の歪み』


 そう命名された“それ”は、ある日突然、何の前触れもなく、唐突に、不吉を撒き散らしながら出現したのだった。

 と、言ってはみたが、それほどまでに仰々しい物という訳では無かったりする。

 なぜなら、それ自体はただの自然現象でしかないからだ。

 例えるなら、海上で現れ勝手に海上で消える台風。激しい豪雨に直撃した小さい山火事。そういった、勝手に解決してそうな、一般人の誰もが興味を持たなそうな自然現象。それが『世界の歪み』、通称『歪み』と呼ばれるものなのだ。

 では何が恐ろしいのかと言うと、それは、『歪み』が人間に及ぼす影響にある。

 率直に言えば、『歪み』は人間の体、または脳に影響を及ぼし、超人的な『異能力』を使えるようにする力がある。

 理屈はよく分からない──と言うより説明が出来ない。自然災害の発生のメカニズムが解明されていないのと同じで、天界でも実態が全く掴めずにいる。

 だが確かに、『異能力者』は増えている。テレビが番組を受信するように、『歪み』は人に向けて『異能力』を発信するのだ。

 そして、影響を受けた人間──『異能力者』は、『異能力』の危険さを理解せず、使える事が必然だと思い込んでしまうのだ。

 その為『異能力者』は、必ずと言っていい程に犯罪に走る傾向にあると言い切れる。ストレスの解消や発散の為に異能力を利用し、手口も証拠も不明な強盗や殺人、果てにはテロ活動までする能力者もいる始末だ。

 それだけに飽き足らず、『異能力者』の出現に合わせ、その『異能力』を利用しようとする組織も現れた。こうなってしまったらもはや収拾が効かないだろう。

 “それ”ら全てが入り乱れ、“それ”ら全てが混沌と化す。


 『世界の歪み』というただ一つの現象に、世界は掻き乱される。


 起こりうる全ての混乱、問題を、天界は解消しなければならない。必要とあれば武力的にでも、犠牲が必要だとしても、


 そこに、ただ一人の肉親が含まれていたとしても──。




───────────-




「あれ? 何で人が居ないの?」

 石像のように重いアラストルを背負い、複雑に入り組む路地裏を抜けたマイちゃんこと高上 舞〔タカガミ マイ〕は、長い黒髪のポニーテールを揺らしながら辺りを見回し、早々に疑問符を浮かべた。

「……………………」

 マイに負けた挙げ句に人質状態の人造人間、アラストルは黙りこくっている。女子高生に背負われ、手足をだらりと伸ばすジャージ姿の彼からは、何とも言えない哀愁が漂っていた。つまりカッコ悪かった。

「…何でだろ? 実家に帰ったのかな。どう思うよ負け犬」

「誰が負け犬? …まあ、知らねえよ」

 マイが疑問符を浮かべた理由は、路地裏を出てすぐの表通りにあった。間もなく三時くらいになるにも関わらず、歩道には歩行者が誰も居ない。車道には自動車一台と走ってない。ただ、静かな空間に建物が並んでいるだけだった。

 路地裏に数時間居ただけなのに、この街はゴーストタウンと化していた。

 マイは路地裏の入口付近、ぎりぎり日陰の位置にアラストルを下ろし、もう一度辺りを見回してから視線を落とす。手足を放り出したアラストルがジロリと、こちらを見上げていた。

「マジで勘弁して欲しいわ~。これじゃあアタシが世界で最後の生き残りみたいじゃん。ね、負け犬」

「だいぶ話が飛んだな。一応、人造人間だが俺も居るんだが」

「負け犬はカウントしない」

「差別? 俺は動物の分類?」

「いや、どちらかと言えば開かなくなったタンスとか、点かないテレビとか、バネの飛び出たソファーとか…」

「粗大ごみ!?」

「誰も居ないと言えば、SIRE〇とか思い出すよね~。怖かったよあのゲーム。屍人死なないんだもん」

「見るからに頭悪そうだもんな、お前。視界ジャックの使い方とか分からなさそうだ」

「でも美耶〇が好きだった。超可愛いよ美〇子。牧〇と宮〇の双子も捨て難い。〇〇が〇〇で〇〇〇」

「〇が多いよ」

 拳を握りしめ、熱弁するゲーマーなマイちゃんだった。アラストルも呆れ返って溜め息をつく始末。

 マイはゲームやアニメ、漫画の知識を広く浅く、ジャンルを問わず頭に蓄積している。いわゆる乙女ゲーは勿論、マイナーなゲームなんかは、ほぼ引きこもり状態の兄の影響が大きかったりする。

 ちなみに、そんなゲームの豆粒知識は時折、現代の情報を欲するネコマタに半分真面目に半分ふざけて教えており、兄から妹、妹から猫へと知識が流れ、そうしてネコマタはアニメの情報を入手していたりする。

 …どうも、ネコマタのウザったいアニメトークは、マイの自業自得らしい。マイ自身も今は相当後悔しているし。

 まあ、ここでは関係ない話だけども。

「ったくよぉ、ホラーゲームなんかに一々怖がるような奴に、しかも女に負けるたあ、俺はもうダメだな…」

「まあドンマイ。…慰めてほしい? ひざ枕する?」

「俺はもうダメだ……」

 聞いてない。ただの負け犬のようだ。

「そんな落ち込まないでよ…。落ち込む前にする事あるでしょ?」

「俺はもうダ……何?」

 不意に、マイがそんな事を言ったので、落ち込むのを止めて上を向くアラストル。

「何で人が消えちゃったのか。それと、大神様の息子さんの居場所、吐いてもらうからね」

 マイの刺し殺すような視線が、更にギロリと、その鋭さを増した。

 マイちゃんの基本装備スキル、『冷た過ぎる視線』発動である。若干、刺々しさ多めのため、かなり怖い目付きになっている。それこそ屍人より怖いかもしれない。

「チャッチャと簡潔に答えてよ。今のアンタ程度、赤子の腕を複雑骨折させるくらいに簡単にボコす事が出来るから、そこんとこ分かった上で考えてね」

「…ホントにおっかねえ奴だな」

 本気と書いてマジと読むくらいに本気の眼だった。

 抵抗する為の策を練るアラストルだったが、今は身体の至る所の歯車が辛うじて噛み合い、ぎりぎり会話だけが可能という満身創痍の状態だ。

 赤子どころか、胎児を握り潰す程にたやすいかもしれない。

「言ったところでどうにもなりゃしねえよ」

「いいから、アンタは黙って、大神様の息子の居場所を教えてくれればいいの」

「いや、黙っちゃダメじゃね?」

「揚げ足を取る暇あるならさっさとする!!」

 顔を赤くして地団駄じだんだを踏む。…何故か和みますね。

 そんなマイを見てほんわかとしたアラストルは、

「…………実際、俺にもよく分からん」

 ボソッと、小さく呟いた。

「……は?」

「神之上〔かみのじょう〕から受けた指示は、“早朝の間にこの街を練り歩け”ってだけだ。そしたら街中の人間は外出しなくなるんだとよ」

 そして指示どおり、アラストルと貴乃華、加えて指示を出した神之上の三人は、早朝から散歩を始めた。表通りから路地裏まで、蜘蛛の巣を張るように──。

「………いや、そんだけでホントに出来るの?」

「出来たから人っ子一人居ないんだろが。まあ、住民全員が消滅した訳じゃあねえらしいがな。見てみろ」

 生意気な口に、素直に従いもう一度よく街を見回してみると、向かい側のマンションの窓から、人を数人確認する事が出来た。

 監禁されている訳ではなく、休日を過ごしているような様子。ただ、住人が座っても家事もせず、ボーッと突っ立ている事は気になったが、まあそんな家族も居るだろうと、マイは軽く流した。

 流しちゃいけない気がしなくもないが、さらりと喉越し良くスルーした。

 とりあえずホッと安心した反面、より訳が分からなくなってきてしまったが…。

「何なの一体…。魔法とか使ってるんじゃない?」

 こうなったら直接聞くしかないかな? と、小さく呟くマイ。

「まあそれは一度置いといて、YOU、さっさと奴の居場所を言っちゃいなよ」

「ジャ〇ーさん風に言われたってよお、神之上の居場所はホントに知らねえんだって。この情報だけで勘弁してほしい…」

 アラストルはそう言って、小さく頭を下げた。が、マイは釈然とせず、

「情報も何も…、全然意味分からないし。せめて計画の内容とか、どんな仕組みで人を操ったとか、どうしてそうする必要があるのかとか説明せい」

 と、しつこく問い質した。

「…お前って理系か? ファンタジーの設定はそうゆうもんだって思っときゃいいんだよ」

「アンタはロボットでしょが。誰にでも分かるように説明しなさい」

 さりげない、読者へのマイの配慮だった。痛み入ります。

 しかし、小さいため息をついたアラストルは眉をひそめ、

「俺だって学が有る訳じゃないし、神之上の考えはさっぱりだ。ちょっと頭いいだけのお調子者だし、それゆえに予想がつかねえ」

 首を横に振った。

「そんな奴がよく世界征服なんて言ったもんだね」

「ハッ! 確かに言えてるな! けどなあ、今の今まで、あいつの計画には寸分の狂いすらあった事がねえ。この世界征服計画も、現在進行形で怖いくらい順調に遂行中だ!」

 呆れるマイへ、アラストル渾身のどや顔。とりあえずマイはその顔面へ渾身のパンチ。

 いぎゃッ! というくぐもった声を出し、痛みに悶える。身体は動かせないので、首と指先と足先をパタパタさせていた。

「ったく、ホントめんどくさい奴相手にしちゃったよ」

 うんうん、と。マイは何度か頷き、

「──って、ちょっとおい」

 新たな疑問がすぐに出てきた。

「アタシは平気なんだけど、どうして?」

 『神様代行』とは言え、元はただの高校生。何らかの変化があってもおかしくないはず。天界人でも人造人間でもないのに、何故マイには異変がないのだろう?

「………。たぶん、『神様代行』だからじゃないか? 『能力者』みてえに脳の構造が変化してんのかもな」

「え? 『能力者』って何か違うの?」

「あん? 知らねえのかよ。『異能力』発動の為に、身体の構造とか脳みその一部が変化すんだよ」

 異能力者。

 日常から区別される、非日常の住人。

 しかし、元はごく一般の人々。

(それは──つまり…─)

 『神様代行』と『異能力者』。


 一体、どれ程の違いがあるのか──。


「…神之上の居場所は、ホントに知らないの?」

 膝をまげてしゃがみ、アラストルと目線を合わせる。

「…………………」

 アラストルは何も言わなかった。ただ、マイを睨むだけだった。明らかに眼が泳いでいたが、マイは気付いていたが、

「…分かった。じゃあここにいて! 探し出して捕まえて来るから!」

 ニコッと笑い、勢いをつけて立ち上がった。壁によっ掛かったアラストルを置き去りにして、背を向け、てくてく歩きだす。

「極力話し合いで解決するから大丈夫。天界に引き渡すだけだし、その後に世界征服だって好きにすればいいじゃん。まあ、指示があったら邪魔はするかもしれないけど」

 後ろ向きで軽く手を振った。

「───マイ」

 手を振るマイに、アラストルは、

「お前が天界に従う理由って、何だ?」

 問い掛けで返事をした。その問いにマイは、ばつの悪い顔を隠すように、振り向かずに答えた。

 実に曖昧に、舌っ足らずに。

「何って…、えと…、バイト代の為…とか…」

「ハッ! 金の為か。俺との戦いの時に、真剣勝負がどうだとか言ってたがそれは立て前か?」

 足を止め、背を向けたままその言葉を聞く。

「お前は戦う理由があやふやなんだ。無意識に、ただ天界に良いように利用されてるだけなんだよ」

「それはないって。ただ、辞めたいと思っても辞めさせてくれないし、だったら用済みになるまで働くまでだし」

「けどよ、バイトを辞める理由もないんだろ? 目的がはっきりしてねえから、ダラダラ戦い続ける事になってんじゃねえのか?」

「………………………」

 本当の事だった。マイは当初の、おこずかいを貯めるというただそれだけの小さな目的を忘れていた。

 投石 炎岩〔トウセキ エンガン〕と戦い、鬼懺 槐〔キザン エンジ〕と死闘を繰り広げ、その二人の前には※ ※※〔※※※※ ※※※※〕と引き分け、

 ※ ※※って、誰だっけ?

 マイの心境は僅かに変化していた。

 否──。

 それは、ずっと心の奥に有ったのかもしれない。戦いは、自覚する為のきっかけに過ぎなかったのかもしれない。

「マイ、お前はただ、感情に関係無く理由も無く、ただ黙って歩く幽鬼だ。…少なくとも、お前は特別なんかじゃない」

「…アタシは別に、バイト代が貰えればそれで良いだけだよ」

「命を張ってでもか…?」

「……………………………」

 マイは言葉に詰まった。そしてそのまま深く考え込む。

 自分について、深く考え込む。

(やっぱりアタシ………アタシは………)

 そして、ゆっくりと口を開く。

「……さっきさあ、感情に関係なくって言ってたけど、それは違うよ?」

 落ち着いていて、微笑みかけるような穏やかさで、自分自身の気持ちを確かめるように、高上 舞は口を開く。

「アタシはたぶん、何かを…誰かを助けたいんだと思う。心の何処か、隅っこにあるそんな気持ちが、今のアタシの人格を、精神を、志しを、身体を…、真っ直ぐに立たせてくれているんだよ。アタシは…アタシはこの心を、大切にしたいだけなんだよ」

 だから戦っていれるんだと思う……と。

 優しげに、力強くそう答えた。

「…まるで、他人の事のような口ぶりだな」

「うん、アタシもよく分かんない。へへ…」

 小さく笑ったマイは、再度アラストルに背を向けて歩きだす。もう振り向かず、立ち止まらない。

 最後、去り際に一言、

「やっぱ心配してくれて、ありがとね」

 とだけ言い残し、路地裏を抜け、道路を横切った。

「し、心配してねえし…。畜生…」

 一人動けないアラストルは俯く。表情を隠しているようだった。

「…こりゃあヤバいかもな、神之上…。初の黒星にならねえと良いけど…」




───────────-




「これは、もしかしたらもしかしてもしかするかもね、俺様…。初の黒星だけは勘弁して欲しいよ…」

 この街のほぼ中心にある区民ホール。ライブやコンサート、演劇、講習など、様々な文化活動で使える大ホールなのだが、まさか天界人の拠点として使われるとは思っていなかっただろう。

 誰も居ないホールの観客席は一階と二階に別れ、二千人は余裕で座れる程の赤い座席が、やや傾斜にずらりと並んでいる。

 そして前方では、間口約二十メートル、高さ約八メートル、奥行き約十四メートルの舞台がライトアップされていた。

 そんな舞台の上にたった一人、空席に背を向け、灰色の壁に顔を向ける形で、その男は立っていた。

 天界人。

 神の息子。

 神之上がそこに立っていた。

 シルクのように白い長髪。汚れ一つ付いていない白衣と革靴。日本人離れした顔立ちと白い肌。加えてあおく濃淡な瞳。白の印象が強すぎて聖人にも死人にも見え、壁の灰色と神之上の純白との区別が明確になりすぎ、くっきりと輪郭が浮き出て見える程の白さだった。

 そして何より、神之上が纏う空気、空間は、あまりに“異質”だった。

 どう“異質”なのかと言われると正直、文章や言葉では伝えられない…とゆうより伝わらないかもしれない。強いて言うなら、神之上だけが空間から切り離されているような、そこだけ人の形にポッカリと穴が空いているような感じ。


 虚空を見つめ続けた時のような、寂しい感覚。


 立っているだけの神之上は、その異常な“異質”をじわりじわりと漂わせながら、ぽつりと言葉を発っしていた。

 独り言ではなく、観客席の黒猫に向けて─。

「いんじゃね? 黒星でも白星でも北斗七星でも、勝敗なんて実に瑣末さまつな事だぜ」

 黒猫妖怪ネコマタは怠そうに言った。

「うん? その声は数刻前のチャラ男…」

 舞台の演目のように、神之上はゆったりと客席側へ振り返る。ぱっと見舞台俳優としか思えない、無駄の無い動きだ…とは些か褒めすぎだろうか?

「そうかそうか、君は“あやかし”の一種か…。化け猫…かな?」

「ノー。俺の名前はカタカナ表記でネ・コ・マ・タ」

 ネコマタは最前列の席に猫のように座っていた(猫のようにってか、そのまんま猫なのだが…)。そして、神之上に近寄る為、舞台に乱入するようにぴょんと舞台上に跳び上がった。

「自分で言っちゃうと、俺は結構細かく指摘する奴だから、名前はしっかり記憶して欲しいね」

「猫又…? ハッハー、あれか。吾輩は猫であるってゆうあれか」

「いや…名前がネコマタなんですはい…」

「なんだ、名前はもうあるのか。せっかく名前を付けようと思ったのに…。吐鵬はくほうとかルシファーとか」

「なるほど、人造人間の名付け親はお前か」

 強くあって欲しい思いから力士の名前を。かっこよくあって欲しい思いから悪魔の名前を付けるらしい。ややこしい名前を付けたがる、いろいろ間違った親御さんのようだと後に語る。

「…まあ、お約束という事で一応問うてみるか」

 神之上は双眸を細め、ネコマタの揺れる二本の尾を目で追いながら、

「貴様ー、何故この俺様の居場所が分かったー」

 と。お決まりの台詞を棒読みした。

「ふふん。それは、この俺お得意の情報収集でさ! 人は居なくても、野良猫はこの街に何十匹も居る。お前がこの区民ホールに入るところも丸見えだったぜ?」

 したり顔のネコマタにやれやれ…と、ため息を吐いて目線を外す。

「せっかく苦労して天使を陽動したというのに…、どうも調子が悪いね」

「陽動? 何だ、街のあの変貌っぷりは、お前の機械技術じゃなかったのか?」

 外した目線を、赤い観客席に向ける。

「まあな。利用出来る奴はいくらでも利用するのが俺様の主義だ。わざと俺様を天界に捕捉させ、慌てふためく奴らに“魔法”の使用を許可させる。まあ、此処までは順調だったかな」

 事を隠さず、ありのままを言った。

「って事はつまり、この街の変貌の直接の原因は天界人…いや、天使の仕業って訳か。大方、人避けの“結界”の類いか…」

「お? なかなか物分かりが早いではないか!」

 ネコマタの察しの良さに驚き、そして気を良くして表情が緩んだ。自分の小難しい話しを理解出来る相手を早々に出会えた事に、神之上は純粋に嬉しく思ったのだ。

「貴ちゃんもアラちゃんも、俺様の優しい解説を真面目に聞いてはくれないんだよ…ぐすっ」

「貴乃華とかは確かに聞いてなさそうだな」

「よし、それだけ知能があるなら“結界”を解説してやろうか?」

「いや、別にいい」

「え~………」

 しょんぼりと項垂うなだれる神之上を横目に、ぐっと背伸びをするネコマタ。そして、二本に分かれた尾を揺らし、後ろに引くように神之上から距離を取った。

「さてと、そろそろ戦闘パートと行こうぜ? てめぇの講義はてめぇが負けた後で聞いてやらあ」

 にんまりと笑った口から火の粉と黒煙を吹き出す。獲物を狙うような眼光で身構え、けものの如く毛を逆立たせた。

 だが、神之上がそれで身じろぐ事はなかった。むしろ呵呵大笑かかたいしょうに笑い出している。

「ハハハハッ! 冗談は止めてくれよネコマタ!」

「冗談でもギャグでも漫才でもねえよ。勝算はこっちに十二分あるぜ」

 ネコマタの言う勝算とは、単にお互いの力の差がありすぎるという推測に過ぎない。マイの足止めを味方に任せ、自分だけは建物の中でやり過ごす神之上の行動。そして何より、

(神様の息子なんて、どうせボンボンのお坊ちゃま生活だったにちげえねえぜ!)

 という、勝手に他人の生活っぷりを想像した、ネコマタの慢心から出た結論によるものだった。死亡フラグ立ちまくり。洋画なら真っ先に死んでいるタイプである。

 が、案の定ネコマタの思った通り、神之上は苦笑いで、

「う~ん、確かに俺様は“無茶苦茶に弱い”しねぇ…、肉体労働は全部、貴ちゃんアラちゃんの二人がやってるし。だから俺様は戦わない。ってか戦えない。ってか戦いたくない!」

 両手を上げ、戦意が無い事をアピールする。

 降参する神之上に対し、ネコマタはと言うと、

「うおっしゃ勝ち決定!! やっと俺の大活躍が華麗に語られるぅ!!」

 心の中で言った筈が、大きく腹から出るように声がだだ漏れる程のハイテンションだった。最近は負け続きの良いとこ無しなので、活躍の場を得た事が相当に嬉しかった様子。

「……………………………」

 既に文庫化、コミック化、アニメ化(CV若本 〇夫)、グッズ商品化、ゲーム化、映画化、実写化、舞台化のオファー殺到の夢を見始め、ぐふふっと笑っているネコマタとは対称に、神之上は静かに黙っていた。

 黙って、ネコマタの“足元”を手を上げながら確認した。

「時にネコマタ。ただ力比べをするのは、やはりフェアではないと思うんだ、俺様」

 唐突に意見を口にする。ネコマタは「へっ?」と妄想を中断し、ワンテンポ遅れて反応する。

「だから、誰だって苦手分野ってあるではないか。お前がやろうとしているのは、金槌かなづちに水泳勝負を挑むと同義だぞ?」

「構わん! 俺は勝って人気者になればそれでいいんだよ!」

 勿論、ネコマタはそんな事では黙らない。仕方なく、白髪の頭を掻きながら、

「まあいいから、クイズをしよう。全部で三問用意してあるんだ。早速第一問!」

 ジャジャン! と自分で効果音を出し、クイズ番組的なノリで出題する。

「今、この街の住人は建物の中で閉じこもっています。では…何故この区民ホールには、誰も居ないのでしょうか?」

「……………は?」

 問題に、ネコマタは硬直した。

「時間が勿体ないので第二問。現在この街全体は停電状態にあります。では…何故この舞台はライトアップされているのでしょうか?」

「あ…え、ええっと…ってか何て?」

 ネコマタは混乱した。


「第三問。お前の足元のバツ印、それは一体何でしょう?」


 ネコマタは自分の体の丁度真下、赤いテープを交差させて作った、小さなバツ印に気付いた。同時に、神之上の意図にも気付き、すぐ跳び退こうと脚に力を入れる。

 だが、遅かった。

「てめぇまさか─」


 ネコマタの頭上のスポットライトが落下した。


 初めから外れるように細工をされた、円柱型の大きなライトが勢いよく落ちてきた。狙ったように…ではなく狙って、ネコマタの頭頂部、正しくは赤いバツ印に向かって正確に落ちてきた。

「ガッ、、、ァ、、、……」

 小さなネコマタの頭はライトごと舞台上にめり込み、血と脳漿のうしょうを盛大にぶちまけた。動かぬ頭とは別の生き物のように、ひくひくと身体は痙攣している。

「では解答を述べよう。答えは三問全て共通。それはな──」

 神之上はネコマタの側に寄り、潰れた頭を見下みおろす。世界を俯瞰する“神”のように、ネコマタを見下みくだす…。

 そして、神とも仏とも思えない、異端で、異様で、異質な、頬を吊り上げた笑顔を向けた。


「罠に決まってんだろこのバァカッ!!!」


神:「俺のターン! カードを一枚、場に召喚するぜ!」


ネ:「ムムッ! トラップカード、オープン! そのカードを無効化!」


マ:「何してんの?」


神:ネ:「遊〇王のテンションで大富豪」


マ:「トランプかよ…」


ア:「遊戯〇知ってるぞ。ブルーアイズが最強なんだよな?」


注:召喚=トランプを出す。トラップカード=八切り。



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