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第十一話:VSデストロイ①‐得点は『10.0点』


ネ:「……魔女っこ」


マ:「?」


ネ:「『神様代行』という名の魔女っこが剣と刀というステッキを握りネコマタというマスコットキャラと共に敵を倒す」


マ:「…………………」


ネ:「…………………」


マ:「…………………」


ネ:「どうした笑えよ」


マ:「笑えねえ………」


 笑って生きて


 笑顔で死にたい




───────────-




 縦浅町〔タテアザチョウ〕駅。この街のデパートに直接繋がっている地下鉄である。

 婦人服屋に靴屋に本屋、スポーツ用品店にペット用品店、レストランにカフェテリアなどが充実している駅で、昼は地下鉄に乗る以外の目的でも人通りが激しいのが常のはずだが、今はたった二人しか居なかった。


「やっぱしムリイイイイィッ!! あんな奴と戦えるかよッ!!」


「鬼ごっこ飽~き~た~♭ 逃げないでよお★!」


 二人は誰も居ない地下の商店街で追いかけっこをしていた。

 追いかけられている男の名前はネコマタ。チャラチャラした若い男だが、その正体は人に化けた黒猫の妖怪。

 追っている子供の名前は貴乃華〔タカノハナ〕。小学生並の小さな身長に何故かタキシード姿の男の子。そして人造人間。

 貴乃華は可愛らしい笑顔でネコマタを追いかける。その顔だけ見ればとてもほほえましい光景なのだろうが、

「足が疲れた…↓ ここ足場が悪い~↓↓」

 ドゴッ!ドゴッ!と、大理石を砕きながら跳びはねる姿はとてもじゃないが笑えなかった。

「自分で足場悪くしてんだろが! クソッ、どうすりゃ良いんだよ…!」

 ─だいたい、何で誰も居ないんだ?これじゃあ助けも何も呼べないじゃないか!

「…神之上〔カミノジョウ〕って奴が何かしたか…」

 ─貴乃華は神之上が人避けをしていると言っていたが、実際に何をした?立入禁止の立て看板でも置いたのか?まさか魔術の類い…

「バッコーン♪♪!」

 思考を巡らしていたネコマタの背中に猛烈な衝撃が襲った!

「ギャッ!!?」

 貴乃華がネコマタに跳び蹴りを食らわしたのだ。

 ミシッ!とネコマタの身体が海老反り、背骨が砕けるどころか内臓全てがメチャクチャに潰された。

 石が水面の上を低く跳ねるように、ネコマタも四回五回と地面を跳ねて吹き飛んだ。

「あれれ♪? 思ってたより軽かった♪ …ヨッと☆!」

 跳び蹴りの後空中でクルリと一回転し、見事に着地する。

 得点は『10.0点』だろうか?

「あ~ぁあ、ボクの勝ちかぁ…↓ つまんないな~↓」

 貴乃華は憂鬱そうに言った。

 地面を砕くスキップをしながら、貴乃華は倒れたまま動かないネコマタに近づく。その顔からは、可愛いらしい笑顔が絶え間無く出続けていた。

 ドスドス大きな音を踏み鳴らして近づく貴乃華に対しネコマタは、

「………………………」

 やはり動かなかった。

「ふんふ~んふー……ん★?」

 貴乃華はネコマタに鼻歌混じりで近づいていたが、突然口をヘの字に曲げて足を止めた。

「…中身がない☆!?」

 そこには上着とアクセサリーのみがバラバラに落ちているだけで、ネコマタ自身は消えていた。

 確かに、貴乃華はネコマタの身体が軽すぎるとは感じていたがしかし、蹴り飛ばした時はまだいたはずなのに…。

「…逃げたのかな★?」


「確かに逃げとけば良かったな!?」


 声は貴乃華のずっと後ろからだった。

「ふおっ★!?」

 振り返った貴乃華がまず目にしたのは迫り来る火球。酸素を急激に消耗し、熱気と共に真っ直ぐ飛ぶ。

「え★?」

「『妖術・空蝉』ア~ンド『四連火球』。どうやって移動したか説明は省略!」

 ゴウッ!!と燃え上がる火球の数は四発。目の前の一発目の火球に隠れるように連なって飛ぶ。

 速度はそれ程速くはない。一般人が全力疾走した平均の速度と同等かそれ以下だ。だが問題は、火球の通路を埋め尽くす程のその巨大さ。そして、左右の革靴屋と婦人服屋の窓ガラスを全て割り、万物を燃やし尽くす膨大な熱量。つまり、

「逃げ道は後ろしかないってことだ。お分かり?」

 五十メートル程間隔を空けて勝利を確信するTシャツ姿のネコマタ人型バージョン。

 もう五発くらい撃とうかと大きく息を吸


「そいっ♪」


 う前に、気の抜けた掛け声がした。


 瞬間、突風が通路に吹き荒れた。


「な、何だ!?」

 前方から後方へ、ネコマタを吹き飛ばさんとするかのように強烈な向かい風が吹く。

 いや、生まれたのだ。

「ブーン♪」

 今まさに突風が目の前で生み出されている。

 貴乃華の『連続後ろ回し蹴り』。

 時計回りにクルクルクルクルくるくるくるくる、独楽のように狂い回る。ビユンビユン!!と何度も空気を引き裂き、通路も店内もそして、火球もメチャクチャに掻き回す。

「…ヤバい…ヤバいヤバいッ!」

 焦るネコマタ。だが遅い。

 一発目の火球が球の形状から崩れ、続けて二発目、三発目、最後に四発目。


 蹴りの風圧だけであっという間に打ち消し去った。


 一体どれ程の脚力を持っているのか。あの回転数もさることながら、巨大な火の玉を消せる蹴りなんて前代未聞空前絶後、異常すぎる。

「ふひゅうぅ♪ よし、じゃあ今度はボクの番だ☆!」 貴乃華はピタッと回転を止めたかと思うと、

「いっきまーす♪」

 ネコマタに向かって予備動作一切無しで跳び出した。

「え? ちょま─」

「アターーーック☆!!」

 反応出来なかったネコマタの顔面に渾身の『跳び膝蹴り』をぶち込む!

「ひぎゃぶッ!!?」

 鼻の骨が砕け、またもや吹き飛ばされたネコマタ。だがそれより、「痛い」より先に頭に浮かんだ言葉は…、


 ─有り得ないッ!!


 ─予備動作無しに、身を屈めて両脚のバネを使う事なく、足首の力だけで五十メートルを跳んだのか!?

「グッウゥッ! …お、お前…俺と同じ妖怪なのか?」

「うん★? 違う違う全然違うよ♪ ボクは『人造人間』だーって言ったじゃ~ん♪♪」

 ─あ~そういえば、地下に入った時に言ってた気が…。

「ふ~ん、そっかぁ☆ 怪我の治りが早いんだね♪」

 不意に、貴乃華が膝蹴りを食らわしたネコマタの顔面を見て納得した。

 ネコマタの鼻からまだ鼻血が出てはいるが、すでに鼻の筋は真っ直ぐに戻っている。打ち付けられた身体の痣や傷も無くなっていた。

「え? あぁ、まあ妖怪だからな」

 妖怪であるネコマタの体は魂によって構成され、イメージによって形状を保っている。自分の身体を思い出せる限りは即座にイメージ通りに戻せる便利な体だ。だが、身体を構成する魂は確実に削られる。魂の残量が底を付いたら戻す事は不可能になる。それはつまり、妖怪の死を意味する。

「この調子だと耐え切れねえな…」

 ─やっぱり何が何でも逃げるべきか…。それとも撃退するべきか…。

 ─…逃げるのは危険だ。超危険だ!背を向けたらまた跳び蹴りを食らうハメになる。隙を作ったらアウトだ!

「…よぉし腹くくったぜ。真っ向勝負してやろうじゃねえか!」

「あ、戦う気になってくれた♪? ワ~イヤッター♪♪!」

 身構えるネコマタと喜ぶ貴乃華。

 いよいよ正面対決かとおもいきや、突如ネコマタは、

「くらいやがれッ!!」

 真横に走ったかと思うと、割れた靴屋のショーウインドーから革靴や運動靴を取り出して投げつけ始めた。

「………★?」

 なるべく硬くて当たったら痛そうな靴を選び、せっせと貴乃華の顔にピンポイントで全力投球を続ける。

 貴乃華はそれを首を傾けるだけで避ける。

「……馬鹿にしてる↓? 当たらないよそんなの…↓」

「マジで? じゃあこれは?」

 ネコマタは靴が並べられた棚ごと持ち上げて投げた。

「簡単~↓↓」

 目の前に迫った棚をあっさりと蹴り上げ、天井にぶつけた。百八十度上がった鋭い蹴りによって棚は見るも無惨に破壊され、バラバラになった金属片が飛び散る。

 頭に降り懸かった破片を落とす貴乃華に次に飛んできたのは、

「『妖術・火衣鉄拳〔バーニングフィスト〕ッ!!」

 炎を纏ったネコマタの拳だった。

「うははッ♪」

 バク転…というより空中飛行。または重力無視。

 軽やかかつ滑らかに天井すれすれまで跳躍し、一回転してネコマタと距離を置く。だがネコマタは猪突猛進に走り、一気に近づく。

「逃がすかゴゥルアアアアアッ!!」

 ─休む暇を与えない!あれだけの動きを続ける事は相当無理がある。HPもスタミナも無尽蔵って訳じゃない…、だったら、疲れるまでひたすら攻め続けてやる!

 半分ヤケを起こしたネコマタは拳を振り回す。赤く燃え上がる炎に包まれた手が貴乃華の顔に襲い掛かったが、貴乃華は反撃せずに後ろに下がりながら身を捩って全て避ける。

「アハハッ♪! ダメダメ~、それじゃあ当たらないよ♪」

「いや、当たるね」

「★?」

「蜃気楼って知ってっか? 温かい空気と冷たい空気の層が出来た時に起きる現象でなあ…」

「砂漠に出るやつでしょ★?」

「知ってんじゃん」

 ネコマタの左拳が貴乃華の胴体に迫る。もちろん貴乃華はそれも身を退いて避ける。

 はずだが、


「え★? ぐがぁッ、、!?」


 直撃。


 火の拳が腹にめり込み、炎が舐めるように身体を燃やす。

「言ったろ? 当たるって」

 貴乃華の目にはネコマタの拳が一歩手前に見えたのだろう。だが、実際はただの幻。空気の層が光を屈折させ、拳がズレて見えたのだ。

 拳に纏う炎の熱で即席の蜃気楼を再現する。偶然ではない。かといって狙って作り出す事も難しい。


 妖術。


 畏怖と虚無の存在である妖怪がなせる『異能力』。


「…酷いなあ♪ 思わず語尾に★マーク付け忘れちゃったよ♪」

 焼けた腹を押さえニコニコ笑顔の貴乃華。

「ッ!?」

 ─効いてない!?浅かったか!?

 ─いや違う…。間違いなく渾身の一撃は当たった。単純にダメージを与えられてないだけだ!

「…うん…うんうん☆ 真面目にやらないと負けちゃう感じだよね…♪ よし、本気出そ~っと♪♪」

「…あのなあ、そのセリフは負けフラグだぜ?」

「やだな~、そんな訳ないじゃん♪」

 今まで予備動作一切無しだった貴乃華はギリギリと身体を屈め、


「ボクはアラちゃんにも神之上にも誰にも負けた事ないもん♪」


 バキッ!!


 ─何の音?軽くて生々しい、生理的に嫌な音。首から聞こえた気が…。

「ありゃりゃ…★ もげちゃった☆」

 ─何が?

 ネコマタは首を触る。皮膚が伸びきったように固い。

 首筋を見ようと眼球を下に向ける。首と天井が見えた。


 ─………………天井?


 ネコマタの首は後頭部が背中に付くまでへし折れていた。


「カッ。…カフッ、。…ッ、!?」

「あ、繋がってた♪」

 ─何だ今の!?見えなかったどころじゃない。反応出来なかったどころでもない。


 ─死んだ事に気づかなかった!?


「けほッ…ゴ、…ちきしょう!」

 魂を削り、首を元に戻「ば~ん☆!」した直後、脇腹を吹き飛ばされた。

「グガッ!?」

 筋肉と骨と内臓まるごと蹴り飛ばされた。まるで爆薬でも仕込んでいるのかと疑いたくなる威力の『ただの前蹴り』。

 格闘ゲームのボタン一つで出る弱攻撃のように単発の攻撃だが、その一撃一撃が最終必殺技級の威力がある。

「頑張らないとぶっ壊しちゃうよ♪」

「グッ…グゾォッ!」


 そして、一方的な破壊が始まった。




───────────-




「貴乃華は俺より強い」

「………起きてたの?」

 高上 舞〔タカガミ マイ〕はアラストルを背負って移動していた。二人ともボロボロに傷ついていた。

「俺は『擬似・神の鉄槌〔トールハンマーレプリカ〕』の電流を利用して戦うし別に戦闘用の身体って訳じゃない」

「…いきなりどうしたの? アドバイス?」

「いや、戦うなら覚悟しろってことだ。知ったところでどうにもならないけどな」

「………」

「貴乃華は最初から戦闘目的で造られてる。脚部を中心とした肉体強化。無理な動きで身体を傷めるのを防ぐ筋肉硬化と柔軟性。これは外傷からも防いでくれるしな。そして、」

「…そして?」


「無限のスタミナだ」


「む、無限!?」

「『天界式永久循環機関〔エンドレスハート〕』…。正確には身体のエネルギーを発散させることなく循環させる装置だ。アイツは疲れを知らねえんだよ」

「…鬼懺〔キザン〕先生の能力に似てる。でも疲労はあったからやっぱ違うか…」

「誰だそりゃ?」

「こっちの話し」

「…とにかく、貴乃華と戦ったらまず長期戦は無理だな。あの男、戦ってなきゃいいが…」

「ネコマタ? アイツなら大丈夫。逃げるのが特技だから。…やっぱ心配してくれてる?」

「だから違うっつの! 神之上の計画を邪魔したらアイツに殺られるって事だ!」

「さいですか…」

「ああそうだそうだとも! ……」




 ─……………………




 ─……………………




 ─……………あれ?




 ─何で俺は心配してんだ?


「アラストル顔赤いし汗もすごいよ? どしたの?」

「…何でもない。何でもないから顔見るな」

 ─あれ?あれ?あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ???

 ─心臓痛い。感情は全部持ってるのに何この新感覚。

 ─おい。まさかおい…。いや、ない。何がないのか知らんがない。たった一回戦っただけだし、仲良くないし、敵だし。まあ俺に勝ったのは凄いと…いや違う!悔しい!そうだ!これは悔しさだ!けっして情けなく背負われているから恥ずかしい訳じゃない。そう、悔しいのだ!次は俺が勝ってやる!ハハハハハハハッ!そうだ、有り得ない。ないぞ。ないないないない無いない内ない亡い鳴い禰祢毋ない乃莫靡迺ない罔ない瀰濔沒无怩ないない……


 ある意味戦闘、スタート?


ネ:「ロボット三原則って知ってる?」


貴:「押さない、駆けない、死ぬな♀♂」


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