第十話:VSソード③‐卑怯な手を使わせてもらう
ネ:「更新が遅いよッッ!!!」
マ:「忙しかったらしいね。本当にすいませんでした」
ア:「しかも文章力は時間かけたにも関わらずそれ程変化してないしな」
ネ:「もっと頑張れ」
神之上〔カミノジョウ〕について、アラストル、貴乃華〔タカノハナ〕との関係も含めてざっくりと説明。
天界には奇跡を起こす技術、つまり『魔法』とか『魔術』とかいう概念が確かに存在した。天界人はその技術で発展し、誇るべき技術として当たり前のように使ってきた。
しかし、神之上はただ一人、子供の時から今日日までずっと『魔法』『魔術』といった物が相当に嫌いだった。
ただ、実際に嫌いだったのは魔法によって得られる結果ではなくその『魔法』という単語。そこに努力の意味合いを感じられないかららしい。神之上は地道な努力が好きだった。
周りの反対を無視して魔法を遠ざけ続けていたある日、神之上は地上界の機械技術を知り、興味を持った。それは、たったの十歳の時。
その時からだった。魔法には目もくれずに朝も、昼も、夜も、自ら進んで機械の構造をひたすらに学ぶ日々が続いたのは。
勿論、父親である大神様〔オオカミサマ〕は反対した。が、溺愛する一人息子に対し、強く言い付ける事が出来なかったのだ。
そしてついに、神之上は地上界の技術で天界の技術を越えられる事に気づいた。元々ずば抜けた自分の知識力により、科学を魔法の領域まで至らせる事が可能だと気がついた。
まず手始めに、神様が奇跡の力で生物を作ったのと同じように、機械の力で神之上は生物に見える“何か”を作り出した。
それが、アラストルと貴乃華〔タカノハナ〕だった。
神之上は二人の創造主であり名付け親。
アラストルと貴乃華は神之上の研究の産物であり息子。
これが、三人の不思議な関係である。
───────────-
「…ホントに…ロボット?…生きてないの?
」
アラストルの機械の体を目の当たりにしたが、マイは今だに信じきれずにそう言った。
「まあ、人造人間って方が合ってるかな…。あと俺は生きてる。ちゃんと生きてる」
問い掛けに答える機械の体の青年。その言葉を聞く人はマイ以外誰もいなかった。
「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、加えて第六感。喜怒哀楽の人間が持つ当たり前の感情。欲望。更には食事も可能。自己判断も可能。怪我の自然治癒も可能。…ここまで来たら生きてる人間と変わらないだろ?」
青年は人間として存在する為の物をすべて持つと、少し自嘲気味に言う。
言葉は薄暗い路地裏にわずかに反響し、ビルの間から見える曇り空へと消えた。
「……その証拠は? 人間である…証拠は…?」
マイはアラストルを睨みつける。
「今見た俺の身体が証拠だろ。それに、お前との戦闘を望んだのは俺自身の考えだ。プログラムの感情だったら俺はとっくにお前を殺してると思うぞ?」
アラストルの行動や言動はプログラムによるものではなく、自身の意思、そして感情によるもの。戦いたいという感情があるからこそ、戦いを純粋に望んだ。
だからこそ、世界征服の邪魔者とわざわざ一対一で争ったのだ。
「さてと、話が長かったかな? …マイ、そろそろ決着にしようぜ?」
話を切り上げ、アラストルは傷口を押さえる手を離す。細身の剣二本の内の一本を両手で握って顔の横の位置で構えた。
「片角が壊れただけで電流が使えないと思うなよ!」
…オシャレとか飾りとかじゃなかったのか? とマイは思ったが取りあえず言わないでおく。
構えた一本の剣はバチバチと荒々しく音が鳴り始め、青白い電流が取り巻き始める。
「もう出し惜しみは止めだ! 全力でお前を斬る!!」
今までの比ではない量の電流があちこちに飛び交い、壁や地面に当たって火花を散らす。
間違いなく本気の攻撃だと肌で感じ取り、マイも腰の位置に刀を構える。その時、先程までの動揺は緊迫した空気によって消えてしまっていた。
そんなマイの構えを見たアラストルはまた凶暴な笑顔をうかべ、
「…『雷帝十刀〔ライテイジュットウ〕』。これが俺の必殺技だ。必ず、殺す、技だ!」
と、豪語する。余程自信があるのか…なんにせよ、最大の攻撃を仕掛けると自分から宣言した。つまり、この一撃で終わらせるという意味だ。
「もう逃げられない! もう助からない! この一撃で決着だッ!!」
「………アルティメイタ」
マイはその一撃に応えるべく、こちらも最大の技を宣言する。
「『一段解放』!!」
《了解!》
返事を返すと、アルティメイタから蒸気が発せられ、心臓の鼓動のような振動動を始める。だが、そんなアルティメイタの様子にアラストルは驚きもしなかった。むしろ不思議がっているような顔だ。
「『一段解放』? その口ぶりだと、二段三段があるみてえに聞こえるんだが…。それが切り札か?」
構えたままのアラストルは首を傾げ、
「いや、今のアタシの力で出せる限界が『一段解放』なの。…あ、心配しなくても大丈夫だよ? アンタを倒すくらいの力は十分あるし、アタシはこの一撃に全力を懸ける。…本気で」
柄を握りしめ、臨戦体勢をとる。
二人は互いに睨み合い、しかしその目には殺意とは別の感情を込めていた。
例えるなら…いやまさに、互いに認め合う宿敵と対峙するような感情。敵意とも友情とも違う曖昧な気持ちが二人の間にあった。
「……ハハ。嬉しいなあ、おい。…けど悪いな、俺は少し…」
バリバリと電流が飛び交う中、アラストルの笑顔はわずかに薄れていた。
「卑怯な手を使わせてもらう」
「…ッ!?」
瞬間、マイは自分の意思に反して片膝をついた。
「なッ!? …なん……、、じゃこ…りゃ。、。…? 気持ち悪…、…」
まるで引っ張られるように体がふらつき、とてもじゃないが立てない。耳にピリピリと違和感を感じながらマイは揺れた。
「俺が無駄に電流をあちこち飛ばしてると思ってたか?」
「え…?」
先ほどからアラストルの剣から出ている青白い電流を見る。壁や地面に当たり、火花が出ていた。
「『雷酔〔ライスイ〕』。電撃を耳の中に伝え、耳石と三半規管に刺激を与えて平行感覚を狂わす技だ…。このダメージだと余裕が無いんでな、使わせてもらったぞ」
「そ…んな…!」
出し続けているこの電流はただの必殺技の演出ではなかく、脳への攻撃だったのか…。
既にマイは足がおぼつかず、完全に術中にはまってしまっている。避ける事も反撃も出来ない。ただ必殺の一撃が放たれるのを待つのみだ。
「ッ…! あれだけ真剣勝負だったのに! …そんな勝ち方でいいの!?」
不意打ちに納得せず、刀で体を支えながら叫ぶマイ。そしてアラストルは、
「…いいこたあねえだろ。けどな、負ける訳にもいかねえんだよ…」
顔をしかめ、悔しそうに言った。
「………ぁあ?」
「俺はアイツの…神之上の計画の為にも戦ってるんだよ。アイツに造られた以上は…魔法を、天界を、すべてを否定しちまったアイツを支えなきゃいけねえんだ」
「それは……」
「ここで俺が負けたら、お前は世界征服を止めに行くだろ? アイツの夢を壊しに行くだろ?」
「当たり前でしょ!? わがまま言って世界征服だなんて冗談じゃない!」
「…天界の既成概念を受け入れられないアイツには、この野望しかねえんだ…。自分を肯定する手段がこれしかなかったんだよ…! 神之上の望みは、俺の望みだッ!」
「…………………」
マイにはアラストルの心境が分からない。それは、神之上とアラストル、創造主と創造物の関係だから分かる物だからかもしれない…。
「だからマイ。悪いが…死んでくれ…」 戦いの当初の目的を忘れそう言うと、アラストルの剣に取り巻く電流が形作り始めた。
電流の束が九つ、それぞれが鋭利な剣の形で固定され、アラストルが握る剣から放射状に拡がり、間隔を空けて浮く。
電撃の剣の動きは握っている剣と連動し、計十本の剣となった。
「今度こそ…『雷帝十刀』だ!」
「…………ッ!!」
耳が痛くなる程にバチバチと音を立てる電撃の剣。
見ただけで分かる…。あれに触れれば感電だけでは済まされない。一瞬ですべての細胞が焼け焦げ、身体がまるごと消し炭と化すのは目に見えていた。
だが、今のマイにはそれを避ける事すら許されない。アラストルが近づくのを、膝をつきながら見ているしか出来なかった。
「…およそ、雷の放電量は数十万A、電圧は十億V、電力換算で平均九百GW、エネルギー換算で九百MJ…。俺の体に溜め込んでいる電気はそれの十倍だ。一度に喰らえば即死だろうな…」
『雷帝十刀』はアラストルが溜め込んだ電気をすべて解放し、なおかつ剣の形に押し固めて放つ必殺の一撃…いや、必殺の十撃。
痛みを感じる事なく、涙を流す事なく、後悔する事なく、速やかに、かつ迅速に電撃によって焼かれるだろう。
「…何で…そんな事が……?」
マイはふらつく体でそう聞いた。
「俺はただの人造人間って訳じゃない。『擬似・神の鉄槌〔トールハンマーレプリカ〕』っていう神之上お手製の装置が組み込まれてるんだよ」
「トール……?」
「まあ、説明した所で理解出来るわけないか。ようは天界の兵器の模造品と思えばいい」
そう答えて、アラストルは頭の横で構えたまま少し近づいた。
少し離れた位置で立ち止まり、アラストルはマイの胴体に狙いをさだめる。
「……行くぞッ!!」
剣を強く握りしめると、それに合わせて電撃の剣の青白い光りが強まる。
そして、剣を振り下ろそうとしたその時、
「…………ウン?」
アラストルは不意に、何かを思い出した。
(さっきもこんなふうに油断してやられてなかったっけ?)
「……アルティメイタ」
アラストルが俯くマイの顔を見ると、そこにはギラギラと闘志が燃えている目があった。
「GO!!」
「!? …上か!」
ビルの隙間の曇り空へと見上げる。
一本の刀が刀身をアラストルに向けて高速で落ちて…いや、飛来して来ていた。
アルティメイタの柄からは一対の白い翼のような帯が広げられ、ミサイルの如く空気の層を突き破りながら一直線に飛んで来る。
「チッ……ハアッ!!」
アラストルはすぐさま『雷帝十刀』の対象をマイから空のアルティメイタに変え、上に向けて剣を振った。
バチバチッ!! と。九本の電撃の剣が飛び出し、アルティメイタを上下左右全方向から囲むようにぶつかった。
バジバジバジバジッッ!!!
激しく電流が飛び散り、電撃の剣が消え去った。そこには先程よりも速度が落ちたアルティメイタがあった。
「ゥウルアアァアアッ!!」
電流を纏った剣で頭上に落下してきたアルティメイタへと追撃する。
ガキンッ! という金属音と共にアルティメイタは弾かれ、アラストルの足元に落ち、そして、
「油断した所に追撃だろ!? 神様代行オオッ!!」
アラストルはマイの動きを止める為に広範囲に電流を流す。バリバリと光る閃光が路地裏に走り、豪雨のようにマイを襲った。
「だったら何だコラアアァッッ!!」
だが、マイは電流に臆す事なく真っ直ぐ突き進む。
豪雨のように展開される電撃を避け、ただひたすらにがむしゃらに突っ込んだ。
「望み!? 肯定する手段!? そんなのを手伝う暇あるなら、もっと良い解決方法、一緒に考えてやれよこのバカアアアアアアアアアアァッッ!!!」
「ウオオッ!?」
お互いが剣のとどく範囲に入った瞬間、マイの振り下ろす剣とアラストルの斬り上げる剣、同時に斬撃を放った!
ガギンッ!! と互いの剣が激突し合って巨大な衝撃波が生まれた。衝撃は砂埃を立たせ、路地裏の空気と二人の身体を引き裂こうと言わんばかりに激しく震わす!
剣と刀が弾き合い、わずかにマイが後退したがそれでもマイは前に出る。アラストルも同じく踏み出し、数十センチという距離で連続で斬り合いを始めた。
右からの斬撃を受け止め、すぐさま下段からの斬撃を受け流す。
胴体を狙うが弾かれ、鋭い突きは避けられる。
振り下ろす刀は斬り上げる剣に阻まれ、代わりに地面や壁に斬撃の跡を残す。
「ハハッ! …まだ負けてねえぞ!!」
「ハッ…ハッ…、この!」
マイは勘違いをしていた…。アラストルの剣は電撃を放つ為の銃身の役割のみだけだと思っていた。しかし、構え方がなっていないと言っていただけの事はある。やはり剣の扱い方はマイより遥かに上だった。無駄がなく、滑らかで、力強い剣捌き。
「ハハハハッ! このままお互いに斬り続けてりゃ、俺の勝ちだな!」
「…言ってれば? アタシはまだ余裕だけど?」
ただの強がり。だが、耐え続ければ反撃のチャンスは必ず巡ってくるはずだ。それまでは…
カチャッ
「え? うわっ!?」
何かを踏んだ。
必然、マイはバランスを崩してしまい、動きが止まってしまった。
「そこだッ!!
アラストルはその隙を逃す訳もなく、畳み掛けるように剣を叩き付けた!
そして、
マイの刀が弾かれる。
「しまっ!」
「もらったあッ!!」
そのまま、マイの身体を縦に切り裂くように剣を振り下ろす。
しかし、
「もらってねえええぇッッ!!!」
斬られる直前、しゃがみ込んだマイは先程踏んだ足元の“何か”を素早く拾い上げた。
それは、ついさっきアラストルが弾き落とした万能の刀、アルティメイタだった。
アラストルの剣を避け、マイは刀身の刃尖を突き上げる。
互いの体が交差する。
そして、
「なッ!!?」
「光弾発射ァッ!!」
真下からアラストルへ光弾を撃ち出す!
アラストルの胸に当たった光弾は小さく炸裂し、路地裏が一瞬光りに満ちた。
爆風で浮いたアラストルの全身からはバギッ! ガギッ! ミジッ! ブヂッ! と、歯車やワイヤーが破壊される音が鳴った。
「ガアァッ!!」
短く息を吐きながらマイにつかみ掛かろうと手を伸ばしたが、そのままふらつき、吐血したアラストルはガシャリッと剣を落とした。
「ゴォッ、、ク……ソぅ! 。、まだ…、何も、、まだ…! 、強くゥッ!!! ……かっ」
そして、事切れたかのように仰向けに倒れた。
「…はぁ…はぁ…。アタシは十分強いと思うけどね…。…あれ? 勝った?」
マイはアルティメイタを腕輪に戻し、その場で腰を下ろした。ゆっくり呼吸し息を整え、そしてやっと自分が勝った事を理解する。
「あはは…、やる時はやるなアタシ…」
ハァ…、と。力を抜いたマイは、一応アラストルの様子を確認する。
ピクリとも動かないが微かな呼吸と歯車の音が聞こえる。死んではいないようだ。
「人造人間には見えんなあ…うん」
(やっぱり信じ切れない。呼吸してるし血ぃ出てるし…。どっちかっていうとサイボーグ? てか人造人間と同じ意味か?)
「う~ん。あ、そろそろ人来るかな?」
火が上がるわ電撃飛ばすわ壁破壊するは衝撃波出すわ…。これだけ暴れればとっくに警察呼ばれてるだろう。
「…運ぶか」
アラストルを倒れたままにしとく訳にもいかず、一緒にこの場を離れる事にした。
アラストルを背負い、ゆっくり歩き出す。
「お…重ッ!」
強化されたマイでさえ機械の体の人造人間は予想以上に重く感じた。この重さでどうやって動いていたのだろう?
「………………………」
人造人間。
こんなとんでもない力を持つ人間を生み出せる神之上は世界征服を計画している。もし人造人間を量産したら…、
「本格的にマズイよね」
とにかく、アラストルが起きたら神之上の居場所を吐かせてそれから
「…あれ? もう一人は何処だ?」
たしか神之上にはアラストルともう一人、貴乃華という子供が一緒にいたはずだが…、と。ぼんやりと考えるマイ。
そして、すぐに思い出した。
「あ、ネコマタの所だった」
───────────-
「ふざけんな!! こんな所で戦えるわけないだろ!!」
「大丈~夫♪ 神之上が人が来ないようにしてくれてるもん☆」
人の姿に化けた黒猫妖怪ネコマタは走っていた。後ろから迫る、可愛らしい男の子から逃げるために。
「クソッ、クソッ! ちゃんと考えて逃げればよかった…!」
今二人が居るのは地上ではなく地下。いつもなら忙しなく歩く人々が沢山いるはずのこの地下鉄に、何故か今は二人以外誰もいなかった。「ねーねー、逃げてないで勝負しようよ♪ ねーってばあ♪♪!」
貴乃華はネコマタをピョンピョン跳びはねながら追い掛ける。
スキップする度に足元の床が砕け、それどころか地面に壁に天井に上に下に左に右に縦横無尽に、スーパーボールのように跳びはねる。
「おかしいだろあれ! あんな動きする人間見たことねえって!」
「ふっふっふぅっ♪ 人造人間のボクは超強いのさ~♪ ピョインっと☆!」
貴乃華は一気に加速してネコマタを飛び越し、行く先を阻むように立ち塞がった。
「そんな訳で♪ 君の相手はこのボク、神之上の“最高傑作”貴乃華だよ♪ 一分一秒一刹那でも長く戦おうね☆!」
「……へいへい。だったらこのネコマタ様の妖術に、一分一秒一刹那でも長く耐えてみろやッ!!」
勝負、開始。
貴:「o(`▽´)o」
ネ:「( ̄∀ ̄)」
マ:「(;`皿´)」
ネ:「(°□°;)」
マ:「(≧∇≦)殺」
ネ:「ε=┏( ・_・)┛」