3-2.託宣
――何だったんだろうな、適合は確実だろうって、前の検査で言われたのに。
――まあ、生むしかなくなる前に分かったから、よかったと思わないといけないでしょ。
――それでも、ここまで来て堕ろさなきゃいけないなんて、なあ。これからどうするか、考えないとな。
――とりあえず、お兄ちゃんの次の検診まで、待ってみるしかないんじゃない? 再発のことも、少しははっきりするかもしれないし。
――いや、お母さんが大変だよ。また作って、検査して、作って、検査して、いけると思ったら堕ろす、なんてことになったら……
――もう一回ぐらいなら、そこまで頑張れると思うけどね。さすがに、もうそろそろ最後のチャンスだと思うし……一人はまだいるけど、あっちも、もう絶対に発病しないかどうか、まだ分からないし。
――確かにね。もう一人、確実な候補がいてくれれば、安心だからな。でも今回は、さすがにつらかったよ。お母さんほどじゃないだろうけど……
――ううん、気持ちは分かるから。だって、まだすごく小さくて、全然ぼんやりしてたけど、いるっていうのを、見ちゃったからね。あれ見たとき、正直、怖かった。もしかしたら、この子を堕ろすかもしれない、って考えちゃってさ。
――ああ本当に。僕も少しは、そういうことを思ったよ。お母さんほど、実感はできてないんだろうけど。きっと大丈夫だろうって何度も言われてたから、前向きに考えすぎちゃってたかな。
――私だって、直接感じたり、見たわけじゃないから、たぶん、実感って言えるほどじゃないよ。あんなぼんやりした画像だもん。そりゃあ、最初のスクリーニングでどれだけ通過して、次のでいくつ、っていう結果を数字だけで見せられるのとは、全然違ったけどねえ。
――最初は、あれを見るのもつらかったな。もう慣れてしまってたけど……久しぶりに、怖くなってぞっとしたよ。
――私も。でもやっぱり、あの子のために必要だったからね。もう一人作るのだって、同じ気持ち。
――僕も同じだよ。でもとにかく、お母さんはしばらくは休養かな。
――うん、最低半年くらいは、って先生にも言われた。でも準備は早めに始められるだろうって話だったかな。
――無理はできないよ、お母さん。もう、さすがにね。これからどうするか、一度、先生にも相談してみるのがいいんじゃないか。
――先生もそろそろ引退っていう話もあるみたいだし、そこも考えないとねえ。
――ああそうか、もうそんな年か……あの子が生まれた頃からの付き合いだしなあ。あの若い人が跡継ぎってことなのかな?
――そうらしいけど、なかなか同じようにできないところもあるらしくって。やっぱり、先生が現役の間にお願いしたいなあ。
――いろんな意味で、最後のチャンスかもしれない……ってことだね。