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小人の肩に乗って  作者: 入江晶
2.記憶の兆し
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2-2.曖昧な死と記憶

 大げさなくらい母さんは褒めてくれたから、いくらかは嬉しくもなった。そんな話がしばらく続いた後、いくらか黙る時間があり、そして、母さんの方から、僕が弟を殴ったことについて尋ねられた。父さんから聞いていたらしい。

 喜んでいるところに水を差されたという気持ちは、ほとんど起きなかった。最初から覚悟していたからだ。しかしここでも、やはり母さんはあまりとがめたりはせず、僕が自分から謝ったことを褒める方に時間を使った。


 ――立派で優しいね。やっぱり特別だよ、お兄ちゃんは。こんなお兄ちゃんの役に立てるんだから、弟も誇りに思わないとね。


 そうやって母さんと話した後、弟を病室に残して父さんに連れ出された僕は、生まれるはずだった弟が死んだということを聞かされた。生まれていないのに死んだというのがどういうことなのか、僕には理解できなかった。しかし理解する必要もなく、僕はひどく衝撃を受け、悲しくなった。僕にとっては、もうその弟は、いるのも同然だったのだから。そして、今、病室に母さんといるはずの弟が死ぬということを、何の根拠もなく想像してしまい、僕の悲しさ、不安はますます強くなった。

 父さんはこのことを、何というか、当てが外れたというような調子で口にしていた。まるで、旅行に出発したら、乗るはずだった電車だか船だか飛行機だかが、事故か何かで動かなくなってしまったかのように。しかしそうなったとしても、別の手段を使ったり、別の日に計画を変更したりすればいいというような、決して致命的では、重大ではないという認識でいるような気がした。

 僕には、そんな様子が理解できなかった。僕が大慌てでも父さんや母さんが落ち着いていたり笑って済ませたりするというのはよくあることだったけれど、そんな場合のように扱えるような出来事だとは、僕にはどうしても思えなかった。


 ――大丈夫だよ、お前は。今も弟はいるし、また生まれるかもしれないからな。いや、きっと、もっとお前の役に立つ弟が今度は生まれるとも。だから、安心しなさい。


 こう言われて、僕は黙って頷いたけれど、その言葉の意味が分からなかった。僕の感じ方、状況に対する認識というか分析というか理解というかがおかしいからだろうか、と思ったけれど、どれだけ考えても、一体どういうことなのかが、どうしても分からなかった。

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