1-2.痛む手と心
しばらくしてから、僕たちの部屋に戻った。弟は座り込んで、うつむかせた視線を、死んだ小鳥に向けていた。弟のしたこと、正確には弟の行動が原因になってしまったことよりも、僕のしたことの方が、取り返しがつかないのだと、はっきりと感じた。気づいていたはずだったけれど、それがはっきりと確信になった。
――ごめん、本当に。
この一言を口にするために、あまりにもたくさんの気持ちの準備と、決意と、ためらう時間が必要だった。最後まで決意の邪魔をしていたのは、悪いのは弟だという考えだった。そしてそれは決して消えなかった。だって、明らかに正しいのだから。謝るのは、悪い方がすることだから。そう言うなら、殴った僕だって悪いはずだけれど。天秤は揺れ続けたけれど、結局、最後に決定的な重みになったのは、僕が兄だということだった。
もう一人の弟、あるいは妹がもうすぐ生まれると聞かされて以来、僕の弟を見る目は変わっていた。確かに弟が生まれたときのことを僕は知っているけれど、その頃に四歳だった僕が、まともに何かを覚えているはずがない。でも今度のは違う。僕は十二歳で、赤ん坊のか弱さみたいなものを、はっきりと実感を持って知るということを経験していた。そのせいで、僕は自分が兄であるということを強く意識するようになり、まるで実践できていなかったにしても、弟や父さんや母さんの前で、兄という存在らしく振る舞わなければいけないと思っていた。
殴ることと謝ること、どちらがそんな意識にふさわしいかを考えて、僕はようやく決意することができたのだった。
弟は、僕の言葉を聞いて、うつろな表情をした顔を上げた。そして何も答えず、沈黙が続いた。
――もう、しないから。絶対。
こんなことを付け加えても、弟は何も反応しなかった。僕の決意が無駄になったような気がして、苛立つ気持ちが波打った。
いたたまれなくなった僕が死んだ小鳥を拾い上げると、慌てたように弟が立ち上がって、しばらく困惑したようにうろうろとした後、部屋を出て行った。僕が苛立ちを募らせながら小鳥を重ねたティッシュに乗せた頃、弟は戻ってきた。キッチンから持ってきたらしい、ぬれた布巾を手にして。そして、窓ガラスについた跡を拭き取り始めた。
言葉も行動も、どう弟に向ければいいのか分からなかった僕は、きっと弟の方も同じ気持ちなんだろうと思った。正確には、思うことにした。そして、そのまま掃除の続きをした。もっと何かしなければいけないこと、言わなければならないことがあるはずだったけれど、僕にはもう、他に何もできなかった。
掃除の後、庭に小鳥の墓を作った。家の庭は広いから、隅にそういうものを作っても目立たない。それが二つ目であっても。それに、少し土が盛り上がっているくらいだから。
一つ目の、魚の墓の方は、作ったのはまだ最近のことように思えるけれど、草が生えて葉っぱが積もり、ほとんど周りと区別ができなかった。見分けられるのは、たぶん僕だけだっただろう。その横で、真新しく、明るい色の土が顔を出している。
向こう側には背の高い草が生えて、そのすぐ先には林が広がっている。僕が墓を作ったのは、庭とそんな領域の境界あたりだった。自然の中の家。父さんも母さんも、そんなふうに誇らしく言い表すことが何度もあった。おかげでよく目にする虫が、僕は苦手だった。窓を開けることも多くなかったし、家の中の空気はエアコンが作るか空気清浄機が作るかその両方かで、僕にとっては、家の周りの自然に、たいした価値を感じられていなかった。
墓を作り終えると、今更、それが死んだということが、僕の胸を痛め始めた。心臓が締め付けられるというか、冷たく、何か溶け出しているような感じだった。口の中のつばを飲み込むのも意識しなければいけないくらいに、震え出しそうなくらいに、僕の体は、凍ったように固まっていた。きっとこれは、もう一つの痛み、僕の右手の痛みが、まだ残って、胸の奥の痛みに重なっているからなのだろうと思った。