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小人の肩に乗って  作者: 入江晶
3.遠い暗闇
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3-5.たどり着いた場所

 僕は自分の考えが間違っていると分かっている。それでもこうして、もう足も動かず、太い木の根がむき出しになり、苔に覆われ、その上に葉っぱの降り積もった土に全身を投げ出して、身じろぎもせずにいると、不思議なほど安心感があった。感じるのはほとんどそれだけで、他には何も感じなかった。何も見えず、聞こえず、ただ自分がどんな場所にいるかということだけが、認識として残っている。

 もうすぐだ。もうすぐ僕は、あまりにも多くのものが世界中から流れ込んでくる一つの点という存在ではなくなる。僕の体は僕の食べたものでできている。それは世界中からかき集められて、僕の元に届けられた。それと同じように、僕の命そのものは、父さんと母さんが用意した弟という存在によって続いている。僕は、選ばれた弟の命を継ぎ足されて生きている。

 だんだんと、何も感じなくなっている。逆に頭の中は雲一つない空のように澄み切っていて、いろんなことが明晰に分かり始めていた。

 もうすぐ僕は、背負ったもの、背負わされたものから解放される。僕のために命が費やされるということから解放される。物質や、命の働き、思い、そういうものが、僕が生きながらえるために費やされるということから解放される。この自然の中で、僕はその自然を作り上げるものと同じように、別のものへ向かう流れの一つになる。僕の体は、僕の体をつくるものは、すぐにバラバラになり、形を変えて散らばっていく。それが自然ってものだ。

 僕は自分の考えが間違っていると分かっている。僕が、自分の生を不自然なものだと認識することもきっと間違っている。しかし、そういう認識を乗り越える正しさを、僕はどうしても受け入れられなかった。僕が弟に生かされたように、弟は、僕のために生きるという理由を与えられなければ、生まれもしなかった、そんな簡単な事実すら、僕には受け入れられなかった。そうまでして、僕が生かされなければならないということも。


 もっと早くこうしておけばよかった。お前が生まれる前とかに、ね。僕が生きた人生も生きなかった人生も、みんな、お前にあげられたらいいのになあ。


<完>

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