ファンタジー世界で宇宙文明を目指すお話
~1~
少し、自分語りというものをさせて頂こう。
俺の名前はシリィ=キングスフェルト。キングスフェルト家の一人息子であり、伯爵家の次期頭首だ。つまりは跡取り息子という事になるだろう。
幼少の頃から、俺は自分が周囲の誰もとも違う別の生き物に見えていた。そう言うと、青臭い思春期特有の思考のように思えるだろう。
けど、俺の場合はそれとは比較にならない程の強度でそれを感じていた。
というのも、俺は幼少期の頃から才能に溢れていた。いや、才能が有り過ぎたと言っても決して過言ではないだろう。何故なら、俺の場合は幼少期の頃から周囲の大人顔負けの才能と知識を既に持っていたからだ。
そんな俺の事を、周囲の人達は神童とも悪魔とも呼んで恐れていた。だけど、そんな俺とあくまで対等に振る舞いずっと傍に居続けた人が居ない訳ではなかった。
彼女の名前はメアリー=ミリ。俺の幼馴染で、ミリ伯爵家の令嬢だ。彼女は生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた兄妹のような存在だった。いっそ、掛け替えのない存在だったと言っても良いだろう。彼女だけがただ一人、俺と対等に接してきた人だった。
少なくとも、幼少期から才能に満ち溢れて周囲から恐れられてきた俺にとっては彼女と遊んでいる時だけが、唯一心の安らぐ時だったと言って良い。きっと、俺は彼女の事が……
彼女の事を、俺はきっと……
まあ、今はそんな事はどうでも良いか。ともかく、俺にとって彼女は唯一心を許せるただ一人の人物だったのは決して間違いではない。その一点だけは、断固として誰にも否定はさせない。
ともかく、今日も今日とて俺とメアリーは一緒に山を駆け回って遊んでいた。現在俺は大木の枝によじ登って隠れている。そんな俺を、メアリーは必死に探していた。要するに今はメアリーと二人でかくれんぼをしている最中だった。
「シリィ、何処?ねえ、どこぉー?」
メアリーは既に涙目だった。うーん、少し難しい場所に隠れ過ぎたかな?
そうは思うけど、やっぱり俺は黙って隠れていた。もう、半分以上メアリーは泣きが入っている。心が少しばかり痛んだ。しかし、やはりまだ隠れている。
さて、どうしよう?そう、思っていたら……
みしみしっ……バキッ‼
「……へ?」
そのまま、木の枝が折れて落下した。背中を強く打ち付けてしまった。
そんな俺に、メアリーが慌てて駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫?シリィ?」
「痛い、けど大丈夫……」
そう言って、俺はメアリーに笑顔を向ける。少し、苦笑になってしまった。まあ別に構わない。それでもやはり痛いものは痛いけどな。
けど、メアリーに余計な心配をかけるよりはよっぽど良いか。そう思い、俺はそのまま立ち上がる。
立ち上がり、そのまま笑顔で再度走り出した。全力ダッシュだ。
「ほら、一緒に遊ぼう!今度は追いかけっこだ!」
「シリィ、駄目!そっちは‼」
「……へ?」
瞬間、俺は足元の感覚が無くなり、一瞬の浮遊感を味わう。
メアリーが、泣きそうな顔で俺へと腕を伸ばしている。俺も腕を伸ばしてその手を取ろうとする、けど届かない。
そして、そのまま俺は……
~2~
思い出すのは、自分ではない誰かの記憶。いや、これはまぎれもない自分自身の記憶なのか。恐らくはシリィ=キングスフェルトとなる前の俺自身の記憶なのだろう。
其処は地球という惑星の日本という国。その国に生まれた、生粋の日本人。それこそが俺の前世だ。
俺は幼少の頃から周囲と比べ、図抜けて頭が良かった。これは決して俺自身が驕っている訳でも自身の才能を誇張している訳でもない。俺は、幼少の頃より目に見えて周囲とは隔絶した才能を持っていた。
事実、俺は小学校低学年の頃から既に大学生レベルの知能を有していた。小学校を卒業する頃には大学教授すら圧倒するレベルの論文を幾つも書き上げていた。恐らくは、後にも先にも俺を超える知能を有する人物は現れなかっただろう。
それを自覚してしまえる程に、俺の知能指数は圧倒的だった。
それ程までに、他を圧倒する知能を有していた。
そんな俺を、人は人間の皮を被った悪魔と呼んだ。悪魔って酷くないか?
……まあ、別に良いんだけどさ。そもそも、別にそんな才能なんて決して人に誇れるようなものでもないだろう。この際だから声を大にして言わせて貰おう、人より才能が図抜けて多いほどつまらないものなどありはしないと。俺自身は思っている。何事も平凡が一番良いものだ。
人より優れた才能を持っていて、何が不満なのか?そもそも、そんな事を言い出す事自体が贅沢ではないのか?人はそういうだろう。
そのような贅沢な悩みを抱く事自体、持たざる者に対する侮辱だ。そう、人は言うのかもしれない。
事実、俺の悩みを聞いた十人中九人くらいはそう言った。ちなみに、残りの一人くらいは俺の悩みに安堵していた。人の皮を被った悪魔にも人間らしい悩みがあって心底から安心したらしい。
何故だ?
まあ良い。ともかく、俺の悩みを贅沢と言った奴は考えても見て欲しい。もし、自分自身が突出して高い才能を持って生まれてきたとする。その才能一つで大概の事が一人で出来たとしよう。そんな事に、一体何の意味があるのだろうか?正直に言おう、人よりも突出して才能がある人間など、ただの孤独でしかないのだろう。
孤高ではない。孤独なだけの、ただのバケモノだ。いっそ異物と呼んでしまっても良いだろう。
だからこそ、俺の人生はほとんど周囲のレベルを自分に合わせる為の努力に費やすような日々だった。自分が周囲とは隔絶した才能の塊であるなら、その才能に合わせて周囲を無理矢理高めていくしかない。
そう思い、俺は才能の全てを人類文明のレベル向上へと費やしてきた。人類の文明レベルの方を自分に合わせる努力をした。
日に日に、文明レベルは進歩していく。目に見えて、世界そのものが作り変えられてゆく。
だが、あまりにも急速に発展していく文明は自ら自滅するのが道理だろう。だからこそ、文明が自壊してしまわないように道徳や倫理観の発展にも意識を割いた。目に見えて進歩していく文明に比例して、人類の道徳や倫理観も発展していく。
だが、やはりそんな努力は根本的に間違えていたのだろう。俺のレベルに合わせて周囲の方を発展させてゆく、その行為自体が大きな間違いだったのだろう。
人類が宇宙へ進出して、恒星間転移装置が開発され、やがて大質量ブラックホールからすらエネルギーを抽出出来るレベルにまで文明は発展した。しかし、それに比例して人類は際限なく増長し傲慢となってしまっていた。果たして、それは感情持つ生命体故の原罪だったのだろうか?
それとも、一気に文明レベルを底上げしたのがやはり駄目だったのだろうか?俺の努力は根本的に間違えていたのだろうか?
分からないけど、それでもきっと俺は間違えたのだろう。
今、俺の目の前には軍部の青年将校が立っていた。その手には、オートマチック式の拳銃が固く保持されている。拳銃サイズの小型レールガンだ。今の時代においてはあまりにも古すぎる兵器だ。しかし、人一人を殺傷するには確かにオーバースペックだろう。
「これからの時代には、もうお前は必要無い。これ以上、世界をお前個人の手で引っ掻き回すのを止めてくれ‼」
青年将校はあまりのも必死だった。必死に、俺へと訴えていた。
そんな青年将校に、俺はただ困惑する事しか出来なかった。
「何故だ?俺は一体、何を間違えた?俺はただ……」
「っ‼」
瞬間、青年将校は銃の引き金を引いた。俺の胸部をフルメタルジャケットの弾丸が貫通する。鮮血と共に俺は背後へと倒れ込んだ。
分からない。俺は一体、何を間違えたのだろうか?俺には何が足りなかった?この青年将校は果たして何を怒っていたのか?何を願って、こんなことをしたのか?
分からない。何も、分からない。
そんな俺に、青年将校は半狂乱になりながら銃弾を撃ち続けた。その度に、銃弾が俺の身体へと吸い込まれて身体が跳ねる。
最期に見た青年将校の表情は、涙に濡れていた。
分からない。何も分からない。
どうして、俺は間違えたのだろうか?
~3~
回想終了……
目を覚ましたら、其処は自室のベッドだった。傍にはちょこんと椅子に座ったメアリーが涙目でじっと俺を見て居た。その涙目が、どうしてだろうか前世での青年将校と重なって見えた。
どうしてだろう?その涙目が、何故だか凄く、嫌だ……
「メアリー、泣かないで。君の涙は、嫌だ……」
「ふぐっ、うえぇ…………」
あ、これは流石に拙いかも?そう思ったのもつかの間だった。
メアリーが声を上げて泣き出した。ぼろぼろと涙を零しながら、大声を上げて泣きじゃくっている。その泣き声を聞きつけたのか、どたどたと部屋の外で物音が聞こえ。
そして、バンっとドアが開け放たれた。其処には、鬼のような形相の青年が。
メアリーの兄、ミリアルド=ミリが居た。
ミリアルドは、メアリーの泣いている姿を見た瞬間、半狂乱で叫んだ。
「誰だ、俺のメアリーを泣かせた奴は!そんな奴はぶっ殺してやる‼」
兄馬鹿だった。いや、本当にどうしてこうなったんだ?そんな事を思いながら、思わず俺は頭を抱えてしまった。
・・・ ・・・ ・・・
話は変わるが、この国の名は神聖マルクト王国という。マルクト王家によって統治される数百年もの歴史を誇る大統一王国だ。マルクト王家とは、神の血を引く正当なる世界の統治者である。そんな国是によって永らく統治されてきた国だ。
そして、そんな経緯からも理解出来る通りこの世界は地球とは別の惑星。どころか別の宇宙に存在している世界だ。何故なら、この世界には明確に魔法と神秘があるからだ。
魔力という不思議な力が存在し、マナという神秘を媒介する粒子が存在する。そのような異世界だ。
何ともまあ、ファンタジーな。
つまり、俺は前世で言うところの異世界転生を経験したらしい。何ともまあレアな体験をしたものだと自分自身呆れ果ててしまう。
とはいえ、今の俺には別の問題がある。慌てて室内へと入ってきた俺とメアリーの父さん二人によってミリアルドは抑え付けられ拘束された。そのまま、暴れるミリアルドは二人の父さんによって引きずられていった。
そして、ミリアルドが激怒した原因は、俺にしがみ付いて離れない。まだ、若干しゃくり上げながら俺の服を掴んで離れようとしないのだ。
そんな俺に、医者は苦笑を浮かべながら話を聞いている。この世界では、医者も基本は魔法で治療を行っている。事実、崖から転落した俺も医者の回復魔法によって治療されたと後になって聞かされた。まあ、何ともメルヘンな……
「えっと、それであれから何か異常はありませんか?記憶に欠損があるとか、或いは頭の中がぼんやりとして思考が上手く出来ないとか」
「いえ、特に異常はありませんね。思考能力にも特に異常は見られません」
「そうですか、何か変な事があれば気兼ねなく言って下さい」
「……そう、ですね」
俺は少し思案するように一瞬だけ間を置いて、医者に夢の事を言うべきか悩んだ。
でも、やはりそれは言わない方が良いだろう。自分自身、信じられない面が強い。それにどの道誰も信じてはくれないだろう。
そう、俺は結論付けた。
「いえ、やっぱり何でもないです。特に異常はありません」
「?そうですか、分かりました。では、安静に……」
そして、そのまま医者は部屋から出ていった。
・・・ ・・・ ・・・
医者が部屋を出て行った後、メアリーは俺をじっと見つめていた。その視線に、一体どうしたんだろうかと思わず仰け反ってしまう。
「えっと、メアリー?」
「シリィ、何か隠している?」
「えっと、何を?」
「さっき、医者に聞かれた時に何か隠しごとをした?」
「……………………」
思わず、黙り込んでしまう。それは、何よりも雄弁な回答だった。
つまりは図星だ。
「私には、何も話してはくれないの?」
「それは、違う。ただ信じて貰えるか自信がないだけだ。自分自身、信じられない」
「……信じるよ」
「?」
何を、という疑問文は出なかった。気付けば、メアリーは俺と目と鼻の先にまで近づいていた。
思わず触れてしまいそうな、その距離。思わずドキッとしてしまう。
そんな俺に、メアリーは更に言った。
「信じるよ。例え、誰も信じてくれなかったとしても。私はシリィの事を信じる。だから、シリィも私の事を信じて言って」
「…………夢を、見たんだ」
「夢?」
気付けば、俺はメアリーに自分の見た前世の夢を話していた。
別に、メアリーの言葉を信じていた訳ではないだろう。けど、それでも……
メアリーを相手に嘘だけは吐きたくなかったから。
「上手くは言えないんだけど、何と言うか、俺がシリィ=キングスフェルトとしてこの世界に生まれるより前の世界の。別の人間として生まれ育った記憶を見たんだ」
「……そんな事が、本当にあるの?」
「分からない。けど、どうしてもこれをただの夢だと否定する事が自分自身どうしても出来なかった。実にふざけた話だろう?」
俺の言葉に、メアリーは首を横に振った。どうやら、無闇に否定はしないらしい。
何処か、熱の籠った表情で俺を真っ直ぐと見詰めている。
「シリィが言うなら信じるよ。私、シリィの事が大好きだよ?だから、シリィの言う事を私は決して否定はしないよ」
「メアリー……」
驚いた。メアリーが俺に強い好意を示してくれている事には気付いていたけど。それでも、まさかメアリーから此処まで好かれているとは思っていなかったから。
でも、それでも。何処か嬉しいと思う。そんなメアリーの事を恋しいと思う俺が居るのは一体どういう事なのだろうか?分からない。
分からないけど、それでも……
恐らく、理屈ではないのだろう。
今、きっとメアリーは俺の返事を期待している。メアリーは俺の事を真っ直ぐと期待の籠った視線を向けている。
メアリーの言いたい事は恐らく分かる。メアリーはきっと、こう言いたいんだ。
シリィは私の事をどう思っているの?と……
なら、俺は一体どう答えるべきだろうか?俺は、メアリーの事をどう思っている?
そんな事、最初から決まっている。
「俺も、メアリーの事が大好きだよ。愛してる。ずっと、メアリーだけが俺にとってただ一人掛け替えのない存在だったんだ」
「っ!?嬉しい、シリィ大好き‼」
そう言って、メアリーは俺に抱き着いた。その際、何度もメアリーから嵐のような激しいキスを雨あられと受けたけど。まあ良いか。嬉しいのは本当だし。
俺も、メアリーをそっと抱き締め返した。
愛おしい気持ちが溢れてくる。やっぱり、俺にとってメアリーは唯一の存在なのだろう。
メアリーだけが、俺の全てだった。メアリーだけを、信じていた。メアリーだけを、ずっとずっと見てきたから。メアリーは俺にとっての……
そう思っていると。メアリーが俺を真っ直ぐと見詰めて、
「ねえ、シリィの前の話が聞きたい。シリィはどんな人生を送ってきたの?」
「……うん、あんまり面白い話ではないぞ?」
そう前置きをして、俺はメアリーに前世の自分について話し始めた。
~4~
俺は、メアリーに自分の前世について話した。
他の人とは隔絶した才能を持って生まれた事。そのせいで、強い孤独感に包まれて生きてきた事。何時しか自分の気持ちを理解して貰う事を諦めてしまった事。その代わり、周囲の方を自分のレベルに合わせる努力をしてきた事。その結果、人類の文明レベルが飛躍的に向上していった事。
そして、その果てに不要と切り捨てられて殺された事。全てを話した。
未だ、あの青年将校の気持ちは分からない。どうして、俺は間違えたのだろうか?果たして俺は、どうすれば良かったのだろうか?俺に足りなかったものは一体何だったのだろうか?
未だに分からない。
けど、その答えがどうしてかメアリーには分かるような気がした。別に、確信があった訳では無かったけれど。それでも……
果たして、メアリーはどんな反応を示すのだろうか?そう、思って反応を伺ってみると……
メアリーは泣いていた。ぼろぼろと、その目から涙を溢れさせて泣いていた。
思わず、ぎょっとしてしまう。
「メ、メアリー?」
「っ、ごめんなさい。シリィの話がとても悲しい話だったから。シリィの気持ちを考えたら、とても悲しい気持ちになってきて……」
「……っ!?」
「寂しかったよね。辛かったよね。自分の気持ちを誰一人として理解してくれないのはきっと、想像以上に辛かったよね」
「メアリー、お前……」
「理解出来るなんて言わない。でも、シリィの気持ちを考えたら、どうしても胸の奥底が痛むから。どうしても悲しくなってくるから。だからっ、」
「……………………」
「ごめん、ごめんなさい。今まで、シリィの優しさに甘えて。シリィの気持ちを理解しようとしなくて本当にごめんなさい……」
気付けば、俺はいつの間にかメアリーを強く抱き締めていた。メアリーの事を抱き締めずにいられなかったから。
何故かなんて分からない。どうして、メアリーを抱き締めたくなったのかなんて理解出来ない。
けど、それでも俺はきっとこの時、心底から救われた気がしたんだろう。
きっと、心から理解者が現れた事が嬉しかったんだろう。
だから、俺は……
「メアリー……」
「シリィ……」
そっと、優しく重ねるように。俺とメアリーはキスをした。
・・・ ・・・ ・・・
そして、それ以来俺は自身の知識と知能の全てをこの世界の文明レベル向上の為に利用した。しかしそれは決して前世のような理由ではない。前世の時のような失敗は二度としない。
あの時、俺はメアリーに素直に聞いた。
どうして、俺は失敗したのかと。俺はどうして間違えたのかと。
そしたら、メアリーは答えた。至って簡潔な答えを。
「シリィ、貴方はずっと自分の事を理解して欲しかったんだと思う。でも、誰も理解してくれないからきっとそれを諦めて周りを自分に合わせようとしたんだよね?でも、シリィは自分がこういう人間だって。自分はただ寂しかっただけだったんだって。本当に最後まで努力をしたの?」
したかしていないかで言えば、した。
俺だって、それを言わなかった訳じゃない。けど、それでも周囲はそれを贅沢な悩みだと切って捨てまともに聞こうとはしなかった。だからこそ、俺は早急に理解される事を諦めたんだ。
けど、そんな俺の言葉にメアリーは言った。
「うん、だからこそシリィは分かり合う事を諦めたんだよね?でも、シリィはそれでも理解されるように努力をしたの?自分の悩みを贅沢だって切って捨てた人達に、それでも理解されるよう努力をしたの?」
「?」
「きっと、シリィは周囲より賢かったからそこで諦めてしまったんだよね?それだけは分かるよ。人間はきっと、自分の理解出来る範囲でしか知ろうとはしないんだ。でも、だったらそんな人達に今度は本当に理解されるようにもう少しだけ頑張ってみよう。もう少しだけ、諦めずに。周りの人達に理解されるよう頑張ってみよう。きっと、今度こそ皆は理解してくれるよ」
そう言って、メアリーは俺を優しく抱き締めてくれた。
そんなメアリーの支えもあって、俺は自分なりに努力をした。今度は途中で投げ出したりはしない。今度こそ、皆に自分という人間を理解して貰えるよう全力で努力をした。そんな俺を、メアリーは傍でずっと支えてくれた。
そして、そんな俺の噂は国王に耳にも届いたらしい。国王は俺の才能を認め、そんな俺に王国の発展に尽力するよう命じた。
そして、俺は王国の発展のために。そして文明の発展のために尽力した。みるみる内に王国の文明レベルは発展していき、周囲を圧倒するレベルにまでなった。そんな俺の噂は国境を越えて周辺諸国にまで一気に広まっていった。
周辺諸国は俺と言う個人を手に入れようと戦争を仕掛けようとしてきた。だが、それは俺と仲間達の手によって阻止された。
俺は、周辺諸国に一つの提案をした。それこそが、国の垣根を越えた大同盟。全ての国を一つに纏める超国家だ。
もちろん、その提案に合意させるのにかなりの労力を要した。しかし、最終的に俺達はそれを成し遂げる事に成功した。全部、俺の傍で支えてくれたメアリーと仲間達のお陰だと信じている。
そんな俺に、ある日結婚の申し出が来た。ある家が、娘を貰ってくれないかと言い出したのだ。とても綺麗でかわいらしい娘だった。しかし、それを俺は即断で断った。
何故か?そう困惑する相手に対して俺は答えた。
「非常に光栄な話ですが、自分には将来を約束しあった最愛の相手が居ます。ですので、この話はどうか無かった事に……」
相手は非常に残念がっていたが、最終的には納得してくれた。
そして、日に日に発展していく文明。それと同時に、道徳や倫理観も並行して発展していくよう出来うる限り尽力した。
やがて、魔法や神秘で核融合を再現する事に成功した。そして、文明レベルはついに宇宙へと進出する段階にまで発展して。俺は同時並行で恒星からエネルギーを抽出する方法を提唱した。いわゆる、ダイソン球という奴だ。
更には恒星間転移装置や大質量ブラックホールからエネルギーを抽出する装置も同時並行して提唱、開発に着手していく事になる。それにより、人類はほぼ無尽蔵のエネルギーを得る事になる。
結果、俺達人類はついに前世の文明レベルにまで到達した。
~5~
星の海を泳ぐ。俺は、暗黒の海を漂うように泳いでいる。
星々が瞬いている。暗黒の海を、星々の光がとても綺麗だ。そう、心から思う。
「シリィ?シリィ?ねえ、聞こえている?」
星々が瞬く。暗黒の海を、星の海を、綺麗に彩っている。
それはとても綺麗で、色鮮やかで……
「ねえ、シリィ?シリィー!」
とても、美しく……
「ぐすっ、ひっぐ……」
…………?
え?
「えっと、メアリー?どうした?」
気付けば、視界の端に涙目のメアリーがモニターに映っていた。少しだけ慌てる。
「シリィが、シリィが私を無視したぁ……っ、うぐぅ……」
「ご、ごめん。本当にごめんなさい!少しぼーっとしていた!」
「うぅっ、ぐすっ……うん、許す……」
ふぅっ、本当にメアリーの涙には幾つになっても弱い。そう思っていると、
「全く、何をやっているんだ?ほら、メアリーはもう準備が出来ているぞ?」
「あ、はい……すいません。義兄さん」
「本当に、お前に義兄と呼ばれるのは幾つになっても慣れないよ」
そう言って、モニターに映ったミリアルド義兄さんは苦笑を浮かべていた。
・・・ ・・・ ・・・
「ほら、さっさと着替えてこい。どれくらい待たせていると思っているんだ?」
「すいません」
俺は、そのまま更衣室へと入っていった。そのまま宇宙服を脱ぐと、俺はスーツへと着替える。流石にこれ以上はもう待ってはくれないだろう。出来るだけ、急いで着替える事にする。
……ようやく着替え終わった頃には、もう予定時刻より一時間半も遅れていた。
そして、義兄に引っ張られて俺は新婦の更衣室へと向かう。そう、今日はメアリーとの結婚式だ。
場所は宇宙ステーション百八十号機、通称「シリウス」
その一室の前で、俺は立ち止まる。新婦の更衣室だ。
少しだけ、息を整えてから軽くドアをノックした。
「はい」
「俺だ、入るぞ?」
「あ、うん。どうぞ」
ドアの向こうから声が聞こえてきた。その声に、俺はドアを開く。
其処にはドレスで着飾った新婦の姿が。メアリーの姿があった。
「もう、遅いよ?シリィったら……」
「ごめん、綺麗だよ。メアリー」
「ふふっ、ありがとう……」
俺は、メアリーに笑みを向けながら手を差し伸べた。メアリーは、そんな俺に薄く微笑みながら俺の手に自身の手をそっと重ねた。
これからも、文明は更に上のレベルへと上がっていくだろう。俺は、いや、俺達はそれを見守っていく事になるだろう。
きっと、これからも。ずっと……
宇宙の果てまで……