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忘却魔法は魔女には不要!  作者: くろえ
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海の男の家庭事情②

デレク国が管理するルシアーナ海峡の関所はとても厳しい。

密輸・密航は即刻監獄行き。死刑にだってなりかねない、とんでもない 重罪 である。

それを「やった」と告げるマクミラン船長に、役人達は激昂した。


「なぜそんな事を!?

密航の罪は認知の有無に関わらず、乗船を許した船側にも科せられるのですぞ!?

つまり、密航者だけじゃなく この船の全ての船員 が罪に問われるのだ!

仮にも船長の立場にあれば、知らなかったはずはないでしょう!?」


(・・・ !!! )

船員達がどよめいた。

密航は厳罰だとは聞いていた。

しかし、密航を許した船側の者まで罰せられるとは少しも思っていなかったのだ。

バーンも背筋が凍る思いを味わい、事の重大さに戦慄した。

しかし!


「 部下達に手を出さないでもらおう!

全て私が一存でした事だ! 罰するというのなら 私1人 にしていただきたい!!!」


船を預かる男の叫びに、再び甲板中が静まり返った。

それは心を強く揺さぶる、とても厳粛な静けさだった。

(・・・船長!!!)

こみ上げて来る感動に、喉を塞がれ言葉を無くす。

グッと両手を握り締め、バーンは必死で涙を堪えた。

それでも、泣き出してしまったに違いない。

突然、 その婦人 が現れなければ!



「 あ" な" た"ぁぁぁーーーーーっっっ !!!」



「ぎゃーーーっ??!」

凄絶極まる大絶叫に、バーン達は飛び上がった!

大混乱に陥る彼らのすぐ目の前を 謎の婦人 が疾走する。

ドレスの裾をたくし上げ、髪を振り乱して走る彼女の顔は泣き腫らしてグッチャグチャ。恐怖を覚える凄まじい形相で、彼女はマクミラン船長に突進した!


「あなたっ! あぁパトリック! ゴメンナサーイ!」

「ひぃい??! 」


ガバッと勢いよく飛びつかれ、マクミラン船長が悲鳴を上げた。

しかし、すぐにハッと顔色を変え、婦人の顔を凝視する。


「ラ、ララ?! どうしてここに!?」

「あなたの事 忘れちゃうなんて! 私、悪い妻だわ最低よーっっっ!」

「何の事だララ! いったい何がどうなってるんだ!?」

「本当にゴメンナサイ!

あぁあなた! 愛してるわぁーっっっ!!!」

「わかった愛してる!

俺も愛してるから落ち着いてくれー!!!」


(・・・な、何事???)

バーンは呆然と立ち尽くした。

リンデンブール号船員達もデレク国関所役人達も、みんなそろって茫然自失。

この異常な事態を遠巻きに見守るばかりだった。

マクミラン船長に取りすがり、泣き叫んでいる謎の婦人。

彼女とは別の女性の声が、聞こえてきたのはその時だった。


「・・・ごめんなさいね、皆さん・・・。」


全員一斉に振り仰いだ。

船橋に近い遊歩甲板。そこに一人の 魔女 がいた。

 大魔女ミシュリー である。

ちなみにリンデンブール号は大魔女の国の輸送船。

突然自国の 女王 を目にしたバーン達は、言葉を失い固まった。


「その娘ね、私の妹なの。

夕べからずっとこんな調子で、私の手には負えなくて。

それで その娘の夫 に何とかしてもらおうと思って、転移魔法で連れて来たトコロなの。

でも機会(タイミング)が悪かったみたいね。

税関手続き中、ゴメンナサイ。その娘が落ち着いたらすぐ帰るわ。

だから、()()()()の密航は、大目に見てもらえるかしら???」


「・・・はぃ・・・。」

デレク国の税関役人達は、大魔女の要望を受け入れた。

若い魔道士は不満そうだが、これはどうにも仕方が無い。

彼らの国は大魔女の国から 魔法支援 を受けている。

それ故このお願い事は、決して無碍にはできなかった。


---○○○---ε-(´∀`*)---○○○---


その後すぐに、リンデンブール号はルシアーナ海峡を後にした。

何とか全員無事だった。しかし平穏な時間は訪れない。

ララ と呼ばれた大魔女の妹が、ひたすら泣き喚いている。

その喧しさときたら嵐のごとし!

すっかり辟易した船員達は、甲板員をその場に残して自分達の持ち場に撤収した。


「ゴメンナサイあなたゴメンナサイ愛してる愛してるわパトリックぅ~!!!」

「わかった、わかったから!よしよし、大丈夫だから!

(頭ナデナデ、背中サスサス)」


どうしていいのかわからない。

バーンとロドニーは、困った顔を見合わせた。

「船長の奥さん、大魔女様の妹さんだったんっすか? 」

「しかも船長、奥さんに優しくしてあげてるぜ? 全然亭主関白じゃないぞ!」

「あら。()()はもの凄い 愛妻家 よ?」

バーン達の疑問に答えたのは、いつの間にか隣に来ていた船長の義姉・大魔女だった。


「彼、とにかく優しくってね。

『妻には辛い労働はさせたくない』って、必死で働いて稼いでるのよ。

贈り物(プレゼント)も良くしてるわ。ドレスや靴や装身具(アクセサリー)。あ、でも外じゃ地味な格好させてるみたいね。『他の男が言い寄ってきたら困る』ですって。これはちょっとやり過ぎかしら?

こんな人だから、妹も()()にベタ惚れなの。

『食事は大喜びで食べてくれるから、いつもおかずを作り過ぎちゃうの♡

お掃除したら必ず褒めてくれるから、家中ピカピカにしちゃうのよ♡』だって! はいはい、好きにしてって感じ?

ちょっとぶっ飛んでる夫婦だけど、子供の事はしっかり考えてるのよ。

挨拶もお礼もキチンと言えるいい子達。2人の教育の賜ね♪」


「・・・。」

バーンは思わずロドニーと一緒に、ダニエル甲板長の方を見た。

古参のベテラン船乗りは、呆れた様な面持ちになった。


「あん時ゃ、酔っ払ってたからなぁ。

話、盛ったンっすかい?船長。

そんな見栄張ったって、しょーがねぇでしょうが!」


「・・・。」

妻にガッシリ抱きつかれたマクミラン船長は、赤面を海の彼方に向けた。

それを眺める大魔女が、面白そうにクスクス笑って首飾りにそっと触れる。

神秘的な輝きを放つ 大魔女の首飾り 。

色とりどりに散りばめられた魔石の一つを指先で弾く。


キィン!


美しい音がして、甲板上に光が弾け子供が2人現れた。

船底倉庫に隠れさせた 兄妹 である。

驚き、辺りを見回す子供達に、大魔女が優しく微笑みかけた。

「さぁ帰りましょ。私がご両親の所へ連れてってあげる。

アンタ達を拐かした奴らもほっとかない。

キッチリ懲らしめてやらなきゃね!」

兄妹の顔がパッと明るく輝いた。

バーンも心から安心した。少女の頭を撫でる大魔女に、勢い良く頭を下げる。

「ありがとうございます、大魔女様っ!!♪」

「お礼は自分の船長におっしゃいな。」

大魔女はニッコリ笑って片目をつむる。


「そもそも彼なら反対しなかったはずよ。この子達を匿うって言ってもね。

きっとさっきと同じ嘘をつくわ。アンタ達を助けるために、自分がやった事にして。

そういう人よ、アンタ達の船長は。

そんな男じゃなかったら、可愛い妹をお嫁にやったりするモンですか!

それじゃ、私達帰るわね。

リンデンブール号の航海の無事を祈ってるわ!」


キィン!と首飾りが再び鳴って、大魔女姉妹と密航者兄妹は一瞬のうちに消え失せた。


「ありがとう!船乗りさん達!」

「お船屋さん、アリガトー!♪」


兄弟の声が微かに聞こえた。

不覚にも涙ぐむバーンの耳に、船長夫人の声が届く。


「愛してるわ!パトリックーーーっっっ!!!」


何故か断末魔を思わせる、鬼気迫るような 絶叫 だった。


---▽▽▽---▼▼▼---▽▽▽---


リンデンブール号の上甲板に、ようやく平和が訪れた。

マクミラン船長は大海原に目を向けたまま。所在なさげに佇む彼が、何だか不憫でちょっと可笑しい。

「・・・あのぉ。船長?」

バーンは恐る恐る声を掛けた。

捨て身で自分達を護ってくれた。そんな尊敬すべき素晴らしい船長といろんな話をしてみたい。

そう思い、ダメで元々誘ってみた。


「もしよかったらですけど・・・。

今夜1杯、一緒にどうです???」

「・・・。

・・・い・・・1杯だけ、だぞ???」


ポツリと応えるマクミラン船長は、ほんの少しだけ嬉しそうに見えた。


---△△△---▼▼▼---△△△---


その夜のリンデンブール号は飲めや歌えの宴会になった。

1杯どころの話じゃない。

浴びるように飲んだ船長の盛りに盛られた嫁話。それを肴に朝までみんなで羽目を外して騒ぎまくった。

(俺も、マクミラン船長みたいな男になろう!)

バーンは心に密かに思う。


(いざって時、()()のために身体を張れる。

そんな船長みたいに器の大きい男になりたい!

・・・酒癖の悪さは見習わないけどね♪)


リンデンブール号は夜の大海原を突き進む。

空に掛った綺麗な月が、酔っ払い共が騒ぐ船をずっと照らし続けていた。


---▽▽▽---(^o^)---▽▽▽---


密航者兄妹は無事に両親の元へ送り届けた。

人売り共もサクッと懲らしめ、地元の警察に突き出した。

兄妹を買った金持ちもしっかり忘れず制裁した。

王都の城に帰って来た大魔女姉妹は、どちらもホッと吐息を付いた。

「ありがとう、2の姉様。お騒がせしてゴメンナサイ。」

元・4番目の魔女が晴れやかな笑顔で、長い回廊を私室へと歩く大魔女の後を付いてくる。

「まったくよ!ホントにアンタときたら!

一時はいったいどうなるかと・・・あら?」

ふと、大魔女は立ち止まる。

回廊の向こうから走ってくる子供の姿が見えたのだ。

必死の面持ちで駆け付けて来たのは、元・5番目の魔女の小さな娘。

彼女は驚く大魔女を見上げ、泣きはらした目で訴えた。


「助けて、大魔女様!

お母様が 壊 れ ちゃ っ た よぅ!!!」


「 !!? 」

姪を抱き上げ回廊を走る。

客室の中に飛び込むと、小さな姪の壊れた母はソファでお茶を飲んでいた。

「まぁ、お帰りなさい、2の姉様。」

元・5番目の魔女がふわりと笑う。


「娘が何か言いまして?

可笑しいんですのよ、その子ったら。

 お父様 に会いたい、なんて言うですの。

そんな人、い な い のにねぇ♪」


「・・・うわあぁ~~~ん!!!」

小さな姪は、泣き出した。

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