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忘却魔法は魔女には不要!  作者: くろえ
2/22

忘れられた父親

大魔女姉妹の母親の部屋は、王城の南に位置する離宮にある。

日当たりのいい小さな宮殿は、元魔女達のまだ幼い息子・娘達の格好の遊び場になっていた。


「おや。もうお茶会、済んだのかい?

もっとゆっくりしていいのよ。この子達はアタシがちゃんと見てるから♡」


玩具が散らかる部屋の中。

床の敷物に直に座って孫達と遊ぶ、気のいい「ばぁば」が微笑んだ。

魔女・元魔女達の 母親 である。

決して悪い人ではないが、残念な事に厄介な性分。自分都合の独断で、娘達の恋愛・結婚を散々邪魔した「前科」がある。

大魔女の名を娘に譲っても、おとなしくする気配はまるでない。

それどころかここ近年、お城で起る事故・事件(トラブル)は、大抵彼女が原因で元凶。

現・大魔女ミシュリーにとって、人騒がせなこの母親は常に悩みの種だった。

「いいえ、まだ途中よ。

ちょっとお伺いしたい事があって来たの。」

戸惑うばかりの元魔女達を後ろに従え、大魔女は母親に歩み寄る。


「 お 父 様 の事が聞きたいの。

さっきお茶の席でたまたまそういう話になったんだけど、

お 父 様 に関する記憶がみんな見事にバラバラで・・・。」


話の途中で言葉を切った。母親の様子がおかしいのだ。

何故か、ポカンと口を開け呆気の取られた顔をしている。

彼女はふと小首を傾げ、孫達の頭を優しく撫でつつとんでもない事を口走った!


「・・・お前達に 父親 なんて、

      居 た っ け か ね ぇ ???」


大魔女は目の前の母親を凝視した。

元魔女達も固まった。みんな愕然と立ち尽くす。

「ところで、今日のお茶菓子はなんだった?

そろそろこの子達にもおやつを食べさせたいんだけど。」

屈託のない笑顔が恐い。

娘達は背筋を凍らせ、お互いの顔を見合わせた。

「・・・マドレーヌとシュークリームよ。

すぐ持ってくるよう侍女達に伝えといてあげる。」

平静を装う大魔女は元魔女達へ振り返る。


「撤収よ! 私の部屋へ戻りましょ。

これはもうお茶会どころじゃない。

何が起ってるのか、真剣に探る必要があるわ!

・・・行くわよ!」


踵を返して歩き出す大魔女の後を、ティナが慌てて追いかける。

その後に続く長姉や双子の元魔女達。

部屋から出て行く娘達を、母親はぼんやり見送った。


---☆☆☆---???---☆☆☆---



「おかしいわ!こんなの絶対、おかしいわ!!!」


大魔女の私室へ向かう長い回廊。

そこを早足で歩く元・4番目の魔女が、頭を振りながらつぶやいた。

「お父様の浮気で、あんなにいきり立っていらっしゃったお母様が・・・!

大変だったのよあの時は!狂ったように泣き喚いて、周りにある物手当たり次第に投げて壊して!」

「私も大変だったわよ? お父様が戦死なさって。」

前を行く元・5番目の魔女が振り返り、眉を潜めて吐息を付く。

「回収できなかったお父様のご遺体を、自分が見つけに行くんだって大暴れして。

引き留めたこっちが怪我したくらい。それほどお父様の事、愛していらっしゃったのに・・・。」

隣を歩く長姉の元魔女も、暗い面持ちで頷いた。

「確かに愛していらっしゃったわ。

私、お父様の棺に取りすがろうするお母様を必死で止めたのを覚えてる。

感染する死病で亡くなったから、棺は誰も近寄れないまま葬儀の前に火葬されたの。

それに激怒したお母様が、葬儀屋さんを投獄しそうになったのよ。」

「お母様ったら、誰の記憶の中でも厄介だったのね。」

ティナを従え先頭を行く大魔女は、首を横に振り苦笑する。

「とにかく事は深刻よ。

なんだか嫌な予感がするの。何故こんな事になったのか突き止めないと!」

「私、ひょっとしてお父様は たくさん いるのかなって、疑ってしまいました・・・。」

「それ、違うから。・・・たぶん。」

不吉な事をポツリとつぶやくティナをやんわり窘める。

あの母親がそんなにモテるわけない。

そう思いつつ、この異常すぎる事態を前にキッパリ否定できなかった。


---☆☆☆---???---☆☆☆---


テーブルの上のお菓子を片付け、魔法の水晶玉を置く。

それと向き合いソファに座る大魔女の目が鋭くなった。

「先ずはこの城にお父様が居た頃の様子を見てみましょう。

何年前なら確実?」

「それならティナが生まれる前ね。ティナ、貴女今幾つ?」

「17歳です。」

「なら18年くらい前がいいかしら?映し出せる?」

「あら。私を誰だと思ってんの?」

長姉の元魔女を相手に軽口を叩き、目の前の水晶に魔力をこめる。

七色の光沢を放つ水晶玉が、次第に何かを映し始めた。

18年前の大魔女の城。その風景が浮かび上がる。

昼下がりの子供部屋のようだ。まだ幼い魔女達が奇声を上げてはしゃぎ回っている。

部屋の扉がゆっくり開いて、静かに誰かが入ってきた。

男性である。彼は楽しそうにはしゃぐ小さな魔女達に歩み寄り、優しく両手を差し伸べた。

・・・その時!


「 !? みんな、伏せてっ!!! 」


突然、大魔女が鋭く叫ぶ!

次の瞬間、過去を映し出す水晶玉は 爆発 した!


ドカーーーーーンっっっ!!!


大魔女の私室は吹っ飛んだ。

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