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忘却魔法は魔女には不要!  作者: くろえ
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プロローグ

本編19話、番外編3話です。

・・・番外編は、お目汚しです。

よろしくお願いします!

国を治める大魔女の、母親は少々困った性分。

決して悪い人ではないが、時折暴走してしまう。

自分都合の独断と過剰なまでの母性愛。13人居る娘達の恋を散々邪魔した「前科」がある。

そんな母親も昔は大魔女。

強大な魔力で国を護り導く、気高く立派な女王だった。

しかし。

何故か、彼女には 伴侶 がいない。

大魔女の名を娘に譲った今でも、人騒がせな彼女の傍に夫 と呼ばれる人はいない。

いったい何があったのか?

真実を知る者がいないまま、時は流れ過ぎていった・・・。


---☆☆☆---☆☆☆---☆☆☆---


木々の若葉が美しい、日差し柔らかいある日の午後。

とある魔法大国の王城に、とても嬉しい来客があった。


「姉様っ♪!」

「2の姉様、久しぶり!♪」


まだ年若い2人の婦人が、謁見の間のソファから立ち上がった。

女官達が恭しく開いた扉から、現れたのはこの国の女王。

燃えるような赤髪、挑むような鋭い瞳。

世界最強の魔力を誇る 大魔女・ミシュリー である。

金のローブの裾を靡かせ、颯爽と入って来た彼女はグルリと謁見の間を見回した。


「なんなのこれ?外国からのご来賓じゃあるまいし!

この子達は私の妹、余所へ嫁いだとはいえ家族なのよ?

変に気遣う必要ないわ、次から直接私室の方へ通してちょうだい!」


側で控える 寡黙な大臣 が慎ましやかに低頭した。

2人の婦人がクスクス笑う。

「お変わりないわね、2の姉様ったら!」

「ホント!でも2の姉様はこうでなくっちゃ♪」

2の姉様。

この呼び方は、かつて大魔女が 2番目の魔女 だった時の呼び名である。

「あら、それどーゆー意味かしら?」

大魔女は妹達を睨み付けた。

しかしすぐに表情を和らげ、2人一緒に愛情を込めて両手でしっかり抱きしめる。

「よく来てくれたわね!さぁ、お茶にしましょ!

・・・ちょっと!お茶は私の部屋へ運んでね。

給仕なんて結構よ。厨房の料理長に焼菓子たくさん作るようお願いしてあるから、アンタ達も焼きたてのヤツ、いただいといで!」

指示を出された女官達が、嬉しそうに頭を下げた。

この国の若い女王はものの言い方が少々キツイ。

しかし侍女を労る優しい気持ちが、有り余る程伺えた。

「ホントに、お変わりない!♪」

妹達は顔を再び見合わせ、面白そうに微笑んだ。


---♪♪♪---(^▽^)---♪♪♪---


訪ねて来たのは、王都から遠く離れた辺境都市に住む 4番目の魔女 と 5番目の魔女 。

どちらも頭に「元」が付く。恋した青年に嫁ぐ際、魔女である事を辞めたのだ。

魔女の名前は「禁忌の呪文」。

家族ではない他の誰かに名前を呼ばれたその魔女は、魔力を失い人間になる。

2人はとても仲の良い双子。愛する人に名前を呼ばれて幸せいっぱい嫁いで行った、大魔女の可愛い妹だった。

「美味しい!やっぱりお城のマドレーヌは最高ね♡」

「私はこのシュークリームが好きだったわ。2の姉様、覚えていてくださったのね!」

大魔女の私室で開催された、姉妹だけの小さなお茶会。

テーブルの上に並ぶお菓子はどれも逸品、城の料理長が腕を振った焼きたてホヤホヤの物ばかり。

だから双子の元魔女達は、姉との会話もそっちのけ。

手はひたすらお菓子を求め、口はもっぱら食べるだけ。忙しない事この上ない。

「もー! ちゃんと近況教えなさい!

アンタ達が食欲旺盛で元気なのはわかったから!」

2人掛けソファに座る大魔女は、呆れた様に苦笑した。

隣には優しげな婦人が座っている。

彼女は紅茶を一口飲むと、ふわりと上品に微笑んだ。

「仕方ないわね。料理長は腕がいいから。

街のお菓子屋さんで売ってるものよりずっと美味しいんですもの。」

「だからって、こんなにがっつくなんてはしたない。

お腹ペコペコのお子様じゃあるまいし!」

「あら。私もお城で暮していた頃はつい食べ過ぎて、よくお母様に怒られたわ。

貴女だって大好きでしょ?

子供の頃、厨房からお菓子を盗んで逃げちゃったくらいなんだから♪」

「・・・う!」

婦人の指摘に大魔女が怯む。

かつて 1番目の魔女 と呼ばれたこの婦人は、13人いる姉妹の長姉。

大魔女唯一の姉である。さすがに頭が上がらない。

「貴女が家出してお母様を困らせていた時の話よ。

二度と戻らないって言ってたくせに、ある日ひょっこり帰って来たのよね?

でもすぐまた居なくなったわ。料理長が作った焼きたてのお菓子をあるだけ持ってね。

あれからもう18年も経つのね。貴女、覚えてる?」

「いや、それは、その・・・。」

顔を赤らめ慌てる大魔女を、双子の元魔女達がクスクス笑う。

2人はようやく食べるのを止め、愉快そうに話し出した。


「まぁ、私は覚えてますわ。あの時は上へ下への大騒ぎでしたわね♪

だってそのお菓子、国賓の方達にお出しするお茶会用の物だったんですもの!」

「私も覚えてるわ。お母様が大慌て取り乱すものだから余計騒ぎが大きくなって!

2の姉様、持ち逃げなさったたくさんのお菓子をいったいどうなさったの?

まさか、お一人でお召し上がりに???」


「ンなワケないでしょ、止めてくれる!?」

大魔女はプイッとそっぽを向いた。

「あの頃の事は思い出したくないわ! もの凄く大変だったんだから!

特に家出先から連れ戻されてた後が最悪よ!

お母様どころか お 父 様 にまでコッテリミッチリ叱られて!」

「その お 父 様 に、罰として『魔女・魔道士詠唱呪文大全集』の書き取りを命じられたのよね。

1,000ページもある分厚い本を3日かかって泣きながら書いて♪」

「お姉様っっっ!!!」

昔話で盛り上がる、気心が知れた姉妹のお茶会。

そんな中で1人だけ、姉妹の会話を黙って聞いてる慎み深い娘が居た。

彼女は元・13番目の魔女。

今は普通に ティナ と呼ばれ、普通に王都の高等学校へ通う大魔女達の 末妹 である。

「あの、お姉様。ちょっといいでしょうか?」

紅茶のカップをソーサーに置いて、ティナが姉達に声を掛けた。

その控えめな呼び掛けは、何やら妙に不安げ。姉達の会話がピタリと止んだ。


「 お 父 様 って どんな方 だったんですか?」


ピシっっっ!!!


穏やかな午後の空気が、凍り付いた。


---◆◆◆---(゜◇゜;)---◆◆◆---


「・・・そ、そうだったわね。

無神経な会話だったわ。ゴメンナサイ。」


長姉の元魔女が悲しそうに目を伏せた。

「ティナはお父様の事、知らないわよね。

お父様がいなくなったのは、貴女がまだお母様のお腹の中に居た頃だもの・・・。」

元・5番目の魔女がすぐ隣でスツールに座る末妹の手をそっと握る。

「そうね、知りたいわよね。

貴女、もう小さな子供じゃないんだからちゃんと真実を知るべきだわ。」

彼女は潤んだ目にハンカチを当て、小さく肩を震わせた。


「私達のお父様はね、昔、この国を襲った巨大な魔獣の群と戦った 勇者 だったの。

辛うじて勝利を収めたけどご自身は 戦死 。ご遺体も回収できなかったわ。

お母様がとても悲しむものだから、いつしかお父様のお話は 禁忌(タブー)になって・・・。」


「あら!待って、違うわよ?」

涙ながらに語る妹を、長姉の元魔女が遮った。


「お父様は ご病気 で亡くなったのよ、昔、触れただけで感染する恐ろしい死病が流行った時に。

優秀な 治癒魔道士 だったお父様は必死で病の研究をなさったけど、とうとうご自分が感染してしまったの。

お母様が哀しみのあまり気を病んでしまったから、お父様のお話は 禁忌(タブー)に・・・。」


今度は元・4番目の魔女が驚いた。

「まぁ2人とも、何言ってるの?お父様は死んでないわ!」

ソワソワと目を泳がせる彼女は、何故かとても言いにくそうだった。


「お父様は勇者でも治癒魔道士でもない。お母様が街で一目惚れした 遊び人 だったのよ。

ティナがお母様のお腹にいる時、その、他の女性と駆け落ちなさって・・・。

以来、お父様のお話は厳禁に・・・。」


「・・・。」

お菓子のテーブルを囲む姉妹の間に、重たい空気が立籠めた。

困惑する元魔女達が助けを求めて大魔女を見る。

両腕を組み考え込でいた大魔女は、元魔女達を見回した。


「私の記憶では 行方不明 。

お父様は 冒険家 で、旅先で消息を絶ったって筋書きよ。」


「・・・。」

さらに空気が重たくなった。


顔を強ばらせる姉達を眺めながら、ティナがオズオズ口を開いた。

「どういう事でしょうか?

なんで全員の記憶がこんなに食い違ってるんです?」

「さ、さぁ・・・。」

「サッパリ解らないわ。」

「何一つかみ合ってないなんて・・・。」

当惑しきりの姉妹達。

呆然となる彼女達の中で、事態の収拾に動き出したのはやっぱり大魔女・ミシュリーだった。

「このまま顔を付き合わせてても何にもなりゃしないわね。さ、行くわよ!」

「ど、どこへ???」

「決まってるじゃない。お母様の所よ。」

慌てて訊ねる長姉の元魔女に悪戯っぽく笑い掛ける。

勇んでソファから立ち上がると、金ローブの長い裾がサラリと音を立て床に落ちた。


「お父様の事、どれがホントか聞いてみましょ。

一緒に13人も子供作った相手だもの。いくら何でも忘れるワケないわ!」


大魔女は母親の部屋へ向かうべく歩き出した。

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