巫女の祭り
「夜月。少し居間へ顔を出してちょうだい。」
『…すぐ行きますね、母さん!』
自らの部屋のすぐ外から聞こえた母親の声に声を明るくする。
まぁ決して母親の事が好きなどでは無い。
それだけは断じて無い。
出し散らばしていたアルバム立ちを少し片付けて今へ向かう。
母さんが僕を居間に呼ぶという事は父さんが僕を呼んでいるという事だろう。
面倒臭いことになる予感しかしないが行かないともっと面倒臭いため、急いで居間へ向かう。
「来たか夜月。」
『はい!少々遅れてすみません!』
そう笑顔で父親に向かって笑いかける。
勿論作り笑顔ではあるがバレた試しが無いため問題は無いだろう。
「夜月。もうすぐ行われる巫女の祭りは知っているよな。」
『日本中の神と巫女が年に一度の集まる祭りのことでしたら存じております!』
「それの事だ。それが今年は我が神社で行われることが決まった。」
━━ 面倒い事になりそうだ。
即刻そう思った僕の勘は多分間違ってない。
多分この後に言われる事は決まってる。
「夜月、お前もその祭りへ参加しろ。そして神の巫女としての力を取り戻す手掛かりを探せ。いいな?」
『…はい、承知しました!』
笑顔で父親のその言葉に返事をする。
こうでも言ってないと面倒い事になるのは目に見えてるからだ。
本当はそんなことできる気すらしてない。
"神の巫女としての力を取り戻す?"
それはそんなに簡単に出来ることでは無いだろ。
つーか取り戻すも何も僕が元々持っていなかったとしたら?
巫女の力が発生するなんてまず無い。
父さんや母さんがどうして僕を『神の巫女』だと断言出来るのかが僕には分からない。
「…話は以上だ。もう部屋へ戻れ。」
『はい!失礼します!』
最後まで笑って父親に一礼する。
そうして背も向けて居間を出た瞬間に表情を消す。
いつもやっている事だ。
バレないように、静かに静かに。
…というか巫女の祭りがあるなら山へ向かうのはまた今度になりそうだ。
巫女の祭りの準備に追われることになるからな。
はぁ…これでまた、僕の自由が減った…。