なんでだろう。
『はぁ…やんなっちゃうなぁ。』
放課後、誰もいない教室で1人僕は呟く。
秋の気配が消え去った頃、僕は婚約する。
それも人間とでは無く、"神"と。
今は秋の中盤と言った所か。
婚約までの時間は刻一刻と迫ってきている。
『なぁんで、僕が巫女なんだろ。』
«神も見えない落ちこぼれ巫女。»
家での僕の呼び名だ。
別に神様なんて見えなくても生活に困ることはないってのに僕は"神と対話する事"を生まれつき強制される。
理不尽なもんだよな。
『どーせド田舎の神社だってのにさぁ…。』
僕が巫女に選ばれた理由はこの町の神社の一人娘だから。
でも僕はボクっ娘ってやつで更にどちらかというと男っぽい。
こんな人間を神様が好くとは思えないんだけど。
「それは流石に神様に失礼ですよ。」
『!深琴。まだ居たのかよ。』
星羽根 深琴。僕の唯一の友達にして親友で幼馴染。
基本的に会話は敬語で話すけど結構暴言とか荒っぽい発言もする子だ。
「それはこちらの台詞ですよ?早く帰る準備をなさいまし。」
『あ〜…帰りたくねぇ…。』
我儘なのも分かってる。
僕はあの家に縛られていないといけない存在。
でも、願わずにはいられないのが人間の性って奴なんだろうな。
無いものほど欲しくなる。
人が持っているものほど羨ましくなる。
「まぁあの家に入ればそうもなりますわね…。(苦笑)」
『だよなぁ。』
「で・も、帰らなくてはならないものは帰らなくてはならないのですよ。」
深琴は強めの口調で僕に言い聞かせてくる。
こうでもしないと僕が動かないのを知っているからだろう。
『分かってるって。すぐに準備終わらせるから待ってて。』
「はぁい。」
まぁ準備ぐらいなら1分あれば終わるけど。
でもなるべく家に帰りたくないので少しゆっくりめに準備を進める。
「あ、そうでした。夜月、今日は何も予定がないとの事でしたのでクレープ屋さん、行きません?」
『行くっ!✨』
それを早く言ってくれ!
早く言ってくれたらもっと迅速に準備を進めたというのにっ!
というか今日は早く帰らなくていいのか。
『あ"〜…深琴の家に泊まりたぁい…!』
「ダメですよ。それで何かあったら私、タダじゃ済まないんですから。」
そう。何故か僕はそこまで大事に扱われてないのに外で怪我してくるとこっぴどく叱られる。
ついでに一緒にいた人たちもこっぴどく叱られる。
クレープ食べに行くぐらいなら殆ど何も起こらないと思うし、許されてるんだけどねぇ。
『まぁさっさとクレープ食いに行くか。』
「そうですね。」