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週に1、2回一緒に食べられればいいよね、と話していた和葉と佐々本だったが、ほぼ毎日ごはん一緒に食べることになった。なぜかというと…
「ケケケケケケケ」
「だあ!うるさい!黙れ!」
「ケケケケケケケ」
「まあまあ佐々本さん、あんまり怒ると餃子の具がはみ出してしまいますよ。」
和葉と佐々本は和葉の家のキッチンで餃子を包んでいる。
佐々本の腕まくりしているシャツからは、ご機嫌そうに笑う顔がのぞいている。
「おっと。破れて…ないな。よかった。あの、夜とかコレの声しませんか?寝てる時にもいきなり笑ったりするんですが。」
「いいえ、まったく。なんの音もしませんよ。」
「よかった!うるさかったら言ってください。包帯でぐるぐる巻きにしますから。」
「血が止まるからやめたほうがいいですよ。」
佐々本の顔が夕方以降によく笑うようになったらしい。さすがに人の少なくなる静かなオフィスで笑い声がしたらごまかしようがないと、佐々本は定時で帰るようにしたそうだ。
「お仕事大丈夫なんですか?」
と和葉が聞くと、
「リモートワークの環境は整っていますので。」
とキリっと返事が返ってきた。PCをお家に持って帰ってきて、食後に働いているらしい。
餃子をフライパンに並べて、火をつける。焼き目がついてきたら、水を加えて、蓋をして、蒸し焼き。水が蒸発したらごま油を垂らす。キッチンにいい匂いがふわっと広がる。
ああ、いい匂い。やはり餃子はニンニクましましでないと。今日は平日だけど、いいの。
ニンニクも、二人で食べれば、怖くない(字余り)。
今夜は入念に歯磨きして、明日の朝はミントタブレットを食べましょう、と二人で誓ったのだ。
「美味しいですねー。羽がパリパリ。清水さんお料理お上手ですね。」
「いやいや、これは佐々本さんの味付けのおかげですよ。準備、ばっちりでした。」
佐々本は料理上手なようだ。餃子を作ろうという話になってから、では失礼して、と佐々本は食材をぱぱっと切りだした。調味料がきっちりと計量されて小皿に並んだ時は、さすがに和葉もびっくりした。
すごい、料理番組みたい。これ、『次はお醤油を大さじ2杯入れますよ』ごっことかできるんじゃ。
びっくりしている和葉を感じたのか、佐々本は
「いや、うちでは下準備は俺の仕事で。きっちり量って全部並べろって姉に口すっぱく言われているもので…」
と言って気まずそうに頭をかいた。
「すてきなお姉さまですね。」
うんうん、と和葉は頷いた。
「そっそおですね。ははは。」
と笑った佐々本の顔は引き攣っていた。
食事を終えて、片付けがひと段落したころ。和葉はふうと息を吐く。
さ、そろそろくーちゃんが来るかな。デザートの時間ですよ。
「和葉!デザートの時間だな!」
来てやったぞ!と、どこからともなく現れたくーちゃんは和葉の胸に飛び込む。
ニンニクたっぷり餃子を食べたからか、体はぽかぽかと暖かい。ということはデザートは…
「くーちゃんアイス食べる?」
アイスでしょう。
「食う!」
ふふふと笑いながら、和葉は冷凍庫を開けた。
余ったご飯を冷凍保存しなくてよくなったので、冷凍庫にアイスを入れるスペースができたのだ。
ちょっとお高めのアイスクリームのミニカップだ。今ならバラエティーパックも買えちゃうぞ。私はアイスクリームが好きなのだ。ラクトアイスじゃなくて。濃厚なこってりとしたアイス。少し常温に置いておくのが美味しく食べるコツです。
「バニラとストロベリーとチョコどれがいい?」
「全部!」
「だめだよー、お腹壊しちゃうよ。私の一口あげるから、ほら、バニラにしたら?この前食べたいって言ってなかった?」
「和葉はストロベリーか!」
うん、今の気分は果実ごろごろストロベリー。アイスの濃厚さとストロベリーのシャリシャリ感のコントラストが素晴らしい。
夕食がガッツリ系だったから、チョコの気分じゃないんだよねー。
チョコ…?…なんか忘れてるような。
和葉はバラエティーパックの箱を見て首を傾げる。ベルギー産のチョコレートを使用しているらしい。
はっ!チョコ!
そうだ!あのイケメンから買ったチョコ!イケメンの圧に押されて、とりあえずそのうちどうにかしようとどこかに置いたのだ。…どこに置いたんだっけ?
和葉は戸棚を開けた。
ない。
冷蔵庫?
いや、さすがに入れないっしょ。
戸棚を片っ端から開けた和葉だったが、あ!と声を上げて食器棚を開けた。
あった!毎日見てるのにすっかりスルーしてた。
君、周りに馴染みすぎでしょう、と和葉はチョコレートの箱をつつく。
和葉はちらっと佐々本を見た。
何度か一緒にご飯を食べて気づいたのだが、佐々本は甘いものは全く食べないようだ。
本人曰く、
「いや、嫌いなわけじゃないんですが…」
とのことだが、まあ好みは人それぞれよね、と和葉は特に気に留めていなかった。
佐々本さんは甘いもの食べないからな。これは渡せないな。
一緒に食べれたらよかったんだけどな。
一緒にか。そういえばあのイケメンが『口にあーんって放り込むといい』って言ってたな。
その場面を想像した和葉は、一人赤面する。
いや、ないないない。ないから。
「和葉、何してんだ?アイス溶けちまうぞ!」
「っなんでもないよ!さっ食べよ。」
チョコか。チョコ。どうしよう。
ぐるぐると考えながらストロベリーアイスを食べたので、味わう前に終わってしまった。かなし。