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佐々本とは次の金曜日に食事に行くことになった。『牛すじすげー美味しかったです』のメッセージに、満腹そうなウサギのゆるキャラのスタンプがついていた。
金曜日の夜、和葉と佐々本はイタリアンレストランの前に立っていた。
「申し訳ありません、ただいまの時間はご予約でいっぱいでして…」
スタッフは申し訳なさそうに告げる。
「いつもはこんなに混んでないはずなのに…」
「先週インフルエンサーの〇〇さんがSNSでご紹介くださったんですよ。それで一気に話題になったようで。」
すみません、とスタッフは頭を下げて去っていった。客をさばくのでいっぱいいっぱいなのだ。
「すみません。ちゃんとに確認しておけばよかった。他のお店で…」
「佐々本さん、帰りましょう。」
続けようとする佐々本を遮って、和葉はキッパリと告げる。
「えっ、いや、ごめんなさい。この近くに和食の店が。」
「いえ、ピザです、佐々本さん。うちの近くの商店街に『ボンジョールノピザ』というデリバリーのお店があるのは知ってますか?あそこで買って家で食べましょう。店まで取りに行けば3割引です。」
ピザ、ピザなのだ。イタリアンと聞いてから私の口はピザなのだ。ピザ以外は受け付けないと言ってもいい。ボンジョールノピザ、いつもあの店の前を通るといい匂いがするんだよね。いつか食べてみたいなと思っていたけど、今こそチャンス。
やっぱりここは基本のペパロニだろうか。4種のチーズのクワドロピザも捨てがたい。はちみつをかければさらに美味しい。サイドはカラマリと、スティックブレッドにトマトソースをディップするのもいい。
「…ほんとによかったんですか?」
「もちろんです!さっ熱いうちに食べましょう。」
佐々本のワンルームの部屋のテーブルには、ボンジョールノピザが並んでいる。どちらの家に、というところで、女性の家にお邪魔するのは…と佐々本が言ったので佐々本の家になったのだ。
うん、私の家でもよかったね。隣はワンルームだってすっかり忘れてた。ワンルームだとプライベート空間が丸見えだ。どうがんばってもベッドが目に入るのは申し訳ない気分になってくる。
気まずい思いがよぎったのは一瞬のこと。和葉は目の前のピザに集中した。
「美味しい!」
「美味いですね!清水さんおすすめのペパロニ、うまい!」
「いやいや、佐々本さん推しのエビマヨもさすがです。」
二人はお互いのピザを褒め合ってにっこり笑う。
「こんな味のはっきりしたの久しぶりに食べました。美味しい。」
「清水さんは自炊ですか?」
「そうですね。毎日じゃないですけど。」
「俺も自炊しようと思ってはいるのですが…めんどくさくて外食か惣菜ですね。商店街の焼き鳥とか。」
「あそこは1串づつ買えていいですよね。」
「肉屋の揚げ物とか。」
「お家じゃ揚げ物しないですしね。」
「スーパーのお惣菜とか。」
「夕方割引してますよね。」
「お弁当屋さんとか。」
「お惣菜量り売りしてますよね。」
「俺全種類制覇しましたよ。」
「えっナスの揚げ焼きビミョーじゃなかったですか?」
「一度で満足しました。」
「だいたいここらへんをローテーションですね。」
ふう、と佐々本がため息をつく。
…心の友がいる。一人暮らしあるあるをこんなに分かってくれる人がいるなんて。佐々本さんと心の距離が近づいた気がする。
「カレーなんて作ろうものなら一週間カレーですしね。」
「あー、私は冷凍しちゃいます。でもそうするとなかなか食べなくなっちゃうんですよねー。」
二人は二人はうんうんとうなずく。
あっなんか、いいアイデアが思い浮かびそうな…